陰の実力者になりまして……   作:柔らかいもち

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 原作シャドウは地下道が聖堂に繋がってたことを知ってたのだろうか?


十三話 夜の聖堂から聞こえるピアノ……ホラーかな

 ローズを探すべく王都を散策していた僕は朽ちた聖堂の中でシャドウに化けてグランドピアノを弾いていた。これだけだとまるで意味がわからないと思うので一から説明しよう。

 

 姉さんから逃げ――ゲフンゲフン。僕がローズを見つけようと王都を歩いていたら、どこからともなくピアノの音色が聞こえてきた。それも僕のお気に入りであるベートーヴェンのピアノソナタ14番『月光』だ。

 

 自慢になるけど僕はかなりピアノが上手い。ストレスが溜まったら芸術、暴力という形で発散していたため、ピアノと格闘技だけは誰にも負けない自信があった。それでもこの『月光』を弾いている人も上手だなー、と耳を澄ましてふと気付く。

 

 異世界にベートーヴェンの曲があるっておかしくないか、と。

 

 人混みをかき分けて演奏者を見てみれば予想通り、そこには僕の仲間であるイプシロンの姿が。演奏が終わるなり僕を控室に引き込んで微笑ましいセクシーポーズとともに近況報告をしてくる彼女にダメ元でローズの居場所を聞いてみれば、彼女はあっさりと王都の地下に逃げ込んだと教えてくれた。

 

 王都の地下……元は王族の脱出用に作られた王都全域に広がる地下道。地図も鍵も暗号も全部なくして王都地下迷宮と呼ばれるようになった地下道。

 

(うん、無理☆)

 

 イプシロンに教えてもらった一番近い地下道への入口がある廃聖堂に侵入し、件の入り口を見てみれば……明かりがないと何にも見えない穴。すっごい幽霊とか出てきそう。

 

 色々な意味で無理だ。この滅茶苦茶広い迷路から一人を見つけ出すとか無謀過ぎる。入って自分自身も出られなくなるとかそんなオチが見える。いや、本当に最後の手段で天井をぶち抜くという方法があるけどさ。

 

 あとお化けとか出そうでめっちゃ怖い。僕は死ぬまで殴れば殺せる究極で至高の必勝法が通じない相手が大の苦手なのだ。幽霊は斬れない。相手は既に死んでるから殺すことができず、必勝法が通じないということはそれだけ相手が恐ろしいということ。まだカーストトップの王族の顎に膝蹴り入れる方が怖くないよ。

 

「さようならローズ……食べ物が得られず餓死か、飢えを凌ごうと鼠を食べて病死か、追い詰められて自死か。どんな死体で見つかっても僕は君を笑わないよ」

 

 割と本気でローズを諦めかけたその時、重くて撤去もできず置き去りにされたであろうグランドピアノが目に入る。次の瞬間、僕の背筋に電流が走った。

 

「そうだ……何も僕が彼女を探す必要はない。彼女から出てきてもらえばいいんだ」

 

 ローズは芸術の国オリアナの王女だ。きっと音楽方面にも造詣が深いだろう。なら超すごいピアノの演奏が聞こえたら出てくるに違いない! あと廃講堂で狂ったようにピアノを弾く奴とか噂になるかもしれないからシャドウに化けとこ!

 

 発想の転換。僕は自分が天才かもしれないと思った。そして高揚した気分のまま長年人に使われずあちこちにガタが来ていたグランドピアノを修理するための材料と道具を買いに走り出していた。

 

 ――冷静に考えたら暗い場所を歩いてる時にピアノの音が聞こえてきたら怖いし怪しいから逆に近付かなくなる。ましてやローズは追われているのだから人がいるとわかりきった所に来るわけがない。それに気付いたのはピアノの修理が終わった頃だった……。

 

 もう半分くらい意地とストレス発散でピアノを弾いてる。楽器は無駄に修理費が高く、僕もピアノに妥協をしたくなかったためにアレクシアの犬をやって貯めた金貨のほとんどがなくなった。散財も結構してきたし。

 

 もう半分は恐怖を紛らわすためだ。王都地下道には下水も流れている。下水はトイレと繋がっているからトイレのお局様みたいなのがいても不思議じゃない。穴から出てくるゴキブリや鼠の小さいから逆に大きく聞こえる物音を聞かないためにピアノをやめられないでいる。でもつい耳をすましてしまってびくびく震えているのだが。  

 

 とりあえずもうピアノじゃ恐怖を誤魔化せないので思考に没頭する。もちろんピアノの演奏はやめない。意識しなくても動作が染み付いた身体が自動的にピアノを弾いてくれる。

 

 考えるのは何故ローズが婚約者を刺したかである。

 

 相手はオリアナ王国の侯爵家次男のドエム・ケツハット。ケツハット家の養子らしいが国の中枢まで上り詰めているらしいエリート。顔立ちも三十代前後にしては中々で紅茶を飲みながら「優雅たれ……」とか言ってそうだ。

 

 うーむ……プレイがエスカレートしただけなんじゃないだろうか。名は体を表すと言うし、なんか後ろから剣で刺されるのが好きそうな面と声っぽいし。ローズもどちらかと言えばサドだ。彼女は剣の試合だとあと10秒で死にそうなモブが相手でも向かってくる限り斬撃を浴びせる気がする。

 

 というかローズはそれが嫌だったのでは? マゾのおっさんが好きなのは腐海の住人くらいだろう。名前だって結婚したらローズ・ケツハットという薔薇とお尻とバットのマリアージュ……いや、王族だから名前は変わらないか。

 

 うーむ……わからん。王都の散策とピアノ修理に午前中は潰れたけど、午後からはずーっとピアノを弾いていて疲れた。ステンドグラスから降り注ぐ光も日光から月光になってる。お化けを警戒して神経もすり減らしたし今の演奏で終わりにしよう。

 

 そもそもローズが婚約者を刺して逃亡した日から一週間以上経過してる。逃げる時に怪我をしたって噂もあるし、その状態で食事や休息も取れず、劣悪な環境の地下道に逃げ込んだらほぼ確実に死んでるでしょ。

 

(聞こえるかローズ……この『月光』が僕から貴女への鎮魂曲(レクイエム)だ)

 

 演奏が終わる。聖堂に響く余韻を最後まで楽しんで……拍手の音がした。ギギギッ、と横に目を向けたらいつの間にかいた血で赤黒く汚れた金髪の女が手を叩いており――

 

 

 

 キャーーーーーッ!




 悲鳴はよくあるホラゲーのものです。
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