スターの始めるプロデュース生活 作:焼肉定食
「と、いう訳で連れてきました。我が社2人目のアイドルです」
「ど〜も〜、塩見周子で〜す。よろしくお願いしま〜す」
「「……」」
俺が事務所へと連れて来た周子を見たちひろさんと貴子さんは固まっている。だがそれは決して周子に問題がある訳ではなく、ただただ展開の速さと唐突さに頭が追いついていないだけだろう。
え? アイドルやらないかっていう問いに対する周子の反応はどうだったのかって? そりゃ軽いモンだったよ。2秒くらい考えた後におっけーってさ。まぁ周子らしいよな。
「いやーここが
「俺の城だ」
「いや、プロデューサーさんはただの平社員でしょ?」
勘の良い諸君ならば気づいただろうが、周子の俺に対する呼び方が変わっているだろ? これは周子が、『あたしがアイドルやるなら八坂さんはあたしのプロデューサーさんだよねー』とか言ってそっから呼び方が変わった。まったく気が早いこって。
「……千川、頭の整理はついているか?」
「い、いいえまだです。ちょっとあまりにも急展開すぎて……」
「あぁ、そうだろうな。流石の私も面を食らったよ」
「でも周子ちゃん、でしたっけ? 凄く可愛い子ですよね」
未だ惚けた様子の2人が周子のことを観察しながら褒めちぎっているのを盗み聞きする。
まぁそりゃあそうだろうな。連れて来た俺が改めて言うのもなんだがコイツの容姿レベルはかなり高い。可愛いの系統は違うが総合的に見ても唯に引けを取らないだろう。俺からすればまだ2人ともケツの青いガキだが。
「で、貴子さん。どうなんですか周子は」
「むっ、まぁ……そうだな。見た目もかなり良いし私側から特に突っぱねる様なことはしないが……キミの方こそいいのか? アイドルをやる事になるが」
「あたし?」
貴子さんは一度咳払いをすると、視線を周子の方に向けて確認を促す。
すげぇ急な話だったから、周子がよく理解しないまま俺が連れて来たんじゃないかと疑ってんのかな。唯の時もそうだったけど俺がそんな詐欺まがいのスカウトする訳ねぇのにな。ちゃんと説明してるっつーの。
「大丈夫でーす。ちゃんと分かってココに来てるんで」
「そうか、野暮なことを聞いたな。すまない忘れてくれ」
「いやー、というかあたし的にはアイドルやらせてもらえないと困るっていうか……生きていけないっていうか」アハハ
「どういう事ですか?」
周子の発言を聞いた2人は首を傾げる。そして代表してちひろさんがその疑問を言葉にして投げかけてきた。
俺は周子の頭頂部をペチペチと叩きながら、アイコンタクトを取って身の上話をしていいか確認を取る。すると周子はニヤリと小さく笑って目を瞑った。
「あはは、じゃあプロデューサーさん説明よろしくー」
「よっしゃ、任せとけ」
「何やら既に仲が良いですね」
「そうだな。さっきスカウトしたとは思えんな」
苦笑いを浮かべる2人に対して、俺は話しても問題の無い部分だけを切り取って説明を開始する。え?説明できない部分はどこかって?そりゃあラッキースケベイベントとかの話はできないだろうさ。俺が捕まりかねないし。
「……と、いうことでして。コイツは実家を追い出されてきたんですよ」
「なるほどな、事情は理解した」
「なんと言いますか、波瀾万丈な1日を過ごしたんですね周子ちゃん」
「あははー、まぁそれほどでも」
貴子さんは相変わらず冷静だが、ちひろさんは口を開けたままぽかんとしていた。まぁ無理もないだろう。親に追い出されて公園で野宿しようとしていたところを、酔った俺が声かけたなんて異色も異色のスカウトだ。
「まぁ何はともあれ、本人がやる気であるのなら私たちは歓迎するさ」
「そうこなくっちゃ」
「うわー、あたしマジでアイドルになるんだ」
「だがな、その前に一つだけ問題がある」
「なんすか」
問題ってなんだよ。ハッ! ま、まさか昨日周子を家に泊めたのがやっぱりマズかったのか!? さっきスマホで調べたら誘拐罪に該当するかもとか書いてたし、まさか貴子さん俺のこと通報するつもりなんじゃ!?
「貴子さん、問題とは? プロデューサーさんは心当たりがあるのかいきなり土下座を始めましたけど……」
「これは俺の誠意です」
「千川、そこのバカは放っておけ。問題というのは保護者の同意のことだ。塩見がアイドルをやることをまだ彼女のご両親に一言も伝えていないだろう」
あ、なんだ問題ってそんな事かよ。ったく脅かしやがって、土下座損じゃねーかこのヤロー。
「周子、お前の父ちゃん喜ぶんじゃねーか?お前がいきなり仕事見つけてきたらよ」
「んー、どうだろうね。普通の仕事とはちょっと違うし」
まぁそれもそうか。それに1日前に追い出した娘がすぐ帰って来たと思ったら、アイドルになりましたーなんて報告されたら喜びより驚きの方が勝るわな。
「とりあえず、スター。お前は塩見と一緒に彼女のご両親と話をしてこい。こういうのは電話より直接の方がいい」
「へーい……ん? 直接って事は?」
「あぁ、お前ら2人で塩見の実家……つまり京都まで行ってこい」
♦︎♦︎♦︎
「で、どうすんのプロデューサーさん。今すぐ京都行く?」
「ちょっと待て、今新幹線のチケット取ったんだが時間まで少しあるな」
今から直行で駅に向かったらかなり新幹線を待つ事になっちまうな。かと言ってこの辺で時間潰せる様なモンと特に無いしなぁ。うーん、どうすっかなぁ……
「プロデューサーちゃーん☆」
「ん?」
スマホで取った新幹線のチケットと睨めっこをしていると、遠くの方から聞き馴染みのある声がする。声のした方に顔を向けると、向こうの方から笑顔の唯が走ってきているのが視界に映った。
「おーっす☆ 今事務所から出てきたよね? どっかいくの?」
「おぉ唯、今日もやかまし……元気だなぁ」
「ちょっ! 今悪口言おうとしたっしょ! 唯聞き逃さなかったかんね!」
はっはっは、相も変わらずまぁ元気なこってぇ。なんか元気な犬の相手でもしてる様な気分になるぜ。
俺がいつも通りの軽いやり取りを唯としていると、唯は俺の隣にいた周子にようやく気がついたのか驚いた様な視線を向けている。
「……あれ? どちらさま?」
「どうもー」
「おぉ実はだな唯、コイツは今度からウチの事務所でーーー」
「もしかして唯と一緒にアイドルやるの!?」
「おわっ!」
俺が言葉を言い終わるが前に唯は周子に飛びついて手を取る。そしてそのままキラキラと青い瞳を輝かせながら興奮気味に言葉を続けた。
「やったー☆ やっと唯にも同じ事務所のアイドル仲間ができるー! ねぇねぇ!名前は!?唯は大槻唯って言うんだー!」
「おーおー、元気な子やなー。あたしは塩見周子だよ。よろしくねー」
「周子ちゃん! ねぇねぇ!周子ちゃんすっごくかわいいね! スタイルもいいし!」
「あはは、そりゃどーも。でも大槻ちゃんの方こそ可愛くておっぱいも大きいじゃーん」
「唯でいいよ!」
一瞬で距離を詰める唯に対して、周子はへらへらと笑いながら対応している。唯からぶつけられる元気パワーを上手く周子がいなしてるっていう感じだ。
まぁ唯も周子も人当たりがいい奴だしそれなりに仲良くはなれるだろ。と、まぁそれはさて置いて、この女子特有のキャッキャウフフ空間に俺みたいなのが1人残されているこの現状は非常に居心地が悪い。かと言って俺も混ぜてー!なんて事をすれば直行で警察行きだ。故に答えは一つ。
「俺はクールに去るぜ。だからお前らはそこで百合百合しといてくれ」
「あれ、プロデューサーちゃん周子ちゃんとどっか行くんじゃなかったの?」
「そうなんだが、まだちょっと時間があってな」
「ふーん……あ! じゃあ周子ちゃんちょっと借りていい!?」
まぁ……別にまだ時間はあるし構わないが、
唯のヤツ一体何を企んでやがるんだ?
「別にいいぞ、好きに持ってけ」
「おーい、本人の意思はー?」
「周子ちゃんこっちこっち!」
「えっ、ちょっ!」
唯は周子の手を引いて事務所の方へと走って行く。さっきから子どもの様にはしゃいでいるが、よほど同僚が出来たのが嬉しいと見える。
「さてと、じゃあ俺は時間までブラブラと適当にーーー」
ドンッ
「おわっ」
「きゃっ!」
どっかにコーヒーでも買いに行こうかと歩き出したその瞬間、曲がり角の向こうからやってきた人物と体がぶつかってしまう。俺は少し体がぐらついただけで済んだが、体格の小さい向こう側はそのまま地面に倒れて尻もちをついてしまった。
「す、すまん大丈夫か!」
「あっ、はい……大丈夫です」
俺がぶつかったのは女の子だった。その子はリボンやフリルが多くあしらわれた所謂ロリータ系の衣服に身を包んだ青い瞳の少女だ。そして女の子の横へと視線をずらすと、彼女の持っていたバッグの中身が地面に散乱しているのが視界に映る。
「悪い、すぐ拾うからよ」
「あ、いえ自分でやるのでーーー」
ピトッ
「おっと」
「……!」
とりあえず1番近くに落ちていたメモ帳に手を伸ばすと、向こうも同じ事を考えていたらしく手を伸ばし、俺のゴツゴツとした小指と女の子の柔らかく小さな小指が重なった。
しかしセクハラとか言われたら困るのですぐに手を退かしてメモを拾うと、ソレを女の子の方へと差し出したのだが……
「ほれ、とりあえずコレを……ん?」
「………」ジ-
「ど、どした?」
……なんかめっちゃ見られてるんだけど。まるで人形かっていうくらい微動だにしないんだけどこの子。
「お、おーい。平気か?」
「………」ポ-
……え、時間止まってる? もしかして俺ついに時間停止系の能力身につけちゃった? オイオイこの俺にそんな危ない能力持たせちゃっていいのかよ神様よ。
なんてアホな事を考えながら、固まった女の子は一旦置いておいて散乱したバッグの中身を全て拾い集めて中に戻す。
「ほら、これで全部だろ」
「………」
「お、おい。本当に大丈夫か? どっか強く打ったりしたとか」
「……大丈夫、です」
「そ、そうか? ほら手ぇ貸せ」
ようやく喋ってくれた女の子の声は、風にすらかき消されてしまいそうな程にか細いものだった。とりあえず未だ尻もちをついている少女に手を差し伸べると、ゆっくり手を重ねてくる。
……小せぇ手だ。なんで男女ってだけでこうも手の大きさも硬さも違うんだろうな。
「ほらバッグ」
「ありがとう……ございます」
「悪かったな、ぶつかっちまって。それと本当に平気か? 痛いとことか無いか?」
「だ、大丈夫です、本当に……」
「そうか、じゃあ俺もう行くよ。じゃあな」
俺はその場に立ち続けている女の子に背を向けて、ヒラヒラと手を振りながらクールに去っていく。
……あ、俺今カッコよくね? めちゃくちゃクールじゃね? これ今度素敵なおねえさんとの別れ際に使おう、絶対使おう。 がっはっは!
「見つけた……まゆの、運命の人……」ボソッ
♦︎♦︎♦︎
ふぅ、そろそろ駅に向かえば新幹線の時間にも丁度いいな。とりあえず唯に拉致られた周子を回収せにゃいかんから電話をかけて……って、俺周子の番号知らねーや。仕方ないから唯にかけるか。
プルルルルル....
『あ、プロデューサーちゃん? どしたのー?』
「どしたのー?じゃねぇよ。そろそろ行かなきゃならねぇから拉致った周子返せ」
『あーそれならレッスンルーム来てよ。今周子ちゃんとソコいるからさ! じゃあ待ってるねー!』
「あ、おい!」
こっちの方が駅に近いから、俺が迎えに行くんじゃなくてお前が周子を連れて来いって言おうとしたが切られてしまった。
……ったく、仕方ねぇな。ちゃっちゃと狐娘を回収しに行きますか。
そして歩くこと数十分、事務所に到着してレッスンルームの中へと顔を覗かせると、何故か周子は唯と一緒に軽いダンスを行っていた。
「何やってんだお前?」
「あ、プロデューサーさん。やっほー」
「プロデューサーちゃーん! おっつー☆」
「おっつー☆ じゃねぇよ。何してんだよこれから遠出するってのによ」
俺が文句ありげな態度を見せると、唯と周子は「べつにいいじゃんねー?」「ねー」なんていうやり取りを見せてくる。
この短期間でえらい仲良くなってんなコイツら。これも唯のチートみたいなコミュ力の影響によるものか? まぁこれから一緒の事務所でアイドルやってくんだから仲良くて困る事は無いけどな。
「周子ちゃんに体験ダンスレッスン受けさせてあげてたんだー!」
「体験?」
「まぁちょっとした遊びみたいなもんだけどね! てか周子ちゃんダンス上手でびっくり!」
「いやいや、あたしなんて全然だよー。てか唯ちゃんの方が上手だしねー」
「へへっ、まぁ唯はレッスンしてるからねー!」
ほーん、そんな事してやがったのかコイツら……周子がダンスするってんなら俺もついて行けばよかったな。チェックしたかったし。
「っと、んな事話してる場合じゃねーわ。ほら周子行くぞ、時間ギリギリだ」
「ん? りょーかい。じゃあねー唯ちゃん」
「ばいばーい☆ ってそういえば2人してどこ行くの?」
「「ちょっと、京都行ってくる」」
「……へ?」
♦︎♦︎♦︎
「だー! 周子早くしろ! 新幹線出発しちまうぞ!」
「ちょっ、待ってってばプロデューサーさん!」
駅のホームに出発を予感させるベルが鳴る。あたふたとバッグを抱えて電車に乗り込み、息を切らしながら座席番号を確認して席に座る。
そのすぐ直後に発車した電車の窓から外を覗き込む。そして遠くなっていく東京駅を見つめながら大きく息を吐いた。
「間に合ったな……」
「なんとかね……」
「お前が弁当選びに時間かけるからだろ」
「だってぇ〜」
隣に座る周子は額にかいた汗を拭うと、さっき購入した弁当をいそいそと開封して嬉しそうな表情を浮かべていた。
ちっ……結局めちゃくちゃ高いやつにしやがって。
「あー、それにしても疲れたなぁ。あたしお弁当食べたら寝ちゃいそう」
「バカやろう、そしたら誰が俺を起こすんだよ」
「えー、プロデューサーさんも寝る前提?」
とりあえず向こうに着いたら周子の実家に寄って、親父さんに経緯の説明と今後の話をしなくちゃな。
はぁ……スムーズに事が進むといいんだが。
感想評価等どしどしお願いします。