サラリーマンの魂が入ったリン酸カルシウムの集合体「(……半分以上理解できなかったんですけど)うむ、全て見抜かれていたか。流石デミグラスソースだ」
大体こんな感じの話です。
皆は『陰()の実力者』を知っているかい? え、知っている? じゃあどんなものか教えてほしい。
主人公でもラスボスでもないにも関わらず物語に介入して実力を見せつけていく存在……ふむふむ。既存の知識は全て学びつくし新たな法則すら見つけ出す叡智……ほうほう。かっこいいとしか言えないカリスマ性あふれる立ち振る舞い……なるほど。
残念だけどそれは『陰の実力者』だね。『陰()の実力者』とは全然違うよ。()も入力ミスとかじゃないよ。まぁ結構わかりにくいと思うからさっさと言うね。
正解はぁ~~~。
「……陰キャの実力者ですハイ」
人気のない地下施設。コンクリートに似た壁に沢山ある穴から血走った瞳がこちらを見ているかもしれない、壊れた天井から落ちたと思しき大きな瓦礫の陰から髪の長い女がブリッジで飛び出してくるかもしれないという恐怖に怯えながら、ここに一緒に来た友達に『貴方は言わなくてもわかってると思うけど、敵にバレる可能性を低くするために明かりは持たないでね』と言いつけられ、真っ暗な道を頑張って進むためにテンションを上げようとしていた僕は一人泣きそうになっていた。
僕の名前はシド・カゲノー。ディアボロス教団に敵対する組織『シャドウガーデン』のボス。今年で十三歳です。
前世の名前は影野ミノル。普通の高校の三年生。享年十八歳です。
死因は交通事故。雲のない満月の夜に近所の森の中を散歩することが僕の趣味だったのだが、その帰り道にトラックに轢かれたのだ。あのトラックは恐ろしかった。咄嗟に避けた僕を四回も轢き殺しに来たのだ。まるで「オラッ! トラ転!」と異世界に転生するならトラックに殺されろと言わんばかりの意思というか殺意を感じた。
そういった経緯で僕は転生した。転生して三分くらいは僕を殺したトラックの運転手に『唐突に森の中で全裸になって大木に出血するまで頭を打ち続け、何故か車に自ら突っ込んで死ぬ呪い』をかけてやろうと考えていたが、周囲に漂う未知の粒子……『魔力』を見つけて異世界に転生したと気付き、無駄な思考をすぐにやめた。
転生は転生でも異世界転生。ラノベや漫画を嗜む者なら一度は求める夢である。生後数か月の赤子の身体だろうと魔力を使えば成人男性の倍以上の力を振るえると気付いた僕は二つの誓いを立てた。
一つは俺TUEEE系主人公になれるくらい強くなること。もう一つは脱・陰キャである。
前世の僕は陰キャだった。スーパーサイ○人やウルトラ○ンみたいな架空のキャラクターへの憧れを小学校高学年まで公言していて、おこちゃまだなんだといじめられてコミュ障に。中学生の間に筋トレと格闘技をやっていじめはなくなったし、高校も知り合いのいない所に進学したけど友達を作ることができなかった。唯一話せたのは西村さんという同級生だったけど、彼女から話しかけられたことに応じることはあっても自分から話しかけることは死ぬまでなかった。
前世で未練があるとすれば……一度彼女がチンピラに誘拐された時にホームセンターで目出し帽とバールを買った帰りに遭遇し、咄嗟にスタイリッシュ暴漢スレイヤーと名乗って助けたことかな。チンピラを全員殴った後に正体を隠したりしなかったらもっと仲良くなれたかもしれないのに……いやでもチンピラが相手とはいえ、躊躇なく人をバールで殴るような奴と思われて疎遠にされたら死にたくなってただろうし……。
まあそんな訳で今世を頑張って生きようと誓った。そして姉さんに陰キャにされた。
僕の生まれた家は魔剣士を代々輩出する男爵家で、姉さんは僕より二つ上。普通の貴族なら男が家を継ぐのが当たり前だけど、この世界は魔力を使えば女性でも強いので女が家を継ぐというのもよくあるそうだ。
姉さんはかなり筋がいいらしく、魑魅魍魎が蔓延る貴族社会を生き抜くために精神面も鍛えられており、とても気の強い美少女になった……陰キャが苦手な人種じゃないですかヤダー。
幼いながらに頑張って僕をあやそうとしてくれたんだけど毛布に僕を包んでひたすら転がされた時は三半規管が大変なことになったし、成長して自我がはっきりしてからはちょいちょいイジメてくるのだ。前世のいじめのトラウマも加わり、僕は姉さんに逆らうことができなくなった。姉と弟は女帝と奴隷の関係になるという噂は本当だったと知り、僕は枕を涙で濡らした。
とはいえもう一つの強くなるという誓いは守ってある。森への散歩がてら盗賊を相手にしてみたら余裕で無双できた。顔面が整っていたり語気が荒かったり強面だったら怯んでしまう僕だけど、人の尊厳を踏みにじっておきながらギャハギャハ笑って酒を飲むカス相手なら何も思わない。例え殺したとしてもね。言っておくけど姉さんにやられた八つ当たりとかではないからね?
そんなこんなで異世界に転生してからおよそ十年。いつものように憂さ晴らし、じゃなくて修行と社会貢献を兼ねて盗賊を狩っていたある日、僕はそれを見つけた。
一言で表現するなら腐った肉塊。性別も種族もわからず、辛うじて人型に留まっていて呼吸音が聞こえなければ、それが元人間とは思わないだろう。この肉塊は世間では<悪魔憑き>と呼ばれ、教会に処刑されて当然の化物と認識されている。貴族だろうと<悪魔憑き>になれば存在自体を抹消されることも珍しくない。
――まぁ<悪魔憑き>の正体はただの魔力暴走なんだけどね。
強くなる修行の一環で僕はわざと魔力を暴走させて痛い目を見たことがある。そのおかげで魔力暴走の波長の見分け方、その制御の仕方を学べたのである。
ついでに言えば姉さんで他人の魔力暴走を制御する練習もしている。ちょっと前から姉さんにも魔力暴走の前兆が見えていたのでストレッチと称して治療をしているのだ。目立ったり違和感をもたれたらいけないから少しずつだけど。別にストレッチをしたら姉さんのいじめが減るから手を抜いてる訳じゃないよ? ホントダヨ?
世間に<悪魔憑き>の正体を伝える気は微塵もない。僕みたいな子供が声高に叫んだところで信じてもらえると思わないし、真実が明らかになれば世界各地で混乱が起こるだろう。それに<悪魔憑き>を治せるのはおそらく僕だけだ。<悪魔憑き>の魔力は赤子の頃から鍛え上げた僕より多い。おまけに治すのも一日二日じゃ終わらないという。とにかく真実を明るみに晒しても面倒でしかないのだ。
でも僕は見つけた<悪魔憑き>を助けるために拾った。
……確かに世界中の<悪魔憑き>になった人は可哀想と思うよ。だけどテレビや新聞で加害者や被害者に対して怒りや憐れみを抱き続けろって言われても無理でしょ。自分の認知しない所で起きてるのがほとんどだし、所詮は他人事だからさ。
じゃあこの<悪魔憑き>も見捨てろって言う人もいるかもしれないけど、目の前で倒れてる人がいて助けられそうなら助けるでしょ。これは<悪魔憑き>のためじゃない。後味の悪い思いをしたくない僕のためだ。
――ということを<悪魔憑き>が治って見目麗しい姿に戻った金髪エルフの少女に説明したけど信じてもらえんかった。
捨て犬や捨て猫を拾ったら最後まで責任を持って飼えって言うけどさ、意思疎通の取れる人間はその括りに入れないでしょ? だから故郷の森に帰っていいよ、君の未来に幸あれって感じで送り出そうとしたのに全然帰ろうとしないの。終いには故郷には帰らない、助けてもらった恩は返す、前の名前も捨てるとか言い出すし。
だから『ディアボロス教団』とか『シャドウガーデン』とかないことないことを厨二な身振り手振りで語った。ちょっと調べたら嘘とわかるだろうし、シリアスな場面でここまでふざけたことする奴に恩を返そうなんて思わないだろう。僕だったら恩人だろうと殴る自信がある。
なのにさ……どうして『ディアボロス教団』や<悪魔憑き>の誇張しまくった設定が実在してるの? どうして仕方なくアルファと名付けたエルフは<悪魔憑き>を拾ってくるの? どうして同い年の女の子達の面倒を僕は見てるの?
銀髪エルフは毎晩泣き叫んで起きるから読み聞かせをしなきゃいけないし、黒髪エルフは頭いいのに常軌を逸したドジで危なっかしいし、犬っぽい獣人は強いのに馬鹿だし、水色髪エルフは自己肯定感が低いし、猫っぽい獣人は何でもできるのに飽きっぽいし、紫髪エルフは面倒くさがりだし。
アルファ以外にも本当のことを話そうとは思った。でもさ、でもさ……凄いですシャドウ様って心の底から思ってるって嫌でもわかる笑顔と眼差しを美少女達から向けられてさぁ! 女慣れしてない陰キャがその期待を裏切れる訳ねーだろちくしょう!
それから三年が経った現在、僕は攫われた姉さんを助けに皆と廃棄された軍事施設に訪れている。
嫌々だろうと三年も付き合っていれば情も湧く。だから僕一人で姉さん救助に向かうために
「廃墟とか本当に無理なんだよ~。アルファ達に無理矢理連れて行かれた先で<悪魔憑き>の超グロイ死体見たり実験体に襲われてトラウマなんだよ~。せめて月の光でも蛍の光でもいいから明かりが欲しいよ~」
とにかく考えたことを口に出して恐怖を誤魔化す。誰か一人でもいいから心配して一緒に来てくれたらよかったのに。
「いや、はぐれたのが僕だけで良かったかも。もしドジっ子のガンマがはぐれてたら死んでたかもしれないし」
拾ってきたのはほとんどアルファだけど、最終的に育てると決めたのは僕だ。だから僕は彼女達の命に責任を持たないといけないし、『ディアボロス教団』を潰した後のことも考えないといけない。
今悩んでいるのは結婚についてだ。女の幸せは家庭を持つことと言うつもりはないけど、多分一人くらいは子供を欲しがると思ってる。しかし女性側の魔力が男より多すぎると子供はできないのだ。これは研究でも明らかになっている。元<悪魔憑き>だった彼女達より魔力が多い男なんて僕以外知らないぞ?
それに将来悪い男を引っかけたり引っ掛かったりしないかも心配だ。未だに全員が厨二な言動であるほど尊敬の眼差しを向けるくらい僕に対する目は節穴だし、彼女達はスキンシップも激しい。一人を除いて身体の発育がいいからスライムスーツの姿もエッチだから、本当に思春期の男子には毒だ。
「特にゼータとか胸元おっぴろげて抱き着いてくるしなぁ……どうしたものか――」
「先回りされていたか……だが一人なら容易い!」
「ぎゃあああマッチョのおばけ!?」
「は? いや、なんだそのふざけた魔力してるお前の方がおばけ――」
ありったけの魔力を籠めて僕はおばけを成仏させた。恐ろしいおばけだった。筋肉ムキムキで全身血塗れ、目はビームが出そうなくらい赤く光っていた。何より僕の意識をかいくぐって目の前に現れたのだ。そんなのはおばけしかいない。異世界だからおばけはいるんだ。本当におばけって怖い。
「ふぇぇ、怖いよぉ……姉さーん、アルファー、皆どこなんだよぉ~……」
原作シャドウとの相違点。
強さは七割くらい。でも原作でのシャドウが強すぎるのであまり関係ないかも。
勘違いのされ方が違う。
緊張しいで情緒不安定。
強さが減った分、知能や優しさに割り振られてる。
七陰に原作より何倍も親密に接しているので、何倍も好感度が高い。
性欲がある←ここが重要。
もし前書きを見ることなく『陰』を音読みした人は変態さんです。