でもアルファはそれを遮って私はアルファよ、武神と謳われる貴方の親戚ではないわ。とか言いそう。
酷い目にあった。美少女三人の奉仕は眼福だけど胃袋に優しくないと知れたある意味いい機会だったよ。
まったく……女の子のデザートや甘い物は別腹みたいな夢ある胃袋拡張機能は男にはないんだぞ。男の子にも焼き肉とか唐揚げならいくらでも食べられる食欲はあると言えばあるけど、牛肉、豚肉、鶏肉ならともかく熊肉はないだろう。付け加えると僕の胃袋は貧弱なので大量の肉は嬉しくない。三大欲求を視覚化したらかなり歪な自信がある。
とまあ、そんなことはどうでもいい。熊肉をたらふく食べて食べ過ぎか胃もたれか食あたりかわからない症状で丸一日苦しみ、一週間かけてお腹をすっきりさせた僕に以前からとても楽しみにしていたイベントがやって来た。
そう――『ブシン祭』である! 異世界ものの定番、りんごが木から落ちたら下に向かうことが当たり前のように俺TUEEE系には絶対に出てくる勝ち抜きトーナメント。
くどいようだが僕は目立つことができない。シド・カゲノーとして出場して、持って生まれた才能に胡坐をかくイケメンを瞬殺してイキり散らせないし、自分より強い相手と結婚するタイプの美少女剣士をカッコ良く倒すこともできない。
でもこのイベントならできるのだ。『ブシン祭』の学園枠を決める選抜大会や最新のインテリジェンス科学技術もびっくりな方法、個人の強さに合わせて古代の戦士をけしかけてくるデンジャラス生体認証をしてくる『女神の試練』ではできなかったあれ――謎の実力者としての出場がね!
Q.学園の選抜大会に正体を隠して出場してたらどうなるか?
A.摘み出されます。最悪の場合、魔剣士の生徒や教師、挙句の果てに王国の騎士団が出張ってきます。
Q.『女神の試練』で正体を隠して出場してたらどうなるか?
A.謎の実力者、陰の実力者で二回ヴァイオレットさんが呼び出されます。
どっちもダサすぎる。学生の大会に乱入して暴れ回る陰の実力者とかないわー。一回戦しかないからこそ特別感のある試練を変装してまで二回もやろうとする陰の実力者とかないわー。どこか世間知らずなヴァイオレットさんもびっくりだわー。
ローズによる僕を勝手にエントリーやデンジャラス生体認証がなくても『女神の試練』で謎の実力者として出場とかしないつもりだったけどね。あれは正体を隠しての参加が難しかったし、「アイツはいったい何者なんだ!?」っていうのは勝ち抜きトーナメントで選び抜かれた強者を何度も薙ぎ払って下馬評を覆すからこそ盛り上がるのだ。一回戦きりじゃすぐに興奮は冷めてしまう。
そんな訳で僕はウッキウキで準備をし、『ブシン祭』を来る日も来る日も夜も眠れず待ち望んでいたのだが、
(た……楽しめないっ)
闘技場『ブシン祭』予選会場。
太陽の光を反射して滅茶苦茶眩しい金ぴかの剣と鎧と髪の内、剣を前の試合の賭けに突っ込んで武器を失ったはずの見栄っ張りで張りぼてまみれのイケメンが振り下ろしてくる僕が無くした得物にそっくりな安物の剣を、「君のような馬の骨にはこれがお似合いだよ☆」のメモと一緒に置かれていたロバの骨で砕いてイケメンをぶっ飛ばしながら僕は心の中で苦しみの声を漏らした。
正体を隠して『ブシン祭』に出場する。そのための変装グッズをミツゴシ商会に借りに行くついでに要件を伝えたら、めっちゃ重要な意図があると勘違いされ、それを見抜けなかったと思い込んだガンマが自責の念で泣いた。もうこれだけで「やっぱやーめた!」って言いたくなったよ。良心の呵責がやべえよ。言ったらガンマが自殺しそうだから口を閉じたけど。
それに加えてガンマとニューがギスギスしてたんだよね。偽物『シャドウガーデン』騒動の時にニューを頼りまくってたから嫉妬したのだろうか? だから今回は変装グッズのためにガンマを頼ろうとしたら、変装はまさかのニューが担当。より二人の間の空気がギスギスして、弱そうな青年に変装した僕は無意識で猫背になりながらそっとミツゴシ商会を後にした。
トドメにローズが婚約者を刺して逃亡したとかいうニュースである。彼女が婚約者殺人事件を起こす前日に話をしていた僕は気まずくて仕方なかった。彼女が意味深な話をしていたけど僕はそのほとんどを聞き流し、フィーリングで肩の力を抜くよう助言して『まぐろなるど』のサンドをあげただけなのだ。なのに熊肉を食べさせてきた残りの美少女二名がめっちゃ期待をした目を向けてきた。僕に何を期待しているんだ……強さとピアノ以外に取り柄ないぞ。
とりあえず僕はさっさと『ブシン祭』の予選を終わらせることにした。ゴールド金メッキという頭痛が痛いみたいな名前のイケメンの次、クイなんとかをぶん投げたロバの骨でKO。予選最速の試合時間で終わった。
来週は『ブシン祭』本選。それまでにローズを探さなければ僕は『ブシン祭』を心から楽しめない。ニューやガンマは僕ができる範囲で願いを聞いてあげよう。そんなことを考えながら選手入場口の長い廊下を早足で歩く。ついでに両手両足に着けていたリストバンドを外す。……なんで僕はこんなものを用意してたんだ。深夜テンションって怖い。
なんか途中に水色の髪の誰かがいた気がしたけど……気のせいかな。僕は寮に帰って寝た。
翌日。僕が約束を破って聖域に行ったことで一人で帰省していた姉さんが帰ってきた。今は寮の前で門番のように立ちはだかっている。
僕はスタイリッシュに窓から飛び出した。待ってろよローズ……今行くからな! ローズを探すことと姉さんの相手をすることを比較してどちらが面倒なのか考えて、姉さんから逃げる理由に使った訳じゃないからな!
フシアナス、地味な青年の眼中にも入らない。