陰の実力者になりまして……   作:柔らかいもち

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こんな過去が原作でもあればなぁという小話です。


小話 『七陰』の思い出

・アルファの髪

 

 名ばかりのシャドウに代わる『シャドウガーデン』の実質的な統治者である女エルフ、アルファ。組織が大きくなったことでアルファの下にはひっきりなしに情報が集まり、それを捌く彼女の仕事の量は商会の会長を務めるガンマよりも多い。

 

 故に身の回りの世話は彼女の部下が行うのだが、どんな時でもアルファ自身がやるものがある。それが髪の毛の手入れだ。臀部を隠すほど髪が長ければ手入れは大変に、使う時間も多くなる。そのため、部下達はミツゴシ商会の櫛やオイルなどを片手に完璧に整えるから任せてほしいと頼んでもアルファは頑として頷かなかった。

 

 信頼されていないのかと悲しむ部下達。しかし、アルファの言葉で海よりも深い納得とともに引き下がる。

 

『この髪、シャドウが綺麗だと褒めてくれた上に手入れもしてくれてたの。私とシャドウしかいなかった頃、自分のことに無頓着だった私の世話をしてくれたのはシャドウだったから。それからは最低限の体調管理をするようになったし、ベータ達が仲間になって髪を梳かしてもらえたのは何かを頑張ったご褒美の時だけになったけど』

 

 ――ちなみにシャドウが髪を褒めたのは簡単な気持ちで「髪の毛短い方が動きやすいかもね」と言ったら、アルファがナイフで頭皮ごと髪の毛をなくそうとしたからである。いくら美少女でもハゲは嫌だ。

 

 そして『七陰』の他メンバーが加わったら全員の髪を梳いてやらないといけなくなったのが面倒で、頑張ったご褒美になった。だけどご褒美にそれを望んだのはアルファだけであり、ベータは読み聞かせ、ガンマは頭ナデナデ、デルタは散歩、イプシロンは魔力制御の指導、ゼータは猫の好きそうなもので遊ぶ、イータは身の回りの世話であった。

 

 

 

 ・ベータの好きな物語

 

 ベータが人を殺すことに慣れるまでの間、シャドウは彼女が安心して眠れるように傍でお伽話を聞かせてくれた。冷たそうな雰囲気と見た目に反して物語を語る声は優しくて温かみがあり、一年も経つ頃には彼女のシャドウへの好感度は限界突破していると言っても過言ではなくなっていた。どの物語も聞いたことが無いのに面白い話ばかりで、本好きだったベータは数々の物語にすっかり虜になった。

 

 ただ、ある日からおかしなことが始まった。凄まじくつまらないお伽話が素晴らしい物語に紛れ始めたのである。

 

 最初はシャドウの頭がおかしくなったとベータは考えた。一瞬そう考えてしまうほど、シャドウの口から語られる『卍反逆の堕天使卍になった俺が異世界で無双する』はつまらなかったのである。起承転結もバラバラ、思い付きで進めていくのが丸分かりの展開、夢と理想の区別もできてない子供が考えたのかと思ってしまう設定の登場人物。

 

 それ以降もちょくちょくつまらない話が挟まれるようになったある日、シャドウに物語の感想を求められたベータは彼の真意に気付く。彼はベータが情報という武器を正しく見極めて扱えるかを試していたのだ。絶対者の口から語られるだけで鵜呑みにしてしまう間抜けじゃないかを観察していたのである。

 

 一瞬でもシャドウを疑ったことに内心で猛省し、一層の忠誠を誓いながらベータは思うがままに話した。『シンデレーラ』や『白雪姫様』のどこがどのように素晴らしいのか、『卍反逆の堕天使卍』のセンスと文才がどれほど終わっているかを事細かく全て。

 

『……そうか……ぐすっ……そっかぁ』

 

 それ以降、シャドウの読み聞かせはなくなり、聞けるのは褒美を与えられる権利の時だけになり、つまらない話を聞くことはなかった。

 

 ベータにはシャドウに仕える以外の夢がある。それは敬愛する主の耳と脳を汚すゴミみたいな駄作を生み出した作家の風上にも置けない奴を始末することだ。

 

 

 

・ガンマの頭脳

 

 ある日、『七陰』の隠れ家となっている廃村にシャドウは『トランプ』『オセロ』『将棋』『チェス』を持ってきた。『ディアボロス教団』を倒すために誰よりも奮戦しているシャドウが何処からどう見ても玩具であるそれらを所持していることに『七陰』は疑問を抱くが、その中でガンマはいち早くその意図に気付いた。

 

 トランプの『ポーカー』や『ブラックジャック』は駆け引きとその場の情報から正解を見抜き観察眼を養うゲーム。『オセロ』『将棋』『チェス』は全体を俯瞰してみる力を養える戦略シミュレーションゲーム……全て知力で戦うと決意したガンマにとって必要な物ばかりだった。

 

 零れそうになる涙をこらえ、自分のためという部分を隠して説明すれば他の『七陰』も理解を示し、シャドウに尊敬の眼差しを向ける。

 

『(えっ、息抜きも兼ねて一人遊びで鍛え上げた僕の腕前を試しに来たって言える空気じゃなくなった?)……好きに使うといい。しばらくしたらまた来る』

 

 肩を落としてトボトボと帰っていくシャドウに気付くことなく全員で特訓を(あそび)始めた。ガンマは誰よりもそれらの玩具にのめりこんだ。夜遅くまでルールブックを読み込み、戦略や定石を何通りも考え、延々と自分自身と戦い続けた。考えすぎて知恵熱で倒れてしまうほどに頑張った。早々に理解を諦めたデルタはちょうちょを追いかけてた。

 

 その努力は実を結ぶ。『七陰』の中で完璧超人や万能の呼び名を与えられているアルファとゼータを下し、シャドウからも白星を勝ち取った。しばらく後で知力で戦うと決めたガンマに自信を持たせるためにシャドウがわざと負けたことに思い至り、更なる精進を胸に誓うこととなる。

 

 ――別の日にシャドウが持ってきた『人生ゲーム』でも高度な頭脳戦が繰り広げられるのは別の話。

 




陰実で一番ニューが好きですが、シャドウとはアルファにくっついて欲しい。
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