孫悟天に憑依したので最強を目指す   作:なっき

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第九話

 辺り一面黄土色の地面が広がる荒野。

 生命を感じさせないここ一帯に風が吹き抜ける。

 

「……へへ、オラわくわくしてきたぞ!」

 

 そんな世界に父さんの声が響く。

 バビディの宇宙船から移動してきた俺達は、父さんとベジータさんが戦っても周囲に影響を及ぼさない人里離れた地までやって来ていた。

 父さんはその言葉通り好戦的な笑顔を浮かべながらストレッチを行っている。

 一方のベジータさんは、集中しているのか瞳を閉じて戦いが始まるその時を待っているようだ。

 

 ……あぁ、父さんとベジータさんの戦いをこの目で見られるなんて。

 

 俺は感激のあまり言葉を発せないでいた。まさに感無量。

 

「悟天? なんで泣きそうになってるんだ?」

 

 トランクス君にそんなことを言われるが仕方ないというもの。

 

「……やはり俺は先に戻っている。魔人ブウやバビディのことが気になる。ドラゴンボールの収集や占いババへの助言も早く済ませた方が良いだろう。……二人の戦いも気になるがな」

 

 ピッコロさんが少し名残惜しそうにそう言って父さんとベジータさんを見つめる。界王神様が働いているのに自分が何もしていないことに抵抗があったのかもしれない。

 

「俺も戻ろうかな。嫁さんも心配してるだろうしな……。それに二人の戦いの流れ弾に当たって死んだら笑えないしな、はは……」

 

 苦笑いしながらクリリンさんも帰る意志を示す。二人の戦いを見ないなんて勿体ない。といっても特に二人を引き留める理由も無い為そのまま二人が去る流れだった。

 しかしピッコロさんの動きが止まる。ピッコロさんの瞳が集中しているベジータさんに向けられる。次いで相変わらず楽しそうにしている父さんに。

 どうしたんだと思っていると、ピッコロさんは少し迷う様子を見せた後やがて口を開く。

 

「……悟空。俺から一つ助言だ」

「ん? なんだ?」

 

 父さんが不思議そうにピッコロさんを見つめる。

 

「俺も戦士の端くれだ……。お前があの世でとんでもなく強くなったことはなんとなく分かる……」

 

 ここでピッコロさんは間を置き、再び視線をベジータさんに向ける。そしてまた父さんに向き直る。

 ピッコロさんが浮かべる表情はどこまでも真剣。

 それを父さんも感じているのか、真面目にピッコロさんの言葉に耳を傾けている。

 そしてピッコロさんが再び口を開く。

 

 

 

「…………だがベジータも強い。間違いなく悟飯以上だ。……油断しないことだ」

 

 

 

 ……え? まじで?

 

 

 

 先ほどまで感動していた俺もピッコロさんの言葉に我に返る。

 ピッコロさんはこんな時に絶対に冗談や嘘を言わない。

 そしてこんな風にピッコロさんが人を褒めることなんて滅多に無い。たくさん修行を見てもらった俺が言うのだから間違いない。

 ましてや相手はベジータさん。

 つまりピッコロさんのこの言葉にはそれほど重みがあるというもの。

 というかまるでベジータさんが修行していた様子を見ていたような口ぶりだ。

 

 ……いや、それよりもだ。

 

 天下一武道会であれだけの実力を見せた兄ちゃんよりも強い……?

 兄ちゃんは超サイヤ人2を極めているといっても過言ではないほどの実力を身に付けていた。

 ……え? 

 強くなっているのは間違い無いと思ってたけどまさかベジータさん、超サイヤ人3になれるのか?

 ……いや、もし超サイヤ人3になっていたらこの宇宙のどこにいたって分かるはずだ。なにせ遥か遠くにある界王神界にまで気が届くほどなのだから。

 

 俺が困惑している一方、ピッコロさんの言葉を聞いた父さんはと言うと、きょとんとした表情を浮かべていた。

 しかしすぐにピッコロさんの発言の意味を理解すると。

 

「…………そっか、ピッコロがそこまで言うのか」

 

 そう小さく呟く。

 そして。

 

 

 

 先ほどまでの楽し気な表情を引き締め、サイヤ人の表情へと変化する。

 

 

 

「……こりゃあ、楽しんでる余裕はなさそうだな」

 

 

 

 漫画やアニメで何度も見たあの表情だ。

 過去にセルやフリーザ……そしてかつて地球に来たベジータさんと対峙していた時に見せた強敵と相まみえた時に見せる表情。

 それは間違いなく生と死を賭けた戦いに赴く戦士の姿だった。

 

 全身に鳥肌が立つ。

 父さんが正真正銘の本気を出す。

 当然、父さんが手を抜くはずも無かったと思うが覚悟のレベルが違う。

 ピッコロさん、グッジョブ!

 

「……ピッコロ、余計なことをするな」

 

 相変わらず瞳を閉じたままベジータさんが静かにそう咎める。

 その言葉とは裏腹にどこかピッコロさんに感謝しているように見えたのは気のせいだろうか。

 

「……ふ、そいつはすまなかったな。……じゃあな、精々地球を壊さないようにな」

 

 ニヤリと笑みを浮かべたピッコロさんはそう言い残し飛び立っていく。クリリンさんも「じゃあな~」と付いて行く。

 

 ……ピッコロさん、かっこいいじゃん。

 

 ピッコロさんの粋な大人の立ち振る舞いに素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の視線の先で、少し距離を空けて向かい合う父さんとベジータさん。

 俺と父さん達とはそれなりに距離が離れているにも関わらずこちらにもびりびりとした緊張感が伝わってくる。

 隣に立っている兄ちゃんとトランクス君も背筋を伸ばして二人に視線を向けている。

 暫く静寂な時間が過ぎる。

 そして、

 

「……カカロット、この時を楽しみにしていた。……あの世での修行の成果、見せてもらおうか」

 

 静かにそう言ったベジータさんは、次の瞬間全身に力を込め気を解放する。

 ベジータさんの全身が金色のオーラに包まれ、その髪色も金色に変化する。少し遅れてこちらにその膨れ上がった気が伝播してくる。

 ベジータさんが超サイヤ人2に変身したのだ。

 

 ……本当だ。

 ベジータさんも兄ちゃんと同じように超サイヤ人2を極めている。

 

 原作ではバビディの力を借りてようやくたどり着いた領域に独力で踏み込んでいる。

 ……いや、それ以上か。

 ピッコロさんが兄ちゃん以上だと言ったのにも頷ける。

 超サイヤ人2になることなど造作もないといったようなベジータさんの落ち着きよう。兄ちゃん以上に精錬されている。気に一切の乱れが無い。超サイヤ人2であれほど穏やかに気を保てるものなのか……。

 トランクス君も「パパ、やっぱりすげぇ!」と大興奮である。

 

「……ピッコロの言った通りだな。じゃあオラもいくぞ!」

 

 俺が驚いていると、そう気合の掛け声と共に父さんも同様に超サイヤ人2に変身する。父さんの気がベジータさんと遜色ないほどにまで膨れ上がる。 

 

 ……やっぱり父さんも凄い。

 

 あの世でただ一人修行に打ち込んで、超サイヤ人2を極めさらにその先にまでたどり着いたのだから。原作を知っている、つまりその先を知っている俺とは違う。未知の扉を絶え間ない修行の果てにこじ開けたのだから。

 唯一、原作通りの強さにも関わらず強くなったZ戦士達を圧倒する存在が主人公である孫悟空という存在なのだ。

 

 

 

 合図は無かった。

 父さんとベジータさんが示し合わせたように同時に動く。

 

 

 

 ドンッ!!!!!!

 

 

 

 互いの拳がぶつかり合った衝撃が轟音と共に周囲に響く。

 全くの互角。

 拳を通じて相手の実力を正確に理解した父さんとベジータさんの表情に不敵な笑みが浮かぶ。

 

 そこからは、俺でも目で追うのが困難なほどの無数の攻防が目の前で繰り返される。同じ超サイヤ人2でもここまでの動きができるのかと驚くほどだ。やはり、俺やトランクス君の動きとはまるで違う。動作の一つ一つの完成度が違う。一挙手一投足に数々の戦略や駆け引きが含まれている。今の俺では二人を相手に十秒ともたないだろう。……そう今は。

 俺はただ戦いを感心しながら見るだけではなく、動きの一つ一つを自分の中に落とし込んで強くなる為の糧にしていく。隣で集中して見ているトランクス君も恐らく同様のことをしているのだろう。

 

 

 

 どれだけ時間が経っただろうか。

 二人の体も完全にエンジンがかかったのか、そのパフォーマンスは最高潮であるように思える。

 間違いなく二人は全力だ。

 なのにどこか余裕がある。

 ここまで来て俺は確信していた。

 

 ……まだだ、まだだよ父さんにベジータさん。

 その先を見せてよ!

 

 

 

「……やめだ」

 

 

 

 空中高くで戦っている時、ベジータさんが唐突に動きを止める。

 父さんも同時に動きを止める。

 ベジータさんは嬉しそうに父さんを見つめる。

 

「……流石だ、カカロット。全くの互角とはな」

「オラもびっくりだぞ……。あの世で相当修行したのにな」

 

 父さんも嬉しそうに笑みを浮かべながら答える。そして父さんは何かを期待するようにベジータさんに続きを促す。

 まるでベジータさんがこれから何を言うのかを理解しているようだ。

 

「……ふん、カカロット。まだ全力じゃないんだろう?」

 

 そんな父さんの思いなどお見通しだというようにベジータさんが問いかける。

 

「…………その通りだ」

 

 嬉しそうに答える父さんにベジータさんは合点がいったというように、くくくと可笑しそうに笑う。 

 

「……やはりな。……カカロット、お前があの世にいる間に、俺はなぜカカロットに常に一歩前を行かれていたかが分かったんだ」

 

「……そうか。ベジータが変わったのはそのせいだったか。…………今の地球は面白そうだもんな」

 

 そう言いながら父さんがちらっとこちらのほうに視線を投げかけて来た。

 距離がある為、聞き取れないが何をしゃべっているのだろうか? ピッコロさんなら聞き取れたのだろうが。

 

「さあ、カカロット。これからが本番だ。悟飯が切り開いた超サイヤ人を超えた超サイヤ人。……そして俺達はさらにこの壁を超えることができる。その姿で戦うぞ」

 

「……そうしたいところなんだが、これ以上の力で戦うとこの世にいられる時間が減っちまうんだ。それほどのパワーを使っちまうからな」

 

「……なるほどな。なら一分だ。一分で全てを出し切って決着をつけるぞ」

 

「それくらいなら大丈夫だ!」

 

「決まりだな」

 

「ああ!」

 

 その言葉を最後に父さんとベジータさんが同時に気合を込める。

 どんどんと、二人の気が膨れ上がっていく。

 離れているこちらも全身が痛いほどの気の嵐にさらされる。

 あまりに膨大な気の量に地球全体が揺れる。

 気の上昇と共に父さんとベジータさんの髪が伸びて姿が変わっていく。

 そしてとうとう、二人が超サイヤ人3に変身する。

 同じ変身をした二人はこれから行われる戦いが楽しみで仕方がないというように笑みを浮かべながら視線を交わす。

 

 ……すごい、本当に。

 まさかこんな光景を見ることができるなんて。

 この世界に来てよかった。

 …………それでこそ、最強になりがいがあるというもの。

 絶対に皆を超えてみせる。

 

 俺が静かにそう決意している時だった。

 唐突にベジータさんがこちらを振り向きこんなことを叫んできた。

 

 

 

「悟天!! 俺達の戦いで地球に被害が及ばないように俺達を巨大なバリアで包め! 一分間だ!」 

 

 

 

 え? それ結構しんどい……。

 

 でも確かに今の二人が全力で戦ったらやばいかも。父さんと魔人ブウと戦ってた時も凄い被害出てたし必要かも。

 しかし今の二人の攻撃を俺のバリアで防げるのかという疑問もある。まあ完全に防げずとも軽減はできるか。それに兄ちゃんとトランクス君もいるし、何とかしてくれるか。

 ちなみに父さんも頼むって感じでいい笑顔で親指を立ててきている。

 

 …………仕方ない、二人の戦いが見られるなら!

 

「分かりました!」

 

 ベジータさんの意図を理解した俺は超サイヤ人2に変身して二人に近づいてく。

 

「うわあああああ!!!」

 

 気合の咆哮と共に半径数百メートルにも及ぶ巨大なバリアを展開し、二人を包み込み、空中に巨大な球体が浮かぶ。

 これで決戦の場は整った。

 

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