陰の実力者になりまして……   作:柔らかいもち

5 / 19
 評価や感想ありがとうございます。

 七陰で一番頑丈なのって多分ガンマだよね。


五話 チョコを手に入れよう! ……異世界にあるの?

じりじりと照り付けていた太陽が山の向こうに沈んでいく黄昏の下で僕は王都のメインストリートを歩いていた。加減はしたけど奥義による衝撃で結構な被害が出たはずなのだが、よほどいい腕の大工がいたのか民衆が逞しいのか王都は日常を取り戻している。

 

「んで、アレクシア王女とはどうなったのよ?」

「……別に何もないよ」

 

 騎士団にあることないこと吹き込んで冤罪を僕に被せようとしたことを忘れるどころか、出たくもないブシン祭の選抜大会に勝手にエントリーしてくれやがったヒョロが話しかけてくる。恐ろしく速い右フックでボディを打ち抜くついでにエントリーをキャンセルできないか試してみたけど無理だった。

 

 そしてヒョロの質問は濁しておく。言えるのはあるとすれば面倒なことになったというのと、アレクシアとはしばらく顔を合わせないようにしようということか。呼び出されたら応じないと不敬罪になるからあまり意味のない意識だけどさ。他の人なら予定があれば猫を被って遠慮する癖に、僕の予定はなかったことにするのがあの女である。

 

「もったいないですねえ、チューもしてないんですか?」

「してない」

「かー、どうしようもないヘタレだな。俺なら最後までしてるぜ」

「ですね。僕もチューくらいしてますよ」

 

 ヒョロとジャガがイケてると思っているであろう不細工な面でこちらを煽って来る。僕を馬鹿にしているこの二人だが美人に話しても話しかけられても挙動不審になるくらい女耐性がない口だけの男だ。おまけに大会に出ただけで彼女ができて、甘い物をプレゼントしたら砂糖に群がる蟻並みに好かれると勘違いする程度に女心を今買いに行っているチョコよりも甘く見ている。

 

 とりあえず童貞の二人を鼻で笑ってやりながらヒョロの提案でやって来た目的地を見上げる。一等地にあるためどの店も繁盛しているのだが、中でも群を抜いて人が多いのが巷で話題になっていたミツゴシ商会だ。並んでいる客は貴族かその関係者だけなのに、列の最後尾に立つお姉さんが持つプラカードに書かれた待ち時間は80分。繫盛してるのがよくわかる。

 

 いくらなんでも80分は長すぎる。寮の門限ギリギリだし、そこまで待って買う予定なのが一番安いチョコレートでは割に合わない。後ろの二人が最近夜の王都に出没した人斬りに怯えていたので、それに便乗して帰る方向に話を誘導しようと考えを纏めていたら、プラカードを持ったお姉さんがこちらに近付いてきた。

 

 ダークブラウンの髪に同色の瞳、落ち着いた上品な顔立ちのかなりの美人さんだ。アルファ達に勝るとも劣らない。そんなお姉さんがナンパしてきたヒョロを百戦錬磨の笑みで躱したのに、僕にはニッコリ笑顔を向けてくれる……そりゃ心臓がトゥンクってなるよね。

 

 どうやらすぐ済むのでアンケートをお願いしたいようだ。高鳴っていた心臓がびっくりするくらい静かになる。へへっ、僕知ってるんだ。この後別の部屋に連れて行かれて長々と話聞かされて疲れたところで紹介された商品を購入させられるんだ。前世で二桁同じ目にあったから間違いない。それでも腕を掴まれたら赤面してしまうのだから自分の成長性の無さにも呆れるしかない。

 

 お姉さんの後をついてどんどん進んでいく際に店内を見ていくがまぁ凄いのなんの。商売に全然詳しくない僕でもこのミツゴシ商会が覇権を握るのは確信できた。だって中世ヨーロッパなこの世界に前世で需要が高かった品物がたくさん並んでるんだもん。

 

 もう商会の名前とか商品でここの会長が誰なのか九割がた予想していたのだが、王族貴族の館にあるみたいな豪華な階段を上らされ、レッドカーペットが引かれた広い廊下を進み、優美な彫刻が彫られた扉をこれまた綺麗なお姉さん二人に開けてもらった時に予想は確信となった。

 

 ダンスパーティーを余裕で行える巨大ですごい空間の奥、ここまで歩いてきたレッドカーペットの終点には誰も座ってない椅子があり、カーペットの左右には美しい女性エルフがずらりと並んでいる。僕が入った途端にお姉さん達が一斉に跪いてビビったのだが、椅子の隣にいた一人の女性のおかげでなんとか醜態を晒さずに済んだ。

 

 そこにいたのは藍色の髪の美しいエルフ。聡明な顔立ちに青い瞳、モデルのような洗練されたスタイルを背中を剥き出しにした妖艶なドレスで着飾った彼女を僕はよく知っている。

 

「長らくお待ちしておりました、主様」

「ガンマ……」

 

 ガンマ。アルファ、ベータに続く『シャドウガーデン』の三人目の古参。頭の良さでは『七陰』の中でもダントツである。ハイヒールを鳴らしながら優雅なモデルウォークで歩いている姿だけを見たらアルファやゼータに並ぶ完璧超人に思えるのだが、彼女にはアホのデルタと似通った欠点があった。

 

 それは運動センスと戦闘センスが致命的にないこと。何もない所で頻繁に転び、動いてない敵にも攻撃を当てられない。ちなみにデルタはセンスはあれどアホ過ぎる為、どちらも剣技を習得できなかったという出来事がある。

 

「あっ……」

 

 モデルウォークでこちらに歩いていたガンマのヒールが折れて体勢が崩れる。そりゃあんなに腰を振りながら歩いたらヒールは折れるよ。このままだと受け身を碌に取れたことのない彼女は顔面を強打し、独特な悲鳴を漏らすという痴態を部下に晒してしまうだろう。

 

 なので、僕は素早く移動しガンマを受け止めてやった。露出した背中に触るのは憚られたため両肩に手を置いて威力を殺し、彼女との身長差から僕の首元に顔をうずめさせる形になってしまったけど、床にぶつかるよりマシと思って我慢してほしい。

 

「……ッスー……スーッ……申し訳ございません!」

 

 凄い勢いで離れるガンマ。わざわざ謝罪のために深呼吸するところがずれている。というかそんな体勢から飛び退いたら――あ、もう片方のヒールも折れた。

 

 このまま引き寄せようとすればガンマに不要な怪我をさせかねないので、仕方なく彼女の腕を掴んで回転する。その勢いを殺さず膝の裏に手を入れて持ち上げ、背中に腕を回してバランスを取る。俗にいうお姫様抱っこだ。

 

「相変わらず目が離せないな、ガンマは」

 

 あまりのドジっ子具合に思わず苦笑しながら腕の中のガンマを見ると――、

 

「――ぷぎゃっ」

 

 洒落にならない量の鼻血を流して目を回していた。そんなに強く僕にぶつかってたっけ!?

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「申し訳ございません、お手数をおかけしてしまい……」

「構わん」

 

 あんな量の血を一気に流せばそりゃ気を失うよ。僕の身体にぶつかるだけであんなに出血するなら、やっぱり頑丈だからと力尽くでバランスを取らせないで良かった。皆魔力で強化すれば剣で斬られようが軽傷になるけど、それがなければか弱い女の子だからね(例外もいる)。綺麗な肌に傷はない方がいいだろう。

 

 というか本当に気にしないで。僕の胃が死んじゃうから。この部屋の金のかかり具合で。

 

 この部屋はぱっと見なら王族貴族のパーティー会場なのだ。それだけで庶民が一生遊んで暮らせるほどの金が費やされているとわかるのに、なんと全てがミスリルで作られているのだ……魔剣士が愛用する最高級品の剣の材料はミスリルであると言えばわかるだろうか。しかもこの部屋の完成度を見るに少しずつ作っていくのではなく、大量のミスリルを用意してから一気に作っている。そのためにはミスリルの流通が枯渇するレベルで買い占めないといけない。物価がどれだけ上がろうと、だ。

 

(僕なんかのために頑張って稼いだ金を使うのやめてくれよぉ! 怒るに怒れないし、喜ぶに喜べないよ! 僕はとっても安い人間だよ? カップ麺奢られるだけでも喜ぶ男だよっ……どうやって還元しよう)

 

 遠くへ旅立ちかけた僕の意識を胃袋が握り潰されたような痛みが引き留める。立っていられなくてガンマに勧められた巨大な椅子に座るとエルフお姉さん達から

「シャドウ様の微笑み……どこまでも透き通ってるわ」とはしゃぐ声が聞こえた。そりゃ精神的に死にそうなので透き通った笑みも浮かぶよ。

 

 それでも彼女達にとって僕はシャドウだ。これだけの成果を見せられたなら報いてやらねばならない。頬杖をついた手とは逆の手から魔力を放出し、無数に分裂させて降り注がせる。ふふふ、胃を回復させるために魔力を使ったら感付かれるから疲労回復や治癒効果のある魔力を褒美と称して皆のために盛大に使ってやり、その一部で自分を癒すのさ!

 

 ……なんでこれくらいで感動して泣くんだよ~。ただの魔力で元手ゼロだぞ。僕も治したのにまた痛くなった胃に泣きたくなった。

 

「身に余る褒美に感謝いたします」

 

 涙を拭いながら鼻栓を抜くガンマ。ツッコミできる雰囲気じゃなかったから流したけど、なんで僕の治療を拒んで鼻栓で鼻血を止めようとしたの? 美人だけど相当間抜けな顔になってたよ。……そんなに僕に顔を触られたくなかったのか。ちょっとショック。

 

 もう要件を済ませてさっさと帰ろう。椅子の座り心地は極上なのに寛げる気がしない。

 

「あー、ここにはチョコレートを買いに来たんだけどある?」

「はい、主様より授かった『陰の叡智』を微力ながら再現した品の中でも自信のある一つです。ただちに最高級品を用意させます」

「いや、一番安いのでいいです」

 

 僕含めてしょうもない連中のしょうもない作戦に使われるだけだから――そう言って止める間もなく扉の近くのお姉さんが出て行った。僕の脳内借金グラフが指数関数的に増えていく。減る見込みはない。

 

 というかまだ面倒臭いところが直ってないな。同じ材料があるかもわからない異世界でチョコレートその他諸々を再現することのどこが微力なんだろう。ガンマは戦闘力に目を囚われ過ぎて自身を過小評価している。

 

「主様、こちらのニューはアルファ様も認めた実力を持つ新たなナンバーズです。現在調査中の『シャドウガーデン』を名乗る人斬りを仕留めるまでの間、雑用や連絡員として自由にお使いください」

 

 そう言って僕をアンケートと偽って連れてきたお姉さんを差し出してくるガンマ……ほらね? 僕が知りもしなかった情報を集めてるでしょ? 十分有能だよ。その偽物『シャドウガーデン』、どうやって調べよう……。

 

 というか待ってほしい。ミツゴシ商会は『シャドウガーデン』の息がかかっていてる。その証拠にガンマがいるし従業員も大量の魔力持ちのエルフばかりだ。つまりこのニューと紹介されたお姉さんは元<悪魔憑き>ということになる。

 

 ……なりかけてた姉さんを除けば人間の元<悪魔憑き>とか初めて見るんですけど。凄い美人さんだなー、人間って珍しいなーって呑気に考えてたけどヤバくね? しかも大分強い人だし死なせたらまずい人材じゃない? 商会的にもガーデン的にも。

 

「ニューだったか。こちらへ来い」

「はっ」

 

 緊張で声を震わせながら前に出たニューの前に立つと、彼女の胸の少し上の辺りに手を当てて魔力を流し込む。よし、これでニューに命の危機が近付けばわかるし緊急時は一時的なパワーアップや回復をしてくれるだろう。断じてやらしいことを考えていた訳ではないのでニューさん、小さな声でブツブツ言いながら涙を流して震えないでください。もしキモイとか言われたら僕はこの場で崩れ落ちる自信があります。ごめんなさい許して下さい君を守るためなんです。

 

「ガンマ、よく頑張ったな。これからも励むといい」

 

 ニューを紹介する時も跪いたままだったガンマの頭を通り過ぎざまに撫でてやり、山盛りのチョコレートを載せたカートを押したお姉さんが入ってくるのと同時にチョコを三人分貰って部屋を出る。

 

 ……小規模『シャドウガーデン』時代の癖で頭撫でちゃったー! お互いいい歳の男女なのにー! ガンマ、あとニュー、ごめーん!

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 帰り際、戦闘音がして見に行ったら一人の女の子を複数人の黒ずくめの男が襲っていたので男達をぶちのめしたら、襲われてたのはアレクシアだった。助けて損した。

 

 何人か逃げたけどそいつらはニューに拷問されてた。ちょー怖くてちびるかとおもった。  

 




 魔力の雨を浴びるだけでも泣いたニュー。そんな彼女が触れられて魔力を与えられる……後は言わなくてもわかりますね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。