スターの始めるプロデュース生活   作:焼肉定食

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かわいい子には旅をさせよ?

 

 

 

 

「やらん! 貴様のような軽薄そうな若造に周子はやらん!」

「だーかーらー! それは誤解なんですってば!」

「何が誤解や!ハッキリと聞こえとったわ! 周子をくれという貴様の声がなぁ!」

 

 

 現在、俺はいきなり現れては俺の胸ぐらを掴んできたおっさんこと周子の親父さんと激しい口論を繰り広げている。

 いや、もはや口論にすらなっていない。娘の事で熱くなって会話が成立しなくなった親父さんはもう実質バーサーカーだ。

 

 くそ…! なんでわざわざ京都まで来てバーサーカーの相手をしなきゃならねぇんだよ! それもこれも全部あっちでニヤニヤと笑いながら俺たちを眺めてる周子の母ちゃんのせいだ!

 

 

「聞いてるんか若造! 何度も言うが周子はお前にはやらんぞ! 」

「だから何度言えば分かるんだよ! さっきのは向こうでニヤニヤと悪い笑顔を浮かべてるおたくの奥さんに言わされたんですって!」

「き、貴様ッ! この期に及んで言い訳をするんか! やはりその程度の覚悟やったっちゅー訳や! 男らしさの欠片もない貴様にやはり周子はやれん!」

「だーっ! マジで話通じねぇー!! おい周子見てないで助けてくれ!」

 

 

 俺は大声で周子に助けを求める。周子は面倒くさいから関わりたくないとでも言いたげに、店内にある椅子に座りながらスマホを弄っていた。しかし俺の声を聞いて一度だけ大きく息を吐くと、こっちへ向かってゆっくり歩みを進める。

 

 

「はぁ……まぁまぁおとん、ちょっと落ち着いてよ」

「周子! 大丈夫か!? この男に何かされへんかったか!?」

「何も無かったって。むしろプロデューサーさんは命の恩人というか、野宿しようとしてたあたしを家に泊めてくれたし」

「おいバカ!」

「家に……泊めた……?」

 

 

 俺が周子を制止した時には遅かった。親父さんはプルプルと小刻みに震えながら俯き、その背後からは目に見える程の憤怒のオーラが湧き上がってくる。そして殺意に満ちた瞳を浮かべながら俺との距離をほぼ0距離まで詰めてきた。

 

 

「貴様ァァァァァァァ!!!!」

「ま、待ってくれ! 確かに家には泊めたが手なんて出してねぇって!」

「貴様それは周子に魅力が無いということかぁぁぁぁ!!」

「ぐぇーっ! めんどくせぇぇー!!」

 

 

 ダメだこの親バカバーサーカー手がつけられねぇ!! じゃあ今のなんて答えるのが正解だったんだよ!? この世の中に解るやつ誰もいねぇよ!!

 

 

「周子! 本当に何も無かったのか!?」

「だ、だから何も無かったってさっきから言ってるじゃ………あ」

「あ?」

 

 

 おい、やめろよ周子? 余計なこと言うんじゃねぇぞ…? 何も無かっただろ? 実際、俺たち一緒に飯食っただけだろ…? 頼むから余計なこと言わないでくれよ…?

 

 

 

 

「……何も、無かった……よ」フイッ

 

 

 周子は頬を薄らと紅く染め、口元を手で隠しながら、肩を掴んで物凄い形相で見つめてくる親父さんから視線を逸らした。まるで恥ずかしい隠し事があるかのように……

 

 

 

 

「〜〜〜ッッ!!! き、貴様ァァァァァァァ!!!」

「周子ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

(……アカン、風呂場でプロデューサーさんの裸見たの思い出してもうた……)

 

 

 あーもうめちゃくちゃだよ。 誰でもいいからこの場を収めてくれよぉぉぉ!!!

 

 

 

「はい、お父はん。その辺にしときましょか」

「待て彩子! 今この不届きモンに鉄槌を…!」

「これ以上店ン中で暴れたら、外の人がビックリしてお客はんだーれも来てくれなくなってまうよ?」

「せ、せやけど……」

「お父はん?」ニコッ

「……おぅ」

 

 

 おぉ……強いな周子の母ちゃん。あれだけ手のつけられなかったバーサーカーを穏やかな笑顔で鎮めちまいやがった。てかそんな簡単に止められるんなら早く助けてくれや。

 

 

「さ、それじゃあ家の中でゆっくりとお話し聞かせてもらいましょか」

「はぁ……話する前から疲れた」

「ふふっ、災難やったなぁ。プロデューサーはん」

「いやアンタのせいですからね! 親父さんがあんなに暴れたのは!」

「あら、せやったかなぁ……ふふっ」

 

 

 俺の言葉を聞いた周子の母ちゃんは、どこかおとぼけた様な表情でウインクを決めると、柔らかく微笑みながら親父さんを連れて家の中へと向かっていった。

 

 ……悔しいがちょっとだけ可愛らしかったのは黙っておこう。なんというか、親狐に化かされた様な気分だぜ。

 

 

「こーら、いくら熟女好きだからってあたしのおかんに手出したりしたらだめだよ?」

「うっせぇ、出す訳ねーだろ。つか俺は熟女が好きな訳じゃねぇよ。年上が好きなだけだ……って、俺お前に年上好きなこと言ったっけ?」

「見てりゃなんとなくわかるよ」

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

「人妻はやめときなよ?」

「だから手ぇ出さねぇつってんだろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ほな、改めまして。周子の母の、塩見彩子(あやこ)と申します。よろしゅうお願いします」

「……」

「ほら、お父はん」

「……周子の父の、塩見正雄(まさお)や」

 

 

 店と隣接している塩見家へと入った俺は、厳かな雰囲気のある畳の部屋に招かれた。部屋の真ん中に設置された大きな机を挟んで、俺と周子はご両親と対面する。

 

 

「お母様には先ほどご紹介させていただきましたが……八坂と申します。本日は周子さんを弊社へとスカウトさせていただいた件でご挨拶にうかがいました」

「へぇ〜、プロデューサーさんそんな真面目な雰囲気で話せるんだ」

「……うっせぇ、こちとら社会人だぞ」ボソッ

「いや〜、普段の態度見てたらビックリしちゃってさぁ」

「お前なぁ……」

 

 

 舐めやがって、このメスガキが。今に見てろよ……俺がガッポガッポ仕事持ってきて絶対に見返してやるからよ。

 

 

「ふふっ……仲、よろしおすなぁ。まるで兄妹……いや、かっぷる? みたいやねぇ」

「……小僧」ギロッ

「あの、お母様。あまり隣に座ってるバーサーカーを刺激しないでもらえますかね。今にでも飛びかかってきそうなので」

「心配せんでええ……今はまだ殺さんわ。今はまだ、な……」

 

 

 だから怖ぇって。こんなんが目の前に座ってちゃおちおち話し合いもできねぇよ……般若みたいな顔してるし。今にでも目からビーム打ってきそうだよ? いつ殺戮マシーンと化しても不思議じゃねぇよ?

 

 ……まぁとにかく、あのバーサーカーがまた暴れ出す前にとっとと説明をしちまおう。

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「……と、いう訳なんです。なので、今日来たのは決して婚前前のご両親への挨拶などではないのでそこのところご理解をいただきたいです。特にお父様」

「すかうと? 何や、それならそうと早く言えや」

「えぇ……」

 

 

 ふざけんなよオッサン。アンタがまるで話を聞かないからあんな事になったんじゃねーか!この親バカバーサーカーがよぉ!

 

 俺は理不尽に対する怒りで今にでも爆発しそうな内心を、必死に押さえ込みながらなるべく冷静に努めて話を続ける。

 

 

「まぁ、これで分かってもらえたと思いますけど俺は周子さんをアイドルにしたいと考えています。周子さんの方も既にやる気になってくれているので、後はご両親の了承を得られればという感じなんですけど……」

「私は周子がやる言うてるならかまへんけど……」チラッ

 

 

 周子の母ちゃんもとい彩子さんは、薄目でちらりと横にいる正雄さんを見る。その親父さんはと言うと俺の話を聞いてからずっと腕を組みながら目を閉じている。

 

 

「……あかんな」

「……理由を聞いても?」

「せやなぁ……まぁ言いたいことは山ほどあるが」

 

 

 まぁ、一筋縄じゃいかないことは分かってたことだ。ここで簡単に首を縦に振る人ならさっきみたいに暴れ散らかしたりはしないだろう。それに親からすれば、やっぱり自分の子どもが芸能界に入るとなれば心配事が出てくるのは当然のことだしな。

 

 ここからが(プロデューサー)の腕の見せ所って訳か。どうにかして正雄さんを納得させなければ……とにかく冷静に、大人の対応を心掛けてーーー

 

 

「……アイドルって、アレやろ?」

「はい?」

「何やソレ、もうほぼ足全部見えとるやないかい!みたいな短いスカートの衣装を履いたり、水着になって男の劣情を煽る様なポーズを取った写真が雑誌の表紙になって、青少年から欲望に満ちた視線を向けられるアレやろ?」

「……ちょっと偏見が入ってるような気がしますけど」

 

 

 

 

 

 

 

「そんでアレやろ! 売れなくなったらもっと過激な衣装着るようになって、最終的にはアダルトなビデオに出るようになって! 都会の悪い男に捕まって、子どもをこさえて!ほんでその男にも捨てられて! 心身共に疲れ果てながらも金を稼ぐためにスナックのママとか始めるアレやろ!! 俺は父親として周子にそんな人生を歩ませる訳にはいかないんやぁぁ!!!」

「どんな偏見抱いてんだよこのエロジジィィ!!!!」

 

 

 オイ! なんなんだよこのおっさん! 急に早口で何か語り始めたかと思ったらとんでもないこと言い始めたぞ!?

 しかもやけに具体的だし! もしかして経験談なのか!? アンタの推してたアイドルがそうなったエピソードでもあんのか!?

 

 

「え、エロジジイやと!? 小僧! 貴様なんてことを言うんや!」

「うるせぇ! アンタの下卑た妄想を長々と聞かされたこっちの身にもなってみろ!」

「妄想やないわ! そうなる可能性がある道に周子を進めさせる訳にはいかんっちゅー話をしとるんや!」

「アイドルとして成功しなかったからAVに出るっていう発想が安直なんだよ! つーかそもそも俺がそんな事させねーわ!」

 

 

 ギャ-! ギャ-! ギャ-!

 

 

「ふふっ、あんな楽しそうなお父はん見るのは久しぶりやなぁ」

「……言うほど楽しそうかな?」

 

 

 埒が明かねぇ…! 果たして俺にこの親バカバーサーカーを説得することなんてできるのか…?

 

 いや、やらなくちゃならねぇ…! 俺は周子(コイツ)のプロデューサーなんだ、ならやるしかねぇだろ…!

 

 

「はぁ……はぁ……確かに、アンタの我が子が大事だっていう気持ちは……分かるよ」

「ぜぇ……ぜぇ……黙れ小僧! 子も持たぬ若造に俺の気持ちなんて分からんやろ…!」

 

 

 俺たちは互いに息を切らしながら、途切れ途切れに言葉を紡いでいく。ここまで来たら小細工も何も無い、真っ向勝負あるのみだ。

 

 

「……確かにアンタの言う通り、中には夢敗れていくアイドルもいるだろうよ」

「せやから! 周子を貴様に任せる訳にはいかんのーーー」

「だけど!!」

 

 

 

 

「周子は絶対にトップアイドルになれる!」

 

 

 辺りがしゅんと静まりかえる。俺と正雄さんはもちろん、成り行きを見守っていた彩子さんと周子もジッと俺のことを見ている。

 

 

「……絶対やと? 何を根拠に…!」

「俺の直感だ」

「か、勘やと!? そんなモン信じて周子を預けろっちゅうんか!」

「逆に聞くけどよ、アンタは自分の娘がアイドルの世界で通用する訳ないって思ってんのか?」

「そ、そんな訳……ないわ…!」

 

 

 ちょっと意地の悪い言い方だったか? だとしても、俺は何とかしてここでこの人を説得して周子を東京に連れて行かなきゃならねぇんだ。

 

 

「確かに、アイドルやるからには周りには見た目のいいライバルが沢山立ち塞がるだろうよ。でも俺は周子が負けるとは思わねぇ」

「………」

「出会い方はちょっと特殊だったかもしれねぇけど、正直一目見た時からコイツの魅力に呑まれてたんだよ。所謂一目惚れってやつだな……もしくはティンと来たとでも言うべきかもしれねぇけど」

「……本当に、そう思っとるんか…? アンタは、周子が本当にアイドルの世界でトップ取れると本当に思っとるんか…?」

 

 

 正雄さんが少し震えた声で俺に問いかける。俺はそれに対してしっかりと目を見ながら自分の考えを告げる。

 

 

「あぁ、俺は周子なら絶対に輝けるって信じてる。もちろん、そのために俺も事務所も全力で力を貸す」

「……」

「だから、正雄さん。俺に周子を……娘さんを預けてくれませんか」

 

 

 背筋を伸ばしたまま、腰を曲げる。生まれてから1番綺麗だと自信を持って言えるくらいのお辞儀を披露する。

 しかし数秒経っても、正雄さんは何も言わない。俺も返事を聞く前に頭を上げる訳にもいかずにこう着状態が続いたが、それを破ったのは意外にも彩子さんだった。

 

 

「周子、あんた……本当にあいどるやりたいんよね?」

「えっ……うん」

「そか、ならええわ」

 

 

 彩子さんはそれだけを聞くと、どこか満足そうに微笑んだ。そしてゆっくりと正雄さんの方へと歩み寄り、優しく肩を叩いて諭す様な声のトーンで語りかける。

 

 

「お父はん、もうええんやないの?」

「彩子……」

「思えば、周子が自分からコレやりたい〜って言うてくんのなんて初めてやないの」

「……」

 

 

「お前、どんだけ自堕落な人生送ってきたんだよ」

「うっさい、今いい話の流れだったのに」

 

 

 俺が周子に耳打ちをすると、肘で脇腹を小突かれる。地味に痛い。

 そして小突かれた脇腹を手で押さえながら、周子の両親を見つめる。

 

 

「さっきのプロデューサーはんの言葉、嘘を言うてる様には見えんかったわ」

「……あぁ」

「せやったら、私らは周子(この子)のこと信じて応援してあげてもええんやないやろか?」

「……………せやな」

 

 

 しばらく溜めた後に、正雄さんは大きく息を吐いて観念したかの様に小さく呟いた。そして俺の方へと向き直ると、鋭い視線が俺の顔を捉える。

 

 

「小僧、着いてきい」

「は?」

「ええから、こっちや」

 

 

 な、なんだよ一体…?

 

 

 とりあえず助けを求めて周子のことを見るが、向こうも何も分かっていないようで首を傾げている。

 そしてそのまま俺たちは正雄さんの後に着いていくと、子どもが数人元気に走り回れるほどに立派な裏庭へと出た。

 

 

「……立派な庭っすね」

「そんな事はどうでもええわ。それよりさっきの話、二言は無いやろうな?」

「はっ、当たり前じゃないっすか」

「そうか、ほな……周子のこと、アンタにお願いすることにするわ」

 

 

 やったぜ。 そして渾身のドヤ顔で周子のことを見ると、少しだけ呆れた様に笑っていた。これでとりあえずは一件落着だけど、何でわざわざ庭になんか移動したんだろうな。

 

 

「任せてください。周子さんは必ず俺がトップアイドルにーーー」

「ただし」

「ん?」

 

 

 俺が話を締めにかかったその時、正雄さんはどこからともなく2本の竹刀を取り出す。そして一本を自分の手に、もう一本を俺の足元へと放り投げてきた。

 

 ……嫌な予感がする。

 

 

「ただし」

「た、ただし…?」

「俺から一本とることができたらやけどなぁぁぁぁ!!!」

「なんでそうなるんだよ!!!」

 

 

 いや、マジで何でそうなるんだよ!? 今綺麗に話纏まってただろ!? てかマジで斬りかかってきたぞこのおっさん! やっぱヤベェやつじゃねぇか!

 

 

「きぇぇぇぇ!!!」

「うぉ! ちょっ、俺剣道なんてやったことないんだが!?」

「貴様の覚悟はその程度なんか! 漢を見せてみぃ!」

「言ってること無茶苦茶だぞ! あぶねぇっ! 今完全に顔狙っただろおっさん!」

 

 

 面、胴、そして小手。正雄さんは流麗な剣捌きで俺のことを本気で狙ってくる。恐らく相当の達人だろうことが素人の俺でも分かる。俺は握ったこともない竹刀を握り締め、反射神経を頼りにただひたすら剣を受けて躱すが、やられる(殺される)のは時間の問題だろう。

 

 

 周子ーーっ!! 見てないで助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「ちょっ! マジで! あぶねぇって!」

「どうした! 守ってるだけか小僧! そんな姿勢じゃトップは狙えへんぞ!」

「それとこれとは別の話だろ! くっ…!」

 

 

 いきなりの展開に、あたしは間抜け面で口をぽかーっと開けて2人を見つめるしかできない。

 だって普通驚くでしょ。やっと話が纏まったと思ったらいきなりおとんが竹刀振り回し始めたんやから。

 

 

「……何でこんな事なっとんねん」ハァ

「ふふっ、きっとお父はんなりの照れ隠しやね」

「いや、照れ隠し物騒すぎやろ」

「きっと、お父はんもプロデューサーはんの熱意にあてられたんやろうなぁ……でも、それを素直に認めるのは恥ずかしゅうて敵わんから、あんな事してるんやと思うわ」

「えぇ……」

 

 

 何やねんソレ、おとんのツンデレとか誰得やねん。最初はプロデューサーさんにかなり強く当たってたから、今さら掌返すのが恥ずかしいってことなんだろうけど……だからっていきなり竹刀はないやろ。

 

 

「お父はんもプロデューサーはんのこと気に入ったみたいやなぁ」

「そうは見えんけどなぁ……」

 

 

 今だってほら、本気でプロデューサーさんのこと斬ろうとしてるし……って、プロデューサーさん避けるん上手いな。

 

 

「ほっ! よっ! はははっ! 段々と見えてきたぜ、アンタの剣!」

「ぬぅ…! 小癪な!」

 

 

 一撃二撃、縦に横にと鋭い振りを繰り返すおとんの攻撃を、プロデューサーさんは軽い身のこなしで交わしていく。それも動きやすい格好をしているおとんと違って、プロデューサーさんはスーツ姿でだ。何モンやねんあの人。

 

 

「ははっ、まさか昔やんちゃしてた経験がここで活きるとはなぁ…! こう見えて実戦経験は豊富なん……うぉ!」

「試合の最中に何をペラペラと喋ってるんや!」

「ぐっ……このっ…! まだ俺が喋ってるでしょうがぁぁぁぁ!!」

「ぬっ…! はっはー! 今のは良い太刀筋やぞ小僧!」

 

 

 

「……なんか、仲良くなってるやん」

「ふふっ、だから言うたやろ」

 

 

 えぇ……男の人って単純やなぁ。まぁ、そういうとこは羨ましいけど。

 

 

「……周子」

「ん?なーに?」

 

 

 2人の斬り合いを見るのが少し楽しくなってきたその時、おかんが一言だけあたしの名前を呼んでジッと見つめてくる。こういう時は何か真面目な話をするって昔から決まっている。

 

 

「あんた、本気でやるんやろね? 軽い気持ちでやる言うてるなら、絶対に大成はせぇへんで」

「アイドルのこと? うーん、本気……かは正直分かんないよ。小さい頃からアイドルになりたいと思ってた訳じゃないし、今回のことも正直成り行きなとこはあるし」

「……」

 

 

 そりゃそうだ、あたしだって家を追い出されてからたった数日でこんな展開になるだなんて1ミリも思ってなかった。ていうか、もし思ってたとしたらもはやエスパーって感じ。

 

 と、そんなあたしの返事が気に食わなかったのか、おかんは鋭い視線であたしを見ながら言葉を続けようとする。

 

 

「周子」

「……でもさ」

「……?」

 

 

「あたしなりに頑張ってはみるよ。というか、あんなに期待されたんじゃ……答えない訳にはいかないしね」

 

 

 まさかあんな熱烈なラブコールを受けるだなんて思ってもなかった。何やねん一目惚れって……そういう意味やないのは分かってるけど、こっちが恥ずかしくてたまらない様なことをよくもまぁあんなに堂々と言えたもんだよあの人は。

 おとんがさっき、あたしが悪い男に捕まって〜みたいな話してたけど、あながち間違いでもないかもな〜なんて……あはは。

 

 

 

「そか。ほな……きばりや、周子」

「……うん」

 

 

 ま、あたしなりに頑張ってみますかね。上手くいけばお仕事でお金も沢山貰えるだろうし、目指せ億万長者〜! なんてね。

 

 

「でも、あんなに小さかった周子が、まさかあいどるになるやなんてなぁ」

「いきなり何言ってんのさ」

「それに、東京からいけめんの男の人連れて家に帰ってくるやなんて」フフッ

「ちょっ! だからそういうんじゃないって何回も言ってるやん!」

「せや! あいどる引退したら今度は仕事上のパートナーやなくて、人生のパートナーとして挨拶しにきてくれてもええんやで?」ニヤニヤ

「はぁ!?」

 

 

 こ、このっ…! おかんめっちゃニヤニヤしとるし! 完全に遊ばれてるわ…! あれ、でもこれ本気で言ってる? いや、やっぱ揶揄ってるだけの様な……あーーっ!もう! どっちか分かんなくなってきたー!! この親狐め…!

 

 

「だから、プロデューサーさんはそういうんじゃないって」

「何が不満なんよー。あんたのこともよう見てくれてはるし、背も高くてシュッとしてて……顔もいけめんやろ?」

「おかん、結構面食いだよね。何でおとんと結婚したん?」

「あら、お父はんだって昔は結構……」

 

 

 

「おーい周子、そろそろ帰るぞ。新幹線のチケットもあるしな」

 

 

 聞きたくもないおかんの昔話が始まろうとしたその時、プロデューサーさんが肩に竹刀を担ぎ、額の汗を拭いながらこっちへ向かってきた。

 

 

「ナイスタイミング、プロデューサーさん」

「あん?」

「いや、こっちの話。ていうかもう勝負はいいの?」

「ん」

 

 

 プロデューサーさんが竹刀で指した方向には、庭に大の字で寝そべって苦しそうに荒い呼吸を繰り返すおとんがいた。

 

 

「親父さんの体力切れだ」

「えぇ……なんかつまんない幕引きだね」

「ふっ、俺くらいになると戦わずして勝つからな。平和主義というか、強者の余裕というか」

「ははっ、何言ってんのさ」

 

 

 プロデューサーさんは偶に何言ってんのかよく分からない事もあるし、口悪いし、街中で綺麗なお姉さんがいるとジーッと見つめてる変態さんでもあるけれど、基本的には良い人だしノリも合う。

 

 ……まぁ、この人とだったら上手くやっていけるかもな〜、なんてね。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「じゃあ、俺たちはこれで失礼します」

「おかん、おとん、またねー」

 

 

 正雄さんとの不毛な争いを終えた俺は、荷物をまとめて周子と共に塩見家の玄関に立っている。正面には俺たちを見送ってくれると、2人が正反対の表情をして立っていた。

 

 

「周子、ちゃんとやるんやで? プロデューサーはん、だらしない娘やけどよろしゅうお願いします」

「はい、もちろんです」

「ほらお父はんも挨拶して」

 

 

 さっきからずっと仏頂面をしていた正雄さんだっが、彩子さんに促されるがままに俺たちの目の前に立ち、渋々と言った様子で言葉を放ち始めた。

 

 

「周子、やると決めたからには……しっかりな」

「うん」

「次に小僧……いや、プロデューサー。次にお前がここに来る時は、周子がトップアイドルになったいう報告をする時や。ソレ以外は許さへんからな」

「……はい!」

 

 

 もちろん、こっちだってそのつもりだ。やるからにはやってやるさ。

 

 

 

「あら〜、でもそれやと……もしもの報告をする時に困りはるんちゃうかなぁ?」ニマリ

「なんやもしもの時て」

 

 

「プロデューサーさん、逃げる準備するよ」

「あぁ、そうだな。俺も段々とお前の母ちゃんのこと分かってきたよ。アレは絶対に良くないことをする時の顔だ」

 

 

 俺たちがカバンを持ち直したり、忘れ物が無いかとチェックをしているその隙に、彩子さんは少し背伸びをして正雄さんの耳元で何かを囁いた。

 

 

赤ちゃん、できてもうた♡とかの報告に来るかもしれへんやろ?」

「……な、なんやとぉぉぉ!!!!」

「行くぞ周子!」

「うん!」

 

 

「はっ! ちょっ、待てや周子! 小僧!」

「悪いが待たねぇ! それじゃあお二人さん、お元気でー!」

「じゃあねー! おとん、おかんー!」

 

 

 バーサーカーがバーサーク状態になる前に、俺と周子は小走りで玄関の外へと駆けていく。正雄さんは店の前までは追ってきたが、振り返るとそれ以上は追ってきていなかった。

 

 

「……頑張りや、周子」

「楽しみにしとるで、あんたが立派なあいどるになるんをなぁ」

 

 

 そう呟いた2人の声が耳に届くことは無かったが、俺は何となく言いたいことがわかった。あの2人も、早速塩見周子のファン1号2号だな。

 

 

「よっしゃ! 東京帰んぞ周子!」

「おーー!」

 

 

 何はともあれ、これでウチの事務所も2人目のアイドルだ! これから駆け上がっていくぜ、トップアイドルへの道をなぁ!

 

 

 

 

 

 

 





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