孫悟天に憑依したので最強を目指す 作:なっき
オッス、オラ悟天!
……そう、俺は孫悟天。
気付いた時には三歳の孫悟天になっていた。ここがドラゴンボールの世界であることは、すぐに分かった。なにせ俺はドラゴンボールが大好きだった。元々、日本に住む漫画好きの学生だったが、中でもドラゴンボールは一番好きだったと言っても過言では無い。際限なく強くなっていくキャラクター達、そこに立ちはだかる強敵。熱いバトルを繰り広げる度に胸を熱くしたものだ。そんな大好きなドラゴンボールの世界に孫悟天として俺はやってきたのだ。前世に未練が無いかと言われると嘘になるが、それ以上に、
…………最高すぎる。
悟天と聞くと、悟空や悟飯、ベジータといった主要キャラと比較するとどうしても注目度は見劣りしてしまうかもしれない。
しかしだ!
悟天と言えば作中で最強の実力を誇った悟飯をも超える潜在能力の持ち主だと個人的には考えている。七歳という若さで超サイヤ人に覚醒し、同年にフュージョン込みとはいえ、僅かな修行のみで超サイヤ人3にまで覚醒したのだ。明らかに他のキャラクター達と比べても別格の潜在能力を持っている。
……だが。
悟天は、悟空や悟飯のように命の奪い合いの環境に身を置いていたわけでも、壮絶な修行をしていたわけでは無い。それに悟天には悟空やベジータのような強くなりたいといった意欲があったようには見えなかった。実際、魔人ブウを倒した後の平和な世界では、修行をほとんどしていなかったという描写もあった。
これが残念――というより勿体ないと思っていた。折角、素晴らしい才能を持っているにも関わらずそれを磨かずにいたのだから。もし、悟飯のようにもっと小さいころから強くなるために努力をしていたらどうなっていたのか……。それを想像するだけでワクワクが止まらない。
どうして俺がドラゴンボールの世界にやって来たのか。それを知る術は無い。まあ、神龍にでも聞けば分かるかもしれないけど。とにかく、俺が悟天になったのであれば選択肢は一つだ。
――とことん強くなってみせる。
それからの俺の行動は素早いものだった。三歳とはいえ、サイヤ人。常人より遥かに丈夫な肉体を持っている俺は、早速修行に打ち込んだ。ちなみにチチ――お母さんは最初そんな俺の行動に釘を刺したが、本心から強くなりたいことを打ち明けると、最終的には渋々といった感じで認めてくれた。まあ、元々悟天はのびのびと育てられていたから、やりたいことをやらせるのが一番と思ったのかもしれない。というわけで修行を開始したわけだが――。
――やはり、俺、孫悟天は紛れもない天才だった。
修行を行うたびに強くなっていくのを実感できた。気のコントロールも驚くほど簡単に習得できたし、体術も同様だ。自分でもチートなのではと思ってしまうほどの成長率だった。まるでゲーム感覚で強くなっていく事にさらに楽しさを見出した俺は、益々修行にのめり込んだ。朝から晩まで時間がある限り俺は修行に打ち込んだ。
一点残念なことがあったとすれば、悟飯――兄ちゃんだ。
できれば兄ちゃんにも修行に打ち込んでほしかったが、心から学者になりたいようで勉強を必死に頑張るその姿を見ると何も言えなかった。兄ちゃんもまともに修行をしていなかったにも関わらず、作中最強の戦闘力を手に入れたのだから修行をしていればもっと強くなれただろうに残念だ。
――しかし、代わりに俺にはかけがえのない存在がいた。
それは――トランクス。
言わずと知れたベジータとブルマの息子であり、サイヤ人の血を引く者。
トランクス君も俺同様に素晴らしい潜在能力を誇っている。だが、やはり強くなりたい意志は他キャラクターに比べると薄い――いや、薄かったと言うべきだろう。
俺は度々ブルマさんの家を訪ねては、トランクス君を修行に誘った。トランクス君も最初こそ遊びの延長上で俺に付き合っていたが、俺の本気度を感じてからは、トランクス君も俺に負けじと真剣に修行に打ち込むようになった。年下の俺に実力差をつけられるのが癪のようだった。やはり、修行は一人で行うより二人で行うに限る。効率が段違いだった。
さらに俺は、ピッコロさんにも修行をお願いして度々神様の神殿にも赴いた。
ピッコロさんは最初こそ俺に戸惑ったものの、快く修行を見てくれた。兄ちゃんが自分から離れて少しばかりの寂しさを感じていたのかもしれない。ピッコロさんは、俺の本気を汲み取ってか、幼い俺にも厳しく接した。――本当に鬼のような厳しさだった。だが、おかげで俺はまたもその強さに磨きをかけることができた。そのあまりの成長具合に、途中からはトランクス君も「悟天だけずるい」と修行に加わったほどだ。
そして、俺の天才ぶりをより実感したのが、その二年後――つまり、俺が五歳の時だった。
――俺は、超サイヤ人に覚醒した。
トランクス君との実戦形式で戦闘を行っている時だった。当時のトランクス君との戦績は、99勝99敗51分というもの。互いに100勝目を賭けたものであり、いつも以上に本気だったのだ。戦況はトランクス君の有利で進んでいき、そのまま決着がつくかと思った時だった。俺は状況を覆すことのできない自身に猛烈な怒りを感じ、気付けば覚醒していた、というわけだ。トランクス君が覚醒した俺に敵うわけもなく、そのまま俺は勝負を制した。
自分でも流石に驚いた。
才能があることは分かっていたが、まさか五歳という若さで超サイヤ人に覚醒するとは……。だが、それは俺だけでは無い。俺に先を越されたことに対し涙を流すほど悔しさを見せたトランクス君も数日のうちに超サイヤ人に覚醒してみせた。――やはりトランクス君も紛れもない天才。兄ちゃんもこの事実には滅茶苦茶驚いていた。
さらに転機はこれだけに留まらなかった。
覚醒した俺は、兄ちゃんにも実戦形式での戦闘をしてほしいとお願いしてみた。既に五年もの間、修行をしていなかった兄ちゃんだが、流石に俺より強いことは理解していた。超サイヤ人2になれるし、踏んできた場数も違う。そんな兄ちゃんにどれだけ通用するか試したくなったのだ。それに格上の実力をこの身で感じることは重要だと考えた。兄ちゃんも、勉強の息抜きになるなと言って快く了承してくれた。
兄ちゃんは、俺がいくら超サイヤ人になったといえ、流石に自分より強いとは微塵も考えていなかったようで、最初は余裕の態度だった。本人としては、軽い運動くらいのつもりだっただろう。そのことに少しムカッとした俺は、なんとしても一泡吹かせてやるとやる気を出す。そして戦いが始まると徐々に兄ちゃんから余裕が無くなっていった。兄ちゃんが想像していたより俺が動けたようだ。
しかし……、流石に兄ちゃんは強かった。
五年間何もしていなかったとはとても信じられないほどだった。全く通用しない、ということも無かったが、それでも俺は徐々に押されていく。戦っていく度に勘を取り戻していくように徐々に兄ちゃんの動きが良くなっていくのだ。
俺は、超サイヤ人に変身して反撃に打って出た。ちなみに超サイヤ人になるのは駄目と最初に約束していたが、負けたくない一心でついルールを破ってしまった。たまらず兄ちゃんは、同じ超サイヤ人になって迎え撃ってきたが、あえなく俺は敗れることになった。流石に俺と兄ちゃんではまだまだ実力差があった。できれば超サイヤ人2の状態で戦ってほしかったが、今の俺にはまだ早いということだろう。――そう、今は。
俺は悔しいと思うと同時に悦びに打ち震えた。もっと強くなれる。そのことをより実感できたからだ。そして兄ちゃんは、勝ったにも関わらず信じられないものを見る目で俺を見つめていた。そして小声で「――こ、これは流石にまずいな」と呟いていたのを俺は聞き逃さなかった。年の離れた弟にそのうち負けてしまうかも、そう思っての発言だとすぐに理解する。これはまさか兄ちゃんも修行を再開してくれるのかと期待した。
――その期待通りだった。
あくまで学業が優先だが、定期的に兄ちゃんも修行に参加してくれるようになった。お母さんも勉強の息抜きレベルでなら、と認めてくれた。正直滅茶苦茶嬉しかった。欲を言えば修行に全振りしてほしかったが、贅沢は言えない。まだ魔人ブウが復活するまで二年ある。それまでに力を付けてくれたらどのような未来が待っているのか、それを想像すると夜も眠れない程だった。
できればベジータさんとも修行をしたいというのが本音だったが、ベジータさんは一人で黙々と修行をしているようで取り合ってもらえなかった。非常に残念。とはいえ、俺とトランクス君がめきめきと力を付けているのは把握しているようで、トランクス君の家に行った時、一度だけこんな会話をした。
「……悟飯の弟、悟天だったか。相当な修行を行っているようだな?」
「え? はい、してますよ」
「……先日、お前の強い気を感じた。まさか超サイヤ人になれるのか?」
「はい、なれます。見ますか? 戦ってみますか? いや、戦ってください!」
「……いらん」
「そうですか……」
まじかー、うわー戦ってみたい……。
「……それよりお前は何歳だ?」
「五歳です」
「…………そうか」
ベジータさんは、そう答えるとすぐに回れ右をして重力室がある方へ歩いていった。気のせいでなければ、ベジータさんは確かに僅かな焦りを感じていた。ベジータさんも俺とトランクス君の潜在能力の高さに気付き始めているのかもしれない。今は、お父さんが亡くなってモチベーションも低下してるだろうし、これがプレッシャーになればいいなと思いながらベジータさんを見送った。
……それにしてもベジータ、やっぱりかっけえ。
大好きなキャラであったベジータとまともに会話できて俺は密かに感動した。
それから二年間、俺はトランクス君や兄ちゃんと共に血反吐を吐くような厳しい修行を続けた。
そして、とうとう今日。
悟空――お父さんが一日だけ現世に戻ってくる日がやってきた。
雲一つない青空から太陽が照り付ける中、原作の時より一回り大きくなった俺とトランクス君は神様の宮殿の淵で並んで立っていた。吹き抜ける風が俺とトランクス君の髪をさらう。
「――トランクス君。とうとう来たね、この日が!」
俺は、その見た目通りの子供のように目を輝かせながらワクワクを隠せないといった様子でトランクス君にそう声をかける。
「ああ、準備は万端だ! 驚かせてやろうぜ、大人達を!!」
同じくトランクス君も目を輝かせて応える。
そして、俺たちは目の前に広がる大空に向かって飛び出した。