間違えて極振りしてしまったのでこのまま進めようと思います。 作:名もなき駅員
遅れた言い訳ではありません(大嘘)
「うーん、ないなぁ」
ないというのは、言わずもがなクエストである。当たり前だが、こんな深夜では流石にプレイヤーは少ないので、片っ端からNPCに話しかけてクエストがないか聞きまくっている。だが、一向にクエストが現れないのだ。
諦めかけていたその時。
「お前さん、こんな夜分に起きてるなんぞ風変わりな奴じゃのう。それともあれか、夜の宴に興味があるのか?」
唐突に年寄りに話しかけられた。その老人がロールプレイでもない限り間違いなくクエスト、それも会話文の内容的に深夜限定のレアなものである。
ようやく出た収穫にブレイブは爛々と目を輝かせ、迷わずYESと選択する。
「ほう、こりゃまた風変わりな奴じゃ。どこから嗅ぎつけたんだか…まあいい。ついて参れ」
ブレイブが言われるままに老人について行くと、屋敷のような場所についた。
「儂らは毎晩ここで宴をしているんじゃよ。どれ、まずお前さんが宴に参加する資格があるか計ってやる」
年寄りはそう言うと、どこからか木刀を出して斬りかかってくる。何となく予想できていたブレイブはそれを苦もなく回避し、クナイを投げて年寄りの眉間に刺す。
「ぬ、ぅ…」
ダメージを受け老人が一つギアをあげた。先ほどよりも洗練された動きで木刀を振るい、的確にブレイブの脳天を狙うも、ブレイブの反応速度には一歩及ばなかったようだ。
「近づかなきゃいいって話なんでな」
「ぐっ…!」
ブレイブはMPポーションを惜しみなく使用し、老人の間合いに入らないように注意しながら老人にクナイを投げまくる。いくら強くとも、いずれ限界は来るものだ。
次第に老人のHPは削れていき、最終的に地に倒れ伏す。
「…見事じゃ。では、参加を認めよう」
「あ、ども」
ブレイブは未だにこの宴とやらが何なのか全く分かっていない。しかし、老人の厳格な態度から察するに重要な儀式などの最中だという事は見て取れた。
「我ら導きし巨神よ、現界に顕現せよ…」
案の定、ブレイブ入って早々黒魔術の現場を目撃し、宗教団体らしき謎の男達と戦闘する羽目になった。
「あいつら射程範囲広すぎだろ!?」
ブレイブは何度か戦闘を経験していることもあって、【孤立】が発動する条件として『周囲にモンスターやプレイヤーがいない』と記載された説明が実は『相手の間合いに自分が入っていない事』である事を見抜いていた。そのため、魔法や弓と言った長射程の武器を主なダメージソースとする相手との戦闘は面倒なのだ。
「しょうがない、ステータスダウン覚悟で近接戦に持ち込むか…」
相手の間合いに入っただけで、自分の動きが三分の一になる。離れれば、元に戻る。そんな急激な感覚の変化について行けるのは、ブレイブが長年培ってきた豊富なゲーム知識と経験があってこそである。
「【ダブルスラッシュ】!」
「っぐ…!」
魔法を撃つだけあって防御に関しては紙耐久だったらしく、ブレイブの【STR】でも比較的あっさりと倒すことが出来た。しかし、謎の男が死に際に放った一言でブレイブはより一層気を引き締めることとなる。
「怠惰を司る丑三時の邪神が今蘇った…!お前も道連れだ!」
ブレイブの目の前に朱色に輝くヘドロのようなものを纏った、ボスにしても大きすぎるサイズの巨人が現れた。どうやら彼らの儀式に巻き込まれたらしく、この邪神と呼ばれた巨人を倒さないとブレイブは制限時間によって死亡してしまう。
「だけど、相性が悪かったみたいだな」
ブレイブはニヤリと笑う。
普通ならこんな大きさのボスの対処には時間がかかるだろう。最悪無抵抗のまま死ぬかもしれない。だが、ブレイブはこんな敵でもどうとでも対策できるのだ。
「【ワイヤー】!」
ブレイブは糸を使い巨人の後ろに回ると、標的を見失って狼狽える巨人にクナイを投げ、時にはアイテムも使ってあらゆる手で巨人へダメージを負わせようと試みる。しかし、巨人のHPバーは依然として動こうとしなかった。このボスは典型的な耐久型であり、初心者の一撃ではびくともしないのだ。
「防御力高いなコイツっ!毒も効きそうにないし…じゃあ試しに使ってみるか。【八方塞ぎ】【極限集中】!」
半ば何も考えずに放った新しいスキルだが、ここで思いっきり戦況がひっくり返る。というのもこの新しいスキル、実は性能がブレイブと合いすぎた、暗殺に長けた代物なのだ。
【八方塞ぎ】
発動中ステータスが室内では四倍、室外では二分の一になる。
被ダメージ二倍。
取得条件:12時間室内に籠もる。
【極限集中】
攻撃の際、弱点を可視化する。
クリティカル発生時与ダメージ三倍。
使用後一分間移動不能。
取得条件:8時間以上瞑想する。
つまり、現在LV10のブレイブのステータスが四倍になり、確実に弱点を攻撃できるようになったのだ。巨人は後ろからの不意打ちのため防御も出来ておらず、クリティカル発生率は限りなく高かった。そんな中スキルによって文字通り極限まで研ぎ澄まされたブレイブの一撃が入れば、ボスが沈むのも頷けることなのだろう。
『レベルが17に上がりました』
瞬殺。
そう、その言葉が正しい。
二つのおふざけスキルによって【STR】がどんどん倍に上がり、オマケにクリティカルも発生したのだから当たり前だろう。ボスがお亡くなりになるのも当然と言えば当然だ。
「何とかなったか…」
そして、カンっという金属質な音と同時に円柱状の何かが落ちてきた。
これは特別な装備、所謂クエスト報酬というものだ。
「えっ…エナジードリンクの缶か、これ?」
ブレイブは困惑しつつも武器を拾い、ステータスを見る。クナイとは到底思えないスチール缶のような形をしたそれはちゃんとした武器らしいが、装備してなお強くなったような気はしない。
【夜宴ノ黒缶】
【INT+45】【破壊不可】
スキル【常闇の缶音】
「ふむふむ…」
武器に付与されている【常闇の缶音】。
ブレイブはそのスキルの詳しい情報を知るためにパネルに表示された武器の詳細からスキル詳細の方に目を移す。
【常闇の缶音】
所持金を消費することで【夜宴ノ黒缶】を複製する。
投擲可能で効果を発動できる。ただし戻ってこない。
種類によって発生効果、発生条件が変化。
つまり、金さえあればいつでも投擲ができると言うことになる。発生効果は状態異常やデバフなどサポートに特化しているものが大半で、発生条件は速攻発動、任意発動、条件発動の三タイプ。
見た目以外は性能も中々強力でスキルも便利な良装備だが、今はブレイブを待っているであろうイズに報告する事が最優先なため、急ぎ工房に向かった。
「お疲れ様。どうだった?強かったでしょ」
「まあそうですね。でもこの【宵闇】のお陰で勝てましたよ。すごい量の【AGI】強化がついてて助かりました」
ブレイブがそう言うと、イズは嬉しそうな表情を浮かべた。自分の作った装備が、それも全身全霊を込めて作った自信作が絶賛されて嬉しいのは当たり前だ。
「良かったわ!…それじゃあまた今度。私はもうログアウトするわ〜」
「はい、それじゃあ……あっ…」
ブレイブは嫌な予感がしたためにイズと同時にログアウトした。
先程までやっていたゲームを閉じ、VRゴーグルを外して時計に目をやった瞬間、凛々は覚悟を決めていたにもかかわらず背筋が凍った。現在、午前七時五十分。
授業開始は八時である。
「遅刻するっ!」
凛々はゲームハードの電源を乱暴に落とすと着替えを手早くすませ、朝食も取らずに家から飛び出し、自転車に無造作に乗ってハンドルを強く握りしめながらペダルにかつてない程の力を込めた。
武器クナイじゃないじゃんっていう苦情は受け付けません。
ブレイブのモチーフになった友人が「武器はエナドリがいい」とか言ってたのでこうした結果です(責任転換)