陰の実力者になりまして……   作:柔らかいもち

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 突然だが、言おう。ウザいとか馬鹿とか言われるかもしれないが、作者が言おう。

 ヴァイオレットさん……彼女は物語後半は幽霊だが、初登場時は触れる描写があった。つまり、四肢を拘束されている時も触れるんだ。

 後はわかるな? 今回の話はそのためさ。


十話 女神の試練

 イベントってどうしてこうも前置きが長いんだろうか。

 

 観客席から『女神の試練』の開幕セレモニーを僕は膝に頬杖をつきながら眺めていた。めっちゃダルそうな感じで挨拶やら来賓紹介やらパレードやらを見る僕と反対に、周囲は世界的大スターのライブ会場にでもいるんじゃないかってくらい盛り上がってる。

 

 理由は明白、貴賓席にいる王女二人と小説家だ。身分や立場が彼女達より上の人は沢山いるのにあえて美少女三人だけを来賓席の前列に座らせるところに客を集めようとするせこい魂胆が透けて見える。小説家ナツメもといベータが挨拶した時は野太い雄叫びが上がったほどだ。胸元開いてる上に前屈みになって谷間が見えるもんね……わかりやすい。

 

 そしてアレクシアがベータとバチバチに足元でやりあってる。お互いの引きつった笑顔と黒い笑み、お互いがいる側の身体の動きを見たらよくわかる。そんな二人の様子に一切気付く様子のないローズが微笑んでずっと僕に手を振ってる。わかりたくなかった。

 

 先日からローズの探知能力が僕限定で上がっている。観客席のどこに座るとか教えてないのにずっと目が合う。人混みに紛れて席を変えても腰を下ろした瞬間にこっちを向く。そのためローズは平等に笑顔を振りまくようになっているが、常にロックオンされてる僕からすれば恐怖でしかない。

 

 僕は『女神の試練』にエントリーさせられている。ちゃんと確かめたから間違いない。聖騎士とかいう教会の洗礼によって選ばれた教会を守る騎士が出てきて戦うようなイベントならさっさと負けて終わっていたのに、このイベントは競技場に入った挑戦者の力量を読み取り、それに相応しい古代の戦士を呼び出して戦闘不能になるまで戦い、決着がつくまで競技場が魔力のドームに包まれて外部から干渉を受けないらしい。

 

 うん、目立つことのできない僕からしたら「ウ〇コォォォ!」としか言いようのないイベントだ。どっかの騎士団の猛者でも古代の戦士が登場しないことが多々あるのにモブな僕が戦士を呼ぶだけでワンアウト。僕の前よりイベントに参加した人が呼び出したのより強い古代の戦士が出たらツーアウト。そんな奴にモブらしく無抵抗でいたら殺されること間違いなしでスリーアウトチェンジ。

 

 本当に、ほんっとうに俺TUEEEができないことが悔やまれる。常日頃は平凡も平凡な僕が超強い戦士を呼び出すことで「馬鹿な! 『女神の試練』があのような小僧を認めただと!?」みたいな厨二心を刺激する遊びができたのに。こんなんじゃ生殺しだよ……。

 

 ……ローズが『女神の試練』に申し込むのを止めれば良かったんじゃないかって? 薄らと黒く濁った瞳をうるうるさせながら『私のこと嫌いですか……?』って聞かれたら止めれるわけないでしょ! 取り返しのつかない方向に突っ走りそうだもの。

 

(うう、お腹痛い……トイレ行こう)

 

 数多くの悩み事や厄介事によるストレスで僕の胃腸は弱り切っているのだ。体調不良で棄権できないかなぁ……客は絶対にふざけるなって怒るし、ローズも悲しむから無理だろうな。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 突然だが僕は今異世界に転生してかつてないほど追い詰められている。

 

(どうしてこうなった)

 

 イベントが粛々と消化されていき、日が沈むと同時にメインイベントの『女神の試練』が始まった。観客のテンションと歓声のボルテージは際限なく上がっていたが、僕の心拍数と冷や汗の量も凄くなっていた。

 

 なんとこの時点でも僕は『女神の試練』を乗り切る方法を思いついていなかったのだ。焦りを誤魔化すためにミツゴシ商会の売り子さんから買った物を食べまくり、それを排出するかのようにトイレに行きまくった。

 

 それがまずかった。

 

 

 

「嘘だろう――紙が、ない」

 

 

 

 ただでさえ大勢の人が訪れるイベント。前世程のモラルやマナー、サービス精神がないこの世界の公衆トイレに紙の備蓄が大量にあるはずもなく、僕は便座の上で何も掴めなかった手を見て震えていた。まさか、これが真の『女神の試練』――!?

 

「次はミドガル魔剣士学園からの挑戦者! シド・カゲノ―!!」

 

 ボケた僕に天罰でも下ったのか、よりにもよってそんなタイミングで自分の番が来た。陰キャは人を待たせて迷惑をかけて嫌われること、厳密にいえば邪魔だなコイツみたいな批判的な視線を向けられることに弱い生き物なのだ。

 

 僕はこういう時のために手は二本あるんだよ、というテンプレをする間もなくトイレを飛び出し、シャドウに化けて空から舞台に下りた。つまり、僕はあれだけ馬鹿にしていたヒョロやジャガと同じウンコ野郎になってしまったのだ。

 

 シャドウになった時、僕は「謎の実力者乱入で有耶無耶にしよう」とか考えてなかった。全力を出してここにある全てを消し去ってやろうと思ってた。文字通り全てを水に流すのだ。実際に流すのは魔力だけど。

 

 まぁ貴賓席にいる三人組を見て正気を取り戻して、競技場に現れた凄い綺麗な女性の幽霊を瞬殺した。今まで生きてきて一番早く動いたし、一番早く剣も振れた。女性の動きもどこかぎこちなく防ぐ素振りを見せたのにそれが間に合っていなかったことも大きい。

 

 そして競技場を覆っていたドームが消えた瞬間離脱し、全力ダッシュで山の中に逃げて今に至る訳だが、僕の状態が中々にヤバい。

 

 まず言うまでもなくお尻が汚い。更にズボンとパンツがない。急いでいたせいで下ろしていたズボンとパンツを引き上げることもできずにトイレの中に置いてきてしまった。そうはならんやろと言いたくなるかもしれないが、なっているのだからしょうがない。そのため、僕はエクスカリバーを丸出しにしているのに靴と靴下、上半身は服を着ている変態になっている。

 

「パンツさえあればそれで拭けたのに……」

 

 何を拭くかはあえて言うまい。

 

 もう今日は帰ろう。帰って温泉で入念にお尻を洗って寝よう。夜の帳に包まれた山の中でスース―するお尻と股間に意識を割きながらそんなことを考えていたせいか、僕は前に現れた異世界どこでもドアに気付けなかった。

 

 その結果――

 

 

 

「さっきぶりね………………その、どうして下に何も穿いてないの?」

 

 四肢を壁にはりつけられている少し前に戦った女性に、手を使えないからか顔を逸らしながらも興味があるのか頬を染めながらエクスカリバーをチラ見された。

 

 聖剣は鞘から解き放たれて臨戦態勢になった。僕は死にたくなった。

 




 
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