スターの始めるプロデュース生活   作:焼肉定食

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心頭滅脚すれば火もまた涼し?

 

 

 

 ウチの事務所もめでたく所属アイドルが2人に増えた。唯と周子は、まだまだ仕事がバンバンと入ってきたり、即ライブをできるような立場ではないが、来たるその時に向けてレッスンに精を出していた。

 

 

 ───のだが、、、

 

 

「あっつぅ〜いよぉ〜」

「本当にねぇ〜」

 

 

 レッスン終わりの新米アイドル2人は、事務所内のソファーの上で、溶けたスライムの様になっていた。アイドルを目指す者として見せてはいけない格好と顔になっているが、まぁこの場には俺とちひろさんに貴子さんくらいしかいないので別にいいだろう。

 

 

「お前ら、ちゃんと座れってーの」

「いいじゃーん、別に唯の勝手でしょ〜」

「んなこと言ってるけどお前な、さっきからパンツずっと見えてんぞ」

「へっ!?」バッ

「まぁ、嘘だけど」

 

 

 俺の言葉に対し、唯はつい数秒前までのスライム状態からは想像できないほどに機敏な動きで起き上がり、自分の激短スカートを手で抑えた。

 しかし次に俺の口から出た嘘という言葉を聞くと、抑えていた手を離し、真っ赤な顔をしながら俺のことを睨みつけた。

 

 

「〜〜ッ!! ばかっ! えっちー! プロデューサーちゃんのすけべっ!」

「何だとっ!? えっちとすけべは事実だからいいけどな、馬鹿は訂正してもらうぞ!!」

「いや、どっちかと言ったらそっちの2つの方が訂正させるべきやろ」

 

 

 俺と唯のやり取りに、周子がゆる〜いツッコミを入れる。最近はこんなやり取りと定番化してきた。いっそのこと、アイドルじゃなくてトリオの漫才師でも目指すか? わっはっは。

 

 

「まぁでも、プロデューサーさんがすけべなのは事実ですしねぇ」

「すけべなんて生易しいモノじゃないだろう。コイツは変態だ。それもドの付く変態、ド変態だ」

 

 

 俺たち3人のやり取りを見守っていた、ちひろさんと貴子さんからのガヤが飛んでくる。ちひろさんは苦笑いを浮かべながら、貴子さんに至ってはこっちに視線を向けることなく、パソコンの画面を睨みながらだ。

 

 

「ハッ、そんなド変態の俺でも唯一、毛程も、1ミリも興味の沸かない女性が、森原貴子さんじゅうきゅうさい……あだっ!」

 

 

 死角からペットボトルが、俺の頭部めがけて飛んでくる。しかも中身がまだ殆ど入ってるのでめちゃくちゃ重くて痛い。

 

 ノールックで的確に俺の頭に当てやがったぞあの女。どんなコントロールしてやがんだ。

 

 

「あ〜、あっつぅ〜い!!!」

「おっ、話が最初に戻ったね」

 

 

 唯の唸るような声で話は最初に戻る。無限ループって怖くね?

 

 つーかなんで室内の事務所で、唯が暑い暑い言っているのかと言えば、これにはちゃんとした訳がある。

 

 

「んで、ちひろさん。いつエアコンの修理業者は来てくれるんですか?」

「明日には来てくれるそうなので、週明けには直ってる感じですかねぇー」

「週明けかぁ〜、少なくとも今日はこの暑さに耐えなきゃいけないってことかぁ。あー、ソレもコレも、どこかの馬鹿力暴走女軍曹が事務所の中で暴れ回ったりするからだよなぁ〜」

「……」

 

 

 黙秘権決めやがって、貴子さんめ。

 

 

 そう、エアコンが壊れた原因なのだが、昨夜いきなり俺のことを締めるとか言って暴れ出した貴子さんがぶっ壊したのである。罪もないこの俺に暴力を振るったりしたから、神が天罰を与えたのだろう。

 

 

「……ル」

「んぁ? 何か言ったか? 唯」

 

 

 

「プール行きたい!!」

「はぁ? プールだぁ?」

 

 

 急に元気を取り戻した唯が、勢いよくソファーから起き上がる。そして両手を天に掲げ、この部屋全体に響き渡るような大声を上げる。

 

 いきなりの大声に、ちょっとびっくりして、体がビクッとなったのは内緒の話だ。

 

 

「暑いんならプールに行けばいいじゃん! 唯あったまいい〜!」

「おー、いいねぇ〜、プール」

「周子ちゃんもそう思うよね! 明日は土曜日なんだし一緒に行こうよ!」

「でもあたし水着無いし」

「この後買いに行くに決まってるっしょ!」

 

 

 流石は行動力の化身。みるみるうちに話が進んで休日の予定が決まっていく。あれが若さってやつか……フッ。俺には眩しすぎるぜ。

 

 

「ねぇねぇ! せっかくだし皆で行こうよ!」

「皆って、誰のこと差してんだ?」

「ここにいる皆に決まってんじゃん!」

「えぇ……」

 

 

 オイオイ、こいつマジでスゲーな。どんなコミュ力してんだよ。まさか俺ら大人組まで遊びに誘ってくるなんて思わなかったわ。

 ちひろさんならまぁ……誘いやすい雰囲気あるから分かるけど、あの貴子さんを遊びに誘うとは中々肝が据わってやがる。

 

 

「悪いな大槻、明日も仕事だ」

「えぇ〜っ!? 土曜日なのに!?」

「土曜日なのに、だ。ふっ、笑えるだろ」

「いや笑えねぇっすよ」

 

 

 まぁ芸能関係の仕事してる俺らに土日ってあんまり関係ないよなぁ。唯や周子だっていつか売れっ子になれば、土日にライブやったり、イベント出たり、テレビの収録に参加したりするかもしれないんだし。

 

 ……まぁ、俺は明日休みだけど。

 

 

「すみません唯ちゃん、明日は私も予定がありまして」

「えぇ〜! ちひろさんも〜!」

「もしかして、彼氏さんとデートとか〜ん?」

「うぇっ!? え、えーっと……そ、そんな感じデスカネー、アハハ」

 

 

 周子の問いに対して、冷や汗をかきながら答えるちひろさん。だけど俺は知っている、今のちひろさんの言葉が完全な嘘っぱちだということを。

 

 

「………」ニヤニヤ

「な、何です!? 何か言いたいことでも…!?」

「いや〜、べっつにぃ〜」

「その顔ムカつくのでやめてください!」

 

 

 はっはっは、千川氏ぃ〜、嘘はいけませんなぁ。まぁ黙っておいてあげますけど。唯と周子の手前、ついつい見栄を張ってしまったんだろうしなぁ……はっはっは。

 

 

「はぁ〜、じゃあ3人でってことになっちゃうかぁ〜」

「オイオイ唯、勝手に社長を人数に数えるんじゃねぇよ」

「いや、どう考えても社長さんじゃなくて、プロデューサーさんでしょ」

「…………え〜」

「うわ、すっごいめんどくさそうな顔」

 

 

 だってぇ〜、実際にめんどくさいしぃ〜。せっかくの休みなのに、何が悲しくてお子ちゃま2人とプールに行って、そのおもりまでしなくちゃならんのじゃ。

 

 

「プロデューサーちゃんも一緒に行くよね〜?」

「えー、俺土曜は忙しくて……」

「お前はその日休みだろう」

「やりー! じゃあ決まりねー!」

 

 

 おいコラ、このエアコンぶっ壊し魔め。何を勝手に人のスケジュールバラしてくれとんねん、アァン!? 暇だってバレて、断りづらくなっちゃったじゃねーかよ。

 

 

「別にいいじゃないか、連れて行ってやれば。それにプールならば、綺麗な年上の女性がいるかもしれんぞ? しかも水着の」

「お前ら、集合は午前9:30だからな。遅刻すんじゃねーぞ?遅刻したら問答無用で俺は置いていくからな」

 

 

「うわー……変わり身はやっ」

「サイテー……」

「サイテーですね……」

 

 

 ふっ、何とでも言うがいい。俺は素敵なお姉さんに出会うためならば、こんな冷たい視線くらい耐え抜いてやるぜ。

 

 

 と、まぁ……そんなこんなで、俺の週末の予定が一つ埋まったのだった。プールなんて行くのは俺もかなり久しぶりだから、ぶっちゃけ楽しみっちゃ楽しみだ。唯と周子には絶対言わねぇけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 ギラギラと照りつける日差しが、街ゆく人たちに襲いかかる。塗装されたコンクリートは鉄板のように熱くなり、空から注ぐ熱を浴びた人たちからは汗が噴き出している。まさに絶好のプール日和と言えるだろう。

 

 クーラーの効いた車内で、お気に入りの音楽を流しながらハンドルを切る。

 そろそろ唯と周子との待ち合わせ場所に到着する頃なんだが……おっ、いたいた。アイツら2人でいるとやっぱ目立つなぁ。

 

 まだアイドルとして知名度の無い2人は、特に変装をすることもなく、駅前で楽しそうに会話をしている。盛り上がっていそうなところ悪いが俺は2人の前に車を停めると、窓を下ろし、そこから顔を出して声をかける。

 

 

「そこのお嬢さん方、乗ってかない?」

「ほぇ?」

「あっ、プロデューサーさんか。やっほー」

 

 

 声をかけられた2人は、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべたが、声の主が俺だと分かると小さく笑みを浮かべた。

 

 

「おっす、お迎えにあがったぜ。お二人さん」

「おっすおっすー☆」

「いやー、どんなダサいナンパやねん、って思ったけど……まさかプロデューサーさんだったとはねぇ」

「よし唯、助手席に乗れ。今日は予定変更で2人っきりのプールデートといくぞ」

「ほぇっ!?」

「あーごめんごめん! そんな拗ねないでよ〜! ね?あたしも乗せて〜お願い♡」

 

 

 唯だけを車に乗せて、周子のことはここに置いていこうとする俺に対して、周子はわざとらしく媚びるような猫撫で声でおねだりをする。

 

 コイツ……おねだりが様になってやがるぜ。さては、昔から相当やってんな? まぁでもあの親バカ親父なら、こうやっておねだりすれば何でも買ってくれそうだよな。

 

 

「しゃあねぇな、俺は心が広いから特別に乗車を許可してやろう。……あと拗ねてはないぞ」

「ほっ……じゃあ遠慮なく。はぁ、極楽極楽〜」

「よいっ、しょ! ひゃー! 涼しい〜☆」

「拗ねてねぇからな!」

「いや、もうええて」

 

 

 扉を開けて、唯は助手席に、周子は後部座席に乗り込んでくる。外とは違って快適な車内の温度に歓喜の声をあげる2人を見て、俺は思わず小さく笑ってしまう。

 

 

「よし、じゃあ早速出発すんぞ」

「ねね!プロデューサーちゃん!プロデューサーちゃん!」

「ん、どうかしたか?」

「へへっ、隣同士だね。よろしくね」

 

 

 そう言って、唯は首をコテンと曲げて嬉しそうに笑った。プールが楽しみでテンションがハイになっているのかと思ったが、コイツは素でこういうことを言う奴だな。

 

 

「お前それさ、席替えで隣になった男子とかに言ってねーだろうな?」

「え? 多分……言ってると思うけど。今日から隣だからよろしくねーって」

「どう思うかね、塩見クン?」

「絶対勘違いしちゃうよね、唯ちゃんにそんなこと言われたら」

「そうだよなぁ」

 

 

 あぁ……そりゃ美少女ギャルにそんな事言われたら、並大抵の男子ならコロッと落ちちまうだうろよ。それも、「あれ、大槻ってもしかして俺のこと好きなんじゃね?」的な淡い夢を抱いてしまうんだ。

 そうして量産されたガチ恋勢は、いずれ自分の勘違いに気がついて、大人になった頃にソレをふと思い出したりして恥ずかしくなったりするもんだ。

 

 

「唯、あんまクラスの男子諸君を勘違いさせてやるなよ?」

「……?」

「魔性の女やねぇ」

「ま、ある意味アイドル向きだよ」

 

 

 そんな会話をしながら、俺はエンジンを軽く踏んで車を出発させる。唯と周子が乗っているんだから、絶対に事故ったりはできない。いつもより丁寧に、安全運転でいこう。

 

 

「ていうか、プロデューサーさんって自分の車持ってたんだね」

「ん?あぁ、まぁな。 大学生の頃にめちゃくちゃアルバイトして稼いだ金と、働き始めてからもらった給料を結構使っちまったけどな」

 

 

 とはいえ、中古のコンパクトカーだけどな。まぁ俺はこの真っ赤なフォルムが気に入ってるからいいんだけど。情熱の赤、燃える炎って感じでカッコいい。

 それなのに、この前貴子さんを乗せた時あの人「ふむ、待ち合わせの目印には丁度いいな」とか言いやがってよぉ……俺の車はハチ公じゃねぇんだぞって。

 

 

「唯、助手席に座るからには、ナビ頼むぜ。俺も初めて行く場所だからな」

「まっかせてー! ばっちしサポートするよー!」

「周子、お前は……まぁ寝てろ」

「扱いが雑〜」

 

 

 さて、今日の目的地だが、東京ではなく千葉県にある大型レジャースポットのざふざぶランドだ。

 場所はチーバくんのちょっとぽっちゃりしたお腹の辺りだ。えっ、チーバくんって何だって? ググってみてくれ、可愛いぞ。

 

 

「そういやよ、お前ら昨日は2人で水着買いに行ったんだろ? いいの買えたか?」

「え〜? なになに〜? プロデューサーちゃん唯たちの水着がどんなのか気になっちゃってるの〜? んもぉ〜、本当にえっちなんだから〜」ニヤニヤ

「しばくぞクソガキ」

 

 

 んだよ、ニヤニヤしやがって。ちょっと話題でも提供してやろうと思っただけなのによ。別にお前らの水着になんて興味ねぇぞ。……本当だぞ。断じて気になってなんかねぇからな。

 

 

「ど〜する〜?周子ちゃん。プロデューサーちゃん、唯たちの水着が気になるんだってぇ〜」

「いや〜、お盛んですなぁ」

「べ、別にアンタたちの水着になんて興味無いんだからねッ! 勘違いしないでよねッ!」

「なんでツンデレ風?」

 

 

 いいよな、ツンデレ。古き良きヒロイン属性って感じでさ。まぁ俺の1番の好みは包容力のある年上のお姉さんだから、ちょっとだけ違うけど。

 

 

「何度でも言うが、俺はお前らみたいなガキの体になんて興味は……」

「でもさ、プロデューサーちゃん、前の水着撮影の時言ってたよね?」

「あん?」

 

 

 唯は助手席から身を乗り出し、運転をしている俺の耳元に顔を近づける。何か嫌な予感がするが、俺はハンドルに両手を取られているためガードができない。

 そして、唯は周子には聞こえないような小さな声で、甘く、それでいて挑発するように囁いた。

 

 

 

 

 

「唯のおっぱい見てたくせに…♡」

「〜〜ッッッ!!!」

 

 

 キキーッッッ! ギュルルルッッ!!

 

 

「ちょっ! プロデューサーさん! 事故とかは勘弁してよね!?」

「わ、悪い悪い…!」

 

 

 

 唯の思わぬ発言の影響で、ハンドルを握る両手がぶれて車が大きく左右に揺れた。流石の周子も驚いたようで、慌てた様子を見せている。

 

 俺は恨みを込めて唯を横目で睨むが、当の本人はどこ吹く風。白くて綺麗な歯を見せびらかしながら、生意気度120%、極上のメスガキスマイルを浮かべている。

 

 

「おい唯」

「ん〜?」

「……誰にも言うんじゃねぇぞ、そのこと」

「へへ〜っ、分かってるよ。唯とプロデューサーちゃんの秘密だもんねぇ〜☆」

 

 

 チッ、くそったれ。いくら唯を慰めるためだったからって、あんな事言うんじゃなかったぜ。この先このネタでどれだけ揺さぶられることになるのか……

 

 

 はぁ……まだプールにすら着いていないってのに、もう既に疲れてきやがったぜ。

 

 





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