【負傷者多数により現在競技を中断しております。しばらくの間待ち下さい。】
グランドに生徒の賑わいはなく、この場に釣り合わない奇妙なざわめきが支配していた。
救護用テントには男子生徒が大量に群がり、保健室、日を防ぐために教室も埋まってしまっている。
それを冷めた目で見つめる3人の男の姿があった。
「なあ坂本」
「なんだ?」
「やっぱりこの学校って……」
「おお、察しが良いな。その通りだ。」
「「「本当にバカばっかりだ。(じゃな)」」」
数少ない常識人の溜め息が快晴の夏空に消えた。
ーーーーー
「……輸血パックの在庫がなくなった」
「因みにどれくらい?」
「……一般男性なら半年分」
「その量をどうやって持ち込んだのさ…」
「……企業秘密。」
遂にあのムッツリーニの底が見えるとは桜ちゃんと姫路さんのツインマウンテン恐るべし。
テントの中から覗く日差しが眩しい。
体育祭のオープニング競技、女子100m走。華やかな幕開けになると思われたこのスタートだったが余りにも華やか過ぎて初っ端から数十に及ぶ男子がKOされることになってしまった。
その……揺れるのだ。何というか圧倒的な質量が。
かのクーベルタンはこう言った。「オリンピックは参加することに意義がある」と。
そして僕はこう思う。「体育祭は運動が苦手な女子でも参加することに意義がある……」
順位から見れば語るまでもない、そもそも最初のレースで走っている時点でいわゆるそのスピード、格好良さに見惚れると言うアスリート的な要素はない。
だが男はそれ以上に魅了されるものがあるのだ。それこそ本能に近いもので。
「ムッツリーニ、早速だけど写真は?」
「……あるけどプレミア価格、通常の2,5倍からスタート」
様々な女子を見つめ、その写真をとり続けたムッツリーニにでさえこの破格の評価だ。それだけでも如何に価値のある光景が僕らの目の前に広がっていたかは予想がつくと思う。
最後尾ながら健気にその身体全体を使い、少しでもクラスのためにと全力を尽くし走った2人。その姿に僕等男子は心を躍らせ、血潮を沸き立たせ、そして抑えきれない情熱を全面に押し出したのだ。
瀕死の状態から必死の思いで蘇り、またその役目を果たし瀕死に戻ったムッツリーニの写真は例え今月の食事が塩水だけになろうとも買う必要がある。
なにがあろうとも本懐を遂げることこそ最重要課題でありそのためには……
「アキ君、-100点っと……」
「なんでさぁぁ!!色んな意味で!!」
「……なんて威力!!(ブシャア!!)」
「アキ君の考えていることなど全てお見通しです。……なんでここまで破廉恥なのでしょうか……」
「20中盤にしてそんなピチピチの体操服とブルマ着てる人にだけは言われたくないよ……」
吹き飛んだ。何もかも吹き飛んだ。
一応収束に向かっていた事態は一人のバカの介入でさらに混乱することになる。紛れもない慢心、そして油断、保護者としての外面だけはまともな姉を信用した僕が全て悪い。
再び血の海と化した救護テントの中で不思議そうな顔をしているどこから持ち出したのか分からない明らかにサイズが違う体操服に身に包んだ姉さんを見て僕の自我は崩壊しかかった。
ーーーーー
「ひどい目にあったよ……」
「おう、やっと戻ったか……なにがあったその顔!?鼻血でそんな風になるものなのか!?」
「体育祭には魔物が潜んでるんだよ……」
「坂本、ここは触れないでおこう。……ところで土屋はどうした?一緒にいたんだろ?」
「ムッツリーニなら二次災害にあって」
「そうか……」
衛宮君の心遣いが身にしみる。理想郷による集団離脱からおよそ1時間、僕は遂に僕は数多の屍を踏み越え遂にFクラスへと帰還した。
因みに席にいるのは凡そ半分だ、他の皆はまだ死の淵をさまよっているということか。
「まあとりあえずそれはおいておいて、だ。お前らが寝ている内に競技は再開してそろそろ家のクラスの連中の出番だぞ。」
「え?」
目をスタート地点に移してみればもう殆ど人がいない。誰がどこにいるとかわかる程度だ。
どうやら僕らはほとんどを見逃してしまったらしい、最後の遠坂さんやセイバーズさんを見れるからまだ良いけどすべてを探求するムッツリーニは泣いて悔しがるだろう。
「あれ……これが最後ってことは美波は……?」
気がついた、いや。気がついてしまったというべきか。浮かれ気味な空気につられて少し頭の奥に追いやられていたことを思い出す。
美波は…一体どうなった?
「あー島田はじゃな…」
「ダントツの最下位だ。未だに脱け殻だなありゃ。」
言い辛そうに秀吉が言いかけるがその上から、隠しても意味ないだろと雄二が被せるように事実だけを告げる。
そうか、もしかしたらこの非日常の空気で少しくらいは良くなっていないかなんて期待してたけどそんなのは都合がよすぎる。
「……今はどこに?」
「清水美春が付き添ってどっか行った。まあ今はあいつに任せておいて大丈夫だろ。あいつも島田関連以外じゃ無茶しないだろうし今は他になんも見えないだろ。」
なら現在僕に出来ることはないだろう。本当に情けない話だけど清水さんのほうが余程僕なんかより美波の方を見ている。当然の判断というやつだ。
「……今てめえがそんなしけた面してても意味ないだろうが。タイミングはまだだ。焦ってもなんも変わらん。それよりも今はあいつらの応援だ、これは色々と重要だからな。」
それだけ言うと雄二はこれから今まさに最後の選手紹介が行われようとしているスタートの方をじっとみる。
その通りだ。まだ時間はある、本当にそのタイミングが来るのかは分からないけどただそこに向けて準備するのみ。
【それでは女子100m走最終レース、選手の紹介を始めます。】
【1レーン、木下優子さん、Aクラス】
先陣をきって紹介されたのは秀吉の姉にして才色兼備の万能少女の木下さん、片手を挙げて声援に応えているけどとてもかっこいい。
【2レーン、遠坂凛さん、Fクラス】
ここで爆発的な歓声が湧き起こる。主に野郎共の。最近ネコ被るのはやめたみたいだけどそれでもそのルックス、スタイルの良さから未だ絶大な人気を誇っている我らがFクラスの遠坂さんだ。こういう風に人に注目されるのは慣れていると言わんばかりの余裕の態度だ。これまたカッコいい。
【3レーン、蒔寺楓さん、Cクラス】
何故だかフラッシュが炊かれる。どうも生徒席でないところから。陸上界ではかなり有望株みたいだしどこか大学の関係者でも来ているのかも知れない。
それよりも驚いたのはさっきからの雰囲気の変わりようだ、もはや別人。冬木の黒豹と言う2つ名に相応しい。言えることは1つ。とんでもなく速そう。
【4レーン、アルトリア・ペンドラゴンさん、Fクラス】
再び歓声が会場を包み込む。今度は女子も多い。Fクラスから2人目の参戦者、セイバーさんだ。こうして見るとやっぱり小柄だしとても運動ができるタイプには見えないんだけど……本人も戸惑ってるのかきょろきょろしちゃってるし。
それに興奮したのか保護者席のほうから「きょろきょろセイバーも可愛い!お人形にしたい!」と一際大きな声が挙がっているがあれはあれで大丈夫なのだろうか。なにか犯罪が起きないか心配になる。
【5レーン、中林宏美さん、Eクラス】
運動部揃いのEクラスからはクラス代表でもある中林さんがこの最終レースに参加している。確か…女子テニス部の主将だったっけ?相当出来そうなオーラが漂っている。要注意かも知れない。
【6レーン、霧島翔子さん、Aクラス】
名前が呼ばれ、彼女がその片手を上に挙げた瞬間ざわついていた会場がサッと静まり返る(雄二の顔色はサッと蒼くなる)、なにか神々しいものを見たかのように。これがカリスマというものなのか。
そうして真剣勝負の空気そのものになったスタートラインに選ばれた6人が並ぶ。なんだか…重い。
「体育祭ってこんなんだっけ?」
「化け物が集うとああなる。しかも全員負けず嫌いときてるからな、遠坂もあれだし、木下姉もなんか対抗意識燃やしてるしな。蒔寺もあれみるとギャップが激しいタイプみたいだし部活でバチバチの中林も勿論だ。……セイバーだけはどうか知らんが……」
「ひどい、それもかなり。バッセンで諭吉1枚もってかれたときの事は忘れられそうにないな。」
「納得だよ。」
今あそこには華やかな見た目とは全く違う張り詰めた空気が支配しているのだろう。それこそ下手に触れたらとんでもない事になるような。
【On your marks ……set 】
なんで突然国際大会仕様になったのか。そう思ったのは僕以外にもたくさんいるはずだ。
【Ready……(パアァン!)】
スタートと同時にワアア!という歓声が巻き起こる。
横一線に飛び出した6人、その中でもスッと前に抜け出したのは……
「セイバーさん!?」
「反応がダントツだったのと瞬発力、足の回転の速さだな。」
「セイバーは反応やら勝負度胸がおかしいからな。ギャンブルスタート気味に構えておいて勝負したらまず負けない。」
飛び出したのは意外にもセイバーさんだった。
1人だけ目に見えて違う足の回転で急激に加速していく。その姿には先程までのきょろきょろというか心細そうな感じはどこにもみられない。というかあれは勝負師の目だ。
「これこのまま行けるんじゃ…!」
「そう簡単にはいかないだろ。」
「えっ?」
冷静な雄二の声通り初めの20mで抜け出したところで差が開かなくなる。これってもしかして…
「セイバーはあの体格だからな。恐らくトップスピードにたどり着くまでは誰よりもはやい。逆に言えば相手が実力者の場合後半は詰められる一方だということだ。そしてもう開かないとなると…」
隣から蒔寺さん、そして遠坂さんもそれに追いすがるように並びかける。最初に捻り出したアドバンテージは既に消え失せた。残る距離は後50m。
そうして勝負は後半へ、そして彼女は心から楽しいとばかりに笑顔を浮かべ……最後は1人でぶっちぎった。
ーーーーー
「申し訳ありません、士郎。」
「ですが坂本が……」
「良いんだよ、霧島さんのことになるとナイーブになりすぎる癖があるから。まだ勝ち目があることに気がついたらすぐに戻ってくるよ。」
「そうよセイバー、私も蒔寺さんに勝てなかったのは悔しいけど優子と翔子は抑えられたしね。ま、ボーナスが入ればこの人数でも一つくらいまともな順位だっただろうし、見た目順位で絶望するのもわからなくもないけどね。」
本当に申し訳無さそうに謝罪するセイバーさんを慰める。雄二は隅っこで何かぶつぶつと呟きながら体育座りだ。本当に霧島さん関連になると形無しになる男だ。
どこから持ってきたのか気になる電光掲示板には最終レース、そして現時点でのクラス順位が載っていた。
1位 蒔寺楓 12秒16
2位 遠坂凛 12秒69
3位 木下優子 12秒84
4位 アルトリア・ペンドラゴン 12秒87
5位 霧島翔子 13秒01
6位 中林宏美 13秒08
(タータン、スパイク使用)
クラス順位
1位 2ーC
2位 2ーA
2位 2ーE
4位 2ーD
5位 2ーB
6位 2ーF
どうもです!
なぜこんなに真面目になって100mを描写したのか分からない。
まあ良いですよね、たまにはこんなのも。
とりあえずオープニング競技終了です!ここから体育祭はどうなっていくのか?
それでは評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃん待ってます!
それではまた!