陰の実力者になりまして……   作:柔らかいもち

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 ちょこちょこカゲマスやアニメ要素を入れますが許して。


三話 『陰の実力者』は陰で努力してる

 釈明する暇も与えられなかった僕は留置所のような場所で取り調べを受け、解放されたのは五日後だった。

 

 取り調べと言ったがやられたのは拷問である。食事中に連れて行かれたものだから顔を殴られた時には口の中の物が出たし、腹パンされたら胃の中身が逆流した。出される食事は残飯を茹でただけと丸分かりのスープで、初日なんかは僕の吐瀉物が混ぜられ、それ以降はゴキブリや鼠が混入していた。おまけに常に拘束されていたため、騎士団の方がアツアツの食事を顔面から味わわせてくれた。切れた口内にとても染みたし、息ができないくらい濃厚だった。

 

「男のくせにピーピー泣きやがって……おら、さっさと行け」

 

 僕の背中で一番痛い所を乱暴に押して建物から追い出すのは賭博で負けた鬱憤を晴らすと言って棘付きの鞭まで使った奴。取り調べのために下着以外を剥ぎ取られていた僕に荷物を投げつけたのは、「うっかり間違えちゃってごめんwww」と笑いながら爪を剥がすどころか隙間に針を刺した上に三本も指を折った奴だ。

 

 爪がない上に指が折れているので時間がかかったが、なんとか身支度を整えて息を吐く。ボロボロの僕に道行く人が目を剥くが、それも気にせずもう一度息を吐く。

 

「落ち着け……素数を数えて落ち着くんだ……素数は孤独な数字……前世の僕とズッ友だ……」

 

 素数と友情を確認した僕は平静を保った。拷問をした騎士団は責務を果たしただけだ。下劣な笑い方や粗野な振る舞いも犯人候補の僕に真実を吐かせるために頑張って演技をしているのだろう。それに受けた拷問だって前世で受けたいじめをなぞったひねりのないものだし、そもそも痛みは魔剣士の修行で耐性がある。

 

 ……だからちっとも恨んでないよ? 何されてたかを覚えてるのは拷問したのが二人だけだったからだよ? いじめを受けた方はずっと忘れないとか思ってないよ? 尋問と絶対に言わないのは気分だよ? あいつら教団のスパイとか言いがかりつけて始末してやろっかなとかこれっっっっっぽっちも考えてないからァ!

 

「……うっかりで指を折るか……じゃあうっかり全ての指を千切っても赦してくれるよね」

 

 後ろを付けてくる怪しい二人に聞こえないように呟いた。誘拐犯が捕まってないからまだ僕を無罪放免できないのは理解出来るよ。でも僕は傷ついて気が立ってるんだ……不審者にいきなり襲われたら思わず火事場の馬鹿力が発動してしまうかもしれないけど問題ないだろう。

 

 憔悴した僕は寮へとゆっくり歩く。憔悴したフリじゃない。仕返ししてやると決めていても精神的にとても疲れたのは変わらないのだ。

 

 ――途中でアルファっぽい声と香りがしたけど、疲れていたからよくわからん。帰ったら寝よ。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 傷を魔力でサクッと治療し、シャワーは浴びるのが面倒だったのでそのまま寝ようとしたけど怒りで眼が冴えてベッドの上でゴロゴロしてたら、いつの間にかアルファが部屋にいた。何故か学園の制服を着て『まぐろなるど』の包みを持って。

 

 二年前にアルファ達は世界規模の組織だと判明した『ディアボロス教団』に対抗するために『シャドウガーデン』も世界に散ると言ってしばらく姿を見なかったのだが、アルファだけは頻繁に会ってた。懐かしいとか久しぶりとかは思わないが、それでも出会った頃に比べたら凄く女性らしく育ったとわかる。

 

 いやマジで美人過ぎないか? 背中の腰まで届く金髪はサラサラで輝いてるし、切れ長の青い瞳は美しい。母性の象徴や女性らしいラインを描く肢体を包んでいる制服は本当に同じ学園の服なのかと言いたくなる。僕なんかモブAくらいにしかならないのに。

 

 自分と彼女を頭の中で比べてみた。『ディアボロス教団』への恨みはあるけど仲間の為に『シャドウガーデン』の指揮と拡大を順調に執り行いながらボスの下へ差し入れに来る美少女。普通にハメられて拷問を受け、それを治してもイラついて寝れずにゴロゴロするボスとは名ばかりの自分……あれ、拷問くらい大したことなくない?

 

 とりあえず申し訳ない気持ちが湧いたので身体を起こす……起こ……あの、アルファ? どうして僕に跨るの? ベッドの方が柔らかいし安定感があるから降りた方がいいよ。疲れてるんだから遠慮するな? じゃあ起き上がらせてください。

 

 サンドを食べるか? 食べる、食べたいから頂戴……何故遠くのテーブルにスライムを使って置いた? なんか犯人に仕立て上げるとか王女とロマンスとか言ってるけど僕に当てられて形を変える柔らかい胸とか耳をくすぐる息が気になって話が入らないから! 感情とか生理現象とか限界だから! ちょ、顔覗き込まないで! 別にアルファに話せない大きなものとか抱えてないから! 

 

 あ゛っ、キスできるくらい近――。

 

 ――――――。

 ――――。

 ――。

 

 わーい、『まぐろなるど』のさんどおいしー。もういっかいしゃわーあびてねよー……じゃない! どうしよう、全然話聞いてなかった。気付かない内に服も着替えさせられてるし、サンドを食べてる今も小さい子供が親にやってもらうみたいに靴を履かされてる……うぅ、もうお婿にいけない。

 

 いつの間にかスライムスーツに着替えたアルファは帰るらしいし……とりあえず身体に気を付けるよう声をかけておいた。一人になった部屋でベッドに入ったけど別の意味で寝られそうにないかも。いつもより鼻呼吸を意識したことに意味はない……多分。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 取り調べから二日後。僕は寮の自室を頑張ってカスタマイズしていた。ドタバタと大きな音が出てないのが不思議なくらいの大改造だが、そこはスライムとか使って音を消してる。……僕以外に寮に人は全然いないけどね。王女を誘拐したかもしれない奴と同じ建物にいたくない気持ちはわかるさ。腫れもの扱いされたって悲しくなんてないやい。

 

 部屋を改造しているのはベータが来るからだ。アルファや諜報専門のゼータはしれっと傍にいることが多いのでもう諦めているが、他のメンバーにはカッコいいボス……シャドウを演じている。好きだったマスコットの中身がおっさんだった時然り、唯一の友達と思ってた人がいじめの首謀者だったと判明した時然り、抱いた憧れが砕けるのはとても辛い。もう<悪魔憑き>となって十分苦しんだ少女達にあんな気持ちを味合わせるくらいならば、厨二病の黒歴史を量産する程度、なにするものぞ!

 

 部屋の明かりを消してアンティークランプを飾り、そのまんまムンクの叫びにしか見えない『モンクの叫び』を壁に飾り、目利きのできるゼータと買い物に行って仕入れた最高のグラスにヴィンテージワイン――に見せかけたぶどうジュースを注ぐ。

 

 残念なことに僕はお酒に弱いのだ。グラス一杯で酔っ払う。アルファと二人だけの頃に酒を飲んで盗賊狩りに行ったら途中で記憶なくしたくらいだ。『(私が)使い物にならなくなって危険だから貴方はもうお酒を(私がいる時以外)飲まないで』とアルファに怒られたのでそれ以降は禁酒している。ちなみにダンディーな父さんもカッコつけて酒を飲むが弱い。母さんはウワバミ。姉さんは知らない。

 

 むっ……この気配……来たッ!

 

「時が満ちた……今宵は陰の世界……」

 

 イタタタタッ! イタイ! とても心が痛いよー。でも我慢、我慢だ。ベータがカッコいいって言ってくれてるんだから……だから、『シャドウ様戦記』メモとかいうのにスケッチされた上にセリフまで一言一句記録され、それが胸の谷間にしまわれていることには全力で意識を逸らすんだ! 彼女の部屋に僕の絵画や語録が一面に張り巡らされていたことも忘れるんだっ!

 

「陰の世界。月の隠れた今宵はまさに我等に相応しい世界ですね」

 

 僕は月が隠れてない方が好きです。完全に真っ暗だと周りが全然見えなくて怖いじゃん。そんな考えはおくびにも出さず、ワイン(ジュース)を口に含む……なにこれすっぺぇ。この世界にまだ冷蔵庫とかないから痛んだのかな。でもうまい。

 

「準備が完了しました」

「そうか」

 

 できれば何の準備か言ってほしい。君等、僕なら何もかも知ってると思ってめっちゃ説明を省いているだろう。そういった勝手な判断が裏の社会では大問題になるんだぞ。どんな些細な事でも報告・連絡・相談!

 

 でも許してあげよう。このぶどうジュースを飲んでると気分が良くなる。

 

「アルファ様の命により、近場の動かせる人員は全て王都に集結させました。その数114人」

「114人?」

「ッ……!」

 

 そんなに『シャドウガーデン』が増えたのか。ガーデンのメンバーが増えることはそれだけ酷い目に遭わされた子がいたことと同義だ。僕にできることはあんまりないけれど、彼女達の命くらいは保証してあげたい。だからこんな騒動、さっさと終わらせよう。

 

 ……ん? ベータの足が震えてる。よく考えたら当然かもしれない。今回の事件で僕のサポート当番のベータより先にアルファがやって来たということは、彼女はアルファより遠くにいたことになる。真面目な彼女は直前まで他の仕事をこなしておいて急いでここに来たのだろう。ならとっても疲れてるはずだ。

 

 ベータの言葉を手招きで遮りながら近くに来させる。まったく、ちょっと歩くのにも震えているじゃないか……そんなに疲労していることを隠さなくても僕は怒らないのに。とりあえずベッドも片付けちゃったし……座らせるのは僕の膝でいっか。

 

「!?!? シャ、シャドウ様!? なっなななな、どどどどっど……!」

「なに、気分だ。続きはこのまま聞こう」

「夢……もしかして私の書いた小説の夢を見ているの?」

「どうした? 続けろ」

「ひゃ、ひゃいいい……!」

 

 座らせてあげて正解だったみたいだ。スライムスーツ越しなのに身体が熱いのがわかる。疲れないよう僕に上半身を預けさせ、更に背中を支えるように手を回した。

 

「えっと、えっとえっと……フェンリル、フェンリルがですね……あわわ、頭がふわふわして考えがまとまりゃないいぃ……」

 

 ベータも頭がふわふわしているのか。奇遇なことに僕も頭がふわふわしている。フェンリル……狼か。飼ってもいいかも。もし飼ったらベータにしてるように膝に乗せて頭を撫でてあげよう。

 

 そうだ、あの手紙のことを教えておかないと。アレクシアが誘拐された場所付近に一人で来いという旨が書かれた手紙だ。間違いなく罠だけどこの騒動を終わらせるきっかけになるからアルファに伝えてほしいのだが……。

 

「我が生涯に一片の悔いなし……」

 

 ベータが寝落ちしていた。僕も眠いし少しだけ休もうっと。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 あああああ……ぅあああああああ……!! 僕は、年頃の女の子になんてことを……!

 

 僕を拷問した騎士団の二人がカスい悪党だったから殺すことに遠慮はいらなかったけど、そんなのも些事になるくらい恥ずかしいよー! 地面が汚い血で汚れてなくてベータが見てないなら転げ回ってる。

 

 これも全部誘拐されたアレクシアと誘拐した奴のせいだ! 絶対に始末をつけさせてやるからなぁー!

 

「ベータ、行くぞ」

「は、はい! 今行きますぅ!」

 

 ……なんでベータはこんなに幸せそうで元気なん? ワーカホリック?

 




 クレアは酒に強いけどシドの前では弱いふりしそう。
 シドはちっちゃい頃はもっと酒に弱いです。だって子供だもの。
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