スターの始めるプロデュース生活 作:焼肉定食
……まだ寝起きで覚醒しきっていない俺の体が、食欲を唆る匂いによって無理やり叩き起こされる。続けて温かいお椀を手で持って顔に近づけると味噌の芳醇な香りが鼻をくすぐり、そのまま椀を傾けて中の汁を喉に流し込めば全身に旨みが届きわたっていく。
うーん、やっぱり朝は米と味噌汁だよな。
「あ、八坂さんお醤油取ってー」
「何だ周子、お前目玉焼きには醤油派か?」
「そうだけど、八坂さん違うの?」
「ふっ……俺も醤油だ。朝から血の海を見ることにならなくてよかったぜ」
「目玉焼きに何かけるか論争は根深い問題だよね〜」
「あと有名なところで言うと……シチューとご飯は一緒に食えるかとか、おでんでご飯食えるかとかもあるな」
俺は何の変哲もない会話を昨日の夜に酔った俺が拾ってきたらしい狐娘としながら、2人仲良く机の上に並んだ朝飯を仲良く頬張っている最中だ。
そして俺は味噌汁に続いて、適当に焼いたソーセージを口に運んでーーー
「って! 何普通に朝飯食ってんだ俺ら!」
「わっ、急にどうしたの」
何をやってんだ俺は! あまりにもコイツが家に馴染んでやがったからつい普通に朝飯を楽しんじまったぜ。今はこんなにのんびり朝飯食ってる場合じゃないってのによ!
「これからお前をどうするかって話をしなきゃだろうが!」
「あ〜そうだよね」
「お前……呑気な奴だな」
「ソレもあたしの長所だからねーん」
そんなことを言いながら白米をモシャモシャと頬張る周子。コイツは自分の置かれてる状況わかってんのか?呑気とかいうレベルじゃねーぞもはや。
「で、マジな話どうすんだお前。いつ家に帰るんだ?」
「んー、というか帰れないんだよね。ほら昨日言ったでしょ? あたし追い出されたんだって」
「確かにそんな事言ってたような気もするけど……てか、一体何して追い出されたんだよ」
俺が問いかけると周子は一旦飯を食う手を止めて箸を置いた。そして隠すことなんて一つも無いとでも言わんばかりの表情で飄々と語り出す。
「いやー、あたし高校卒業してさ。特にやりたい事も無かったから大学にも行かないで就職もしないでさ。なんとなく実家の仕事手伝いしながらヌクヌクしようとしてたんだよね〜」
「半分ニートみてぇなもんか」
「あはは〜、まぁそんなモンかな。そしたらおとんがむっちゃ怒ってさ、一人前になるまで家に帰ってくるな〜!ってさ」
ふむ……つまりはアレか。あまりにも適当な人生設計をしていた周子にお父さんが怒って追い出したってことか。まぁ確かにコイツの楽観的すぎる考えにも問題はあるけど、俺も貴子さんに誘ってもらえなきゃニートになってた可能性もあるって考えると他人事では無いような気もするな。
「じゃあ何だ、こっちで仕事でも見つけるってことか?」
「んーそういうことになるんかな?」
「はぁ……お前もお前だけどよ、親父さんも結構無茶苦茶だな」
「本当だよね〜。まぁ八坂さんみたいな優しい人に声かけてもらえて運が良かったよ」
そう言って周子は歯を見せていたずらな笑みを浮かべた。俺が本当にいい奴かどうかなんてまだ分からないだろうに、どこまでも呑気な奴だよ。
「でも仕事なんてそう簡単に見つかるもんなのかな?」
「
「んー、あっ! じゃあいっそのことこのまま八坂さんに嫁入りして住まわせてもらおっかな〜」
「はぁ?」
まーたコイツは人を揶揄った様な事を言いやがって。俺が紳士だからいいものの、変態相手だったら今のセリフを本気にして問答無用で襲われてんぞ。
「悪いがお断りだ。俺はお前みたいなガキに興味はねぇ」
「あっ、ひどーい」
「あと10年歳食ってから出直してこい」
「あれ、どっか行くの?」
「シャワー」
俺が立ち上がって風呂場へと向かうと、周子は気の抜けた声で行ってらっしゃ〜いとか言いながら手を振っていた。
はぁ……どうすっかなぁあの狐娘。気を抜くとマジで家の中に居座られちまいそうな気がするぜ。流石にそれはマズいから何とかしないとなんだけど……頭が働かないからとりあえず早いとこシャワー浴びてくっか。
♦︎♦︎♦︎
ジャ----
「あーさっぱりする」
ふぅ……悪いな諸君、美少女じゃなくて野郎のシャワーシーンなんて見せる羽目になっちまってよ。まぁちょっとだけ我慢してくれや。
「さてと、そろそろ真面目に考えるか」
周子を今後どうするかだが……この状況で俺が取れる手段は大きく分けて3つだな。
その1 なんとか親父さんを説得してもらってアイツを実家に帰す。
その2 アイツが最低限こっちでも1人でやっていけるように、バイトやら一人暮らしできそうなアパートなりを探してやる。
その3 もう全部放り投げてアイツを家から放り出す。
「……実質2択じゃねぇか」
まぁ流石にその3は無いわな。俺だって流石にそこまでするほど鬼畜じゃねぇし、何よりアイツを放り出した結果また公園で野宿とかして事件にでもなったら目覚めが悪い。
となると残ってるのは1と2だが、現実的なのは1の方だろうな。周子の親父さんだって一晩空けて頭冷やしてるかもしれねぇし……
「ちゃんと謝れば親父さんだって許してくれんだろ」
そう、かわいい愛娘がしっかり謝れば……
「……ん?」
……かわいいで思ったけど、確かにアイツはかわいいよな。容姿も整ってるしスタイルも良くて美少女と呼んでも差し支えないだろう。
アイツならもしかしたら……
「……い、いやいやいや。何考えてんだ俺。確かにアイツはかわいいけどそんな事……」
でも、正直イケるかイケないかで言えば充分にイケる気はする。それにちひろさんも直感が大事だって言ってたような気がするしな。
「……よしっ、とりあえず周子に話してみるか」
俺はシャワーの栓を締めると体中に降り注いでいたお湯が止む。心地よい温かさに包まれながら脱衣所へと出ていきタオルで体を拭いていると、遠くの方から周子の声が聞こえてくる。
「あれー、トイレどこだろ」
なんだアイツ独り言デケェな。いやまぁ俺も一人でブツブツ喋ったりするタイプだから人のことあまり言えたもんじゃねぇけどよ。
「んー、ここかな?」
「ちょっ! ばか周子待てそこはちが…!」
周子の声と同時に脱衣所のドアノブが外から捻られる。俺は咄嗟にソレを掴んで阻止しようとしたのだが、時は既に遅し。無情にも扉は開かれて産まれたままの姿の俺と周子の視線がバッチリと交じり合う。
「「あ……」」
お互いに何故かピタリと動きを止める。どっちかが早く扉を閉めればいいのに、これじゃあまるで両者共に蛇に睨まれた蛙だ。俺なんてラオウばりの仁王立ちだよ。人間咄嗟の出来事が起きた時はこんな感じで体は動かないんだろうな。
そんな事を考えていると、周子の特徴的な大きい黒目が段々と下を向いていく。その先にはふてぶてしく存在を主張している俺の聖剣エクスキャリバー。そして漫画やアニメのようにソレを都合よく遮ってくれる謎の白い光や湯気は存在していない。
「………っ」
「いや、その……だな」
大抵のことでは動じずに飄々とした態度を見せるであろう周子でさえコレには流石に驚いている様で、その雪のように白いきめ細やかな肌はほんのりと赤く染まっていく。
そんな周子を見て、早いとこ何か言わなけりゃならないと焦った俺は咄嗟に呟いた。
「……い、いやん。周子ちゃんのエッチー」
「……っ! あ、アホーーーーッッッ!!!」
ぶっ壊れるんじゃなかろうかという程の勢いで扉を閉めた周子は、逃げ去るように駆け足でリビングへと戻って行った。
……普通立場が逆だろ。こういうラッキースケベイベントって。
♦︎♦︎♦︎
「よし周子、ちょっと真面目な話があるんだが」
「……う、うん」
脱衣所から出た俺は、改めて周子と机一つを挟んで向かい合って座る。さっき思いついたアイデアをちゃんと話しておきたいんだけど……
明らかに周子の様子がおかしい。
うん、まぁそりゃそうだろうさ。ついさっきあんな事あったばっかりなんだから。そりゃ俺だってちょっとくらいは気まずい気持ちはあるよ。
「はぁ……周子」
「な、なにっ!?」
「藪から
「ぼ、棒っ!?」
……大丈夫かコイツ、、、
「色々と考えたんだがな、まぁお前をここにこのまま置いとく訳にもいかないだろ? ここ
「ち、ちんっ!?」
「……ま、まぁ昨日の夜に
「た、たまっ!?」
「…………ほ、ほらお前だっていつまでもふらふらしてたら親父さんに認めてもらえないだろ?」
「ぶ、ぶらんぶらんっ!?」
「ソレに関してはもはや言ってねーよ!!!!」
おい! なんなんだよさっきからコイツは! 一々言葉の一部を切り取って変な反応しやがってよ!! 話が進まねぇじゃねーか!!!
「おい周子! お前さっきからち◯この事意識しすぎだろ!!」
「は、はぁっ!? そんな事ないし!」
「遊んでそうな見た目と言動してるくせにち◯こ一本見たくらいで動揺してんじゃねーよ!」
「ど、動揺なんかしてへんわ! 大体八坂さんのなんか見たってそんな動揺なんて…!」
「てめぇそりゃあ俺のエクスキャリバーを馬鹿にしてんのかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ギャ-ギャ-ギャ-!!!
こーして俺たちは互いにヒートアップした状態で、激しい口論を15分程に渡り繰り広げたのだった。ちゃんちゃん。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……ちょっとは、落ち着いたか…?」
「お、おかげさまでね」
口論が終わる頃にはすっかり疲れ果てた俺と周子は、互いに息を切らしながら体を揺らして呼吸を整える。大声を出したからか周子も吹っ切れた様で、さっきまでの動揺していた素振りはすっかり無い。
「はぁ……じゃあ話戻すぞ」
「何だっけ、真面目な話……だっけ?」
「おうよ」
さっきまでの喧騒は何処へやら。静寂を取り戻した部屋の中で俺はゆっくりと語り出す。
「もしも俺が仕事紹介してやるって言ったらどうする?」
「えっ?」
「……周子、お前さ」
「ウチでアイドルやってみねぇか?」
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