スターの始めるプロデュース生活 作:焼肉定食
「周子ちゃん! プロデューサーちゃん! どのスライダーに乗る?」
「まずは向こうにある普通のやつでいいんじゃない?」
唯と周子が、キャッキャと楽しそうに話しながら俺の処刑台を選んでいる。
え? 処刑台って何の話かって? そりゃあお前、あちらこちらに聳え立っている、水の流れている大きな滑り台さんの事ですよ。一般的にはウォータースライダーってヤツだ。
え?何でウォータースライダーが処刑台なのかって? そりゃあお前……
(ち、超絶怖えぇぇぇぇぇ!!!)
そうだよ、俺はこういう絶叫系の類のヤツが大の苦手なんだよ!何が悲しくて自分からあんなのに飛び込んでかなくちゃいけねぇんだよ!
え、お前昔はヤンチャしてたくせにそんなんにビビってんのって? それとこれとは話が別でごぜーますよ! 怖いもんは怖いんだよぉぉぉぉ!!おうち帰りたいよぉぉぉ!!!
「プロデューサーちゃんはどれ行きたい?」
「……そうだな、アレとかよさそうだよな」
「いや、アレって子ども用プールじゃん」
震える指でお子様用プールを差す俺を、何言ってんだコイツとでも言わんばかりの呆れた表情で見つめる唯と周子。
いいじゃねーか子どもプール。俺は激流に流されるよりも静かなプールでぷかぷか浮かんでいたいんだよ。もう皆で平和にぷかぷかしてればいいじゃん?
「じゃあまずは普通のやつに行こっか! しゅっぱーつ!」
「おー」
「……おぅ」
元気いっぱいな唯の掛け声を合図に、俺たちは数あるウォータースライダーの中でも1番
まぁ、確かに怖いけどさ……まだ
そつ、普通なヤツなら大丈夫……普通なら、大丈夫だ。普通、普通なら……
♦︎♦︎♦︎♦︎
ゴォォォォォォォォ!!!
「よーし! じゃあ唯が1番最初に行くからねー!」
「じゃあその次があたしで、最後がプロデューサーさんね」
……え、これ普通なの?
めちゃくちゃ水の流れ強くね? あと高くねぇ?これ死んじゃわない? 本当に大丈夫なの神様?
俺たち3人は今、高い高い階段を登ってウォータースライダーの入り口付近に立っている。入り口から出口のプールに向かって流れる水の勢いは強く、ソレに体を乗せれば瞬く間に下まで運ばれていくだろう。
「それではお一人ずつどうぞー!」
「はーい! んじゃ、唯が1番ね! プロデューサーちゃん周子ちゃん、下で会おうねー!」
「ほーい」
「あぁ、絶対に生きて会おうぜ…!」
「なんか1人だけ戦場に向かうノリの人がおるんやけど」
「あははっ、ウケるー!」
唯は楽しそうに笑うと、次の瞬間には何の躊躇も無くウォータースライダーへと呑まれていった。きゃっほー!と楽しそうな声を出しながらみるみるうちに下へ下へと落ちていく。
すげぇな唯のヤツ、もしかして勇者の生まれ変わりなのか? よくそんな勇気があるよな。てかめっちゃ楽しそうな悲鳴聞こえてくるし。
「んじゃ、あたしも行ってくるねー」
「周子、何か言い残す事があるなら今のうちに聞いておくぞ?」
「だから戦場かて。ウォータースライダー1つで大げさだなぁ〜、それじゃ」
いつも通りの飄々とした態度のまま、周子もウォータースライダーの入り口へと飛び込んでいく。その躊躇の無さを見るに、ヤツもまた勇者の生まれ変わりなのかもしれない。
うわー、どうしよう。次俺の番だよなぁ…?
全く覚悟完了してないんだけど。足全く動かねぇし、膝なんてさっきから壊れた機械みたいにガクガクしちゃってるんだけど。
「それでは、次はお兄さんの番ですね!」
……いい事思いついた。これさ、今からめちゃくちゃ猛ダッシュで階段駆け降りてさ、何気ない顔で下のプールに飛び込めばウォータースライダーから出てきた感じになるんじゃね? いやー、すげぇスピードだったなぁ〜。とか言っておけば周子も唯も騙され……る訳ないよなぁ〜! クソが!
「あ、あの……お兄さん…?」
やべーよオイ、段々とウォータースライダーの入り口がバケモノに見えてきたんだけど? バケモノが大口開けて、俺という餌が口の中に入ってくるのを待ち構えてるように見えてきたんだけど?
やべーよ、時間が経つほどに怖くなっていくんだがどうすんだよコレ。こんな事になるんなら周子に続いてとっとと行くべきだったよ。いい加減に行かないと後ろも支えてるし、ガイド役のお姉さんも困っちゃってるよ。
……つーかこのスタッフのお姉さんおっぱいデケーなオイ。唯レベルじゃねーか全然気が付かなかったぜ。どーでもいいけどさ、監視員とかスタッフの人がよくやってる上はシャツで下は水着みたいな格好ってめちゃくちゃエロくね?
「………」
……あー!分かってるよ! おっぱい見て現実逃避してる暇じゃねーことくらいよ!
行ってやるさ! 行ってやりますとも! 行けばいいんだろ!? このウォータースライダーというバケモノの口に飛び込んでやろうじゃねぇか!
「……お姉さん、もし俺の身に何かあったら後のことは頼みます」
「は、はい?」
「では……行きます」
「よ、よく分かりませんが……頑張ってください!」
よく分からないのに胸の前でグッと拳を握ってエールを送ってくれるお姉さんマジ天使。
ここまで応援してもらって今更逃げる訳にはいかない。俺はウォータースライダーの入り口の前に立ち、ゆっくりとガクブルの足先から激流の中に入れていく。
すると俺の体は水の流れに呑まれ、あっという間にウォータースライダーの中へと引き摺り込まれた。
「うぇっ!? ちょっ、まっ! もうちょいゆっくり入るつもりだったんだけど!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
もう何が何やら分からない。激しい水に呑まれた俺は、口や鼻の中に大量の水を流し込まれながら下へと落ちていく。
そして気がつけば、俺は出口のプールに死体の如くぷかぷかと浮いていた。
「……」
「プロデューサーさーん、大丈夫?」
「あははっ、プロデューサーちゃんはしゃぎすぎでしょ!」
「……」
「返事がない、ただのしかばねのようだ」
「とりあえず早くここから退かない? 他の人たちも降りてくるしさ」
……もう嫌だ、こんなの絶対にもうやらない。ぼくうぉーたーすらいだーきらい。
「ねぇねぇ!次はどうする?」
「あたしはどれでもいいよー」
「じゃあねじゃあねー! 次はアレ行ってみようー!」
未だテンションの高すぎる唯が指差した方へと視線を向けると、その先には確かな地獄が待ち構えていた。
「………は?」
そこにあったのは、今俺が立ち向かった地獄よりも遥かに高く長いウォータースライダー。しかもただの一直線ではなく、構造が螺旋状になっている特級のバケモノだ。
ははーん? さては唯のヤツ、俺のことを殺しにきてるな?
「それじゃあしゅっぱーつ……の前に、ちょっと唯行くとこあるから待っててねー!」
「ん? あぁ……うん、ここで待ってるね」
「なんだ、うんこか?」
「〜〜〜〜ッッ!!! プロデューサーちゃんのバカー! デリカシーゼロ男〜ッ!」
顔を真っ赤にした、げきおこぷんぷん丸状態の唯は駆け足でトイレの方へと向かっていった。危ないからプールサイドを走るんじゃないぞー?
「プロデューサーさんさぁ……それは無いわ〜。そりゃ唯ちゃんも怒るよ」
「お前だってうんこって言ってたぞ」
「え、言ってないけど?」
「ほら、『
「屁理屈か!」
唯を待つ間、しばらく周子と中身の無い会話をしていると、一つ息を吐いた周子がニヤリと笑いながら俺を見てきた。
「プロデューサーさんさ、怖いんでしょ」
「……ひょ?」
「だからさ。ウォータースライダー、怖いんでしょ?」
ニヤニヤと笑う周子の言葉は、一応疑問形ではあるがどこか確信めいていた。つまりは俺がウォータースライダーにビビり散らかしていることはもう筒抜けということなんだろう。
だがしかし、こんな小娘に舐められる訳にはいかない…!
「べ、別に怖くなんてねぇけど? むしろウキウキだね。ウキウキのウキだわ」
「ふーん、助けてあげようと思ったけどそれなら大丈夫そうだね」
「あぁ、慈悲深き女神周子様よ。貴方のその優しさに感謝いたします」
即堕ちニコマである。
俺は深々と頭を下げて女神周子に慈悲を請う。まさか周子が俺に助け舟を出してくれるなんて思ってもいなかったが、つまりは
「で、何がお望みで?」
「ふふっ、流石。話が早いね〜、プロデューサーさん」
まぁ、そういう事だ。つまりは俺を助ける代わりに、自分の頼みを一つ聞いてくれということだろう。
等価交換、錬金術師としては常識だぜ? まぁ俺、錬金術師じゃないけど。
「さぁ望みを言え。唯が戻ってくる前にな」
「そうだなぁ〜。ねぇ、2つでもいい?」
「……背に腹は代えられねぇ。言ってみろ」
ったく……強欲なヤツだぜ。まぁその代わりに俺をこの窮地から救ってくれるって言うのならば仕方ねぇか。
「じゃあ一つはぁ……今度美味しいもの食べに連れてってよ。唯ちゃんも一緒に」
「いいけど、何が食いたいんだよ」
「そうだなぁ、回らないお寿司とか?」
「……ソレは無理な願いだ。神の力の範疇を超える願いは叶えられない」
「神龍か。いいから、それが一つ目のお願いね」
無理やり交渉を成立させられちまったぜ。コイツ絶対にトロとかうにみてぇな高いヤツめちゃくちゃ食うタイプだろ。(偏見)俺の財布だって厚くはねぇんだけどなぁ。
「で、もう一つは?」
「今日の帰りさ、今度はあたしを助手席に乗せてよ」
「……は? 何、そんだけでいいのか?」
「ふふっ、うん。それでいいよ。ちゃんとナビはするから安心してよ」
……まぁ、別にいいけどよ。むしろ俺からすればラッキーまである。これでブランド物のバッグを買って〜ん、とか言われてたら俺の財布が弾け飛ぶとこだったからな。
「そんで、お前はどうやって俺を助けてくれるんだよ?」
「まぁいくつかプランはあるけど……っと、唯ちゃん戻ってきちゃったね。まぁあたしに任せといてよ」
「おい周子!……行っちまった」
こっちに向かって戻ってきた唯を、周子は俺のもとに到着する前に迎撃する。そしてその場で数分会話をすると、何やら顔を赤くした唯がこっちに近づいてくる。
「あ、あのさ……プロデューサーちゃん。唯たち2人で行ってくるから、ここで休んでてよ」
「は? あぁ……うん。まぁ、それでいいならそうさせてもらうけどよ」
「じゃ、じゃあね! ちゃんと休んでなきゃダメだよ! また戻ってくるからー!」
まぁ、よく分からねぇけど、これで俺はウォータースライダーを回避できたみたいだな。周子のヤツが唯に何を言ったのかだけは気になるところだが……
「はぁ……疲れた」
そろそろいい時間だな。2人が戻ってきたら引き上げるとするか。
それにしても久しぶりに泳いで疲れたな。でもまぁ、俺もそれなりに楽しかったから良しとするか。
♦︎♦︎♦︎♦︎
あれからしばらく経った後、ウォータースライダーを終えて帰ってきた2人にそろそろ帰る旨を伝え、俺たちはざぶざぶランドを後にした。
そして今は、出入り口の前で唯と周子を待っている。水着になる時もそうだが、私服に戻る時も女子は時間がかかる。
「……綺麗な夕焼けだなぁ」
オレンジに染まった空を見上げ、心地良いそよ風を身に浴びながら俺は呟く。プールに入った後特有の疲労感が体にのしかかるが、俺にはまだ運転という仕事が残っているので気は抜けない。
「やっほー、プロデューサーちゃん」
「ん、唯だけか? 周子はどうした」
「周子ちゃんは自販機探してるよ。喉乾いたんだってさ」
ほーん、まぁ別に急いでる訳でもないし構わないけどな。
っと、そういえば今は唯と俺だけな訳だし、周子に何を吹き込まれたか聞いてみていいかもしれないな。
「なぁ唯」
「んー?」
「1個目のウォータースライダー行った後に周子になんて言われたんだ? ほら、俺が休む理由とかさ」
「うぇっ!?」
俺の発言に対して、唯は瞬間湯沸かし器が如く顔を赤くして目を見開いた。このリアクションを見た感じ、やっぱり変な事吹き込まれてそうだな。
「ぷ、プロデューサーちゃんの変態! えっち! 何で唯にそんなの言わせようとするのさ!」
「お、落ち着け落ち着け。ほら、周子って割と人を揶揄いがちだろ? さっき唯のリアクションがおかしかったから変な事吹き込まれたんじゃないかなってさ」
「で、でもぉ……」
「一応だからさ、な? 一応聞いておくだけだからさ」
俺のゴリ押し戦術に屈した唯は、未だに赤い顔をゆっくりと俺の方へと近づけてきて耳元で囁いた。
「ぷ、プロデューサーちゃんが……水面に、その……お、おちんちんを強く打ち付けたからしばらく休憩が必要だって……周子ちゃんが」
「…………ふーん」
はぁ〜、なるほどね。おちんちん、おちんちんか。うんうん、おちんちんね。おちんちん強く打ったらそりゃ休憩は必要だよな。おちんちんは大事だからな。うんうん。
「周子ォォォォォォ!!! テメェなんつう事唯に吹き込んでんだぁぁぁぁ!!!」
「わぁっ! ちょ、なになに!? 顔怖っ! と、とりあえず逃げるっ!」
「ちょっ! 周子ちゃん!? プロデューサーちゃん!? どこ行くのー!」
俺は呑気にジュース缶を手に持って帰ってきた周子を追いかけ回す。そんな俺から周子は逃げ出し、俺たち2人を後ろから唯が追っかけてくる。
この後、追いかけっこで残った体力を使い果たした周子と唯は、帰りの車内でばっちり眠っていましたとさ。
感想評価等どしどしおねげぇします。