スターの始めるプロデュース生活 作:焼肉定食
前回の続きを書いていたら余裕で10,000文字を越えるアホみたいな長さになったんで、区切りのいいとこで区切って投稿しました。なんで今回のはちょっとだけ短いです。
唯の撮影が始まってから数十分が経過した。背景合成に使われるグリーンバックを背に、唯はカメラマンから色々と指示を受けながら様々なポーズを取っている。
さらに今は偶然にも及川さんと並んで写真を撮られている。さっき仲良くなった子と一緒に写れるんならリラックスできるだろう。
「はーい、ちょっと休憩入れましょ〜」
カメラマンの声を合図にパシャパシャと喧しかったシャッター音が鳴り止む。そして唯と及川さんは、グリーンバックの横に置かれたパイプ椅子に座って休憩を取り始める。
「さてと……どんな感じですかな」
今のうちに撮影がどんな感じか熊木カメラマンに聞きに行こうと、俺は彼の背後からゆっくりと近づいていく。
……正直言ってあまり話しかけたくはない。が、仕事だからそんな事も言っていられない。
「ど、どうも……どんな感じですかね、唯のヤツ」
「あ〜ら、八坂ちゃんじゃないの〜。さっきはオハナシの途中で何処言っちゃったのかしら?」
「ははは……ちょっと野暮用で」
「んふ♡ あなた、見た目の割に照れ屋さんなのね。かわいいわねぇ」
……だ、ダメだ。やっぱこの人怖い。なんかもう俺を見る目が狩人のソレなんだよ。見られてるだけでもう全身を弄られてるような錯覚を覚えるし、鳥肌がぞわーっ!ってなる。
「それで、どんな感じですか唯のヤツは」
「そうねぇ……素材がいいからこのままの写真を掲載しても十分だろうけど、彼女の100%の表情じゃない気がするのよねぇ」
「と、言いますと?」
「んー、どこか自信が無さそうというか……まぁ隣に雫ちゃんみたいな体した子がいたらそうなる気持ちも分からなくないけど」
自信、か……まぁ、確かにアレを見せられたら大抵の子なら自信を喪失するかもしれないな。
だけどなんか引っかかるんだよな。あの唯がそんな事をいちいち気にしてテンションを下げたりするだろうか。
「何かあったのかしらねぇ……」
「何か…………あっ」
『もっと唯のことを見て…!』
『で、でもさ。雫ちゃん来てからそっちの方ばっかり……』
……もしかして俺のせいか?
「すみません熊木さん、ちょっと失礼します」
「あら、何か用事かしら?」
「……はい、少し言わなきゃいけない事思い出したんで」
♦︎♦︎♦︎
休憩中の唯は水着姿のまま、大人しくパイプ椅子に座って水を飲んでいる。さっきまで隣にいた及川さんはどこかへ行ってしまったのか、一つパイプ椅子が空いていたので俺はソレに遠慮なく腰を掛ける。
「よう、調子はどうだ」
「プロデューサーちゃん、まぁまぁかな。なんかいざカメラ向けられると緊張しちゃって……あはは」
「まぁ初めてならそんなモンだろ、あんま気にすんなよ?」
「うん……そだね」
とりあえずありがちな台詞で励ましてみたものの、やはり唯はどこか元気無さそうだ。自分でもあまり上手くいってないことを自覚しているんだろうか。
……俺のせいで唯が自信を無くしてるのなら、ちゃんとその責任を取らないとな。
「唯、さっきの話の続きだけどな」
「さっきの?」
「あぁ、俺が及川さんの胸ばっか見てたスケベ野郎みたいな事言ってただろ?」
「そこまでは言ってないケド……」
唯は俺から顔を逸らして呟く。ただ、俺も唯とは逆の方に顔を向けているので俺たちの視線が交わることはない。
「それに関して、一つ言っておく事がある」
「なーに?」
「俺は、お前の胸も見てた」
「………はい?」
唯は素っ頓狂な声を上げるが、それを気にせずに俺は言葉を続ける。本当に言おうかどうか迷ってたけど、一度言ってしまったんだから今さら止める訳にもいかない。
「いやだからさ、お前さっきあたかも俺が及川さんの胸ばっか見てたみたいな言い方してただろ? でもそれは違くてだな、ぶっちゃけて言うと俺はお前のおっぱいもーーー」
「ちょっ! な、何言ってんのプロデューサーちゃん!?」
……ダメか。お前のおっぱいは確かに大きさでは及川さんに敵わないが、その総合的な魅力では負けていないとハッキリ伝えた方が良かったか?
「悪い、今の話はナシで」
「へっ!?」
「ふぅ……あー、ここにはお前と及川さん以外にも沢山アイドルがいるな」
「露骨に話逸らすじゃん……」
唯は拗ねたように頬を膨らませるが、それに構っている暇はない。俺は変わらず唯とは逆の方に顔を向けつつ口を開く。
はぁ……恥ずいけど真面目に伝えるべきか。
「まぁ、アイドルになるだけあってやっぱりどいつもこいつも顔は良いな。それにスタイルもいいし、ここの光景は男からすれば天国かもな」
「むっ……またそうやって他の子ばっか褒めてーーー」
「だけどな、唯」
「ここにいるアイドルの中で、お前が1番魅力的だ」
「………へっ?」
唯は一言だけそう言うと、まるで人形のようにピタリと動きを止める。だがやがて唯の顔は徐々に紅潮していき、ついには耳まで真っ赤になった。
そしてしばらくの間気まずい沈黙が続いたが、唯は突如として勢いよく立ち上がって声を上げる。
「ぷ、プロデューサーちゃん! もっかい! もう一回今の言って!?」
「……嫌だ。男に二言はねぇ」
「そんな事言わないでさ! もう一回だけ!」
「ほら、そろそろ撮影再開するみたいだぞ。早く戻れって」
半ば強引に無理やり唯の背中を押して撮影へと戻らせる。何やらごちゃごちゃとゴネているがそんなのは全部受け付けない。
そして俺は、渋々といった様子で撮影に戻ろうとする唯の背中に声をかける。
「唯!」
「んー?」
「自信持てよ? お前は俺がスカウトしたんだからな」
さっき唯を撮影に送り出した時とデジャヴを感じる。けれど、さっきとは明らかに違う表情で唯は俺の方へと向き直った。
「……うん!」
この後、撮影がどうなったのかはわざわざ言うまでも無いだろう。まぁ一つだけ言うとすれば、熊木カメラマンは唯の見せる本来の輝きを目にして大喜びだったということだけだ。
それから数時間後、撮影を終えて俺と唯は帰り支度を始める。
「それじゃあ唯ちゃん、それに唯ちゃんのプロデューサーさん。お疲れ様でした〜」
「お疲れ、及川さん」
「雫ちゃ〜ん! 絶対今度遊びに行こうね〜!」
友情の芽生えた2人はお互いの顔が見えなくなるまで手を振り合っていた。
唯のヤツ、いつの間にか及川さんと連絡先まで交換したらしいが、1日ですげー仲良くなってんのは素直にすげーって思うよ。やっぱコミュ力おばけだなコイツは。
「さてと、それじゃあ帰ろっか……って、何見てるのプロデューサーちゃん?」
「ん? あぁいや、次にこの撮影スタジオを使う人が来たっぽくてさ」
「次?」
「あぁ、さっき熊木さんに聞いたんだけど、新人アイドル水着撮影会の次はモデルの撮影が始まるらしい。そんで今あそこに立ってる人がそのモデルらしいんだが……」
……すげー美人だ。 あの人だけ明らかに周りとは雰囲気が違う。立ち居振る舞いと言うか、全身から神秘的なオーラが滲み出てる。
つーかアレよく見たら目が片方ずつで色違くないか? どうなってんだよ……なんかゲームのキャラみたいでかっけぇな。
「うーん……綺麗なお姉さんだな」
「むっ……プロデューサーちゃん、本当にすーぐ綺麗なおねーさんに夢中になっちゃうよね」
「いやいや、だってお前も見てみろよ唯。あの人やべーぞむっちゃ綺麗だぞ」
「ま、まぁ確かに綺麗だけどさ……でも分かんないよ? もしかしたらあーいう人に限って意外とズボラだったり変な事考えてたりするかもしんないよ? ほら、めっちゃ親父ギャグ言ってくるとかさ!」
「バカ言え、んな訳ねーだろ。あんな綺麗な人がそんな事」
バカな事言ってる唯は放っておくとして……どうする? マジで声かけてみるか? なんならいっそのことスカウトでもしてみるか?
……って、いやいや、落ち着け俺。もうモデルやってんだからアイドルのスカウトを受けてくれる訳ないよな。
「うーん……でもなぁ、どうしようか」
「……もぅ、プロデューサーちゃん! そろそろ帰るよ!」
「ちょ、ちょっと待て唯! 今俺は大事な事を考えてるんだ! お前に構ってる暇はーーーうぉっ!?」
突如、唯が俺の左腕を下に引っ張ってくる。バランスを崩した俺は左側に体を傾けると、位置の下がった左耳に向けて唯が小さな声で囁くように耳打ちする。
「さっきまで夢中で唯の胸見てたくせに……」ボソッ
「んなっ!?」
な、何をいきなり言ってんだコイツは!? ていうか誰にも聞かれてないだろうな今の…!聞かれてたら俺が社会的にお陀仏だぞ!?
「ゆ、唯! お前何言ってんだ…!」
「えへへっ、やっとこっち見たね。それじゃあ帰るよ、プロデューサーちゃん」
「あっ、コラ待て! 」
スタコラと我先に出口へと向かう唯の背中を追いかけて走り出す。あのモデルのお姉さんのことも気になるが今は唯を追いかけて口封じをしなければならない。
もしも事務所に帰ってから、「プロデューサーちゃんめっちゃ唯の胸見てたんだって☆」とか貴子さんやちひろさんの前で言い出したら俺の会社での立場は完全に無くなっちまう!
「あ、あのな唯? さっきのお前の胸も見てたってのはだな……えーっと、その……俺なりのエールというかなんというか。お前も負けてないぞって言いたかったというかな…!」
「プロデューサーちゃん」
「な、なんだ?」
クルッと振り返った唯は小さく笑いながら言葉を続ける。
「言っとくけどね? あんなさ、お前の胸を見てるとかいうセクハラ発言されてさ……唯普通だったら怒るかんね? もしクラスの男子とかに言われたら普通にドン引きだし」
「そ、そうか……」
「プロデューサーちゃんだから許してあげてるんだからそこんとこちゃんと感謝してよね! プロデューサーちゃんだけ、特別だからね!」
それだけを言うと唯は満足気な表情を浮かべて前を向く。そしてそのままひょこひょことスキップを踏んで進み出した。
俺だけ、特別……か。
「……どこでそんな口説き文句覚えてきたんだか」
1人残された俺はその場で小さく乾いた笑いを浮かべると、後から続くように唯の背中を追いかけた。
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