孫悟天に憑依したので最強を目指す 作:なっき
……さて、どうしよう。
恐怖でガクブル震えているミスターサタンを見つめながら真剣に考える。原作におけるミスターサタンの存在はとても大きい。ミスターサタンがいなければ、魔人ブウに勝利することはできなかっただろう。
それはやはり、
サーターン! サーターン! サーターン! サーターン!
――この絶対的な求心力があるからこそ。
ミスターサタンを中心とした人々の団結力は凄まじいと言わざるを得ない。それこそ、個で圧倒的な実力を誇るZ戦士達と対となる存在と言えるだろう。大地を揺るがすようなこの歓声が何よりそれを証明している。ミスターサタンがファンサービスのつもりなのか、へんてこなパンチや蹴りを人々に披露し、歓声はより大きくなる。この勢いには俺も少し圧されてしまう。
この世界では俺を筆頭に原作と異なる箇所がいくつもある。ではミスターサタンの力が不要かと問われると、否だ。言わずもがな、魔人ブウは規格外の敵。何が起きても不思議では無い。その時、ミスターサタンの力が必要になる可能性は十分に考えられる。
まあ、つまりは――、
ここでミスターサタンの名声を失墜させるようなことは、絶対にあってはならないということ。
ミスターサタンは人々の希望であり続けなければならない。
……と、頭では理解しているのだが、一点だけミスターサタンに対して不満がある。兄ちゃんが必死の思いでようやく倒したセル、その功績をミスターサタンが横取りしてしまったことだ。
原作を見ていた時はそこまで大きな不満は無かったのだが、今は別。今の俺にとって兄ちゃんは大切な存在だ。あんなに優しい兄は世界広しと言えどそういないだろう。そんな兄ちゃんが成し遂げた功績を……と思ってしまうのだ。目立ちたくない兄ちゃんは、寧ろ今の状況を有難く思っているのは理解しているが、それでもモヤモヤが残ってしまう。
しかし、そんなことを言っていても仕方がないし、兄ちゃんも望まないだろう。それにミスターサタンが勇気ある心を持っていることも確かなこと。魔人ブウとの最後の戦いのシーンでベジータさんを助けるシーンは素直に格好いいと思ったものだ。
ということで、どうせならミスターサタンの名声をさらに高めることに協力しよう。その為にどうするか。原作ではトランクス君に殴らせてわざと負けたように見せていた。まあ、実際は普通に吹っ飛んだだけなのだが。
……じゃあ、ここはトランクス君のやり方にアレンジを加えた方法で対応しよう。
俺は、ようやくプランを固める。
……うん、我ながらいい考えじゃないだろうか。その感想が本意であることを証明するように俺の顔に悪戯心を含んだ笑みが浮かぶ。
後は、原作のトランクス君のように振舞えばうまく流れができるだろう。なんて考えていると、ミスターサタンがこちらに近づいて来た。そのまま傍まで来た彼はこちらの機嫌を窺うように話かけてくる。
「あー、少年、悟天君と言ったかな? これはあくまでもお遊びみたいなものだから、うーんと気を抜いていいんだよ?」
少しでも生き残る可能性を増やすために交渉してくるミスターサタン。ここで逃げ出さないだけやはり彼は凄いのかもしれない。
……よし、ここは突っぱねる形で。
「嫌だよ! 僕はミスターサタンと全力で戦ってみたい!」
――なんて、滅茶苦茶いい顔で言ってみる。
「な!? だ、だからこれはお遊びみたいなものなんだ! 分かるだろう? これはアトラクションなんだ!」
ミスターサタンはそれでも尚食い下がってくる。彼の立場を思えば当然だろう。
「やだ! 僕は全力で戦うっ!」
それでもいい顔で答える俺にミスターサタンは顔を青ざめさせて慌てだす。
「え、ええい! なぜ分からないんだ、ガキじゃあるまいし!」
「僕はガキだよ」
「くぅぅ……、この分からず屋め……」
そんなやりとりをしていると、サングラスの司会の人が「えー、お二人とも、そろそろいかがでしょうか?」と催促してくる。
「ちょ、ちょっとタンマッ!」
ミスターサタンがそう叫ぶと再び俺に話しかけてくる。
「そ、そうそう、悟天君にこのアトラクションの特別な挨拶の仕方を教えるのを忘れていたよ。試合が始まったら、まず君は、チャンピオンの私の顔に拳で軽く、かるーく、ちょいっと触るんだ。それが決まりなんだよ。絶対に思い切り挨拶してはいけないぞ? いいな、分かったな?」
……よしよし、その提案を待っていた。
俺はしめしめとほくそ笑む。ミスターサタンはこれで殴られてわざと負けようとしているのだ。そして、その案自体は採用させてもらう。
「……ふーん、分かったよ。ちょいっ、だね?」
「ああ! そう! ちょいっ、だ! 絶対だからな!」
「はーい」
そう、結局のところ基本的な流れは原作となんら変わらない。
――少し派手なこと以外はね。
「では、準備が整ったとのことで、お二人とも、試合を開始してください!!」
試合が開始して会場が盛り上がる中、ミスターサタンが余裕たっぷりの表情を浮かべて、顔を差し出してくる。これには会場からも笑いが巻き上がる。「ははは、がんばれ、ちび!」、「がんばって~」なんていう温かみのある声援が俺にも投げかけられる。俺は、にっこりと笑みを浮かべてミスターサタンに話しかける。
「あ、サタンさん、良いことを思いついたよ! 挨拶だけど、どうせならもっと派手にいったほうが盛り上がると思うから、派手にいくね!」
俺がそう提案すると、ミスターサタンが怪訝な表情を浮かべて「へ? 派手に?」と聞き返してくる。
「そうっ! あ、心配しないで! 派手にするだけでちょいっとなぐr……触ることに変わらないから! 絶対に盛り上がるよ! お客さんも喜ぶと思うよ!」
「……う、うん? ま、まあそれなら」
と、ミスターサタンの了承も得ることができた。
では早速。
……まずは、ミスターサタンに被害が及ばないように体の表面上にバリヤーを展開しておいて、と。ついでにミスターサタンの体勢が崩れないようにバリヤーで固定しておく。極力目立たないようにバリヤーを透明にしておくのも忘れない。
格好いいと言う理由だけで頑張って覚えたバリヤーがこんなところで役に立つとは思わなかった。ちなみに余談だが、バリヤーは頑張って探し出した17号さんに教えてもらった。
――さあ、やるぞ!
俺は気を一気に解放し、超サイヤ人2に変身する。
その瞬間、膨大なエネルギーを放つ俺を中心として大気が荒れ狂い雷が発生する。――まだまだ! 「はあああっ!!」という、気合の咆哮と共に、さらに俺は気を高めていく。先ほどの戦いの時のように大地が震えだす。
「で、でたぞ! 子供がさっきみたいに変身したぞ!」
「そりゃそうだ、相手はミスターサタン、あの子供も本気なんだ!」
「……ああ。ここにいても凄い圧力みたいのものが伝わってくる!」
「間近にいるミスターサタンはきっと物凄い圧力を感じてるに違い無いな……」
俺が再び超サイヤ人2になったことで観客達も否応なしに盛り上がっていく。この姿の凄さは先ほどのトランクス君との戦いで散々思い知っているのだ、当然だ。
俺が変身した瞬間、興奮を見せた観客達だったが、少しすると、どよめきが発生し、それが徐々に大きくなっていく。
……それはそうだろう。
「お、おい、ミスターサタン。まだ余裕で顔を差し出してるぞ……」
「……あ、ああ、微動だにしていないな」
「ミスターサタンにとっては、あれですらも取るに足らないということなのか?」
「ありえないぜ……」
そう、バリヤーで体勢を固定されたミスターサタンは、傍から見れば本気を出した俺を前にしても全く意に介さない強者のように映っていることだろう。
ちなみに目の前にいる俺にはミスターサタンの声がよく聞こえるが……、
「お、おい! 本当に軽くだぞ! 分かっているのか! て、あれ? か、体が動かん! ど、どどど、どうなってるんだ!」
という感じである。
「は、はは……、すげえ! やっぱりミスターサタンは凄いぜ!」
「ああ! 流石は俺たちのヒーローだぜ!!」
「かっこいいわ、ミスターサタン!!」
が、目論見通り観客達には大うけである。よし、後は触るだけ――いや、ちょいっと殴るだけだ。
俺は静かに息を吐くと構えを取る。そして、そのまま腰を深く落とし、拳を引き、正拳付きの構えを取る。周りから見れば、全力の一撃を放つように見えていることだろう。
「お、おおおい! 本当に軽くだぞ! ちょいっだ! ちょいっ!! それは全力で殴ろうとしていないか!? くそっ! なんで体が動かないんだ!!」
「大丈夫だよ。ちょいっ、でいくから」
「本当だろうな!?」
慌てふためくミスターサタンに構わず俺は、
「ちょおおおおいっ!!!」
と全力の正拳突きをミスターサタンの顔面に向かって繰り出した。
ドオオオオンンンッッッ!!!!
それは爆音と共に見事にミスターサタンに展開したバリヤーに命中する。その衝撃と音によって観客達から悲鳴が生まれる。俺の正拳突きによって衝撃波が発生し、暴風が吹き荒れ、周囲のリング上のタイルを薙ぎ払っていく。
勿論、バリヤー内にいるミスターサタンにダメージは無し。超サイヤ人2になった俺のバリヤーの防御力を舐めて貰ったら困る。気の消費が激しいのが玉に瑕だが。
ミスターサタンは驚愕の表情を浮かべたまま固まっている。恐らく何が起きたのか理解が追い付いていないのだろう。
シンとした静寂が会場中を包む。
リング上には、突きを放ったままの体勢の俺と、相変わらず顔を差し出したままでいるミスターサタン。
「……サタンさん、挨拶、おわりましたよ?」
と、小声で伝える。同時にバリヤーも解除する。
「……え、あ、ああ、えっと」
未だに混乱しているようだが、徐々に状況を理解し始めるミスターサタン。
「――あ、す、凄いなー、僕は。おじさん、やられたよー。……はは、お、おい、私はギブアップだ、少年の勝ちだ」
と、全然痛くないはずの顔をさすりながら、わざとらしくそう告げる。これには再び会場が静寂に包まれるが、司会の人がいち早く我に返る。
「ギ、ギブアップ! ミスターサタン、ギブアップです! よって、この試合、悟天君の勝利です!」
それを皮切りにどっと会場が盛り上がる。
「ははは、さすがミスターサタンだぜ!」
「ああ、あんな凄いパンチを食らってもダメージを負っている様子も無い、凄いぜ!」
「流石はセルから地球を救った英雄だ!」
「よう! 少年! 頑張ったな!! すげえパンチだったぜ! はは!」
と言う感じにミスターサタンの評価を上げつつ、平和的に終えることができた。ここまで盛り上がってくれると俺も必死で演技した甲斐があったというもの。
……ミスターサタンをびっくりさせたかもしれないが、これは功績を横取りしたことに対するちょっとしたお仕置きということで。これで俺もミスターサタンに対して思っていたことは全て水に流そう。
そんなことを思いながら、変身を解きつつミスターサタンを見ると。
「あ、あのパンチをくらっても何も感じなかった……。まさか、俺の中の秘めた力が目覚めたのか?」
なんて呟いていた。
……なんか、ここまでくると、もう本当に尊敬に値するな。この人以外に地球の英雄は務まらない気がする。
ある意味で自分とミスターサタンの格の違いを見せつけられた俺は、そのままリングを降りると、トランクス君が駆け寄って来た。
「お、おい悟天。何が起きたんだよ? なんで悟天の全力のパンチを食らってミスターサタンはなんともないんだよ? ギブアップしたけど、どう見てもわざとだよな?」
「……うーん、僕もよく分からないよ。それだけミスターサタンが強いってことじゃないかな?」
そう言うと、トランクス君が信じられないと言うように驚愕の表情を浮かべる。
「ま、まじか……。上には上がいるんだな……。悟天で敵わないなら俺も無理だろうな……」
「まあまあ、終わったことだし、兄ちゃん達の試合を見に行こうよ」
「え、あ、ああ、そうだな。……なあ悟天」
「どうしたの?」
「……それならさ、『ゴテンクス』ならミスターサタンに勝てると思うか?」
そんなこんなで、何とか無事に子供の部を乗り切った俺達は、雑談を交えながら会場を後にし、大人の部の会場がある方へ向かっていった。
控室に戻ったミスターサタンは、膝から崩れ落ち、四つん這いの姿勢になっていた。
「ちょ、ちょっとちびっちゃった。あのガキめ……何が、ちょおおいっ! だ、ふざけやがって……」
と涙目を浮かべながら恨めし気にそう呟くのだった。