ライザのアトリエ 不思議な工房と秘密の多い錬金術師 作:もふもふたぬきねこ
ライザのお願いを守って、フラメルの十字架を見る事が条件です。
今回もよろしくお願いします。
鎧が、オーガヘッドが。
動いている。
まさか。
そんな都合のいい奇跡のような話が。
これは私の妄想だったりしない?
「………………ア……ル?」
『…………あ、その声はキロさん? よかった、知っている人で。まだ目がよく見えなくて』
声が、返ってきた。
私が聞き馴染みのある声より高い、まるで女の子のような声。
でも盗み見聞きした記憶では殆どコレだったっていう――不思議と落ち着く声。
うそだといわないで。
「……ほん、とう、に……アル、なの?」
『多分ね。なんでこうなっているのかボクにも分からないんだ……あー、やっと見えてきた』
あ。
ああ。
あぁああああぁ……。
かえって、きた。帰ってきてくれた……。
「う、うあぁ、あ」
『あぁ夜なのか。道理で暗い……えっ、なんでキロさん泣いているの!?』
「うわぁああああああああああああああぁぁぁん!!!」
家に戻ったらお母さんたちに質問攻めにされそうだな――溺れた時よりヒドイ顔してるだろうし。
どう説明したものかな。
まあ後の話だね……まずはアトリエに寄ろう。コンテナの中でも覗けば何か思いつくかも。
一回家に顔を出した後はキロさんを探しに行くとしよう。
「おんや、ライザ? どうしたの? ……そんなライザらしくない顔をして」
「……ロミィさん」
行商の帰りかな? ロミィさんに鉢合わせちゃった。
これはマズイ。ロミィさんにはこういうのを隠し通せる気がしない。
「……よろしくなさそう、どころか相当に深刻そうかな。私に話せる?」
「えっと……」
具体的な話はともかく、おおよその状態はあっという間に見抜かれた……ムリだよなあ。
ロミィさんの一人称が「私」の時は基本真面目モードだ。人を見る目が変わる。
どうしよう。
ロミィさんに話したとしても解決する話じゃないし、不安をあおっちゃうだけになるかもしれない。口にしただけ色々な事を喋っちゃいそうだ。
「喋りにくいなら話さなくていいよ。でも一つだけ聞くね――アル君関係?」
「……っ」
思わず息を呑んじゃった――もうダメだ。
「……そっか。まだ時間があると思っていたけどこんなに早かったとはね。随分と突然だ」
「えっと……何の事かな? ロミィさん」
「いなくなったんでしょう? 彼。元々そんな気はしていたんだ。今年はまだ居てくれるかなあって思っていたんだけど」
多分、ロミィさんの考えは真実から少しズレてる。でもいなくなった部分は合ってる。
ロミィさんは今日の事が無くったって、アルさんが島を去るものと考えてたみたい。
「……なんで、そう思ってたの?」
「今まで表立って動いてこなかった彼が積極的に動き始めたからだよ。対岸への行き来とか島民からの仕事の請負はともかく、ライザ達を積極的に連れ出したり、工房をお菓子屋さんにしたり、最近来たばかりのキロちゃんやリラさんにもよく関わっている――今までの彼からは考えにくい行動。なら何かが起こっているか、何かを終わらせる為の行動って考えるのが自然でしょ? 突発的に無計画な行動を起こす人じゃないと私は認識しているから」
「それ、は……」
すごく観察されていた。話すまでもなく、裏で何かが動いてるって事は気づかれてたらしい。
今のロミィさんは時折見せる大人の顔。多分今のあたしの顔からも色々読み取ってるんだろうね。
「それと……言い方が難しいけど、彼は彼自身を恐れていた部分があったと思っているよ。多分悩んでいたんじゃないかな。クーケン島に縛っておくにはあまりにも強力で絶大な才能だったから」
「アルさんが……自分を怖がっていた?」
「自分のせいでこの島がおかしくなってしまうかもしれないとか、貴方達を巻き込んでしまうかもしれないとか、ね。本来この島に受け入れられる部類の人間じゃない私が此処に居られている時点で、既に島の在り方は変わりつつあるからさ。今までよりも外に漏れている島の情報量は間違いなく増えているし……今回のバレンツ商会の件だって、直接的ではないにしろ間接的には関わっているだろうから。クーケンフルーツの品質や生産量を上げたって点でね。さて、確定って事かな? 残念極まりないけど、それが彼の選んだ道なら私がどうこう言う事じゃないか」
あたしはここまで一度も否定を口にしなかった。そうじゃなかったらすぐに訂正してるもんね。
……ここでロミィさんにシラを切るのは、なんか違う気がする。
――話そうか。
「あのね、ロミィさ」
「うわぁああああああああああああああぁぁぁん!!!」
「えっ!? この声は……!」
「これ……キロちゃん!? 工房の方?」
キロさん!?
工房に居てくれてた事はうれしいけどなにがあった!?
ええい考えるより――突撃だ!
「うおぉいライザ!? 鍵は!?」
ふん!!
バキャッ!!
「キロさん!!」
『あ、ライザかい? 助かったよ』
「ふえっ!?」
「……ええぇ、何この状態?」
「あぁあ、あああぅあ、うぁあああああっ、うわああああああああぁん!!」
これ……どういう状況!?
ドアをシーカーでぶっ飛ばした先にいたのは、泣きじゃくるキロさん。
泣いてるのは問題だけど……これはまだいい。
そんなキロさんを、なぜだか鎧が――オーガヘッドがなだめようとしてるかのような。
膝を突いて両手を広げてどうにかしようとしているさまに加えて、声がした。
なんでオーガヘッドからアルさんの――しかも、懐かしい子どもの頃の声がするわけ?
この声は大好きだった。忘れるわけがない。間違えるわけがない。
つまりは。
「……あ、アル、さん、なんで、すか?」
『信じられないかもだけどアルフォンス・エルリックだよ。別人じゃないと願いたいね。キロさんを宥めるの手伝ってもらえないかな? どうしたらいいか分からなくて』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!」
「うぇえあぁはい! キロさん、大丈夫、大丈夫ですから! 現実だよ!」
「ライザは此処にいてあげて! 私はクラウディアちゃんを呼んでくるから!」
あたしも大混乱だけど、まずはキロさんに落ち着いてもらおう。
もう何が何だか分かんない。
分かんないけど。
アルさん、帰ってきてくれたんだ。
「はいどうぞ……本当にアルさん、なんですね」
『信じられないだろうけどね。ボクなはずだよ』
「まさかそんな事になっていたとはねえ……ロミィさんの目も節穴だ」
「信じてるんですけど、信じられないですよ。ロミィさんはここまで当ててたらもう予知能力だって。でも、なんで鎧に?」
「うぅ、ずっ、あぁあ……間違いなくアルだよ、私が保証する。それと……ライザ達はごめんなさい。あんな態度を取ってしまって……」
「……ちゃんと謝ってもらえましたし、いいですよ。アルさんも戻って来てくれた特赦です。でも――次同じような事言ったら問答無用ではっ倒しますからね?」
「はい……ライザが怖い」
「元に戻られて何よりですけど、こうやってお話しすると本当に別人みたいですね? ライザは難しい言葉を知っているんだね」
「ボオスが何回かえらっそうに口にしててさ……」
あたしだけじゃパンクしそうだったけど、ロミィさんがクラウディアを呼んできてくれて三人でなんとかキロさんをなだめた。
今はみんなの分のココアを入れてもらったところ。アルさんの分はない。
不要だって言われちゃった――そもそも飲めないって。
そんなキロさんは泣き止んだ後、いつもの雰囲気が戻って来ていた。
アルさんが傍にいるからなのか、アルさんが戻って来てくれて誓約が緩んだのか。
理由は分かんないけどとにかくよかったよ。あたしも完全鎮火だ。
考えてもらったのはとってもありがたい事だったけど、それを含めても許容できない事がある。
ちなみにあたしがぶっ壊した扉は、アルさんが手合わせ錬成で直してくれた……すみません。
これも目の前の鎧が間違いなくアルさんだという証明だね。
そして――待ってる間にロミィさんに大体の事情を話した。さすがに隠し通せない。
でも、最初はびっくりしてたけど。
「割と転がってるもんだねぇ、こういう出来事って。まさかクーケン島周辺もだったか」
とか言ってるくらいだから初めての事ではないみたい――行商ってずいぶん過酷だね?
『先に確認させてね。女王と戦って何日経ったかな?』
「今朝のお話ですよ? まだ一日と経っていないです」
「大体……アルをあの世界に置き去りにしたのが7、8時間くらい前」
『7時間、ね。単純計算であっちで10日間くらい……実感はないか』
「あっちって、ボトルの世界ですか?」
『ううん。精霊の世界だと思うよ』
「今度は精霊の世界と来ましたか……」
精霊の世界。大精霊とか、災厄ってのが居るっていう?
『あれから……ボトルの世界の崩壊で虚無に墜ちる寸前、闇の大精霊に発見されてね。そのまま精霊の世界に連れていかれたんだ』
「流石は創造主。異常を察知出来ていたんだ」
「あたしの予想も合ってたんですね」
「でも、単に助けてくれたわけじゃないんですよね?」
「更にスケールが大きくなってきたね? ロミィさん頭痛くなってきた……」
単なるボトルの世界の脱出じゃなくて、精霊の世界に連れていかれたならそういう事よね。
『詳しくは聞けていないんだけど、どうにも事情が変わったらしい』
「さっき聞いた……災厄ってやつの話でいいのかな?」
『ええ。その封印が一気に破られ始めたと。元々こっちの時間で3年くらいは何とかなるって話だったんですけど、そのまま何もしなかったら数日無いくらいまで一気に進んだらしいんです』
「ええっ!? 一体なんで?」
3年って話もビックリだけど、数日ないとか比較にならないじゃない。
「思いつきそうなのは……女王の退治、ですか?」
「女王の。特に影の女王の撃破か、あるいは……」
『あるいは?』
「私の中にいるナニカの影響」
「キロちゃんに何か憑いてるの?」
キロさんの中にいる何か……あれか。
「キロさんが契約してるっていう精霊ですか?」
「多分だけど、当たり。私も詳細を知らないけど……闇属性なんだよ」
「えっ? でも闇属性って、世界を構成するエレメントなんですよね?」
「それって架空の概念じゃなかったの? 仮説は立てられていたけど」
ロミィさん、ホントに博識だね――まさか伝説のエレメントまで知ってるなんて。
光と闇のエレメントを取り扱うのは、本来人には不可能だってキロさん自身が言ってた。
クラウディアの確認ももっともだ。
「そう。だからクラウディアも思っている通り、本来は人に宿せる存在じゃないんだろうね――でも私は違った。大した理由はなくて……偶々適性があったか、あちらの気紛れなんだと思う」
『……ああ、成程』
「なにか分かったんですか?」
あたしの頭じゃ追っつかないのでちゃんと説明してくださいね?
『影の女王と災厄は、大精霊曰く似た存在。ボクが「理解」した限りでは影の女王は闇属性。つまり災厄も闇の存在って事だね。で、ライザ達が蝕みの女王を倒してくれた事で影の女王を形作っていたモノ……まあ女王の闇としておこうか。それはボトルの世界で霧散するはず
「だった?」
『想定外だったのは、ボトルの世界が破壊された事だよ』
「それって……それにキロさんの精霊が関係しているんですか?」
「ライザ達には話していなかったのかな。私がドジをやって……影の女王に殺される寸前でナニカが顕現、影の女王を喰った。そんな戦いの結末だったんだよ。あってはならない現象を起こした事は分かっていた。大精霊様にもボトルの中で精霊を召喚するなと言われていたしね」
そんな事が……キロさんがあそこまで気に病んでたのはそれも関係してたんだね。
『今ボク達がいる世界、大精霊が作ったボトルの世界、精霊の世界。異なる世界ではあるけど行き来可能であるように、実はどこかで繋がっている。それこそ世界に極端な異常が起きたらそれに気付けるくらいに』
「生まれた波紋は方々に影響を及ぼすからね。大きな石が投じられれば世界を跨いで伝わるか」
「大きな石――極端な異常は、闇属性であるナニカの顕現」
『あまりに強力な闇の存在は、封印されている災厄にすら知覚できるモノだった。それは女王の闇側も同じで――
「加えてあの時女王の闇はナニカに恐怖を抱き、一刻も早く逃げたかった。つまり……私のナニカの顕現と逃げ出したい女王の闇で内側から。災厄の干渉で外側からあの世界は圧力を受けて」
『崩壊。ボトルの世界で霧散すると思っていた闇は適合先――災厄に宿って力の一部になった』
「それで災厄の力が増して……封印が破られ始めている、という事ですか」
一瞬でそこまで考え付く?
でもクラウディアもロミィさんもちゃんと付いてけてるみたいだし……。
ざっくりまとめると。ボトルの世界崩壊にかこつけて女王の闇が脱走。
それを災厄が吸っちゃったって事でいいのよね?
「そう……災厄の封印が破られ始めている理由の見通しは立った。でも、それでアルが連れていかれたのは何故?」
『ボクも説明を受けていないけど――ボク自身が封印として機能するんだろうね』
「なによそれ!」
「そうですよ! なんでそんな事に!」
「人柱かぁ……」
こっちでも人柱!
一体人の命をなんだと思ってるのよ!
『どういうわけか、災厄の封印はボクの世界の錬金術の代物なんだと思う。ボクが召喚されたのはそういう事だね。で、あっちの技術で出来ているって事は……構築式を持っていれば理解はともかく材料としては利用可能って事さ』
「ちょいゴメン……じゃあアル君は
「ロミィの言う「異邦人」が私の認識と一致しているか分からないけど、このクーケン島やロテスヴァッサ王国が存在する世界とは別の世界の出身だよ。アルより時空は近いみたいだけど、私とリラもね」
『今まで隠していてすみません。あまりボクの事情を持ち込むべきじゃないと思っていたもので』
それを聞いたロミィさんが天井を仰ぐ――マジかあって感じだ。
「……「
初めて聞いたね、そんな人たちがいるなんて。
じゃあ……あれかな? レントが言ってたハンターって人とかもその部類だったりする?
全部が全部大精霊に召喚された人じゃないだろうから、本当にこっちに迷い込んだだけの人もいるんだろうね。
「ゴメン、話を脱線させちゃったね。その封印とやらがアル君の世界の技術で……アル君はその人柱になれる、と」
「アルは……真理を見ているから余計に優秀なパーツ扱いだったんだね」
『そういう事だと思うよ。まだ感じた程度に過ぎないけど』
「アルさんたちの錬金術は、自分自身も構築式に入っているから」
「封印の姿形を知っていれば……アルさん自身を封印に組める、んですか?」
『あくまで予想だけどね。後は大精霊に直接聞くなり見るなりしないと分からないかな』
頭が良すぎるがために、アルさんだけでいろんなものを肩代わり出来ちゃうわけか。
理解はしたけど――納得したかは全く別の話。
「状況はざっくり分かりましたけど……今のアルさんのお姿は?」
「随分と声も高くなっているね? ライザから散々聞いた噂の声って所かな」
そう、鎧。
ずっとこの工房に飾ってあった、思い入れがあるらしいオーガヘッドとかいう鎧。
なんでこれから昔のアルさんの声が? 出てこればいいのに。裸だからとか?
すごく滑らかに動かしてるよね。
『それは……正直ボクが聞きたいくらいなんだけどね。キロさん、何か思い当たる?』
「いや、私もさっぱり……あ」
「あ?」
「思い当たる節が?」
「……確認。アル、ヘルムを取って」
『? いいけど』
「いくらアル君といえども、この鎧を着るのは大変そうだねえ」
ガチャガチャと鎧の頭を外すアルさん。大きいから身体に装着するのは大変そうだ。
って。
「「ええええええええええええええっっ!!??」」
「うっそお……」
『あはは。まあ、そういう反応になるよね』
アルさんがいない! 中身空っぽ!?
どうやって動いてんのよこれ! ガーディアンもどき!?
「……あーやっぱり。間違いじゃなかった――コレだよ」
『……血印!? なんでこんなものが? ボクが錬成した時には絶対無かったはずなのに』
アルさんの鎧が、自分の頭を右手に持って中を見てる……独特な見方だね。
これは、血で描かれた錬成陣みたいなもの?
「8日前かな……地震があったでしょ? あの時にこの鎧が倒れていたから立て直したんだけど、パッと見た時に何か足りないな~と思って。大した事は考えずに描いた」
『普通そんな事するかい?』
「シンプルそうな魔法陣だけど……血文字か」
自分の身体を使った式。それだけでもなんか効力が強そうだよね。
「「足りない」っていうのは何に対してなんですか?」
「これの元になった物に対して、だよ。もう教えておくけど……私はアルの記憶を見ているんだ。アルにとって印象深かった事はほぼ知っている。その記憶と比較してって事」
「キロちゃんの、アル君への理解の深さはそこから来ていたか。成程ね」
「以前キロさんが言ってた「絶対やっちゃいけない事」って」
「この事だったんですね……」
『ボクはそこまで気にしていないんだけどね』
どうりでキロさんはアルさんに関して詳しいわけだ。追体験に近いのかな。
記憶を見られるって結構キツくないです?
生きてれば他の人に隠したい事なんていくつかはあるし。
何らかの手段でそれを知っちゃったから、キロさんはあんな誓約をかけたのか。
絶対服従は極端かもしれないけど――分からなくはないかな?
『さて、これは信じてもらえるか分からないんだけど……あっちの世界で、ボクは鎧の体で活動していたんだ』
「「へぇ~」」
『……なんか反応が軽い』
「こっちで色々やらかしているんだから「アルだし」で通用するよ。今更過ぎだって」
「「そうですね」」
「界渡りの非常識はこっちでの常識だよ? この辺にも割といるじゃん? 魔物扱いだけどさ」
『複雑だなあ……』
動く鎧とかガーディアンとかいるし、まあアルさんだし。
なんでそうなったのかはもちろん疑問ではあるけれどさ。
『血印はいいとして……なんでボクの魂が今更鎧に宿ったんだろう?』
「……それに関してはいくつか説があるよ。証明は出来ないけど」
「教えてもらっていいですか?」
「私も整理しながらになるけど、まずついさっき私が賢者の石、あるいは人体錬成の構築式を身に宿した可能性がある事」
『なんだって!?』
「なにやってるんですか!?」
「どうやってそんな事を……」
「今度は賢者の石、ね。錬金術の極致か」
キロさんはアルさん側の錬金術への理解が深い。
クセルクセスでの壁画も理解出来てたみたいだし。
「さっきアルの部屋でフラメルの十字架を見ていたんだ。描かれていたのは十字架にかかった蛇。意味する事は永劫。要は賢者の石、でいいんだよね?」
『そうだね。合っているよ』
「両立できないモノの両立の達成、でいいんだったかな?」
「そうそう。硫黄を表す生物は私で代用できるけど……円環、永劫、水銀を示す蛇の代わりはいない――普通はね」
賢者の石ってのも知られてるところでは知られてるらしい。
あたしもマジで勉強しないと、本業でないロミィさん以下の知識で錬金術士は名乗れないね。
にしても。
「……蛇?」
「……あっ、キロさんの精霊が?」
「うん。多分、蛇。それも本当に永劫の力を持つ極めて強力な、ね。これを自身に宿している私は構築式を持っている状態じゃない? ってアルが動き出す直前に認識した。アルの錬金術で最も重要な要素である「円」が真に完全な物なら、私の理解程度でも意味を成すんじゃないかな」
『キロさんが構築式を持っていると理解した事で、予め仕掛けられていた錬成陣が機能した、と。ありえなくはないかな? 必要なのは理解した事実じゃなくて自覚だからね――扉を持っているのはキロさんじゃなくて蛇側か。でも、ボクの魂は何処から持ってきたんだろう?』
う~ん、もうこの辺はついてけない……。
「これも仮定。私がアルの記憶を見た事を通して、アルの魂と加護の一部が私に宿っているって事はないかな? 錬成陣の起動も
『ボクと兄さんの時のような、精神混線の別パターンという事かな?』
「存在しない物は錬成できない。だから私の血にアルの魂と精神が混じっていたとしか考えようがない。他には……まあ、そのくらいかな」
「なかなか新用語のオンパレードだね? ……記憶って何処にあるのか分かんないらしいから、アル君の記憶をキロちゃんが持っているならアル君がキロちゃんの中に居るって言えるのかもね」
他にありそうなのは、誓約? キロさんに命令できる権利。
アルさんがキロさんの魂に干渉できるとすれば、魂がキロさんに混じってる事があり得るのかも?
う~~ん。なんか、なんか以前他に聞いた気が。
……あっ。
「あ~~~~っ!」
「「「ライザ?」」」
『何か思いついたかな?』
「アレですよ! 以前キロさんがアルさんの魂を確認した時、アルさんの魂って一部が綺麗に切り取られてたんですよね?」
「最初の? ……あっ、あ~つまり」
『鎧を錬成した際に当時の
「違いますかね?」
自分で切り離したなら綺麗に切り取られてた事も分からなくはない。
だって自分でやったんだもんね。抵抗はないはずだ。
『成程。魂さえあれば動ける事も記憶を持っている事もボク自身が体験しているし、それが一番あり得そうだ。こっちの世界なら血印がなくても物体に魂は宿るみたいだしね』
「この鎧をそういう目で全然見ていなかった……声を聞く限り魂は切り離した当時の年齢のままなのかな。じゃあ血印は鉄分を通しての精神と記憶の仲立ちで、今のアルの燃料は私の魔力か体力って所だと。ライザ、よく覚えていたね」
「この子、閃きは凄いからねえ」
「すごいよライザ!」
わりとこういった事は覚えてるんだよね。
ふだん発揮されない才能なのが悲しいけど……。
『取り敢えずボクがこうなった経緯は大体分かったね。他もあるけど後回しだ。今はとにかく』
「精霊の世界に行って、災厄をぶちのめす」
「バケモノみたいな存在を割とぞんざいに扱えるんだね?」
「なんだかものすごく物騒な言葉使われてません? なんかレントみたい……」
「あるいは、アルさんなしで災厄を封印する手段を作るってところでしょうか?」
クラウディアに華麗にスルーされた……クラウディアもその単語使ってたりしないよね?
ロミィさんは知らないだろうけど、この人多分単騎で国一つ吹っ飛ばせるよ?
『そうだね。ただこれは皆がいる場で話した方がいいかな? アイデアも出るだろうし』
「リラ達は私が連れてくるよ」
「島の方は今すぐ引きずって来ます! ……何気にボオスがヤバそう」
「いつものメンバー? ならライザはトレッペの高台とラーゼン地区ね。ロミィさんはレントを探してあげるよ、どうせ家にはいないでしょ」
「場所は私の屋敷にしましょうか。アルさんは私と一緒にいてもらった方がいいですね、そのお姿だと……」
『そうだね、ははは。逆にあっちでだと鎧の中にボクが入っているって事で通じたんだけどなあ』
こっちではアルさんが人だってみんな知ってるし、万が一魔物と勘違いされたら大事になっちゃう。その方がよさそうだ。
ボオスはモリッツさんに脅しをかける準備をしてるかもしれない。最初に向かおう。
って、キロさんがもういない!?
というわけで鎧のアル登場です。最初の鎧登場から随分と長い伏線回収になりました。
アルはこの姿で動かないと、というのはやっぱりありまして。
その理由付けはこんな形になりました。自己解釈てんこ盛り!
血印は68話の「ガプッ」です。
何人かの方はこの展開を予想されていましたね。大当たりでした!
そしてロミィも関係者となりました。彼女もとある方向の天才です。
次で第九章は終了し、長かった84日目も終わりです。
本話もそうですが終盤という事もあって説明回が増えてきます。ご了承ください。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです。