上手く頭が回らなかったせいで誤魔化すこともできなかったが、とりあえず姉さんに抑圧された反動でイキリまくってた自分をヌッ殺してやりたい。
ローズって近隣の盗賊がいなくなったから遠征した場所で助けた女の子か! いくら陰キャな僕だろうと美人でも子供なら緊張しない。それをいいことに子供なら覚えてないだろうし二度と会うこともないと思って顔も隠さず色々やった記憶があるよ! スタイリッシュ盗賊スレイヤーも名乗った覚えがあるよぉ!
それをカッコいいと思ってた当時の僕の精神状態が非常に気になる。というかお礼がしたいと言えるくらい自我が発達していて、明らかに英才教育を受けてるとわかる身なりの少女が都合よくこの出会いを忘れてるとどうして思えたんだ。前世の自分も幼少期にあったインパクトの大きい出来事は覚えてるのに。
正体がバレたことに動転して医務室にお見舞いに来たシェリーと何を話したかあんまり覚えてないし、貰った手作りクッキーの味もわからんかった。でも胸の痣を見て「この程度の打撲で血を吐くとか……ざっこ♡」と嘲笑した治療師はわからせてやると決めた。人の胃には簡単に穴が空くということを教えてやる。
……まぁそれより先にまたローズに胃に穴を空けられたんですけどね。胃以外は健康体だから戦いの古傷も呪いもないって言っても悲痛な表情するわ、あの程度の突き痛くもかゆくもないって笑っても俯くわ、貴方が背負ってきたものは全て私が背負いますとか言い出すわ……僕の周りの美人はどうしてこうも人の話を聞かない子ばかりなんだろう。
「シド君ッ……なんでッ……」
今も『シャドウガーデン』を装うテロリスト達に囲まれてるのに僕を抱きしめたまんまだし。お願いだから離してほしい。失血したショックで死んだふりしてるのに血液が股間に集まってしまいそうだし、勘違いさせた罪悪感で傷付いた胃からせり上がった血を留めるのもキツいんだよ。
午前最後の授業が終わってすぐにこの教室はテロリストに占拠された。何が原因か不明だが、普段から特訓として練っている魔力が操作できなくなった直後である。テロリストが教室の扉を吹っ飛ばす頃には再び魔力が練られるようになっていたため、さっさとスライム弾で始末しようとした。丁度前と隣に自分がやったと手柄を横取りしようとする
だが、それを邪魔したのもヒョロとジャガである。僕がこいつ等に肛門括約筋がニートになる薬を盛ってまだ半月も経過していない。薬の効果は継続しており、この二人はアレクシアに話しかけられただけで緊張しまくる蚤の心臓と小せえ肝をしている。
そんな奴等の前に殺意を撒き散らして命を奪える凶器を手にしたテロリストが現れたらどうなるか? 当然、漏らす。大も小も。
一瞬、僕は二人から反射的に離れようとする自分の身体を抑え込んだ。こんな状況で盛大に動けば目立ちまくる……そう言い聞かせたけど無理だった。バランスなんて考えずに好きな物ばっかり食べる貧乏貴族の排泄物から漂う悪臭に僕は耐えられなかった。
よって、魔力が使えないことに気付かず見せしめとして殺されそうになったローズの盾になると同時に悪臭ゾーンから脱出したのである。死んだふりをしたのも、中途半端に生きてたらこういったテロリストは意味不明な慈悲でトドメを刺してくるからだ。首を斬られたら僕でも生き返れない。
「ごめんなさい……ありがとう」
ようやくローズが僕から離れる。彼女が諦めたことで他の生徒も抵抗の意思を失ったのだろう。全員が後ろ手に拘束具を付けられ、大講堂に連れて行かれる。名実ともにウンコ野郎になったヒョロとジャガに挟まれているのはスズーキ君だろうか? きっと彼は大講堂でウンコ野郎に挟まれてオセロの理屈でウンコ野郎になるだろう。既にウンコ野郎のレッテルを貼られてる僕でもマジモンのウンコ野郎の傍にいたくない。本当に逃げ出して良かった。
まぁヒョロ達に使う薬を速攻で肛門が決壊する薬にしておけばよかっただけの話だけどね。じわじわ苦しめようとするからこうなった。主人公を長々と嬲ったせいで負けるフラグを立てた悪役はいっぱいいた。悲劇の主人公もいっぱいいた。これからテロリストがそうなる。僕はしっかり反省して戒めないと。
後で実は生きてたのサ! をするために傷は完全に塞がない。めっちゃ痛いけど戦闘に支障がない程度に留めておく。
「さて、行くか」
作戦はもちろん目立たず速攻、敵は嬲らず即殺、夜までじっくりなんてしてらんねえ!
♦♦♦
夜までじっくりしてられないと言ったな。あれは嘘だ。
テロリスト連中はすぐに片付けた。今はお昼時、澄んだ青空には眩しい太陽がある。どこかに隠れた生徒がいないか探し回る黒ずくめはまぁ目立つ目立つ。自分達だけが魔力を使えると油断してるから外部に意識を向けるはずもなく、スライムスナイプでさくっと狙撃されていった。以前ニューに報告された痛々しい二つ名のレックスも天井から飛び降りて脳天を貫いて仕留めてある。
後は大講堂にいる奴等を始末すれば終わりと思ってたのにここで問題発生。なんと『シャドウガーデン』の皆さんが学園内に待機しているとのこと……うーん、学園外でたむろってる騎士団と同じくらい有難迷惑!
おかげで魔力の錬成を阻害しているアーティファクトの効果を打ち消そうとしていたシェリーの手伝いをすることになった……日が完全に落ちるまでな! アーティファクトの知識がない僕に手伝えるはずもなく、暇だからってソファーで寝っ転がって本を読む訳にもいかず、隠れるのが下手過ぎだったシェリーに隠密のコツを教えるか、トイレに行くふりしてニューと駄弁るくらいしかやることがなかった。
大講堂の救出も不意打ちでローズを殺そうとしていた黒ずくめを文字通り蹴散らす以外何もしてない。その助けたローズがいるから剣を使えなかったのだ。流石に『シャドウ』の正体までバレるのは恥ずかしい。なので僕は『シャドウガーデン』の皆がテロリストを蹂躙する間、何故かローズにガン見されながら腕を組んで佇んでいるだけだった。首謀者が逃げようとしてることを教えてくれたニュー、本当にありがとう。
でもって敵も嬲らず即殺とも言ったな? あれも嘘だ。
「本当に親子そろって愚かな女達だよ。私が探し求めた『強欲の瞳』を国に管理させようとして私に殺された母のルクレイア、私が仇とも知らず尽くしてくれた娘のシェリー……彼女等のおかげで私は再び栄光を手にできる」
火に包まれた副学園長室で対面のソファーに座る痩せ気味の初老の男性、ルスラン副学園長が大切で可愛い自慢の娘と言っていたシェリーのことを笑顔で貶している。この人は紛れもなく本物で正気だ。つまりこれがルスラン副学園長の本性なのだろう。
僕はシェリーと仲良しという訳じゃない。偶然チョコを渡して、相手がそれを大袈裟に受け取った。薄情だけど彼女との関係はそんなものだ。
だけど彼女が優しい努力家であることを知っている。学園がテロリストに襲われている最中、一人逃げようとするのではなく皆を助けようとしたことを知っている。その原動力が大好きな義父のためだと語った彼女の笑顔を知っている。だからこそ――柄にもなく嬲り殺すと決めた。
「とても不快な話ですね」
「本物の頂点を知らない君に何を言ってもわからないだろうさ。そして残念だがお別れだ、シド・カゲノー君」
ルスランが立ち上がりながら剣を抜くと同時に僕の胸へ振り抜いた。授業では一番下の部、選抜大会では一回戦で瞬殺された
にも関わらず、僕は親指と人差し指だけで摘むように剣を止めた。
「何ッ……ぐあぁ!?」
驚きのあまり硬直したルスランの剣を折り、手にした剣の先端をデコピンで打ち出す。瞠目していたルスランの目に金属片は吸い込まれるように突き刺さり、彼はのけ反りながら苦悶の声を上げる。
その隙に僕はルスランの懐から『強欲の瞳』とシェリーが調整した制御装置を奪う。ゼノンは自分の力に絶対の自信を持っていたから全て使わせた上で叩き潰したが、ルスランの話からすると彼は失った力を取り戻すために『強欲の瞳』を欲していた。こいつの場合、舐めてかかったことや全力を出せなかったことを後悔させた方がより辛くなるだろう。
痛みに悶えていたルスランがゼノンも持っていた『覚醒者3rd』とかいう状態になれる赤い錠剤を飲もうとするも、出現させた漆黒の刀で錠剤を持った右手を斬り落とすことで阻止する。おまけに残っていたもう片方の目も潰す。これで彼は何も見えず、殺されるのか左手を斬られて抵抗の術を奪われるかの二択に怯えるしかない。
ヤケクソ気味な雄叫びを上げてがむしゃらに剣を振り回すルスランの手首に刀を刺す。そこから足先、二の腕、太腿。次第に身体の中心に集まっていく刺突の嵐に目が見えないルスランでも気付くだろう。彼がシェリーの母親を殺した時のやり方と同じだと。
「ま、待っ――!!」
「お前へのシェリーの献身を踏みにじったことを後悔して死ね」
胸に突き刺した刀を捩じる。それで終わり。『シャドウガーデン』を装ったテロまで起こした男はあっけなく死んだ。
「『強欲の瞳』はシェリーに渡すとして……遺体も火が届かない場所においてやるか。お前がシェリーを弄んでいた屑でも、彼女にとっては尊敬する父親だったんだろうし」
死んだと思われてるシドの格好で動き回って見つかったら不味いのでシャドウに変身。まだ火の手が及んでいない校舎側の道ではなく、紅蓮の炎に包まれた壁の窓から遺体を抱えて飛び出した。
――この時、シドは気付かなかった。彼から教わった隠密術を馬鹿正直に実践した少女が扉の陰に隠れて一部始終を耳にし、シドがシャドウに変身する瞬間を目撃したことを。
♦♦♦
後日、『シャドウガーデン』に加わった狂信者みたいな研究者が桃色の髪の少女と聞き、シドは膝から崩れ落ちることになる。
どうやってシェリーが『シャドウガーデン』に入ったのかは考えてないです。完全なご都合主義です。
それと原作シャドウは多分自分を両親の仇と思わせようとしていたと考えていますが、今作シャドウは復讐の道に走らなければそれでよし。復讐を選べばどっかのタイミングで姿を現して貴様の狙う敵だとかやる予定でした。