スターの始めるプロデュース生活 作:焼肉定食
「え、ええーっと……それでは改めて自己紹介させてもらう。トレーナーの青木聖だ、よろしく頼む」
「よろしくお願いしまーす!」
色々あったが仕切り直し。今は聖さんが唯の真正面に立って改めて自己紹介を行なっている。
そういえば、俺もアイドルのレッスンを見るのは初めてだから楽しみだな。
「まずは大槻、キミの現在の能力を知っておきたい。実践に移る前にいくつか質問させてもらうが構わないな?」
「おっけー☆」
「そうだな……まずダンスの経験はあるか? 遊びなどではなくちゃんとしたダンス教室などでの話だ」
「んー、それは無いかなぁ〜。フォークダンスとかならしたことあるけど」
えっ、あいつフォークダンスしたことあるのか? フォークダンスってキャンプファイヤーとかで火を囲んで男女ペアでやるやつだよな?
……青春、羨ましいぜ。俺はガキの頃結構グレてたからそういう経験無いんだよなぁ。
「ふむ、では歌はどうだ? ボイストレーニングなどだが……まぁ、これは経験したことのある者の方が少ないか」
「うーん、カラオケとかは好きだけど〜、そういうガチっぽいやつはないかな〜」
「そうか、大体分かった」
「……も、もしかして唯結構ヤバい? 未経験者だと厳しいのかな…?」
不安そうな顔つきを浮かべて俯く唯。そんなアイツの顔を見て俺は咄嗟にそんなことないと否定しようとしたが、俺よりも早く聖さんがハッキリと否定の言葉を口にした。
「そんなことはない!」
「ほ、本当?」
「あぁ、ダンスやボーカルレッスンを経験したことのない者なんて山ほどいる。だが、そういう者たちのレッスンを担当し、磨き上げるために私たちトレーナーがいるんだ」
誇らしげな、それでいて自信に満ち溢れた顔で聖さんは唯にそう告げた。その表情からは聖さんのトレーナーという仕事に対する誇りやプライドの様なモノを感じられた。
「と、トレーナーさんかっこいい〜!」
「あぁ……聖さんマジかっけぇっす」
「褒めてくれるのはありがたいが……キミは下がっていろプロデューサー」
おっと、ついつい興奮して足が前に進んじまったぜ。だけど今のやり取りだけでも聖さんのトレーナーとしての力量や、信頼できるトレーナーだっていうのが分かった。
レッスンのことは彼女に任せておけば問題無さそうだな。
「さて、次は実践だ! 今から音楽と共に振り付けを指示する音声が流れる。まずはそれに従って体を動かしてみろ」
「う、うん! やってみる!」
唯の返事から数秒後、レッスンルームの中に心地の良いリズムの音楽が流れ始める。そしてソレに続くように音声ガイドも流れ始めた。
『まずはリズムに合わせて、その場で小さくジャンプをしてみましょう〜♪』
なんか、ラジオ体操みたいだな。
「なんかラジオ体操みたい〜。ウケる〜☆」
俺と全く同じことを考えていた唯は、音声ガイドに従ってその場でぴょこんぴょこんと跳ね始めた。
その動きに合わせて、唯の着ているレッスン着のある一部がばいんばいんと大きく揺れるが……俺は大人であり紳士なのでそんな光景をチラチラ見たりなんかしない。
……いや、でもすげー揺れてんな。自然と目が吸い込まれちまうぜ。
『準備運動はここまでです。次はステップを踏んでみましょう。その場で足を交差させて〜』
「こう……かなっ?」
『そのまま音楽に乗せて足を組み替えて……はい、ワンツー♪ワンツー♪』
「よっ…! っと、これで、いいのかな…? ってか結構疲れる〜」
時間が経つにつれて音声ガイドの要求は難易度の高いものへと変化していく。今の時点で唯が指示されている動きは、ダンスが苦手な子では厳しいくらいのレベルだろう。
しかし、唯は軽口を叩きながらも、音声にしっかりと則って体を動かしていく。あくまでも素人目線でしかないが、それなりに踊れているんじゃないかと思う。
『以上で終了になります。お疲れ様でした』
「はーっ! 疲れた〜っ!」
音声ガイドの終了と共に、汗だくになった唯がまるで海岸に打ち上げられた魚のように床に倒れ込む。相当疲れたようで荒い呼吸を繰り返しながら胸を上下させている。
「よし、こんなところか。大槻、お前はしばらく休んでいろ」
「うぃ〜」
聖さんに声をかけられた唯は気の抜けた返事をする。そして聖さんはチョイチョイと手を動かして俺を呼んだので、俺は光の速さで彼女の元へと駆け寄ったら若干引かれてしまった。
「何もそんなに焦らなくてもいいだろう……」
「いえいえ、綺麗な女性が俺のことを呼んだんですよ? そりゃもうマッハで向かいますとも!」
「そ、そうか……まぁそれはどうでもいい。今の大槻の動きを見てキミはどう思った?」
ごほん、と咳払いをして聖さんは俺に問う。トレーナーのプロである聖さんにど素人である俺が適当なことを言っても見透かされるだけなのは明白なので、俺は素直に思ったままの意見を口に出す。
「ぶっちゃけ初めてにしては結構良かったんじゃないかと思いますけど……もしかしてあんまり良くない感じですか?」
「いや、そんなことはない。中々スジがいいぞ大槻のやつ」
「ま、マジですか!」
「あぁ、体も動いていたし、リズム感も上々だ」
そう言ってニヤリと笑う聖さん。俺は自分が褒められた訳でもないと言うのに、唯が褒められるのが何故か自分が褒められるのと同じくらい嬉しいと感じた。やっぱり俺が連れてきたからだろうか。
「次はボーカルレッスンだな……大槻! そろそろ次にいくぞ!」
「うぇ〜! 唯まだくったくたなんだけど〜」
「はぁ……プロデューサー、何かやる気の起きる言葉でもかけてやれ」
「ったく、仕方ねぇな」
俺は溶けたスライムみたいになっている唯の方へと向き直って声をかける。
やる気を出させるというよりは、元気出させてやりゃいいんだろ?それなら楽勝だぜ。
「おい唯!」
「んぁ?なーにー?」
「今日のレッスン最後まで頑張れたら……」
「頑張れたら…?」
「俺の投げキッスをくれてやろう」
「え、ガチでいらないんだけど」
「……冗談だって」
……冗談やがな。ちょっと場の雰囲気を盛り上げようとした軽いジョークでんがな。なのにそんなガチトーンで拒絶しなくてもいいじゃん。
ていうかお前そんな表情できんのな! いつもニコニコしてるのにそんな冷たい真顔もできるんだな!
「はぁ……ほら大槻、早くレッスンを再開するぞ」
「ほーい」
呆れたように息を吐いた聖さんが声をかけると、渋々といった様子で唯は立ち上がってレッスンの準備を始めた。
……なんか俺が傷ついただけじゃねーか今のやり取り。まぁ別にいいけど。
♦︎♦︎♦︎
あれから小一時間後、なんやかんやあって初めてのボーカルレッスンも無事に終了した。今日は基礎的な発声練習をしていたが、唯は歌の方も中々スジがいいらしく、聖さんもそれなりに褒めていた。
かくいう俺も唯の歌声は中々良いと思った。素人だから上手く言えないけど、なんと言うか記憶に残る特徴的な声質をしていると思う。
「よし、これで今日は終了だ!」
「ふぃ〜、ちかれた〜」
「汗をかいているから早く着替ないと風邪を引くぞ。向こうにシャワールームもあるから早く汗を流してこい」
「えっ! シャワーあるの!? ラッキー☆」
シャワーがあると聞いた途端に、床に寝そべっていた唯は物凄い勢いで起き上がって更衣室の方へと走っていった。
アイツ……まだまだ元気じゃねぇか。
「聖さん、お疲れ様です」
「あぁ、お疲れ。それにしてもキミは中々いい素材をスカウトしてきたな」
「いやぁ〜、それほどでも。あっはっは」
「精々しっかりプロデュースしてやるんだな。それじゃあ私はもう行くよ」
そう言って小さく笑った聖さんはクールにその場を去っていった。ひと仕事終えたできる女って感じでかっこいいぜ。
あっ…! というかこの後お食事の誘いしてたのに聖さん帰っちゃったじゃねーか! くっそ〜! 今日こそはご一緒したかったのに…!
「ぐぬぬ…!」
「プロデューサーちゃん? なーに唸ってんのさ」
「お、出てきたか。もういいのか?」
「うん! シャワーも浴びてさっぱり〜☆」
唯は快活に笑いながらそう答えた。シャワーを浴びてきたからだろうか、全身がホカホカしていて頬は薄い桜色に染まっていた。それに髪もちょっとだけ水気を含んでいる。
「ん? どうしたの? あっ! もしかしてシャワー後の唯に見惚れちゃった〜?」
「はんっ! そんな訳ねーだろ。プール上がりのガキを見てるのと変わんねーよ」
「む〜! またそうやって唯のこと子ども扱いする……本当に年上のおねーさんにしか興味ないんだね、プロデューサーちゃんって」
「俺をドキっとさせたかったらあと10歳は歳を重ねるんだな」
いじけた様子を見せる唯を軽くあしらう。まぁ本音を言うと、シャワーを浴びた唯を見て思う所は少しだけあったが、素直にそれを言うのは悔しいので絶対に言わない。
「プロデューサーちゃん、今日ってもう唯はやることないんだよね?」
「ん、あぁそうだな」
「じゃあさじゃあさ! 一緒に帰ろーよ!」
「えっ、いや悪いけどそれは無理だな。俺はまだやることがーーー」
「はっはっは、別にいいじゃないか。彼女を送ってあげたまえよスターくん」
「社長!」
「? シャチョー?」
突然、レッスンルームの中に現れたのは土肥社長だった。社長はニコニコと柔和な笑みを浮かべながら俺の唯の方へと歩み寄ってくる。
珍しいな、社長室から出てくるなんて。
「社長、お疲れ様です」
「あぁいいよいいよ、そんなに硬くならなくて。今日は我が事務所記念すべき1人目のアイドルを見に来ただけだから」
「そうですか、彼女がそのアイドルです。ほら唯、挨拶しろ」
俺が唯の背中を軽く押して社長の方へと突き出すと、最初はボーッとしていた唯も段々と状況を理解したようで慌てて頭を下げて挨拶をする。
「お、大槻唯です! こ、これからこの事務所でお世話になりま……す? アレ、挨拶ってこんなんでいーのかなプロデューサーちゃん?」
「ばっ…! お、お前なぁ……!」
「わっはっは! いいよいいよ! 可愛い子じゃないか!」
挨拶の途中で俺の方へと振り返って不安げな表情を見せる唯だったが、寛大な社長はそんな様子を気にする素振りもなく豪快に笑う。
「大槻くん、これから大変なこともあるだろうけど……キミがアイドル活動を楽しんで行えることを祈っているよ」
「社長ちゃんマジでいい人じゃん! 唯頑張るよー!」
「わっはっは! 社長ちゃんか! いいじゃないかその呼び方」
「社長……」
ギャルのテンション剥き出しで社長と接する唯に、そんな唯を笑って受け止める社長。そんな2人は年齢差もあってまるで孫とおじいちゃんのようだ。
ていうか社長相手にちゃん付けってすげーな最近のギャルは。どんな心臓してんだ…? いやまぁ態度って意味では俺もあんまり人のこと言えたもんじゃないけどさ。
「さてと、大槻くんは今日はもう帰るんだったよね? それならスターくんが送ってあげるといいよ。ついでにキミもあがって構わないからね」
「い、いや社長、お気持ちは嬉しいですけど俺はまだ仕事がーーー」
「まぁまぁ、担当するアイドルと交流を深めるのは大切なことだよ。貴子くんにはボクが話をしておくからさ」
「……そういうことなら」
まぁ、社長が言うんだったらありがたくそうさせてもらうけどさ……でも明日とか貴子さんにぶっとばされないか心配だけど、そこは社長を信じるしかないか。
「じゃあそういうことだから、帰んぞ唯」
「うん! じゃあまたねー! 社長ちゃん!」
「あぁ、気をつけて帰るんだよ」
「失礼します」
俺は社長に向かって頭を下げ、唯はブンブンと大きく手を振ってレッスンルームを後にする。
唯の態度に関しては……まぁ社長が許してるんだから俺がどうこう言う必要はないか。流石にちゃん付けはどうかと思うけど。
♦︎♦︎♦︎
事務所を出て唯と並んで街を歩くこと数分。突然唯が俺の顔を見上げながら、さっきから気になっていたらしい疑問をぶつけてきた。
「そういえばさ、社長ちゃんがプロデューサーちゃんのことスターって呼んでたけど、アレってどいうこと?」
「………」
「プロデューサーちゃん? 聞こえてる〜?」
そ、そういえばさっき社長は俺のこと名前で呼んでたな。そりゃスターなんて呼ばれ方してたら普通気になるよな……
ぶ、ぶっちゃけ言いたくはない。言いたくはないけど……唯がアイドルをやる限りこれからは長い付き合いになるだろうし、いずれバレるなら今自分から言った方がいいよな…?
「じ、実はな……俺の名前なんだよ」
「へ? スターってのが?」
「あ、あぁ……変な名前だろ?」
風の音にすら掻き消されてしまいそうなほどに小さな声で俺が告げると、唯はボケーっとした表情で俺のことを一心に見つめていた。俺はなんだかその視線に耐えきれずに自然と唯から顔を逸らす。
「ちょーカッコいいじゃん!」
「……はぁ?」
確実に笑われると思っていたけれど、唯の口から出たのは純粋な喝采だった。予想外の反応に俺は間抜けな声を漏らしてしまう。
「え、カッコいいか…?」
「うん! だってスターでしょ!? 一番星みたいでカッコよくない?」
「……ははっ、お前の感性はよくわからんわ」
「えーっ!? 何ソレー!」
自分では全く思わない。スターなんて名前がかっこいいだなんて。だけど唯があまりにも無邪気に褒めてくれるもんだから拍子抜けしてしまった。
「……ありがとな、唯」
「ん? 何が?」
「別に、なんでもねぇよ……よしっ! じゃあどっか飯でも食いに行くか!」
「えっ! マジ? プロデューサーちゃんが奢ってくれんの!?」
「そりゃあな、俺が誘った訳だし」
「わーい!」
まぁ……今日は初めてのレッスン頑張ってたしな。こうしてご褒美をやるくらい構わないだろう。上手いモン食ったらまた明日から頑張ろうってなるしな。
「唯の好きなもんでいいぞ。今日は何でも好きなもん食わしてやる」
「本当!?」
「おう、男に二言はねぇ」
「じゃあじゃあ! 唯、ファミレスのメニュー開いてここからここまでぜーんぶください!ってやってみたいんだけどいい!?」
「えっ……」
どこの富豪だよ。そんなことたら俺の財布がすっからかんになっちまうだろ。
「唯、それは流石に……」
「男に二言は無いんじゃないの〜?」ニヤリ
「っ……わ、わーったよ! じゃあとっととファミレス行くぞ!」
「いぇーい☆」
まぁ……偶にならこんなのもいいだろう。
(青木聖:アオキセイ)※ベテラントレーナー
年齢:26歳
身長:163cm
体重:45kg
3サイズ:83-56-84
出身:栃木
趣味:デイトレード
感想評価等よろしくお願いします。