記憶の壊れた刃   作:なよ竹

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ピカピカの新十刃

 新しい十刃(エスパーダ)が生まれた。

 その藍染からの簡素な報せだけで十刃(エスパーダ)たちはとある広大な広間へと集められ、野次馬などは自由に足を運び、かなりの人数がそこにはいた。彼らは中央を円を描くように囲み、端の闇に紛れるように存在している。

 彼らは見ていた。その新しい十刃(エスパーダ)の実力を。......正確には、見ようとしたのが正しいのだが。

 

 幻光閃(セロ・エスベヒスモ)

 

 薄暗い黒を消し飛ばすように、やけにカラフルな光が景色を染め上げ、視覚という五感の一つを完全に潰す。

 気に入らないから。自分のほうが十刃(エスパーダ)に相応しいから。ただ殺したいから。

 そういった理由で挑戦した九人の破面(アランカル)も、目を完全に使い物にならなくさせられた。戦いに特化した彼らが動揺から持ち直すには、一秒さえあれば十分すぎるほどの時間だ。

 そして捕食者が命をからめとるのには、たったの一瞬さえあれば余裕でもある。

 

 虚楼響転(オブスクーロ・ソニード)

 

 九人の背後に、九人の小さな人影が生まれた。

 それらの影は予備動作なしの貫手を右手でつくり、突き出す。

 鋼皮(イエロ)を食い破り、肉を裂き、骨を潰し、そしてその下の心臓を破裂させた。

 光が噴き出したのは一瞬のこと。集まっていた破面(アランカル)たちはすぐに平静を取り戻し、なにが起こったのかを見定める。

 目で捉えられたは、心臓があるであろう部位から血を噴水のように噴き出す九人の挑戦者たちの姿。彼らは足の力を失うように床に崩れ落ちた。

 最後に立っていたのは一つの小さな存在だけ。己の手の内を晒さず、しかし結果を作り出している。

 上段にある身の丈を越した椅子に座っていた藍染が微笑を浮かべる。

 

「他に『彼女』に挑戦する者はいるかな? 私としても頻繁に十刃(エスパーダ)の座が変動をするのは好ましくないと思っている。『彼女』が十刃(エスパーダ)に相応しくないと思う者がいれば、自らの力でその座を奪ってほしい」

 

 返ってくるのは沈黙のみ。これで認めたわけではないものもいるだろう。しかし異議を唱えるものはいない。

 十刃(エスパーダ)たちも特に何も言わなかった。

 この場にいるのは九人のみ。いないのは第7十刃(セプティマ・エスパーダ)......『元』第7十刃(セプティマ・エスパーダ)ゾマリ・ルルーだ。彼は『彼女』に挑み、そして返り討ちにされていた。その事に憤る者はいない。少しばかりの悲哀、脆弱さを嘲笑う空気、無感情。そういった反応はしても、生き死にを掛けて命を失うのは当たり前である。

 訂正するのなら、この場には新入りを含めて十刃(エスパーダ)が揃ったということだ。

 

「では、ニルフィネス・リーセグリンガーを第7十刃(セプティマ・エスパーダ)として認めよう」

「え? あ、はいっ、頑張ります!」

「これで君は皆に認められたばずだ。新たな十刃(エスパーダ)として相応しいとね」

「藍染さまの期待に応えられるようにします!」

 

 気持ち悪そうに手にべちゃりと付着した血を払っていたニルフィが、慌てて一礼する。

 破面(アランカル)にしてはかなり幼い姿だ。春風が吹いただけで飛ばされそうなほど、小柄な少女は儚げで華奢な肩をしていた。水に濡れたような光沢を持つ腰までの流麗な髪が色香を漂わせ、伏目がちの黄金色の双眸が無邪気かつ無垢な光を宿しているのが分かる。

 仮面の名残であろう大きな角が、耳の上から髪を掻き分けて後頭部にまで沿うように伸びていた。

 腹部で開いたパーカーのようなフードから所々覗く真珠色の肌は、傷を付けることなどおこがましいにもほどがある。

 

 だからこそ、今しがた死んだ破面(アランカル)たちは挑んだのだが。

 

 彼らはニルフィがこの広間へとやって来た時から憤りを感じた者たちだ。

 十刃(エスパーダ)となったのが、よりにもよってこんな少女? なぜ自分ではない。今でさえ挑めば楽に(くび)り殺して自らが十刃(エスパーダ)として咲くことができるというのに、と。侮りと傲りが感情を支配し、あらゆる要素に惑わされて命が消えてしまったのだ。

 戦いの結果を外から見届けたバラガンは、あの九人と一緒に挑もうとした配下の血気盛んな若い破面(アランカル)へと言葉を掛けた。

 

「言ったじゃろう、あの馬鹿どもと一緒になりたくなくば、見ていろとな。我が配下であるのならば犬死(・・)は許さん。貴様のような愚者を儂はいくらでも見ておる」

 

 その破面(アランカル)は悔しそうな顔をすると、元いた場所へと戻っていく。その態度は本来ならば不敬であるが、バラガンが咎めることはしなかった。

 あの少女を初見で警戒しろというのが無理な話だ。バラガンでさえ、最初は油断をして痛い目を見ていたのだから配下の若者に強くは言えない。油断は戦いの中で最も忌むべきものなのだ。それを無意識に相手に刻み込むことに関しては、ニルフィほどのものはいないだろう。

 それにゾマリが掛かったのか、それとも単純な実力差か。

 どちらもだろう、というのがバラガンの予想で、それはたしかに当たっている。

 

「えっと、その、よろしくお願いします!」

 

 ペコリ、と少女が先ほどの虐殺などなかったかのようにお辞儀した。

 

「改めて、私はニルフィネス・リーセグリンガー。どうかニルフィって呼んでね。ここではのんびり暮らしたいから、みんな仲良くしてね」

 

 天真爛漫な笑顔のまま、手にくっついた血を霊圧で弾いて汚れを落とす。

 背中を虫が這いまわるような錯覚をニルフィの過去を知っているものたちは受けた。

 

 ああ、コレは昔のまま、バケモノとして生きているのだと。

 

 ニルフィが藍染に呼ばれてここに入って来た時から、覚えのある特徴的な霊圧に身を震わせた。

 久方ぶりに思い出した感情だった。これは恐怖だ。忘れもしない、絶対的な畏怖。

 なぜここにいる。あのバケモノが。ありえない。死にたくない。喰われたくない。

 姿形がいくら可憐で小さな花だとしても、彼らはもう騙されることなどしない。運よく生き残り、そしてその惨状を眼前でありありと見せられ、心を砕かれたのだから。

 彼女の容姿を前にして、挑戦者が九人だけなのはあまりにも少なすぎた。

 少し前にウルキオラが第4十刃(クアトロ・エスパーダ)になった時も同様に挑戦がありはした。結果はウルキオラがこの場にいることで推して知るべし。そのことに警戒もしていたが、それを忘れさせるほどの人畜無害な容姿に釣られてしまったのだ。怯えを周囲に悟らせないようにするものとは違い、ただ単純に『アレ』に対して無知だったから。

 彼らが共通に思ったことは単純にーー勝てない。それだけだ。

 

「おめでとう、ニルフィ、これで第7宮(セプティマ・パラシオ)は君のものとなる。世話のための下官はすぐに手配するが、君はまだこの虚夜宮(ラス・ノーチェス)に来たばかりだ。分からないことも多いだろう」

「だ、大丈夫です......」

「遠慮する必要はない。君は十刃(エスパーダ)となったのだからね。従属官(フラシオン)を付けることを(すす)めるが、何人ほど必要かな?」

「二人、くらいは必要になると思います。いきなり多くても纏められないので」

「そうか。--では、この場に彼女の下に従属官(フラシオン)として就く者はいるかい」

「え?」

 

 そんな酔狂な人物がいるのかとニルフィの口から声が漏れる。彼女は自分の姿をよく理解していた。そのため、こんな弱そうなヤツの下になろうとする人物がいるはずもないと思ったのだ。

 

「......俺がなろう」

 

 いた。それも見覚えのある巌のような大男だ。

 破面・No.101グリーゼ・ビスティー。彼が影から踏み出すように現れたことで、周囲の従属官(フラシオン)や他の2ケタの破面(アランカル)たちは少なからず驚きの気配を出す。プライドの高い元十刃(エスパーダ)従属官(フラシオン)となること以外にも、どよめきには理由があったようだが、新参のニルフィには知りえないことだ。

 藍染がグリーゼに訊く。

 

「いいのかい、グリーゼ?」

「......名を覚えて頂けていたことに至極恐縮」

「君のような人材が彼女の従属官(フラシオン)となるのは驚きだ。しかし決めたのなら仕方がない。彼女の元で力を振るってくれ」

 

 言葉ほど驚いているようには見えない藍染が頷く。それを許可と取ったグリーゼがニルフィの元へと歩み寄った。ビクリ、とニルフィが体を強張らせるも、グリーゼは目礼をするだけで特になにかすることはなかった。

 

「他に望む者はいるかな?」

 

 藍染が目を眼下に奔らせた。

 そこに、一人の紳士が足を踏み出す。整えられた(ひげ)をしごきながら、おろおろしているニルフィを見据える。

 

「ふむ、これも何かの縁であろう。驚きもある。しかし! 麗しきお嬢さん(ニーニョ)騎士(ヒネーテ)となるのも、吾輩、やぶさかではなくーー」

「はいはい、どいて! アタシ、アタシがその子の従属官(フラシオン)になります!」

「へぶらっ!?」

 

 意気揚々と前口上を述べていたドルドーニは、背後からの突然の蹴りで吹き飛ばされた。

 ドルドーニが床に倒れ込んだまま必死の形相をし、その人物へと向けて指を突き付ける。

 

「き、君ぃ! なにかね! 吾輩の高貴かつ優雅なる登場を蹴り一つで潰すとは!」

「これは早い者勝ちですよ? 競争相手は蹴落としたっていいんじゃないかしら。それを言うなら、あなたは蹴り一つで蹴落とされたってことになるわよ」

「むぐぅっ!」

「それにレディーファーストが紳士の心情ですよ。あれ? ここにいる紳士さんは、私に従属官(フラシオン)になる権利さえ譲ってくれないのかなぁ?」

「ぐ、ぅおおおぅっ、久しぶりの再会ながら、君はまったく変わっておらんようだ」

「お互い様、でしょ?」

 

 クスリ、と笑って、その女が肩ほどまで伸ばした朱色の髪をかき上げる。

 彼女を見て、広間にさらに動揺が生まれた。

 破面・No.110アネット・クラヴェラ。怜悧(れいり)な美貌をした女型の破面(アランカル)だ。お淑やかな容貌に似合うような、ロングタイプのワンピースじみた死覇装を着ており、腰あたりまでの大胆なスリットからは妖しい色香の漂う太ももが覗く。

 その中の秘境を一目見ようとドルドーニが首を伸ばし、その顔面がアネットの鋭い蹴りが炸裂した。

 

「ふぐぉっ!? は、鼻が! 花のように散る!」

「ま、いいですよね。どうせどっちも十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)なんですし、男と女だったら彼女にとっても女のほうがお得ですよ。ねぇ?」

「う、うむ......。それでいいだろう。だからこのまま頭を踏みつけないでほしい。幼さへの誘惑を振りきったと思ったら、別の性癖に目覚めそうなのだ......!」

「決まりね」

 

 アネットがニルフィへと向き直り、少女へと歩み寄る。

 二人のやりとりに引いていたニルフィは体を固まらせるも、彼女の前へとやって来たアネットはそっと目線を合わせ、優しい表情となった。

 

「アタシはアネット・クラヴェラ。よろしくね、ニルフィちゃん」

「う、うん。よろしく」

十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)なんだけど、それでも従属官(フラシオン)として認めてくれる?」

「地位とかそんなの、私はよくわかんないからさ。アネットさんも敬語なんて使わなくてもいいんだよ?」

「ありがとう! 優しいわね!」

 

 警戒を解いたニルフィはアネットに抱きしめられた。熾烈なのはあくまでもアネットの一面だけなのだろう。とても優しく、大切なものを抱くような抱擁だ。 

 ただし他の実力者以外たちの顔色は優れない。十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)の変り種であるアネットは、唯一自分から十刃(エスパーダ)の座を降りた存在なのだ。3ケタ(トレス・シフラス)の巣でもあまり目撃されない彼女がどうして表に現れたのかと、一様に猜疑的な視線を送り、そして考察する。

 

「スーハースーハー、きゃーっ、髪もすごい良い匂い! お肌もこんなにすべすべでプニプニ~、これは天国のもち肌か! 涙目の顔も可愛くて、もうベッドの中で可愛がりたいよぉ! ク、クッヘヘヘヘ、たまらんなぁ、たまらんねぇ、この慎ましやかな胸もさぁ。こんな小っちゃくて可愛い娘と一緒にいるなんてもうーー役得」

 

 鼻息荒くだらしない笑顔のまま抱きしめている幼女をまさぐっている姿を見ると、すぐにでも考えることをやめてしまいたくなるのだが。

 ニルフィは泣くのを堪えながらドルドーニへと視線を送るが、紳士は胸を押さえながら何かを抑えるのに必死のようだ。内なる衝動とかそういったものと。これをアウトかセーフで表すならば、チェンジ! と声高に叫ぶところなのに。

 もう従属官(フラシオン)にすると宣言した手前、撤回するのもはばかられた。その時にアネットに何されるか分かったもんじゃない。純粋に身の危険で怖いのだ。

 

「決まったようだね」

 

 言葉を失うような光景を前にしても、藍染のスルースキルは高かったらしい。

 

「グリーゼ・ビスティー、アネット・クラヴェラ。両者を従属官(フラシオン)として、ニルフィは第7十刃(セプティマ・エスパーダ)となる。これでいいかな?」

「い、嫌............いえ、いいです。はい」

「それはよかった。では、ここで解散しよう。集まってくれてありがとう。あとは自由に戻ってくれて構わないよ」

 

 愛染が去り、破面(アランカル)たちも各々に広間を出ていった。

 眼帯を付けた非常に長身の男が去り際にニルフィを睨んだが、件の少女はいまだにアネットに弄ばれており、気付いてすらいないようだ。

 グリーゼがそれを見かねてアネットを引きはがす。

 

「なによう、グリーゼ! まだ可愛がっている途中なのに!」

「......主も困っているようだ。それにまだ、正式な自己紹介すらしていないだろう」

「あ、そうでしたね。では改めて、と」

 

 アネットは名残惜しそうに立ち上がった。ニルフィとしては解放されて万々歳である。

 キワモノ二人の従属官(フラシオン)がニルフィへと向き直った。

 その立ち振る舞いは、さすがは元十刃(エスパーダ)といったところか。風格の漂う霊圧が、ただの無意識で空気を振動させるようだ。

 

「......グリーゼ・ビスティーだ」

「えっと、その、さ。グリーゼさんはなんで私の従属官(フラシオン)なんかに立候補したの? 私は主としても、あんまり褒められた性格じゃないんだよ。それに前にキミは私の配下になるとか訳わかんないこと言ってたけど、それもキミに勝ってからでしょ?」

「......先の戦いを見た。見事な手際と評そう。本気とはほど遠いだろうが、あれで十分だ」

「そっか」

「......時間があれば手合せ願いたい」

「初めての命令が『襲い掛かってこないで』になりそうだね」

 

 戦いに独自の固執があるだけで、グリーゼの人柄は真っ当な部類に入るのだろう。

 まともな部下を思わぬところから手に入れられて、ニルフィは付いていたかもしれない。

 そしてニルフィは、どう考えても真っ当ではなさそうなほうの従属官(フラシオン)へと顔を向けた。嬉々として、アネットが胸を張る。

 

「もう一度言うけど、アタシはアネット・クラヴェラ。好きなものは可愛いもの。嫌いなものは筋肉ダルマよ」

 

 じろり、とアネットが隣の筋骨隆々な大男を見た。

 美人の怖い顔は迫力のあるものだが、グリーゼは熊のようにのっそりとどこ吹く風だ。

 

「え、それじゃあ、なんで私の従属官(フラシオン)に?」

「もちろんニルフィ、貴女が可愛いからに決まってるでしょ!」

「わわっ!?」

「アタシはね、地位とかそういうのには無頓着なんですよ。それで自由にここで生きてきたワケなんです。貴女の下に付こうと思ったのも、言いようによっては暇つぶしみたいな。あ、でも忠誠はちゃんと誓うわよ。それを骨の髄まで教えてアゲル!」

「だ、ダメだって! ひうっ、ふ、服の中に手がぁ......!」

「一目惚れよ一目惚れ。こんな可愛い子になら、身を尽くしてもいいかなって。あ、信用してない? なら教えてあげますよ、どれだけ本気かってのを! 貴女のカラダに、ね」

「や、やめてぇ! そこダメ、あぅっ、ダメだって! グリーゼさん助けてぇ!」

「......承知」

「ちぃっ、この筋肉ダルマ! いまイイとこなのに!」

 

 早くも騒がしい第7十刃(セプティマ・エスパーダ)の主従たち。

 それを見ていたバラガンはやれやれと首を振り、せっかくなのだからと祝い事の一つでも言ってやろうと足を踏み出した。

 

『む......』

 

 同じタイミングで、同じ動作をした者が他にもおり、彼らは眼を細める。

 バラガンの右側のハリベルも、左側のアーロニーロも、ニルフィの元へと歩いて行こうとしたところだった。

 ならば一緒に行けばいいのだが、プライドの高い十刃(エスパーダ)である彼らはそれを許さなかった。

 なんか小っ恥ずかしいとか、らしくないという意識がそうさせたのか。何気なく話しかけて思い出したように褒めてやるつもりが、それが三人ともなれば褒めるために意図的に近づいたように見られるかもしれない。

 難儀なものだ。

 

 どっか行け。

 貴様こそ。

 邪魔。

 

 類見ない視線の牽制だった。霊圧が剣のように尖り、彼らの従属官(フラシオン)たちが身をすくませたほどだ。

 彼らは先にニルフィへと近づこうとさらに足を踏み出し、

 

「リーセグリンガー、どうやら無事に終わったようだな」

 

 思わぬ伏兵に撃沈された。

 

「あっ、ウルキオラさん」

「聞いたぞ。俺の宮に来るはずが、まったく別の所に辿り着いたらしいな」

「白々しいね。知ってるんだよ、キミも加担してたってことくらいさ。そのせいでこんな十刃(エスパーダ)にまでなっちゃって......」

「藍染様の計画だ。不満を言うな」

 

 ニルフィたちの背後ではアネットとグリーゼが言い争っており、これからが心配になる。

 

「でも、いいのかな」

「なにがだ?」

「私なんかが十刃(エスパーダ)になっちゃってさ。別に7の番号にはこだわりなんてないし、もしかしたらあの二人のことを率いることもおこがましいかもしれないんだよ」

「決めたのは奴らだろう。それを疑うこと自体が奴らへの裏切りだ。それを知っておけ」

「......そうなの?」

「喋りすぎたな。あとは自分で考えろ。お前の頭では理解までには及ばないだろうが」

「むっか、今度ウルキオラさんの宮の壁に落書きしてやるからね!」

「哀れなほど小さいな」

 

 背を向けたウルキオラは一度も振り返らず、入り口の扉を潜っていった。

 それに続いてバラガン、ハリベル、アーロニーロと、ニルフィも話しておきたかった人物たちがなぜか悔しげな空気を纏わせて出ていった。あとで挨拶参りに行こうと決心する。

 

「だいたいね、可愛い存在がなんでこの世にいてくれるか分かる? 愛でるためよ! 触りまくった手の感触思い出しながらご飯十杯はいけます!」

「......俺には理解できない性癖だ」

「性癖言うな! 志向と言え!」

「......葬討部隊(エクセキアス)に犯罪取り締まりの業務があれば、即座に捕まるな」

「ハッ、バレないようにヤるからいいのよ」

「......いっそ清々しいな」

 

 なぜか新参の自分のためになってくれた従属官(フラシオン)二人の騒ぎをBGMに、ニルフィが自分の両手を見下ろした。

 

十刃(エスパーダ)、かぁ」

 

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)に来たばかりの時には関係のない話だと思っていた。

 けれど、十刃(エスパーダ)となった。手を血で汚して。命を喰らって。そうして犠牲の上に成り立つ。

 それ以前だって、生きるための力を手に入れるために数えるのもバカらしい魂を喰らってきた。

 

「ぼちぼち、やってこっかな」

 

 死なないように。楽しんで生きるために。時間はまだある。

 自分の中で答えを見つけるのは、のんびりやっていけばいいだろう。




RoNRoNさん作
{IMG7941}

 プロフィール
 
 ニルフィネス・リーセグリンガー
 
 性別・女 

 身長・130cm

 性格・臆病(チキン)(たまに手がつけられないほど狂暴)

 好きなこと・食べること、お昼寝、イタズラ

 苦手なこと・説教、戦闘

 元最上級大虚(ヴァストローデ)の少女で、見かけだけならば人畜無害かつ戦闘力皆無な、とても弱弱しい容姿。
 可愛らしいという言葉が具現化したような姿を本人は気に入っていないが、流麗な黒髪は自分でも好き。怒った顔をしても蚊よりも怖くない。ただし霊圧が殺傷レベルを持つため注意。
 思考回路は子供と一緒だが、頭の回転はかなり早い。極度の方向音痴はそれでもカバーしきれないようだ。
 
 戦闘能力は高いが、記憶が無くなっているために今の本人も全容を捉えていない。
 技の模倣は能力ではなく個人的な技術によるもの。再現をするために必要なので、記憶力はかなりいい。ただし『視認』できないと形として表せず、さらに相手だけの固有の技(他人には絶対再現不可能の技)は通常の状態では模倣できない。
 響転(ソニード)が得意で十刃(エスパーダ)最速である。
 全体の戦闘能力を簡単に言えば、はぐれなメタルを超実戦的かつ強力に昇華させたような存在と考えてもらいたい。

 豆腐メンタルではあるが、戦闘となれば性格が豹変。あくまで内に隠れた暴虐性が表に出ただけであるため、二重人格というわけではない。どっちの性格も彼女の顔である。









帰刃(レスレクシオン)・『???』

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