スターの始めるプロデュース生活   作:焼肉定食

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それでも僕はヤってない

 

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

 あ、ありのまま今起こったことを話すぜ…!居酒屋でしこたま酒を飲んで意識を失った俺がいつの間にか家に帰ると、同じベッドで隣に謎の銀髪少女がすやすやと寝息を立てていた…!

 

 

 ……いや、これアウトだろ。

 

 

「やっちまったぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 あ゛ぁぁぁ!! これヤバいだろ! 絶対にヤバいやつだろ!! いくら記憶が無いからって女の子連れ込んで同じベッドで寝てるとかさぁ!

 ど、どうしよう……これ死ぬよな? 俺、社会的に死ぬよな? この子にもし手出してたら俺終わりだよな…? もしかして唯より先に俺が全国ネットにデビューしちまうのか!?

 

 

「んっ、ふぁぁ〜〜〜……あれ、ここって…? あっ、そっかあたし昨日……」

「……!」

 

 

 ベッドでぐっすり眠っていた銀髪女が俺の背後でムクリと起き上がる。ワイシャツ一枚の下から覗く均整の取れた肉体に一瞬だけ視線が向いたが、俺はすぐさまファイティングポーズをとって警戒の姿勢を見せる。

 

 

「あれ、お兄さん何してんの? 朝からそんなポーズとってさ」

「貴様はお前だな?」

「いや何言ってんのかまるで分からないんだけど……日本語変じゃない?」

 

 

 しまった、つい焦って変なことを口走ってしまった。だけどこの女の反応……妙に落ち着いているというか慌てた様子は無い。つまり向こうはちゃんと記憶があるってことだよな?

 

 

「……正直に言う。悪い、昨日の夜からの記憶が全く無いんだ。だからお前が誰なのか全く知らないし、よければ事情を説明してくれないか?」

「……」

 

 

 緊張感からか、俺は拳を痛いほど握りしめながらありのままを話す。そんな俺を女はジーッと見つめていたが、一瞬だけ小さく微笑むと寂しげな表情を浮かべながら俯いた。

 

 

 え、何そのリアクション…? 怖いんだけど? やっぱ昨日の夜何かあったの? 頼むから何か言ってくれよぉぉ!

 

 

「そっか……覚えて、ないんだね」

「は、はぁっ!?」

 

 

 や、やべぇよやべぇよ……完全にナニかあった感じのリアクションじゃねぇかぁ!! おいマズいぞこれ! マジでマジに俺はヤらかしたってのか!?

 頼む! 何もされてないって言ってくれぇぇ!! いや、家に連れてきてる時点で何もってのは無理な話だけど、せめて肉体的接触は無かったって言ってくれぇぇぇ!!!

 

 

 

 

「あたし……初めてだったのに」

「………ひょ?」

「あんなに激しくされてさ……壊れちゃうかと思った」

 

 

 銀髪女は微かに頬を赤く染めながら、照れくさそうにベッドのシーツで口元を隠す。

 

 

 …………終わった。 これは確定です。

 

 

 全身から力が抜け落ちるのを感じた直後、俺は床に膝から崩れ落ちる。そして四つん這いの体勢で絶望に打ちひしがれながら、ポツポツと独り言を溢す女の声に耳を傾ける。

 

 

「あたし……もう無理って何回もお願いしたのに、お兄さんは何回もあたしを求めてきて……」

「終わりだ……俺の人生」

「もう、こんなことされたら責任取ってもらうしかないよね……」

「刑務所の飯って本当に臭いのかな……」

「お兄さんの……すごく逞しくて」

「確かに俺のエクスキャリバーは逞しくて立派だけど……」

「そこは反応するんかーい」

 

 

 あぁ……俺は一体今後どうなっちまうんだ。とりあえずクビは確定として、このままじゃ事務所にまで迷惑かけちまうよな。

 

 

 すみません社長。せっかく拾ってくれたのに……

 

 すみません貴子さん。せっかく声かけてくれたのに……

 

 悪いな唯。俺お前より先に全国ネットにデビューしちまうよ……

 

 すみませんちひろさん。この前自販機で借りた100円返せなくなっちまいそうです……

 

 

 

 

「ま、全部冗談だけどね」

「…………は?」

 

 

 

 オイ……今コイツなんて言った?

 

 俺がゆっくりと顔を上げて女の方を見ると、あっけらかんとした様子で女はケラケラと笑った。

 

 

「あはは、何かそういうシチュエーションっぽかったから言ってみたんだけど、ビックリした?」

「………てことは、さっきまでの話は…?」

「だから全部冗談だって。お兄さんには何もされてないから安心してよ」

 

 

 ……つまり? 俺は何もしてない? あの女とあっはーんでうっふーんな展開なんて何も無かったってことだよな…?

 

 

「……な、何だ……冗談だったのか。そ、そうかそうか……」

「そうそう。でもあたし結構演技上手だったでしょ? お兄さん完全に騙されてたもんね」

「そ、そうだな……完全に騙されたよ。ははは……」

「どう?ドキドキした?」

「そりゃあ、もう……ドキドキ通り越してバックバクよ」

「やった、ドッキリ成功〜」

 

 

 俺は心の底から安堵した。そして四つん這いの体勢からゆっくりと起き上がる。

 

 は、ははは……うん、冗談ね。冗談冗談。

 

 

「なぁキミ、一つだけ言ってもいいかな?」

「うん? なーに?」

 

 

 

 

 

「ふざけんなクソガキぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 俺は真っ赤な涙を流しながら女へと飛びかかった。そのままアイアンクローでコイツの頭を砕いてやろうと手を伸ばすが、寸前のところで女の手が俺の腕を掴む。

 

 

「ちょっ! ご、ごめんごめん! 流石にやりすぎたってあたしも反省してるからさ!」

「ごめんで何でも済んだらポリ公はいらねぇんだよ、おうコラクソガキコラ」

「た、タイムタイム! 一旦落ち着こうよお兄さん! このままだと手を出したってのが本当になっちゃうよ!?」

「うるせぇ! お前を殺して俺も死んでやる!」

「わ、悪かったってば〜〜〜!!!」

 

 

 その後、しばらくの間ベッドの上で格闘戦を繰り広げたが、女の「あんまり騒がしくするとご近所さんに通報されちゃうかもよ!」という一声を終了の合図に俺は女の上から退いた。

 そして、お互いにベッドの上ではぁはぁと呼吸を乱しているという一見誤解されそうな絵面のまま俺と女は向かい合った。

 

 

「はぁ……はぁ……そんで? お前誰なんマジで。俺のストーカー?」

「ぜぇ……ぜぇ……そ、そんな訳無いじゃん。というかお兄さんが家に招いたんじゃん」

「俺が?」

 

 

 俺の問いに女はコクコクと首を縦に揺らして返事をする。この女の物言いが確かなら、俺は自らコイツを家に招き入れて一緒のベッドで寝ていた変態ということになってしまう。

 

 

「まぁお兄さんすごい酔ってたし、覚えてないのも仕方ないかな」

「いや、確かに昨日はかなり酔ってたけど……」

「ほら、よく思い出してよ。昨日の夜に公園でさ」

「公園………あっ」

 

 

 あっ、何か……思い出してきたかも。 そう、あれは昨日の夜にコイツの言う通り公園で……

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

『ふぃ〜! 飲んだ飲んだぁ! とっとと家帰ってシャワーでも浴びるかぁ!』

 

 

 貴子さんとちひろさんとの飲み会を終えて解散した俺は、気分がいいから歩いて帰ろうと思って夜の街をふらつく足取りで進んでいた。

 

 あーやば、めっちゃフラフラする。つか家こっちで合ってるっけ? まぁ何でもいいか。早く家帰って寝てぇ。

 

 

『あー、なんか知らねぇ道だなぁ。道どっかで間違えたかぁ〜?』

 

 

 おかしい。俺はいつも通りの道を歩いていたはずなのに……え、酔っ払ってるから道間違えたんだろって? バカ言え俺は酔っ払ってなんかいねぇよ。

 

 

『……うっ』

 

 

 そんな時だった。急に俺の体を尿意が襲ってきたのは。俺は頭を左右に振ってボヤけた視界でトイレがありそうな所を探すと、視界の先にそれなりに大きな公園を見つけた。

 そして俺は、今日はなんだかツいてるなと思いながら上機嫌で公園敷地内に上がってトイレに向かおうとしたのだが、その途中にあるベンチにはなんと人が横たわっていたのだ。

 

 

『おいおい、何でこんな若い女が……』

 

 

 酔っ払ったおっさんやホームレスの人がベンチで眠っているのは偶に見るが、こんなに若い女がベンチでスヤスヤと眠っているのは初めて見た。女は小さなスーツケースを抱えて静かに眠っているが、その体はぶるぶると震えていて寒そうだった。

 

 そりゃそうだろ。こんなに短けぇパンツ履いてりゃ寒いに決まってる。おーおー、こんなに足出しやがって……こんな格好して公園で眠るなんて無防備にも程があるだろ。

 

 

『はぁ……おい、お前。んなトコで寝てたら風邪引くか変態に襲われんぞ』

『ん……さむ』

『そりゃ寒いだろそんな格好してりゃあよ』

 

 

 女はパッチリと大きな瞳を開いて起き上がると一言だけそう呟いた。そんな姿を見て放っておく訳にもいかず、俺はとりあえず自分の着ていたコートを脱いで女に向かって放り投げた。

 

 

『貸してくれんの?』

『お前の格好見てるとこっちまで寒くなるからな。あ、臭いとか言ったらすぐ返してもらうからな』

『あはは、別に臭くなんかないって……ふぅ、あったかい』

 

 

 女は俺が渡したコートを羽織ると、ソレで身を包み込むようにしてギュッと体を丸めた。余程寒かったのだろう、震える唇から吐かれる息は白くなっている。

 

 

『で、お前こんな時間にこんなとこで何してんの?』

『何って……寝てた』

『家で寝ろよバカ』

『いや〜、実は家追い出されちゃって』

『はぁ?』

 

 

 おいおい、軽い感じで言ったけど家追い出されるって何事だよ。コイツこんなナリして実は訳アリか?

 

 

『はぁ……家はどこなんだよ』

『京都』

『……なんだって?』

『だから京都だって』

 

 

 き、京都ォ!? どうなってんだ一体…! じゃあ何か? コイツは京都の家追い出されて東京まで来たってのか!? どんだけスケールのデカい家出だよ!

 

 

『……お前が家に帰れないのはよく分かった。それで、お前これからどうすんだよ』

『ん〜、まぁ何とかなるでしょ。とりあえず朝になって明るくなったら何か考えるかな』

『明日の朝までさっきみたいにソコで寝てるつもりか?』

『そうなるかなぁ……お金もあんまり無いしホテルとか泊まれないし』

 

 

 だからってなぁ……こんな子がこんな場所で一晩を過ごすってのは……いくら何でも危険すぎやしないか?

 

 

『……お前、本当に泊まる場所にアテはねーのか? 東京の友達とか』

『いないよ……ってか、そんなのいたらそこに行ってるよ〜』

『はぁ……呑気なヤツだな』

『あはは〜、まぁソレがあたしの長所でもあるからね〜ん』

 

 

 

『……お前さ』

『ん?』

 

 

 ……おいちょっと待て。何言おうとしてんだ俺は。こんな厄介ごと絶対に首突っ込むべきじゃないのは分かってるだろ……こんなヤツ放っておいてとっとと家に帰るべきだろ。なのに……

 

 

(ウチ)に来るか?』

『えっ?』

『勘違いすんなよ、今晩だけだかんな』

 

 

 ……あークソ、何言ってんだ俺は。

 

 

 

『……いいの? そりゃあたしとしては助かるけどさ。お兄さんに得無いよ? それにこういうのってもしかしたら警察とかにーーー』

『あーごちゃごちゃうっせぇな! そりゃ俺だって面倒ごとは御免だっつーの! けどな、そんな格好でここに残ろうとしてるお前を見過ごす訳にもいかねーだろ!』

『……そうなんだ』

『それに明日の朝になってお前が全国ネットにデビューしてたら目覚めが悪いからな』

 

 

 そうだよ、明日の朝になってニュースで◯◯町の公園にて女の子の遺体が〜〜とかニュースになってたらたまったもんじゃねーからな。

 

 

『そんで、来んのか?来ねーのか? どっちだ』

『……優しいんだね、お兄さん』

『あ?』

『なんでもないよ〜ん。それじゃあご厚意に甘えてお邪魔させてもらおうかな〜』

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「思い……出した!」

「あっ、ようやく思い出してくれた?」

 

 

 そうだよ夜の公園で会った女だ! ん? ちょっと待てよ、これってやっぱり思いっきり俺が連れ込んでるよな?

 

 ……や、やっぱコレってかなりマズいことしてるんじゃねーのか俺!? もしこれでコイツがこの事をネタに警察に通報とかしたら……俺は本当に終わりだ…!

 

 

「な、なぁ……」

「ん? なーに?」

 

 

()()でどうにか黙っておいてくれないか?」

「何をどうなったらそんな結論に行きつくのさ」

 

 

 俺が決死の思いで財布の中から札を何枚か取り出して女に差し出すと、向こうさんは若干引いたような視線を俺に向けてきた。

 

 

「あのさ……もしかしてあたしがお兄さんのこと通報するとか、それをネタにして脅そうとしてくるんじゃないかとか考えてる?」

「お、おぉ……まぁ、うん」

「はぁ……いくら何でもそこまで人でなしじゃないって。恩人にそんな事する訳ないじゃん」

 

 

 女は口を尖らせて、あたし不満でーすとでも言いたげな雰囲気を全面に押し出す。

 でも確かに俺も冷静さを欠いていたかもしれない。とりあえず深呼吸でもして落ち着いて状況を把握しなければ。

 

 

「ふぅ……とりあえず、お前の名前聞かせてくれ」

「あたし? あたしは周子だよん。塩見周子、よろしくねー」

「周子な、おっけー把握」

「そういうお兄さんの名前は?」

 

 

 俺のことをジッと見つめる周子。そんな彼女から俺は逃げるように目を逸らしながら口を開いた。

 

 

「……八坂だ。よろしく」

「ふーん、下の名前は?」

「し、下の名前な……あーえっと、実は俺下の名前無くてな」

「は? 何言うてんの?」

 

 

 周子はじっとりとした視線で俺のことを見つめた後に、呆れたように大きくため息を吐いた。

 

 し、下の名前が無いってのは流石に苦しいか…? でも言いたくないモンは仕方ねぇ。

 

 

「……ま、言いたくないなら別にいいけどさ」

「お、おう。そういう事にしておいてくれ」

 

 

 周子はケロッとした態度を見せると俺の名前への興味を無くす。深い詮索をして来ないっていうのは俺としてとありがたい。もしかしたら気を遣ってくれたのかもしれないが。

 

 

「ねぇねぇ、八坂さんって何してる人なの?」

「俺か? 俺はプロデューサーだよ、アイドルのな」

「えっ、じゃあもしかして結構凄い人だったの? 芸能人に知り合いとかいたり?」

「そりゃもちろん……と言いたいところだがそんな事は無いな。出来たばかりの小さな事務所で今年から働き始めたばかりだしな」

 

 

 俺は床に落ちている自分のスマートフォンを開いて起動させると、ウチの事務所のホームページを開いて所属タレントのページを開く。そこにはただ1人だけだが、笑顔でポーズを取る唯の写真が載っている。

 

 

「ほら、コイツが俺の担当アイドル」

「どれどれ……ほぇ〜! すっごい可愛い子やん!」

「俺がスカウトした」

「へぇ〜、八坂さんやるぅ〜。あたしが言うのも変な話だけどこの子は売れると思うよ〜?」

「俺がスカウトした」

「いや、うん。それはさっき聞いた。あ、そういえばプロデューサーってどんな仕事してるの?」

「俺がスカウトした」

「いや何回同じ話しとんねん」

 

 

 仕方ないだろ、唯が褒められるとついつい嬉しくなって俺が見つけたアピールしたくなっちまうんだよ。

 いつか唯がトップアイドルになったら、そんな唯を見つけた敏腕プロデューサーってことで芸能界の歴史に名を残すことにならないかなぁとか最近よく考えてる。

 

 

「……そういえば八坂さんさ、さっき昨日の夜の記憶思い出してたけど、思い出したのは公園の事だけ?」

「ん? そうだけど……他に何かあったのか?」

「……んーん、別に何にもないよーん」

「じゃあ変なこと聞くなっての」

「あはは、ゴメンゴメン」

 

 

 さっきまで飄々としていた周子がいきなり真面目なトーンで俺に質問をしてきた。しかし俺の返答を聞くと、少しだけ安心をしたように胸を撫で下ろして再び飄々とした態度に戻った。

 

 

「……よかった、全部思い出した訳じゃなくて」ボソッ

「ん? 何か言ったか?」

「何でもないよ〜」

 

 

 いや、確実に何かありそうなんだが……まぁ別にいいか。言いたくないんなら言わなくても構わないし、さっきは周子も余計な詮索は避けてくれたしな。俺も聞かなかったことにしよう。

 

 

「って、それより今後お前がどうするのかを決めなきゃいけねーぞ。ちょっとトイレ行ってくるから俺が戻ってきたらその話するからな」

「はーい」

 

 

 俺は周子に背を向けると、部屋の中に周子を1人だけ残してトイレへと向かった……

 

 

 

 

 

 

 

「……あー良かった。アレまで思い出されてたら流石のあたしでも恥ずかしいしね」

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 今から数時間前、まだ夜が深い頃……

 

 

『ほら、ここが俺の家だ。誰かに見られると面倒だから早く入れ』

『ほーい、お邪魔しまーす』

 

 

 お兄さんに促されるまま、あたしは扉の奥へと足を踏み入れる。そのまま電気の付いていない暗い空間を進むと、足に何か硬いものがぶつかって少し痛い。どうやら部屋はあまり片付いていないようだ。

 

 

『悪いな、ちらかってんだろ』

『いいよ別に。あたしの部屋も物床に落ちてるし』

『そか。んじゃあまぁ……』

 

 

 

 

 

『とりあえずシャワーでも浴びてこいよ』

『うぇっ』

 

 

 これからそういうコトをする人が言うド定番のセリフをお兄さんが言うもんだから、あたしは少しだけびっくりして変な声が漏れた。

 

 あー焦った。ドラマとか映画で聞いたことあるセリフだけど本当に男の人に言われちゃうなんてね。まぁお兄さん優しそうだしそんなコトにはならないだろうけど……

 

 

 ……ん? ちょっと待ってよ。どうしてそういうコトにならないってあたしは決めつけてるんだろう。よく考えたらお兄さんは家に泊まってもいいって言っただけで、あたしに手を出さないとは言ってないような……

 

 もし、もしもだけど……お兄さんがそういうつもりであたしを部屋に呼んだんだとしたら、あたしはこの後お兄さんに……

 

 

『おい、どうかしたのか?』

『へっ!? い、いやー別に何もないけどっ!?じゃ、じゃあお言葉に甘えてシャワー浴びてくるね〜!』

『……?』

 

 

 あまりキョドキョドしてるとお兄さんに怪しまれてしまうかもしれない。あたしは逃げるようにその場を後して脱衣所へと向かった。

 そして今日一日中着ていた服と見に纏っていた下着を脱いでカゴに入れると、風呂場の中に入って遠慮なくシャワーのレバーを捻った。するとすぐに温かくて心地の良いお湯が出てきて、疲れや汗を一瞬で洗い流してくれる。

 

 

 

『……はぁ、気持ちいぃ〜』

 

 

 やっぱお湯はいいよねぇ。正直今日はお風呂入れないと思っていたってのも相まって最高に心地良い。

 

 

『ふぅ……』

 

 

 ………って、あかんあかん! 和んでる場合とちゃうわ! 今はシャワーを浴びた後のことを考えんと…!

 

 とりあえず一旦冷静になろう。お兄さんはあたしを家に上げてくれた。そしてシャワーを浴びさせてくれた。それはつまり、あたしに体を綺麗にしてもらいたいってことで、何で体を綺麗にするのかっていうと……

 

 

『〜〜〜っ!! あかんって! もしかしたら本当に善意100%かもしれんし!』

 

 

 そうだ、人のことを疑うのは良くない。ここはお兄さんの優しさを信じることにしよう。まぁどの道あたしは今さら別の場所に泊まるなんていう選択肢は無いわけですし。

 

 

 

『……初めてはむっちゃ痛いってホンマかな』

 

 

 って!だから違うって! 何考えとんねんっ!

 はー、アホらしい。さっきから何をあたしは狼狽えているんだろう。さっさとシャワー浴びて早く部屋に戻ろ。

 

 

『……』

 

 

 で、でも一応……いつもより念入りに洗っとこうかな。特に理由はないけど……

 

 

『おーい』

『っ!? な、なにっ!?』

『服、その辺にあるやつ着てくれ。男物しかないと思うけど』

『は、は〜い。どうもありがとさ〜ん』

 

 

 お兄さんはそれだけ告げるともう脱衣所から離れていったのか、足音はどんどん遠ざかっていく。あたしは頃合いを見てシャワーを止めると脱衣所に出る。

 

 えーっと髪はタオルで拭いて、下着は……さっきまでのと同じやつ着けるしかないよね。そんで服は……えっ。

 

 

『まさか……コレ?』

 

 

 脱衣所の中をどれだけ見渡してもTシャツなどは見当たらないが、その代わりに綺麗に畳まれたワイシャツが何枚か重なって置かれていた。

 流石に下着の上にワイシャツ1枚は……って思ったけど、さっきまであたしが着ていた服はグオングオンと喧しい音を出す洗濯機の中に放り込まれていた。さっきお兄さんがここに来た時に入れてくれたのだろうか。

 

 

『……コレしかないやん』

 

 

 あたしは諦めて下着の上からワイシャツ1枚を羽織る。下はどうしようかと思ったけど、お兄さんのシャツはサイズが大きくて、あたしの膝上くらいまではすっぽりと隠せるほどだった。

 

 

『……行くしかないよね』

 

 

 あたしはその格好のままお兄さんのいるリビングへと戻ると、ベッドを背もたれに座っているお兄さんは大きく船を漕いでいた。そう言えばかなり酔っ払ってるみたいだったし、疲れて眠ってしまったんだろう。

 もしかしてこのまま何も起こらないんじゃないかと思ったその時、お兄さんはゆっくりと目を開いてあたしのことを見つめる。

 

 

『おう、出たか』

『う、うん。ありがとね』

『そうか。じゃあお前はココ使っていいから寝ろ』

 

 

 お兄さんは気怠げな動きで立ち上がると、大きなあくびをしながらあたしをベッドへと促す。流されるままにベッドに入れられたあたしが布団に包まれると、あたしの家の布団とは違う匂いが鼻をくすぐった。

 

 

『よし、じゃあ……』

『……っ』ゴクリ

 

 

 

 

 

『ヤるか』

『……っ!!』

 

 

 お兄さんは一言だけそう言い放つと、その場であたしに背を向けながらゆっくりと立ち上がる。そしてグルグルと腰を回すと、バキバキとした音があたしの耳にまで届いてきた。

 

 

 い、今……ヤるって言ったよね。や、やっぱりそういうコトするために泊めてくれたってことだよね。でも……うん、やっぱり無償で泊めてくれなんていうのは虫が良すぎる話だったのかもしれへんし。

 

 

 ……よし、覚悟を決めろ。塩見周子18歳!

 

 

 あたしはベッドの上で起き上がると、自分の着ているワイシャツのボタンを震える手で一つずつ外していく。

 

 

『よし……それじゃあ』

『……っ』

『寝るか』

『………えっ?』

 

 

 予想外のお兄さんの言葉が耳に届く。あたしは慌てて顔を上げると、そこには押し入れの中から引っ張り出されたであろう布団と、その上で気持ちよさそうに寝転がるお兄さんがいた。

 

 ……あ、あれ? さっきヤるって言ったよね…?

 

 

 

『え、えーっと……ヤらへんの…?』

『何を?』

『だ、だってさっきヤるかって言ってたやん!』

『……あー、いや別に布団引っ張り出すか〜って意味で言ったんだけど』

『あ、そう』

 

 

 

 ……あ、アカーーーンッッ!! 完全にあたしの早とちりや!! で、でもさ! あのタイミングでヤるかなんて言うお兄さんも紛らわしすぎるわ!!

 

 

『つーかお前、何で服脱いでんだよ』

『はっ!』

『下着丸見えだぞ。俺は年下に興味無いからいいけどよ、あんまり男の前でそんな格好すんじゃねーぞ。襲われても知らねーからな』

『せ、せやね』

『そんじゃ、おやすみ』

『お、おやすみー』

 

 

 そう言うとお兄さんは部屋の電気を消して、まるで電池の切れた機械のように一瞬で眠りについた。あたしも寝ようと布団を頭から被って横になるが……

 

 

『〜〜〜っっっ!!』バタバタ

 

 

 羞恥心のせいでいくら眠ろうとしても眠れなかった。なるべく音を立てないようにベッドの上で足をバタつかせて身悶える。

 

 

 か、完全にやってもうた〜〜っ!! なんか向こうは全くヤる気ないのにこっちがノリノリな感じで、しかも断られたみたいな感じになってるやん!

 何が『ヤらへんの?』やねん! あたしがヤりたいみたいになってるやん! そのために服脱いで誘惑したみたいになってるやん〜っ!!

 

 

『……あかん、恥ずすぎて寝られへん』

 

 

 ていうかさ、早とちりしたあたしも悪かったけどお兄さんもお兄さんじゃない? あたし思いっきり下着だったよ? 自分で言うのもなんだけど、あたし結構いいカラダしてると思うんだけど……あまりにもノーリアクションすぎない?

 

 ……なんかそれはそれでムカつくかも。女のプライドが傷つけられるってこういうコトなんかな。

 

 

『……トイレ』

『わっ、びっくりした!』

 

 

 突然、ムクリと起き上がったお兄さんがふらついた足取りでトイレに向かって進んでいく。もちろんあたしには見向きもせず一目散にトイレへと向かった。

 

 

『……はぁ、あほくさ。寝よっと』

 

 

 なんかドッと疲れたわ。何も無いっていうんならありがたく眠らさせてもらうことにしよう。

 そしてあたしが目を瞑ると、トイレから水の流れる音が響いてくる。お兄さんの足音が近づいてきて、戻ってきたな〜なんて考えていると、驚くことにお兄さんはあたしの寝ているベッドに入ってきた。

 

 

『ちょっ!』

『すぅ……すぅ……』

『もう寝とるし、早すぎん?』

 

 

 そりゃそうだよね。普段はこのベッド使ってるんだろうし、寝ぼけてこっち来ちゃったんだよね。

 てか、おとん以外の男の人とベッドで一緒に寝るとか初めてなんやけど……って、またあたしは何を考えとんねん。

 

 

『はよ寝よ』

 

 

 お兄さんに背を向けて目を閉じると、さっきまで全く眠れなかったのが嘘のように意識が微睡んでくる。やっぱりあたしの体も相当疲れていたようだ。

 

 ……なんか、あたしばっかドキドキしてたみたいで悔しいから、明日は朝起きたら……お兄さんに、ちょっと……ドッキリでもしかけて、みよう……か、な。

 

 

 そこであたしの意識は完全に睡眠へと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「はぁ……アレは恥ずかったわ」

「何か言ったか?」

「おわっ! き、急に後ろから話しかけんといてよ。びっくりするやん」

「悪い悪い、それより今何か言ってなかったか?」

「別に、なんでもないよ〜ん」

 

 

 シラをきるあたしを見て八坂さんは不思議そうな表情を浮かべている。さっきから昨日の事について言及してくる様子は無いし、本当にその記憶は思い出してないらしい。

 

 

 どうかそのまま、絶対に思い出さないでよね。お兄さん。

 

 





(塩見周子:シオミシュウコ)

年齢:18歳
身長:163cm
体重:45kg
3サイズ:82-56-81
出身:京都
趣味:献血・ダーツ


 感想評価等どしどしお願いします。


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