Side by 士郎
『ふう…流石に10人近くの分を作るとなると疲れるな…』
『材料を買った時にも量が多すぎてびっくりしてましたもんね。先輩。』
『全くだ。まあこれが適正量になる家の住人達の食い意地が一番の問題なんだが……サンキュー桜。ちょうどのどがかわいてたんだ。』
桜に差し出されたコップの中にある水をグイッと飲み干す。
今日はかなり重労働だったこともありただの水道水でもかなり気持ち良く身体に染み込むのかよくわかる。
転校してから初めてのイベントである体育祭の準備も大半が終了し、一番の強敵であった弁当作りも料理の弟子である桜の協力もあり無事に終えることができた。ひとまずはこれで一安心だ。
……ただ各々の腹に丁度よく収まる分量をそれぞれ買おうとしたら当然のように諭吉がポンポン飛んでいったのには目眩がしたけどな。
『……?どうかしたんですか、先輩?』
『いや、落ち着いたらまたあのレジでの惨状を思い出した。今月はしばらく節約だ節約。』
『あはは…あんまりやりすぎるとセイバーさんと藤村先生が怒っちゃいますよ』
苦笑いを浮かべながらそう言う桜に、それもそうだなと同意する。
冬木の虎こと我らが藤ねえ、藤村大河と伝説の騎士王…今となってはその面影は影を潜め我が家の誇る腹ペコ王となったセイバー。
我が家のエンゲル係数のおよそ4割弱を占めるこの二大マスコットは非常に職に敏感である。少しでも手抜きをしようものなら手厳しい指摘が矢継ぎ早に繰り出される上にしばらくの間不機嫌になってしまうのだ、その上2人とも揃って腕がたつというのがまた苦しい。前に一度セイバーを本気で怒らせてしまったことがあるのだが、その時に体験した悪夢は二度と経験したくはない。
『ところでみんなどこにいるんだ?まだ寝るには早いだろう。』
伸びをしながら台所を出るといつになく今の人数が少ないことに気がつく。
視線を変えて時計を見れば時刻は9時、いつもならみんなのんびりとテレビでもみている時間だ。
だというのに居間にいるのはせんべいをポリポリとかじりながら寝っ転がりだるそうにテレビを見ているイリヤだけだ。
いつもいないライダーは恐らく自室として他はいったいどこへ…
『セイバーとタイガなら道場で打ち合ってるし凛はお風呂よ。ライダーもなーんか気合い入ってるし面白いわね。たかがお遊戯会なのに。』
『流石にお遊戯会はないだろう……それにイリヤ、行儀が悪いぞ。せんべいのかすが畳に入り込む。』
『はーい。』
ごろんと気怠そうに起き上がるイリヤを苦笑しながら眺める。そもそもイリヤは身体の都合もあり運動は苦手だ。体育祭というイベントに興味がわかないのはまあ仕方ないか。
それに相変わらず人混みが嫌いというのもあるかも知れないな。
『せっかくだから楽しめば良いじゃないか。10代の特権なんだぞ?こういう機会は。あと何年かしたらやりたくてもやれないんだからさ。』
『もうーなにその言い方ジジくさい。それにシロウも知ってるでしょ?私、運動は嫌いなの。』
むくれるイリヤの横に座るとイリヤは不機嫌そうな表情でスリスリとよってくる。まあせっかくだからこのまましばらくはワガママ姫様のおもちゃになってあげよう。
『それにしてもセイバーと藤ねえが打ち合いか…あの二人、最近俺以上に熱心じゃないか?』
『タイガが凄すぎるのよ。いくらセイバーが魔力ほぼ全カットで弱くなって言っても数多くの戦いを潜り抜けてきた騎士王。まともな試合になるなんて達人クラスよあれ絶対。……もしかすると将来英霊にでもなっちゃうんじゃない?虎竹刀の流派を作るとか何とかして。』
『藤ねえを信仰するなんて人いないからそれはないな。絶対。』
この家にはかなり立派な道場がある。親父である切嗣がここを買い上げた時には既にあったらしく年季も入っている。半年前の戦いの時には俺が戦いの心構えを教えてもらうべくセイバーに修行という名のもはや暴行をされていた場所なのだが、戦いが終わるとさすがに頻度が減ってきた。それでも週に2~3回は剣を交えている。
だがそれ以上のハイペースでセイバー戦いを挑む猛者が現れた。
そう冬木の虎こと藤ねえだ。
元々かなり武道派の藤ねえがセイバーに興味をもつのは時間の問題だったし、セイバーはセイバーで純粋な藤ねえにはそれなりに好意的だったこともあり今ではセイバーは道場の師範代みたいになっている。最近、『大河は筋が良い。今では士郎とて勝つのは難しいかもしれません』と正面から言われたときは少し悲しくなったが。
そう言う訳で今日もそこに籠もっているのだろう。イリヤと対照的にセイバーは初めての学校行事に興味深々でしっかり体調を整える云々言ってたし明日へ向けたアップの意味もあるのだろう。
『それもそうね。タイガなんかが英霊になったら他の英霊の面目丸潰れだろうし。』
『そうだろ?』
『いやあ平行世界では英雄になる男はやっぱり言うことが違うわね、士郎。あなたの言い方だとまるで藤村先生は自分より格下、って言っているように聞こえるけど?』
『遠坂!?どうしたんだお前、最近流行なのか?その気配を消して近寄ってくるの。』
『んなわけないでしょ。あんたが鈍すぎるのよ。ほんとセイバー諸共緩みきっちゃって。』
『あー!リンずるい!そこは私のポジションよ!』
よいしょ、とイリヤとの間に割り込んで座ってくる凛さん。風呂上がりで少し濡れた髪からはいい匂いがするしパジャマはなんか子供っぽくて普段とのギャップがすご……ってあれ?
『遠坂……?お前ちょっと変わったか?』
『おっ?そういうのはちゃんと気づけるのねー。ちょっとだけだけど髪、切ったのよ。運動するには邪魔だからね。』
ファサッと髪を靡かせるとさっきからほのかに感じていた匂いが部屋中に一気に充満する。
……狙ってるのかどうかわからないけどこりゃちょっときついぞ!
クラッとしそうになるのを理性で必死堪える。何というかあざとい。可愛いのは間違いないのだが…。
それにしてもだ、どうやら遠坂も随分とやる気があるように思える。普段なら髪を切るのは1ヶ月に1回のローテーションと決めているのだが本来ならその日はまだ先のはずだ。そんな日課を崩すとは正直なところ意外である。
『……なによその目。なに?私が体育祭にやる気があっちゃだめ?』
『いや!別にそういうことはないんだが…』
悪い?と言わんばかりにジト目で言ってくる凜に少し後退りながら言い訳する。
別に悪いなんて思ってはいないんだからこれは本当だ……ただ思いっきり意外なだけで。
『私だって少しは羽を伸ばしたくなることもあるのよ…それに勝負には変わりないからね。知ってるでしょ?私、どんなことでも負けるのは気にくわないのよ。』
まあそうでしょうね。そう言ってニカッと笑う彼女に対し真っ先に抱いた感情がそれだ。皆徐々にあれから変わっていっていっている。だけどこの遠坂凛という少女だけはいつになっても変わらないのかも知れない。そうなんだが安心するような笑顔だった。
『……?なに、変な顔しちゃって……まあいいか。そろそろセイバーと藤村先生も帰ってくるだろうし、ここ、空けといた方が良いんじゃない?』
そう言うと遠坂は立ち上がって居間を出て行く。恐らく離れの自室へと戻ったのだろう。 それと同時に外の道場のほうから足音が聞こえてくる。2人が帰ってきたのなら彼女達の指定席であるここは空けるべきだろう。
せっかく準備が早く終わったことだし今日は早めに寝るとするか。
『士郎、もう寝るの?』
『ああ、明日は大変だからな。早めに寝ることにするよ。』
お休み、とイリヤに挨拶をし自室へと歩く。
穏やかな日常。明日は一体なにがあるのだろうか?
『『士郎夜食ー!!!』』
そう簡単にはいかないみたいだ。
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Side by 雄二
【くっそ…………なかなかまとまらねえ!!!】
明日のプランを何度も書いては消してを繰り返したノートをイライラから床に投げつける。
時間は……11時か。あまり遅くなると明日に支障が出るから早めにまとめたいんだが…
【(Aクラスがありがちなガリ勉集団ならこんなに迷うことはないんだがな…)】
勉強に集中している割に平均的な運動神経が高いという点が俺の神経を波立たせる。というよりもその平均を引き上げているトップクラスが強すぎる。男子はうちのバカどもを扇動すればいい勝負になるかもしれない。いつとFFF団というバカの殿堂とも言える集団の中で日々追跡、探索、粛清と警察の特殊部隊もびっくりな技術と能力を兼ね備えているあいつ等はこういうときは頼もしい。先程のメールをみる限り明久も乗り気だ。あいつをリーダーに据えて表で暴れてもらえばそうそう負けはしないはずだ。
しかし問題は女子だ。スポーツに対する知識は皆無とはいえスペックだけならトップクラスの翔子、評判通り何でも出来る秀吉の姉、木下優子、工藤も水泳部のエースだし美綴もまあかなりのものだろう。こちらもセイバー、遠坂がいるが姫路の穴を埋めきるのはやはり厳しい。
【となると今回から導入の召喚獣使用競技に勝つしかない…か。】
例年と違うものならミスコンも採点に入るらしいがそこに関しては俺にはどうしようもない、女子勢に任せるしかないだろう。俺に出来ることがあるとすれば秀吉を説得してその戦力にプラスするくらいだ。
そうなれば残るは未だに詳細が発表されていない召喚獣競技にかけるしかない。あのババアがサプライズと銘打って情報を掴めなかったのは痛いがそれはどこのクラスも一緒だろうし勝機はある。
【ムッソリーニと明久には無理を酷使させることになるか…団体種目には須川、横溝を配置して…】
なるべくバランス良く分担するのが肝だ。後半になればなるほど配点の高い種目がある以上そこに至るまでにへばられては話にならない。
それにしてもまだもう一押しないと苦しいが…
【(コンコンッ)……雄二、入っていい?】
【ん?翔子か?構わないぞ。】
カチャリという音とともに扉が開き翔子が入ってくる。
こいつがちゃんと礼儀を守るなんて珍しいこともあるもんだ。
【……明日の作戦表?】
【そんなところだ。】
まあな、と答えながらも隠したりするつもりはさらさらない。こいつがそんな卑怯な人間じゃないのはよくわかっているし何よりもまだ誰でも分かる一般的な作戦のみで具体的に出し抜く策なんてものは出来ていないからだ。
【……雄二はそんなに勝ちたいの…?】
【当たり前だ。この年で結婚だなんて人生終わりだぞ終わり。俺はまだ楽しみたいんだ。】
【……そう】
いつもと変わらない表情から何かを読み取るのは難しい、そういうのは凛の得意分野だ。俺にはいつもの、ただ少しだけ真剣な翔子にしか見えない。
【……けど雄二は約束した。体育祭で私が勝ったら結婚するって。】
それを言ったのは凛であって俺ではない。絶対にだ。
【……だから明日は全力で闘う。雄二は…私と幸せになるんだから。】
それだけいうと翔子はまた来たときと同じように音もたてずに帰って行った。
部屋にのこったのは少し水を吸った綿のように重くなった空気と端から見ればポカンとした表情を浮かべている俺だけ。
【言うだけ言いやがって……畜生が。】
……睡眠時間を十分にとるなら後1時間の間に纏めればならないな。
俺は再びノートとのにらめっこに全神経を注ぎ込むべく顔を落とした。
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「秀吉、あんた分かってるでしょうね?」
「だ、大丈夫じゃ!女物の服など着たりせぬのじゃ!」
「頼むわよ本当に。これ以上変な噂を立てられたら私はもう限界よ…」
「大半は自業自得じゃと…」
「なんか文句ある!?」
「ないぞい……それにしても姉上随分と気合いが入っておるの。」
「まあ優等生としては学校行事はやりきらないとね…遠坂さんに最近そのキャラ取られそうだし(ボソッ)」
「うん?後半が聞こえなかったのじゃが」
「聞かなくて結構よ。それじゃあお休み秀吉。」
「お休みなのじゃ。」
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「瑞希ちゃん?準備はできたの?」
「うん!大丈夫だよお母さん。」
「頑張ってね、明日はお父さんも一緒観に行くから…ただ無理はダメよ、絶対にね。」
「分かってます。けど明日は頑張りたいの。」
ーーーーー
「(キュッキュ…)……調整完了」
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「お姉ちゃん!明日はがんばってくださいです!」
「ええ、ありがとうね。葉月。お姉ちゃん頑張るから。」
「お姉ちゃん…」
「大丈夫よ葉月…だから…そんな顔しないでよ…」
どうもです!
次回より体育祭編中枢突入です!
休んだおかげで筆(指)が軽いです。
お気づきになられた方もいらっしゃるかもしれませんが読みやすくなるように文の書き方に少し修正を加えています。もしも前のほうが良いとかあれば要望欲しいです。なければ今後もこのスタイルでいきます。
それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃん待ってます!
最近感想減って悲しいぜ(泣)