スターの始めるプロデュース生活 作:焼肉定食
「ふぃ〜、無事着いたな」
「数日振りの地元だ〜」
東京から新幹線に揺られること2時間と少し、俺と周子は目的地である京都の大地に足を踏み入れた。
結局新幹線の中では2人とも寝ちまって降りる時はかなり焦ったけど、無事寝過ごすこともなく降りられて良かったぜ。忘れ物とかも多分……してないはずだ。
「で、今からどこ行く? あたし少しなら案内できるけど」
「おいおい、今日は遊びに来たんじゃないんだぜハニー。お前のダディーとマミーに挨拶しに来たんじゃないか」
「えっ……でも、あたしまだ心の準備が……」
ノリいいなコイツ。まぁ冗談混じりだとは言え遊びに来たんじゃないってのはマジだからな。 一応仕事で来てる訳だし、というか後で貴子さんにバレたりしたら多分殺されるし。
「冗談はさておき、とっととお前の家に行くぞ」
「えっ……い、いきなり家に来たいなんてプロデューサーさんは積極的なんやね……」
「もうそのノリはいいから、早く行くぞ」
「へーい」
赤らめた頬やうるうるした瞳を、何事も無かったかの様に一瞬で引っ込める周子を見て思わず苦笑いを浮かべる。
コイツ、演技も結構いけるか? 意外にそっちの方でも食っていけるんじゃねーかな。
♦︎♦︎♦︎
京都駅からまた電車に揺られること数十分、周子がここでいいと言うのでそれに従い駅のホームに降りる。改札口から外に出ると、いかにも観光地だという雰囲気だった京都駅とは違って落ち着いた街並みが広がっていた。
「こっから近いのか?」
「ううん、本当はもっと近い最寄駅があるよ」
「はぁ!? じゃあ何でここで降りたんだよ」
「まぁまぁ少しくらいいいじゃん。ちょっと散歩していこうよ」
そう言って周子は静かに笑った。気まぐれな奴だとは思っていたけれどまさかここまでとは思わなかった……未だにコイツが何を考えているのかよくわからないことも多い。
それから俺たちは周子の実家を目指して歩き始めた。道中では周子による適当な京都解説を聞きながらのんびりとした時間を過ごす。そして歩き始めてから数十分した頃、周子は話題を一転させて疑問を投げかけてきた。
「そういえばさ」
「何だ? 俺のスリーサイズでも聞きたいのか?」
「それは後で聞くとしてさ、今は別のこと聞きたいんだけど」
「聞くのかよ」
コレを言うと大抵の奴からは興味ないと言われるのがお決まりなんだが、こういう返しのパターンをされるのは初めてだな。まさか俺の体目当てなのか? いやん、周子ちゃんのえっち。
「何か失礼なこと考えてる気がする」
「気のせいだろ」
「……まぁいいや。そんでさ、一個気になってたんだけど」
「スターってなんなの?」
「………」
お、おぉ……聞きたいことってその事かよ。ていうかなんで周子がその事知ってるんだよ。俺まだコイツに名前言ってないんだが?
「さっき事務所でさ、貴子さん? って人にプロデューサーさんそう呼ばれてたでしょ?」
「あの野郎……」
……ま、まぁいずれはバレる事なんだけどさ。そうだとしてもやっぱりタイミングとかは自分で計りたいっていうかさぁ……ほら、俺にも心の準備とか必要だし。
「もしかしてあだ名とか?」
「……名前だよ」
「え?」
「だから、俺の名前なんだよ。スターは」
「……ふっ、そ、そうなんや」
「てめぇぇぇぇ!! 今完全にちょっと笑っただろ!!!」
だろうな! お前は絶対に笑うと思ってたよ! 絶対に揶揄ってくるタイプの人間だもんなお前はよぉ!! 俺分かってたし!!
「ごめんって、ちょっと驚いてさ」
「5000円で許す」
「えぇ、お金取るんかーい……でもさぁ、もしあたしの名前が塩見ラブリーキュートちゃんとかだったらプロデューサーさんだって笑うでしょ?」
「爆笑するな」
「でしょ? だから仕方ないんだよ」
た、確かに一理ある様な……って、何か上手いこと言いくるめられてないか? まぁ別にいいか。下手に気を遣ってるのが丸見えなよりはコイツみたいに素直に笑ってくる方がマシだ。
「じゃあ今度からスターさんって呼んだ方がいい?」ニヤニヤ
「はっ倒すぞクソガキ。そんな事したら俺もお前のことしゅーちゃん♡とか呼ぶぞ」
「別にいいけど」
「いいのかよ」
いや、いいんかーい。っと……いかんいかん、つい周子みてぇな喋り方になっちまった。
と、まぁそんなしょうもない会話をしながら適当に歩いていると、目の前に立派な門構えの老舗和菓子屋が現れた。俺はそのままスルーしようとしたのだが、周子がその家をジッと見つめているのに気がついて足を止める。
「え、まさかお前の家コレ!?」
「ん? そうだけど」
「まじ?」
「まじまじ」
め、めちゃくちゃ立派な家じゃねーか! 実家の手伝いとか何とか言ってたから何かしらの店だってのは分かってたけど、それにしてもこんな創業100周年!みたいな貫禄のある和菓子屋だとは思わないじゃんかよ!
「じゃ、行こっか」
「ちょっ、ちょっと待て。なんか緊張してきた」
「えー、今さら何言ってんのさー」
「だってこんな和菓子の名家みたいな感じだとは思わないだろ。めちゃくちゃ厳格な職人のお父さんとか出てきそうじゃねーか」
「まぁ、確かにおとん結構厳しい人だけど大丈夫だって。ほら行くよー」
ちょっ! ま、まだ心の準備ができてないのに! 周子のやつめ、自分にとっては家に帰るだけだろうけど俺からすれば今からダンジョンに挑むくらいの緊張感があるんだぞ。
とりあえず最初に何を言うべきだ…? いきなり娘が俺みたいな見ず知らずの男を連れて帰ってきたら驚くよな? ま、まずは落ち着いて名刺を出して俺と周子の関係性を説明して……
「ただいまー。誰かいるー?」
「実は自分、こういった者でして……周子さんをウチのアイドルとして……」ブツブツ
「ほらプロデューサーさん、いつまで緊張してんのさ」
「ま、待て! 話しかけるな! 何を言うつもりだったのか忘れちゃうだろ!」
未だ家の中に入っていくのを渋る俺の手を引いて、周子は数日振りに帰る実家の扉を開いた。家の中に入ると、棚の上やショーケースの中に職人が作ったであろうきめ細やかな和菓子がいくつも並んでいた。
そしてショーケースの裏側に立っている着物の女性がこちらに視線を向ける。よく見ると目元の辺りが周子にそっくりな辺り、アレが周子の母ちゃんなんだろう。
「どうもおいでやす……って、周子やないの」
「おかんただいま〜」
「はいおかえり……あら、そちらのお方は?」
「あぁ、うん。ほらプロデューサーさん説明して」
「ちょ、ちょっと待て! まだイメトレが済んでいないんだが!」
ちょっ、背中押すなって! あー、周子のやつが急かすから頭の中真っ白になっちまったじゃねーか! ほら、周子の母ちゃんめっちゃ俺のこと見てるし……は、早く何か言わなきゃいけないんだけど、言葉が出てこねぇ…!
「あの……あなたは?」
「ほらプロデューサーさんしっかりしてよ」
「えーっと、そのですね、実は俺は東京にあるアイドル事務所の者でして……本日は周子さんをスカウトさせていただいた報告をご両親にするためにーーー」
俺は即興で頭の中で言葉を紡いでいく。ちゃんと説明できているか分からないが、とにかく目の前で俺の話を真剣な顔で聞いている周子の母ちゃんに言葉をぶつける。
「と、いう訳なんです」
「……なるほどなぁ。大体の話の流れは掴めたわ」
「そうですか。でしたらーーー」
「でもなぁ、プロデューサーはん。それじゃあアカンわ」
「えっ?」
いきなりそんな事を言い出した周子の母ちゃんを前にして俺は間抜けな声を出す。発言の意図が読めていないのは隣にいる周子も同じな様で首を傾げている。
そして周子の母ちゃんはニヤリといたずらな笑みを浮かべて言葉を続けた。その表情は周子が揶揄う時にする表情とよく似ていて2人が親子なんだという事を再認識させられる。
「要はウチの大事な1人娘を貰いに来たんやろ? せやったら1人の男として言わなあかんセリフがあるんとちゃうか?」
「せ、セリフっすか?」
「はぁ……おかん、変なこと考えてるやろ」
「そんなことないわ。私はプロデューサーはんの誠意を見せてほしいだけや〜♪」
「プロデューサーさん、無視してええよ」
何故か楽しそうにはしゃぐ母と、そんな母を若干呆れた様な目つきで見る娘。周子にお前もいたずらしてる時はこんな感じだぞと言いたくなるが、まぁ親がはしゃいでるとこを見るのは何とも言えない気持ちになるのは少し分かる。
「ほなプロデューサーはん、私の言う通りに言葉を続けてな〜」
「は、はぁ」
まぁいいか。何か周子の母ちゃん楽しそうだし、ここは悪ノリに付き合ってやることにしよう。
♦︎♦︎♦︎
───間違えるはずもない。耳に馴染んだ娘の声が店先の方から聞こえてくる。それとほぼ同時に、何百何千何万回と繰り返し作ってきた和菓子を作る手を止めて厨房から出ていく。
娘が家に戻ってくるのは数日振りだ。しかし年頃の娘らしく家出なんて事をした訳ではない。では何故娘は昨晩家に戻らなかったのかと言えば、他ならぬ自分が追い出したのだ。
周子のヤツ、高校を卒業したと言うのに大学にも行かず職にも就かず、自堕落な生活を送っていたので、思わず一人前になるまで家には戻ってくるなと追い出してしまったが……少しやりすぎてしまっただろうか。
だけどあのぐうたら娘も、流石に懲りて自分の人生を真剣に考えるつもりになっただろう。もし、軽い考えではなく真剣に家業の手伝いをしたいというのなら、手助けしてやるのもやぶさかでは無いか。
フッ……親子で和菓子作りをするのも悪くはないな。
「周子、戻ったか。どうや? ちっとは真面目に今後の人生の事を考える気にーーー」
「娘さんを俺にください!!!」
「………は?」
少し早足で店先へ戻ると、そこにいたのは最愛の妻に愛娘に、もう1人見ず知らずの男がいた。それも聞き捨てならない言葉を大声で叫んでいたので、俺は我を忘れて掴み掛かった。
「誰やお前はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
♦︎♦︎♦︎
「ほなプロデューサーはん、私の言う通りに言葉を続けてな〜」
「は、はぁ」
「プロデューサーさん、相手しなくていいって。どうせ変なイタズラ思いついただけなんだからさ」
そ、そうは言ってもなぁ。俺だって遊ばれてるのは分かってるけどこの流れで断るのはちょっと難易度高いぞ。それに周子の母ちゃんの機嫌を悪くしてアイドルをやるのに難色を示されたりでもしたら困る。
「で、俺は何て言えばいいんですか?」
「そら男が女を貰いに来た時のセリフなんて一つやろ〜」
「と言うと?」
「娘さんをボクにください! やろ?」
「えぇ……」
「いやおかん、それはちゃうやろ」
周子の言う通り、それは確実に今言うセリフではないだろ。周子の母ちゃん完全にこの状況を面白がってるな……
「私な? いつか娘が連れてきはった男の人にこれを言われるのが楽しみだったんよ」
「はぁ……それなら尚更楽しみは本番の時に取っておいた方がいいんじゃないっすか?」
「んもぅ! 男がうじうじしとったらあかんよプロデューサーはん!」
「何で俺ちょっと怒られてるんすか」
理不尽だ。周子の母ちゃんが綺麗な女性でなかったら普通にぶん殴りたくなってるくらい理不尽だぞこりゃ。
そんな事を考えていると、周子が俺の服の裾を引っ張って耳打ちしてくる。
「プロデューサーさん、こうなったらおかんの悪ノリは止められないからさ、ちょっとだけ付き合ってあげてよ。じゃないと話進まないし」
「はぁ……しゃーねーなぁ」
どうやら言う通りにしないと本当に話が進まなさそうだからな。俺は周子の母ちゃんの前に立って一度咳払いをすると、向こうは楽しそうにニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。
「じゃあいきますよ」
「楽しみやなぁ〜、プロデューサーはんの愛の告白」
「いや、言わされてるだけですからね?」
「そんなんええからはよしてぇや〜」
「はぁ……」
俺は隣にいる周子に一度視線を向けると目が合うが、すぐに視線を逸らされてしまう。そりゃあそうだ、こんな訳の分からない状況気まずいだけだろうこらな。早く済ませて話を元に戻そう。
そして俺は勢いよく息を吸うと、店内中に響くような声で指示されたセリフを叫ぶ。
「娘さんを俺にください!!!」
「あらあらまぁまぁ〜」
「何やねんこの茶番は……」
その発言に100%同意するぞ、周子。俺は一体何を言わされているんだろう。早く周子のアイドル活動に関する話をしたいっていうのに。
ドドドドドド
「ん?」
その時だった。店の奥にある扉が開くと、割烹着の様な物を見に纏った風格のあるおっさんが勢いよく俺の方へと走ってきているのが視界に映った。おっさんはそのまま俺のもとへと駆け寄ると、思いきり胸ぐらを掴んでぐわんぐわんと揺らし始める。
「誰やお前はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「なんだこのおっさん!? ぐぇっ!」
ちょっ! めっちゃ揺さぶられてるぅぅ! 何か知らないけどめっちゃ怒ってんだけどこのおっさん! てか服が破けりゅぅぅぅぅ!!!
「おとん!?」
「は!? じゃあこの人が!?」
「ふふっ、なんやおもろいことになってきたなぁ〜」
「わ、笑ってないで止めてくださいよ!!」
おとんって事はこの人が周子の親父さんだよな? ってことは向こうからすれば俺はいきなり現れた娘を欲しがる怪しい男ってことだから……それでこの人怒ってんのかよ!!
「ちょっ! 話を聞いてください周子のお父さん!」
「どこの馬の骨とも知らない小僧に、お義父さんと呼ばれる筋合いはないわぁぁ!!!!」
「ぐぇー! 話が通じねぇー!!!」
胸ぐらを掴まれて思いきり揺さぶられる俺、呆れた様子の娘、そして楽しそうに笑う母と対照的に激昂する父。
カオスだ……誰か俺を助けてください。
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