俺は久しぶりに1人でフィールドへ出て、レベリングをしていた。今のレベルは57。ギルド内では最大だ。
グラベッタ森林という場所が今の俺に最も合っているレベリング場所だ。出現モンスターのレベルが55~61で、ほぼ同じくらいのレベル帯だ。しかも、60近くまでいっているプレイヤーはそう多くはいない。今日もほぼ貸切の状態で狩っていた。
しかし、そんな中に1人だけ少女がいた。こんなところにあんな小柄な少女が来るのは珍しいことだ。何せ、名前の横に表示されるレベルが10と書かれている。余りにも無茶すぎる。
俺は見えるところでその少女のことを見守っていたが、とうとうモンスターが来る。
「ぐぉぁぁぁ!」
気持ち悪い声を上げてモンスターが少女に飛びかかる。
少女は咄嗟に持っていた剣を振り、モンスターの急所を斬る。
レベル差でダメージはあまり入らないのだが、剣の振り方や狙い場所は完璧だった。
俺は少女を助けに行くため、戦闘の援助に向かった。モンスターのレベルは55。このエリアだと低い方だった。
「ふっ」
俺は少女の横から剣を振り、モンスターを倒す。少女は唖然とした表情で俺を見ている。ギルドメンバーのおかげでこんなに強い武器を持てているわけだが、少女からしたらすごいことだろう。
ただにこの少女も十分すごかった。あんなに咄嗟で剣を取ったのにモンスターの急所に当てたのだから。そんなことができる人はそう多くはいない。
「あ、ありがとう……」
少女が戸惑いながらもお礼する。
この世界では基本的に敬語は使わない。さすがにシステム管理者には敬語だが、それ以外のプレイヤー同士は使わない。
「いいよ。にしても、君すごいね」
「え?」
「咄嗟だったのにすぐに剣を出して急所に当てるなんて」
俺がそう言うと、少女は「あ、いや……えっと……」と戸惑った。
「君さ、ギルドとか入ってる?」
「ううん、入ってないけど……」
俺は少女の手を掴んで言った。
「決まりだ。俺のギルドに入らないか」
少女は最初戸惑って動作停止していたが、しばらくすると空中をスワイプしてメニュー画面を開き、ギルド申請の準備をしてくれた。
「よろしく、ミアナ」
俺は相手の名前を呼んだ。
「はじめまして、ミアナです」
みんなポカンとした顔で見ている。
ギルド部屋に入ったミアナは、みんなに自己紹介していた。
「ホントにミアナか?」
「はい。ミアナです」
それもそのはず。ミアナは俺の名前だ。ドルトやカトル、アリアが驚くのも無理はない。
「でも、同名って……」
アリアが聞く。
「そうだ。普通はあり得ない。ま、特例かなんかあったんだろ」
俺はそう言って受け流した。実際、理由を知っているのは俺だけなんだし、バレるはずはない。
「さぁ、メンバーを紹介するぞ」
俺はギルドメンバーを1人ずつ紹介していった。
「そいつがドルト。タンクだ」
ドルトは「よろしく」と短く挨拶した。
「そっちがカトル。攻防両立タイプ」
カトルは小さく手を振った。
「最後、そっちがアリア。ギルド内唯一の女だった」
アリアは「仲良くしようね」と言う。女子同士だったら会話も弾みそうだ。
「それで、俺はミアナ。女っぽい名前だけど、アタッカーで正面突破しに行くから危なっかしい」
正面突破することしか脳にない、というわけではないのだが、大体は正面突破でさっさと倒す。
「よろしくお願いします」
ミアナはぺこりと頭を下げた。
次にしていくのはギルド内の役割分担。アリアがこの世界で作ってくれたクエスト受注表の説明からした。
「1番上の『waiting for permission』って書かれてるのが、クエストの許可待ち。いけそうだったら○、無理だったら×を押して」
Waiting for permissionは、英語で許可待ち。アリアが受注してきたクエストはこの欄に書かれていく。
「○を押したクエストは、『Not Achieve』に移動する」
ドルトが続きを説明する。Not Achieveは英語で未達成。達成していないクエストはここにくる。
「クリアして、アリアが報告してないクエストはその下の『Achievement』、報告まで済んだクエストは『Complete』に進む」
カトルが説明する。Achievementは英語で達成、Completeは完了を意味する。Completeの欄に来たクエストは1週間後に表示されなくなる。
「そうだ、ミアナちゃんの今の装備のステータスは?」
アイテム収集担当のドルトが言った。ミアナは自分の装備を確認する。
「レベル上昇につき攻撃力増加(初期値95)、SP+20%だよ」
「なんかアタッカーっぽい装備だな」
俺はそう思って言った。ただ、ミアナちゃんのあの戦闘スタイルを見るに、アタッカーではない気がする。
「特殊バフあったりする?」
「特殊バフ……あ、神の癒しっていうのが」
「神の癒し?」
アリアが疑問そうに言う。そんなに有名じゃない特殊バフだからな。そう思うのも無理はない。
ミアナはアリアに神の癒しの効果を説明する。
「スキル発動時に一定範囲内の身内プレイヤーのHPを回復されるっていうものだよ」
「じゃあ、ヒーラーってことか」
アリアは納得したようだった。性格には、一定範囲内の身内プレイヤーのHPを、20秒かけて全体の20%分回復させるスキルだ。ただ、使用SPは100と大きい。
「今のミアナは使えないな。MAXのSPが71しかない」
すると、ドルトがある装備を俺に見せた。
「見かけはこの装備のまま、性能をこの装備にするのはどうだ」
ドルトが見せてきた装備は、レベル上昇につきSP+1%(初期値50)、maxSP+40%という装備だった。
装備は見かけを変更することができる。見かけを今の装備にすれば、実質変わらないということになる。
「いいんじゃないか。ヒーラーに向いてそうだ」
「じゃあ決定だな。ミアナちゃん、この装備着てごらん」
ドルトはミアナのストレージに装備を移す。ミアナが装備すると、ドルトは見かけ変更の設定を教えていた。
見かけを変更し、ミアナは装備のステータスを見た。
「すごい……!」
「ヒーラーは使うからな。もっといいヒーラー向きの装備があったらやるよ」
「ありがとう、ドルトさん!」
ドルトは照れていた。女の子にそうされるのが恥ずかしいんだろうか。
「さぁ、ミアナのためにレベリング行くぞ。ミアナがレベル5だから、7くらいのところ行こうか」
俺たち5人で、まだ弱いモンスターが出てくるフィールドに出かけた。
レベル5~9程度が出現するフィールドは、ミアナにとってちょうどいいエリアだった。まぁ、1つ残念な点としては、初期の武器のままだから攻撃力が5しかないことだ。
「今レベルいくつだ」
俺がミアナに聞くと、ミアナは寄ってきた。
「8になったよ!」
ミアナのステータスを見ると、タンクのドルトの防具効果で、身内プレイヤーへの防御力+700というチート並みの効果のおかげで防御力は772だったが、攻撃力は8。まだ弱い。
「君らは上がったか」
まだレベルが15に満たしていない3人もすぐ上がるはずだ。
「俺13になった」
ドルトが言う。
「俺も13」
「私12ね」
2人もレベルが上がったそうだった。俺はここで倒してもレベルは上がりづらい。グラベッタ森林の方が上がりやすい。
「じゃあ、あと2時間くらいでレベル上げてくれ」
俺は4人にレベリングを指示した。俺も4人に支障が出ないように、少し遠くで狩っていた。
全員一撃で倒せてしまうため、経験値は全く入ってこない。1万体倒して1つ上がるくらいだろうか。
2時間が経ち、俺は全員のレベルを確認した。
ドルトが15
アリアが14
カトルが16
そして、ミアナだが、ミアナは誰よりも頑張ったのか、レベルがすごく上がっていた。
「18!?」
アリアも驚いていた。さっきまで8とかだった女子が急に3人を超えているのだから。
「よく頑張ったな、ミアナ」
ミアナの頭を撫でる。
そこに、ドルトとカトルがストレージを開いて近づいてきた。
「ご褒美に、今日の戦利品でいいのあったからあげるよ」
「武器も新調しとけ」
ドルトは新しいヒーラー向けの防具、カトルは新しい武器だった。
「えっ、レベル上昇でSP+6%!?それに、攻撃力+100の剣……」
一気に強くなった。
「みんなで強くなっていかないと、な」
カトルが言う。かっこいいように聞こえる。
「さぁ、あとはギルドでの活動は終わりにするから、今日は解散で」
今日の目的は済んだ。あまり遅くまでやってもリアルでやることがある人もいるだろう。そう思って終わりにした。
「俺リアルで用事あるから失礼するよ」
「あぁ。おつかれ」
ドルトはログアウトした。あとの人たちはフィールドを移動してレベリングをし始めた。俺もグラベッタ森林でレベリングを始めた。
もっと、もっと、もっと強くならないといけない。
レベル57、攻撃力1764、防御力1213。そんなのまだ弱すぎる。もっと強くならないと。まだ足りない。
俺はレベル60などのモンスターを1体残らず倒していった。
モンスターの居場所を示すレーダーには、最初はモンスターを示す赤い点が無数にあったのが、今ではまばらだ。気付けばレベルは61。時間なんてもう分からない。
「あ、ミアナさん」
後ろから声が聞こえた。俺は剣を構えて後ろを振り返る。
「違うよ、私。ミアナ」
よく顔を見ると、ミアナだった。ミアナがここに来るのはまだ早いはずだが……
「アリアさんに行ってみたらって言われたの。回復できるから大丈夫って」
もうミアナのレベルは20。上がりにくくはなっているものの、確かに上がっていた。
「ミアナさんは、どうしてレベリングを?」
「ただ上げたいだけさ。意味はない」
本当は意味もあるんだが、知られたくなかった。
「そっか。2人でやってもいい?」
「もちろん。やろう」
俺とミアナは2人でレベリングを始めた。
翌日、みんながログインした後にレベルの確認をした。あのあとすぐにログアウトしたドルトは15のままだったが、アリアとカトルはそれぞれ17、ミアナは24だった。
俺たちは今日からいつもの活動に戻った。そのやり方をミアナに教える。
「ミアナ、クエスト処理担当なんだけど、昨日見せたwaiting for permissionっていうところあったじゃん」
「うん、あったね」
「あれ、まだ推奨レベル70以上のクエストは拒否しといて」
ミアナは頷いた。70以上はまだ強すぎる。
今クエスト受注表にはNot Achieveのところに3つクエストが溜まっている推奨レベルは20ほどで低いが、30体一気に襲ってくるクエストもある。
「ミアナさん、このクエストってなに?」
ミアナが指さしていたクエストは、推奨レベル40のボス戦だった。よくある、多くのモンスターを討伐する、というものではなく、1体のボスを討伐するクエストだ。
「ボス戦だよ。やる?」
「私、まだ24だけど大丈夫かな……」
推奨レベルの16も下だと不安か。ただ、このゲームに重要なのはレベルじゃない。攻撃力や、SP、HP量といったステータスだ。
「じゃあ先にカトルたちが持ってきたアイテム漁るか」
「うん」
俺とミアナはカトルたちが持ってきたアイテムを入れているストレージを見た。ちゃんと整理されていて、防具と武器で固まっている。
「防具は強化すればいいとして、武器だよな」
「まだ攻撃力+100っていうだけだから」
それだけだと一緒に戦うってなると苦労する。せめて200くらいは……
「あ、これがいい!」
ミアナが取ったのは、攻撃力+180、SP+30%、そして神の癒しの特殊バフが使える武器だった。回復量+20%、身内プレイヤーへ最大HP+10%だ。
「いいじゃないか。というかこれ、すごいな……」
「ね。こんなにすごい武器あるんだ」
俺も武器新調しないとかな。俺は剣をストレージの中から探していた。
「ねぇ、これ何?」
ミアナは1つの片手剣をストレージから出した。ステータスは攻撃力+200、レベル上昇につき攻撃力+6%、ヒーラーサポートスキルだった。ヒーラーサポートスキルってなんだ?
「ヒーラーサポートスキルって何か知ってる?」
「ううん、知らない」
ミアナは俺の前に表示されているウィンドウを見て言う。
「ちょっと武器屋行ってくるか。ミアナも来るか」
「うん、行く」
俺とミアナは近くにある武器屋まで出かけることにした。まだカトルたちは来てなかったため、一応メールだけ残して武器屋に行った。
武器屋のサレンドに聞きに行った。サレンドはこの街でかなり評判の武器屋で、きっと知ってると思った。
「サレンド、このスキル何か分かるか」
「なになに……ああ、HSSのことか」
HSSという聞き慣れない単語に俺はポカンとした。
「知らなそうだな」
サレンドはHSSのことに関してスキル表を使って説明し始めた。
「HSS、Healer Support Skill。アタッカー専用スキルで、身内プレイヤー内にヒーラーがいた場合、ヒーラーに対するヘイトを軽減、自身の攻撃力が10%増加するスキルだ」
その名の通りのヒーラーを補助するスキルだった。
「それいいじゃん。ミアナさん、それにしない?」
「いやでも、レベル上昇につき攻撃力+5%もいいからな……」
すると、サレンドが俺の今の剣を見て言った。
「なら、最強装備作ってやろうか」
「そんなのできるのか?」
「できるぞ。
「なら、お願いしていいかな」
「あぁ。任せろ」
サレンドは
結果、攻撃力は64954に。レベルの割に強くなったものだ。
「ついでにミアナちゃんのも強化しておいたからな。レベル上昇で攻撃力+5%になったけど、いいよな」
「うん。ありがとう」
俺とミアナはギルドの部屋に戻った。
ギルドの部屋に着くと、もうみんながいた。ドルトはレベルを上げてきたらしく、18まで上がっていた。
「さぁ、ダンジョンの話し合い始めようか」
「うん」
俺はダンジョンの地図を出し、指で差しながら説明していった。
「今回は5階層まであるダンジョンで、推奨レベルは20、ボス戦は1回だ」
「何か階層内にある特殊地形とかはないか」
カトルが聞いてきた。ダンジョンには、稀に毒沼や落とし穴などの仕掛けなどがあったりする。
「分かりやすいものはない。落とし穴はあるかもしれないけど」
「どっちにしろ、十分注意しろよってことだ」
ドルトが言う。まぁそういうことではあるが。
「じゃあいつ行く?」
「明日とかどうだ」
カトルが言う。
「私はいいよ。他のみんなは?」
アリアが呼びかける。みんな頷いた。
「じゃ、明日の10時集合な」
俺はそう呼びかけて解散させた。
レベル一覧
ミアナ(男) 62
ミアナ(女) 24
ドルト 18
アリア 17
カトル 17
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