哀れな寄生系美少女が金に惹かれて吸い付いてきたので、逆に食べる事にしました。   作:true177

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014 逆襲開始

 ……クラス全員がいるこの場で、彼氏アピールするしかないか……。

 

 発想力が飛びぬけて発達している馬鹿の空論だ、と吐き捨てられても文句は付けられない。難攻不落の堅牢を虚言で開門させるなど、真田一族の知能を以てしても困難を極める。

 

 それも、堀に水が注入されているだけの一般的な城ではない。城壁にある鉄砲穴からレーザービームで辺り一面が焼け野原にされてしまう。近世の建築物と現代の技術がコラボレーションした、最凶のデジタル軍事拠点なのだ。

 

 上空にドローンを飛ばして偵察させるのはいいアイデアだが、撃墜されて部品を無駄にするので精一杯だろう。ステルス製が開発できたとしても、日本の法律規制に引っ掛かるようでは廃案もやむなしだ。

 

 ……日本も、完全無欠な人間を法律で裁いてくれればやりやすいのにな……。

 

 チート技で対抗すれば、プレイヤーの結莉は対処出来ずに敗北するだろうか。いや、不正行為の王者を降臨させようが、彼女を正面突破することは叶わない。

 

 チート行為が絶対的武器になるのは、プログラムに介入されない保障が約束されている時だけ。結莉のようなシステムを書き換える実力を持ったハッカー相手では、ミジンコのトゲも同然になる。

 

「……それじゃ、結莉が言うような刺激の無い人が告白してきたら、どうするの?」

「キッパリと断る……かな。もちろん、例外もあるけど」

 

 捕食者だと宣言している結莉が羨ましくてならない。ピラミッドの頂点に君臨していると断言できるその胆力を、半分でも良いから分けてはくれないだろうか。腎臓は一個だけでも機能するのだから、半分を切り取ったところで彼女はびくともしない。

 

 こうも態度を決められてしまうと、小手先の技では通用しなくなってくる。やんわり誘いを断ち切ってくるのなら、投げ飛ばしてトランクに押し込むなど強硬手段も取りやすいが、手掛かりを掴ませてくれないのでは鍵爪がすり抜ける。

 

 ……真正面から切り込んでいくしかないのか……。

 

 盤外戦術を使う余裕もツテも無い。短期決戦で増援の到着を待っていては、押し寄せる敵軍を押しとどめられない。自陣が崩壊してしまってからでは、立て直しが効かなくなる。

 

 白昼堂々と突撃するのは、命を無駄に投げ出すようなもの。戦略の下っ端であり、最終手段としてのみ用いられる手法なのだ。

 

 ただ、隆仁は弾薬を撃ち切ってしまっている。携帯しているものは、錆びれて使い物にならなそうな小刀のみ。鉛筆の芯を削れるかにも疑問符が灯る。

 

 ……脇道はトラップが仕掛けられてそうだし……。

 

 兵力で劣る者は、奇襲を仕掛けて数的不利を打開しようとする傾向にある。ネズミ捕りを砂に埋もれさせておけば、焦ってスイッチを起動させた兵士が沢山捕獲できるだろう。

 

 リンゴからジュースを搾り取れそうなほど、拳を固く握りしめた。今すぐには断裂しない繋がりを切断してでも、結莉に強烈な印象を刻み込みたかったのである。

 

 金目当ての源流として定義づけが完了してしまっては、そのレッテルを外部から剝がすことは容易でない。食事に誘おうと、高価な品物を贈与しようと、貢物としてしかありがたみを感じてくれなくなる。

 

 ……佐田さんは、俺が好きで近づいてきたわけじゃ無いんだから、俺から行動しないと……。

 

 結莉の根幹に、好意は混ざっていない。残量ゼロのバッテリーを復活させるのは無駄なことだ。良心に訴えかけようが、彼女は隆仁に恋愛感情を抱いたことが無いのだから。

 

 身体を翻した隆仁に、結莉の話し声が止まった。一時停止ボタンを押されたような、不本意な中断である。

 

「佐田さん、昨日はよくもやってくれたね……」

 

 言葉に詰まっては、先制攻撃をした意味がない。だんまりを逆手に取られて、無限弾幕に打ちのめされてしまう。

 

 結莉に、この試合の主導権を握らせてはいけない。最新装備の彼女に、攻撃をさせてはいけないのだ。

 

「だから結莉だって……、言ってるでしょ? あの花は百合だって!」

 

 結莉の目が、誰が見ても明らかなほどに泳いだ。てこの原理を無視してその場に留まる曲がらない信念を持った彼女が、側撃に打たれてよろめいたのだ。

 

 ……そのカバーは無理があるだろ……。

 

 流石は百戦錬磨の女子だ、受け身でダメージを最小限にする術は敵をも感嘆させる熟練度だ。川の水が流れていくような流暢な方向転換を、いちいち生徒を失神させる紅潮にも見習ってもらいたい。

 

 しかし、脱線しそうになったのをハンドル操作で防いだと言っても、レールと擦れた傷跡は消せない。事故を隠蔽することは、現代社会では不可能である。

 

 平仮名で『ゆり』と表記されていたのでは発音が分からないが、漢字に直してみるとアクセントは一目瞭然。『百合』が後半上がるのに対して、『結莉』は右肩下がり。取り繕ったように思われる修正も、所々に違和感が詰まっている。

 

 ……踏み込んでいくなら、ここだな……。

 

 強者でも人間である以上、油断をしてしまうことがある。一瞬の勝機をこじ開ければ、弱者にも勝利への光が舞い降りるのだ。

 

 ただし、勝負は光速で決まる。瞬きすら許されない環境で、緩手は命取りだ。

 

「何の花の事かな……? それに、アクセントが全然違ったけど?」

「たまに育ててるところもある、白い花のこと! アクセントが違ったのは……、そういう言い方もあるっていうことで……」

 

 傷口に塩を塗られて、まだ仁王立ちをしている。臨戦態勢に移行させてしまった張本人は、紛れも無い隆仁だ。

 

 裁判には黙秘権というものがあり、それは被告人が不利な証拠を自白しない権利のことである。正当に認められている権利の一つだが、これを行使せずに言論を展開しようとしている哀れな女子がいる。

 

 結莉に弁護士がついていなかったのが、運の尽き。彼女は不利益な事実をひっくり返して来ようとするだろうが、そのもがきが傷を広げていくことには気づいていない。

 

 ……まさか反応してくれるとは思わなかったな……。

 

 彼女が口喧嘩で負けたことなど、一度も起こらなかったのだろう。高度な語彙力と理論構築で言いくるめられる、と反転攻勢している。皮肉なことに、積み重なった成功体験が結莉自身を窮地へと追い込んでいくのだ。

 

 とは言え、相手は妖刀の使い手。気を抜けばすぐに立場は逆転する。

 

「一週間前に告白された時から、ずっと『結莉って呼んで!』って粘り強く訴えて来てたよな。自分からは名前で呼ばないのに」

 

 隆仁は、一世に一代の大博打に打って出た。

 

「……須藤くん、だっけ? さっきの話、聞いてなかったのかな? 嘘をつくなら、もっとまともな嘘をつこうよ……」

「何言ってるんだよ、結莉。結莉の方から迫って来たのに」

 

 結莉を振り向かせたいと意気込んだ割には、隆仁も小心者だったようである。セリフを心中で復唱していなければ、つっかえて台無しになるところであった。

 

 初めて口にした、『結莉』。異性の名前は神聖な域に穢れた手を差し入れたようで、彼女の中枢へとようやくたどり着けたようで……。太陽の残滓が、何処からともなくせり上がってくる。

 

 ……ふざけても気にならない、数少ない相手なのにな……。

 

 唇から空へ羽ばたいていった『百合は』、ソフトで滑らかなタッチだった。本人はと言うと棘を無数に生やしているが、なんと丸っこい名前なのだろう。

 

 もっと早く呼んでおけば、と後悔する気持ちが湧いた。結莉の悪だくみを遅延させるのに効果的な手段だったとは言え、当たりが冷たすぎた気がした。最も、お金をせびる彼女が悪い事に変わりはないのだが。

 

「これ以上変なこと言ったら、昨日みたいに……、昨日私がやったみたいに土下座してもらおうかな?」

 

 そして、この壊れっぷりである。予想の斜め上からドロップキックを入れてくるのは、日常茶飯事だ。

 

 隆仁とクラスの視線を集中させられて腕を組んでいるクラス一の美少女には、不純な交友がある。奴隷契約をしたつもりも無いのにこき使われる、すぐにでも訴状を提出したい無賃労働の地主と小作人だ。

 

 事実が転がっているからこそ、弾を早くリロードしようと結莉は飛びつく。発射しようとした丁度そのタイミングで、弾と銃の規格が不一致であることに気付くのだ。

 

 やむなく彼女は、純度の低い粗悪な既製品で応戦せざるを得なくなる。ロボットがランダムで品詞を結んだ文章が生成されているのも、そのために違いない。

 

 追撃のネタを落としながら背を向けて逃げていく結莉を、逃す手はない。微塵も躊躇せず、金弾を撃ち込む。

 

「昨日の土下座って、何したらそうなるんだよ。脅しになってないし……。それとも、アレですかね? スマホを人質に取って……」

「……須藤くん、いい加減にしてくれないかな?」

 

 会合を拒絶すれば、彼女の意志表示となるはずだ。勘違い男が強引にナンパしてきたと逃げ出せば、周囲も結莉を庇う。それをせずに冗長な会話を続けているということで、既に不自然である。

 

 威勢は衰えていないが、見た目以上に大きく見えているであろう隆仁に目が圧されている。降伏勧告を放送した直後にでも、軍門に下ってくるだろう。

 

 ……ここで手を休めてもよさそうだけど……。

 

 彼氏ということをなし崩しでも認めさせなければ、のらりくらりと証言を二転三転させて乗り切られる恐れがある。優位に立つ今の内に、叩きのめすことが望ましい。

 

 彼女の口から『隆仁は彼氏だ』と言わせることは難しくとも、親しい間柄をアピールすれば自然と周りの男子はそう想像してくれる。

 

 隆仁には、とっておきの必殺技があった。

 

「おうおう、お嬢様ともあろう方が見苦しゅうございますな。我の目にも余るものがございますぞ?」

「側近の分際でたてつくとは身の程知らずですわね! 私が直々に手討ちしてもいいんですよ?」

 

 ……あ、引っかかった。

 

 お笑い芸人魂とでも名付けるべきか。結莉は、豪速球で投げられたノリに便乗する癖がある。なり切った方が会話を盛り上げられるが故のノリの良さだが、私用する場面を誤った。

 

 それまで疑心を隆仁に連射していた男子軍団が、困惑を隠せないでいた。みんなのアイドルで恋愛禁止のはずだった結莉が、一介の男子と親し気に言い合いをしているのである。中立国から突如宣戦布告されて、物も言えなくなっていた。

 

 結莉も、呆然と立ち尽くしていた。漫画で彩色されていないキャラにふさわしい。非常口のついていない天井を見上げているばかりであった。

 

 ……これで、いいんだけど……。

 

 作戦が上手く進行した弊害として、男子が暴徒となる可能性が捨てきれなかった。非難の矛先が隆仁に向くのは必至。全身にアザを作るために策略を仕掛けたのではない。

 

「……佐田さん、放課後に約束してたよね。さ、行こう?」

「……うん、そうだね」

 

 そして、結莉自身も発達したアンテナで危機を察知したのだろうか、隆仁の申し出を受け取った。

 

 現実を飲み込めない男子たちを置き去りにして、隆仁と結莉は教室を後にしたのであった。

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