哀れな寄生系美少女が金に惹かれて吸い付いてきたので、逆に食べる事にしました。   作:true177

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ここからアホ毛&医学部編です。


010 AFOGE(アホ毛)

 お山の大将になっていたところでお灸を据えられたのは、まだ先日のこと。勝ったかのように見えて、場外の情報戦で既に散っていた。

 

 結莉には、コーラを率先して恵んでくれそうな都合のいい人物という読解力しかなかったのだろう。その目論見は大正解であり、自ら海水に飛び込んで錆を生み出した隆仁は白旗を甲板に上げる羽目になったのだ。

 

 ……これじゃあ、ただのお人好しとしか思ってくれないよな……。

 

 人々の印象に残るのは、善行よりインパクトに残る悪行。校長の輝く御頭に『ハゲ』と書き込めば、ノーベル賞受賞を差し置いて校内のビッグニュースになる。教師からも生徒からも有名人になれるだろう。

 

 空気に徹していると、石ころのように扱われるようになる。抗争や乱戦から緊急避難する専用の技で、日常生活から多用すると棺桶に閉じ込められるので注意が必要だ。

 

 結莉が撮ってきたフィルムに、まだ隆仁は刻まれていない。逆再生しても映っていないのであれば、懐かしみもしてくれなければ連絡が来ることも無くなる。その場バッタリの間柄という事実も、時の経過で闇に葬り去られていく。

 

 ……ここから、佐田さんの歴史に名を遺すには……。

 

 過激な事をしても、きっと彼女から敬遠されるだけ。後悔だけが波に飲まれず辺りをうろつくことになる。

 

 今日の隆仁でも、解決策は打ち出せない。

 

「奇遇だね、須藤くん。今日も、帰り道だよ」

「……おはよう、佐田さん」

「おのれ貴様、お天道様に逆らうのかー! ……あと、結莉って呼んで欲しいんだけど……」

 

 結莉の竜頭蛇尾と共に、太陽が支配する昼帝国も斜陽になっていた。これから日照時間が長くなる時期にしては、よく踏ん張っている。

 

 二十四時間でも四十八時間でも、彼女は立ち位置を曲げない。クラスでノーコンタクトなのはそろそろ慣れてきたが、討論でも木像同然に置いて行かれたのは全く理解できない。シャットアウトしないと、棒読みよりも酷評されるウドの大木がバレてしまうのが分かっているようだった。

 

 ……会話するの、飽きないな……。

 

 結莉の機転に助けられる回数が増え、自らネタを作る技能がさび付いてしまいそうになる。身長一人分高く球がすっぽ抜けても、ばねジャンプでミスをカバーしてくれるのだ。

 

 非の打ちどころがない美少女と並んでいるなど、一週間前に妄想していただろうか。ただ一個の恋愛において致命的な点を除けば、神の領域に昇華する彼女と。

 

 ……その一個に苦しめられてるんだけどな……。

 

 底にポッカリ空いている、地球をも吸い込んでしまいそうな大穴。彼女に近づくためには、この余りにも大きすぎる障害を越えて行かなくてはならない。

 

「……いやー、今日も暑いね……」

「……今日は絶対に奢らないからな?」

「うん、そんな連続でコーラを貰おうなんか考えて無いよ? 須藤くんも、お金がなくなっちゃったみたいだったし」

「誰のせいなんだか……」

 

 今日も佐田節は絶好調である。日本語のように聞こえて、寄生専門用語が流れるように飛び出してくるのだ。

 

 第一に、悪気という反省の色が頑として見られない。飛び跳ねて魅力を上下に震わせるのは結構だが、寄付する気のない男子から慈悲なく物品を受け取るのはどうにかしてくれないのだろうか。

 

 特に隆仁を揺さぶるスクープの持ち合わせが無いのか、ソーシャルディスタンスを保って後ろからお姉さんに連れられる迷子のように付いてくる。

 

 ……二人っきりの時くらい、演技で側に来てくれてもいいのに……。

 

 そう思うのは、砂糖風呂で全身の水分を搾り取られた甘ったれなのだろう。リターンばかり詰まっていて、損失を雷に打たれる確率と同義にしている。リスクリターンの評価基準を誤ったラインに設定すると、損切りできずに最悪の結末に導かれてしまう。

 

 徹底して学校で話題にうんともすんとも触れないのは、彼女なりの思惑があってのこと。放課後だからと言って、崩しはしないのである。

 

 ……それにしては、昨日は自販機ではしゃいでたけどな……。

 

「……須藤くんは、どこ目指してるの? 独立する? それとも大きい所で働く?」

 

 子供用に薬をゼリーに包むオブラートな手法など、効率の前には無力だった。医学部に入って開業するまでが、結莉のお絵かきだ。

 

 ……何も、医者になりたいわけじゃないんだけどな……。

 

 親から子へと遺伝子が引き継がれるのは事実だが、コピーロボットにはならない。レールの上を居心地よく走っていく特急列車もあれば、入り乱れた都心の路線を縦断していく鈍行もあるのだ。

 

 結莉は、医学部を努力すれば実る学科だとでも楽観し過ぎている。偏差値をネットで見ただけでも吐き気がするというのに、このスタート位置が低い学校から届きようがない。

 

「……佐田さんこそ、頭良いんだから医学部でも目指したらいいのに……」

「……入試問題、ヒマだった時に解いてみたんだ。全問正解するまでに、時間オーバーするくらい難しかった」

 

 満点を狙うのが当然と胸を張る彼女の主張は、数学力がトンカチで叩かれないくらいずば抜けているのをよく表している。

 

「……それ、最初から順番に……?」

「あったりまえ! 小学校から、ずっとそうだけど……」

 

 この体験談を、ネットにアップロードしてはいけない。サボり癖のある前途洋々な学生に悪魔のささやきをして、地獄の延長戦に誘うことは間違いないからだ。

 

 住んでいる世界が、いや次元が、遠く離れた星のさらに向こう側だ。関数の接点としてたまたま結莉が出現しているにすぎない。この点を通過してしまえば、この先二度と出会い頭にぶつかることはないだろう。

 

 受験という関門を一度はくぐってきている高校生の常識を、斜め後ろを歩く手を繋がない系美少女は知らない。情報収集が足りていなくとも、自らの力で解決できてしまっている。なんとも恐ろしい少女である。

 

 バケモノだと学会に引っ張りだこになる未来もあっただろう結莉は、極一般の寄生系女子高生として目にクエスチョンを浮かべている。

 

 雑談で平行線をたどるのも悪くないと、また先に目線を戻そうとして。

 

 ……あれ?

 

 結莉の髪型は、整ったショートヘアーだと認識している。手入れを欠かさない頑張りが、クールでありながら柔軟に姿勢を変えられる柔らかさを兼ね備えさせているのだ。

 

 滑らかな球面を維持していなければならない髪が、上空目掛けて突き抜けていた。

 

「佐田さん、髪が乱れてない?」

「ダカラユリダッテ……。朝出る時には整えたつもりなんだけど……」

 

 彼女も気づいていなかったようだ。トイレで鏡を見ないタイプの人間なのだろう。

 

 髪の毛が飛び出していると言っても、数十本が束になってカーブを描いている。根本に点を補えば、あっという間にはてなマークだ。二次元の絵でしか見たことのない、重力に逆らうアホ毛である。

 

 ……こんなの、目にしたことないぞ……。

 

 アホ毛は、低次元イラストの専売特許と言うわけではなく、現実にも起こる現象だ。規範を遵守してひとかたまりになっている群から抜け出し、磁石で一人だけ反対方向を向いているボッチの総称なのだ。

 

 結莉の手が、主張の激しいはてなマークアホ毛に触れた。

 

 ……おいおい……。

 

 静電気で下敷きに引っ張られているとしか思えない。アホ毛はその身をブルブルと震わせ、今度は避雷針に変化したのだ。

 

「あー、この子か……」

 

 複雑怪奇な自身の分身にも、納得したように頷いた。細長い虫が体内を食い破ろうと頭皮から侵入を試みている説を提唱させてもらう。

 

「このアホ毛、一週間に一回くらい出てきちゃうんだよね……。私の言うことも聞いてくれないし……」

 

 ビデオで送られてきたのがこの状況であれば、コラ画像だと一蹴する自信がある。髪の毛に自我があるなど、バカバカしさが好奇心を上回って検証しようとしたことも無い。

 

 ご主人様に撫でられて気を良くしたのか、針の先端が溶けて垂れてきた。スピーカーのプラグをアホ毛に繋ぐと、『髪の毛にも人権を』と美少女の頭上で抗議デモが起こりそうだ。

 

「……部活の衣装なんかじゃなくて?」

「演劇部、毎日の練習大変だって漏らしてた子がいたなぁ……。苦労しに、入ってみたら?」

「失礼しました!」

 

 フルパワーで、職員室の扉を閉めた。備品の損害賠償は、ぜひ結莉へ。

 

 彼女が真実を隠す事由は、何処を検索してもゼロだ。損得に関わって来ない事柄には、積極的に情報提供してくれる頼もしい存在である。味方の内という条件付きだが。

 

 ……小道具じゃないとすれば……?

 

 神通力や神のお告げは、科学の発展した現代社会において『迷信』だ。根拠がなく信憑性に乏しいとして見向きもされず、藁にもすがりたい絶体絶命の窮地に追い込まれた人間のみがのめり込む。行きつく結末は、いつだって献金と言う名の詐欺行為である。

 

 そして今、物理法則に反してアホ毛が荒ぶっている。湯たんぽの代役になりそうな結莉の恵まれた手に包まれて大人しくしているが、手を離せばどのような行動をするか分かったものではない。

 

 隆仁は、理論的な証明を放棄した。

 

「……変な子だと思うかもしれないけど、聞いてくれない?」

「十分変な子なんだよなぁ……」

 

 赤の他人に金目的で突撃して、合格の言葉を貰ってくる絶世の美少女。普通という形容詞は大衆に付くのであって、外れ値にはふさわしくない。

 

 常人なら精神に大きな楔を打ち付けられる死体蹴りをものともしない結莉。告白の人同じ、屋外というのもあってより熱い息が吹きかけられる。

 

「……私のアホ毛、他の人から見たら動いてるみたいらしくて……。私の機嫌で、変わるらしいんだ」

 

 なるほど、二束の折り重なった愛すべきアホ毛が、ギザギザに稲妻を作っていて……。

 

 ……二束!?

 

 一本、増殖していた。数えて足りなくなることは有っても、余ることは滅多に起きない。

 

 結莉の言葉を信じたいが、透明な糸で吊り下げられているのではないかという疑念も脳裏をよぎる。

 

「……二本に増えてる……」

「そういうこともあるみたい。……でも、」

 

 彼女が口を閉じない内から、ほんの悪戯心で手をアホ毛に伸ばしていた。結莉の手でガードされていない、もう片方のギザギザに。

 

 どうにも胡散臭さが拭えないのは、これまでの所業が蓄積したからだ。コーラ事変で勝敗を逆転させられて、疑心暗鬼に拍車がかかってしまったのだ。

 

 ……痛い目を見てるのはこっちなんだし、イタズラぐらいしてもいいだろ。

 

 生き物のように意識を持つのなら、嫌がってすり抜けていくだろう。

 

「……アホ毛を握ることだけはしちゃダメだからね? 分かった?」

「うん、分からない」

 

 熱湯風呂で『押すな』は、押してくれのサインだ。限定で禁止されたものは、余計に興味をそそられる。

 

 結莉の洗髪が行き届いている光沢付きのアホ毛を、手の内にしまいこんで。

 

「ふぇぇ!?」

 

 彼女は、気力が栓から抜け出てしまったかのように膝から崩れ落ちたのであった。

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