バカと運命と召喚獣   作:faker00

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~僕と衛宮君と料理の方程式~後編

「予定変更だ。」

 

和やかに談笑する衛宮君達を心なしか哀しげな眼で見つめながら彼らに聞こえないように雄二が僕らにこう告げた。

その瞳には今まで見たことがない強い決意が感じられた。

 

「変更って言ってもどうするつもり雄二?もう姫路さんは料理を始めちゃってる。もう未然に防ぐのは…」

 

「同感じゃ。」

 

「…さいはすでに投げられた。」

 

それに対する僕らの対応は…まあ三人とも同じようなものだ。普通に考えればここまで段階が進んでしまった以上犠牲者を出さずに乗りきるのは至難の業、いや不可能だ。

そして雄二の次の言葉は僕らを更に震撼させた。

 

「あの料理は…俺達4人だけで処理する…!」

 

「「「…は?」」」

 

 

正気かこいつ!?多めに摂取する、という提案ですら正直内心震えが止まらなかったのに僕らだけで処理するだと!?

僕らは合計10人、仮に四人で全て処理するとなれば一人が食べる量は2.5人前になる。

それだけの量をとればいったいどうなる?三途の川を往復するだけじゃ済まないぞ…!

 

 

「それはいくらなんでも無理だよ雄二!」

 

「分かってる!けどな、お前はあんなチビッ子が死地に赴くのを見過ごすって言うのか!」

 

やたらと雄二が熱くなっている。なんだか気持ち悪い熱さだ。

 

「ねえねえ秀吉。」

 

「なんじゃ?」

 

「雄二は一体どうしちゃったのさ?なんというか…目が濁ってないしまるで主人公みたいな誠実さだ。」

 

「それは本来褒められるべき変化なのじゃろうがのう…確かにお主と雄二は一般的な友人関係とは呼べんのかもしれんが。」

 

こういう時は秀吉に聞くのがベストだろう。

演劇部に所属する秀吉の観察力は並外れている、僕から見ればただただ気持ち悪い雄二の変化も秀吉ならなんなのかわかるかもしれない 。

 

「ああ見えて雄二は子供好きな所があるからのう。ほれ、島田の妹に対する態度を見ればわかるじゃろ?あのイリヤスフィールという娘も恐らく同じくらいじゃろうし何かスイッチが入ったのじゃろう。」

 

 

むむむ…確かに思い当たる節がある。

あんな馬鹿で粗雑な男だけど子供に対してはかなり優しい面があるのは確かだ。

イリヤスフィール…長いからイリヤちゃんでいいか。

イリヤちゃんも正確な年齢こそわからないが多分10才やそこらだろうし子煩悩?な一面を引き出したという可能性は十分に考えられる。

 

 

「となると?」

 

「残念ながら今の雄二を止めるのは難しいかのう…明久、お主もそろそろ覚悟を決めるべきじゃ。」

 

そう言った秀吉の目は何か悟ったかのように清く澄んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「もう…駄目かもしれない…」

 

今回は完全に年貢の納め時かも知れない。

台所から音が消えたのを感じて僕の絶望は深まっていく。

雄二のテンションは変わらず、盛り付けが始まったのか今度はお皿を取り出す音が聞こえ始めた。

これで万にひとつ程度残っていた姫路さんの中で料理が失敗して食卓に並ばない、という希望すら消えさったと見て良い。

あとは刑の執行を待つのみ。

 

 

 

「ねえお兄ちゃん?なんだか変な匂いしない?」

 

「え?そうかイリヤ?俺はなにも感じないぞ?」

 

 

異常を感じたのかイリヤちゃんが衛宮君の腕を掴みながらこんなことを言っている。

そう、僕らがいつも以上の絶望感を抱いている原因がこれだ。

姫路さんの料理は何故かはわからないが見た目だけは普通の料理と全く変わりない、むしろ美味しそうに見える部類だ。だからこそ初めて食べる人は対応出来ないのだが今回は微弱だがなんだか…異臭がする。普通なら気付かない程度の匂い、だが料理をする人間なら敏感になる匂い。それに気付いているのかイリヤちゃんに答える衛宮君も明らかに顔が青い。

 

 

ピンポーン

 

「ん?」

 

そんな澱んだ空気を切り裂くように来客の到来を告げる音が鳴り響いた。

 

「衛宮君?他にも誰か呼んでいるのですか?」

 

「いや、これで全員の筈なんだが…」

 

これは想定外だったのか、あれ?っという表情を浮かべながら衛宮君が立ち上がる。

 

「おーいボウズ!いねえのかー?」

 

「げっ、ランサーかよ…藤ねえ、来るならちゃんと言っといてくれよ…」

 

「あら?言ってなかったっけ?ごめんごめーん。」

 

来客はどうやら返事を待たずに上がり込んできたようだ。

そんな相手にも知り合いなのか衛宮君は警戒を示すことなく部屋を出ていく。

それにしてもランサーって…外国人なのだろうか?

 

 

 

 

 

『あれ?お客さんですか?』

 

『ん?お嬢ちゃん見ねえ顔だな…ボウズの知り合いかい?』

 

『ボウズ…?』

 

『ああ衛宮のボウズのことだ。今日いるだろ?』

 

『はい!今日はお友達の皆さんにお料理をたべてもらおうと思って集まってるんです!』

 

『ほお~そりゃいいね。おっ?パエリアかい?ちょっと一口…』

 

『あっ!ダメですよお!』

 

『ふむふむ…バリバリした食感に魚介の微妙な生臭さがマッチしてなんだがよくわからないスパイスの匂いが口のなかで弾けゲフッ!!』

 

『きゃあ!大丈夫ですか!?』

 

『おい!ランサー!?』

 

 

 

「しまった!」

 

もう実害が出るなんて!

今の大きな音から考えるに間違いなく意識はなくなっているだろう。

早く救命措置を行わないと!

 

 

「ムッツリーニ!」

 

「…準備は出来ている!」

 

スタンガン片手のムッツリーニと一緒に廊下へと走る。

本来ならAEDがあれば良いんだけどそんなものはない。心配停止の場合はこれでなんとか蘇生する!

 

 

「解析開始…ちい!なんてこった!発作の類いか!」

 

違うんだ衛宮君…姫路さんの料理だとそれくらい日常茶飯事。

 

倒れる男のもとへ駆け寄る。

高い身長に後ろで束ねた長い髪。アロハシャツにジーンズといったラフな格好の男性は20前後だろうか?

釣りに行っていたのか隣には魚が大量に入ったバケツが置かれ竿が倒れている。

 

「…脈、呼吸、共になし…明久!」

 

「蘇れえええ!!!」

 

 

手早く確認をすませると出力を最大にしたスタンガンを胸に押し当てると男性の身体がビクンッ!とはねあがる。

なんとか…命だけは!

 

 

 

 

 

「カハッ!ハア、ハア…なんだ今のは…死ぬかと思ったぜ。」

 

「良かった…」

 

 

処置を施すこと数回。なんとか男性は意識を取り戻した。

 

 

「大丈夫かランサー?急な発作だなんてびっくりしたぞ?」

 

「発作?いや、今のはそんなちゃちなもんじゃ…思い出したくもねえからもうそれで良いわ。」

 

ランサーと呼ばれた男性はチラッと姫路さんを一瞥するとブルブルッと身体を震わせ立ち上がる。

ああ~…完全にトラウマになっちゃったかも知れない。

 

「すまなかったなボウズ達。おかげで命拾いしたぜ。」

 

「あ、いえいえ。」

 

「…当然のことをしたまで。」

 

続いて僕らに向かいなおり手を差し出してくる。

なんというか男前な人だなあ…

 

「じゃあ今日はこれで失礼するわ。魚は置いてくから好きにしてくれ。」

 

「ああ、いつもすまないなランサー。」

 

「いいってことよ。それじゃああねえちゃんにも宜しく伝えといてくれや。」

 

 

そういうとランサーさんは後ろを向き立ち去っていく。

まさかこんなところで臨死体験をするなんて思わなかっただろうに器の大きそうな人で良かった…

 

 

「それじゃあ明久君、衛宮君。」

 

けれど

 

「そろそろお部屋に戻りましょうか。」

 

今度は僕らの番みたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ~なかなか良い感じじゃない!姫路さん!先生お腹ペコペコだよ~!」

 

「あはは、お味のほうはわかりませんけど…」

 

「…何か隠し味があるんですか?なんというか珍しい匂いがしますけど…」

 

「はい、秘密ですけどね。」

 

 

遂に姫路さんのパエリアが食卓に並んでしまった。

いつものことだが見た目は普通だ。

それを見て藤村先生は歓喜し、桜さんも匂いの原因がスパイスか何かと感じたようだ。

見た目で誰も回避しようと思わないのもあれだが問題はその量だ。

 

「…ムッツリーニ」

 

「予測される分量約3500g…致死量は遥かに越える。」

 

「分かってはいたけど多すぎる…!」

 

 

だめだ…!どう考えても多すぎる!

1人大体1kg弱!?無理に決まってるじゃないか!

 

 

「…行くぞ。」

 

女性陣がまだ食器を配っている内に誰よりも早く雄二がスプーンを持つ。

その手には大粒の汗が滲んでいる。

 

「(まって雄二!まだ早すぎる…!)」

 

「(食器が配り終わったらもう終わりだ!それくらいわかるだろ!)」

 

「(けど!)」

 

 

説得むなしく雄二は止まらない。

 

 

「あれ?何してるんですか!?」

 

「いただきます!!!」

 

 

一気にがっつく。

雄二…今の君は今までで一番輝いてるよ…

 

 

 

「きゃっ!坂本君!まだ準備中ですよ!」

 

「抜け駆けは許さないんだからー!」

 

「うるせえ!」

 

「待って!雄二を止めないで!」

 

「後生じゃ!」

 

 

なにも事情を知らない藤村先生達が雄二を止めにかかる。というか抜け駆けと勘違いしてスプーンを伸ばしてくる。

けど今は止めさせるわけにはいかない!

 

 

「ウオッ!口のなかで弾け…」

 

 

わずか数秒。雄二が意識を失うのに時間はかからなかった。

ええい!あの鋼の精神力で挑んでもこれか!

 

 

「いくよ!秀吉!ムッツリーニ!」

 

「わかったのじゃ!」

 

「…了解!」

 

 

口に運ぶ。

僕達の戦いはこれからだ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?どうしたの四人とも!まさかこの料理になにか!ッウ」

 

「先生!?」

 

「おいセイバー!大丈夫か!?」

 

「故郷の…ブリテンの味が恋しい…」

 

「ライダー!気を確かに!」

 

「いやああ!!お姉さま!それだけは!血を吸うのだけは!」

 

「えっ?えっ??」

 

「ちきしょう…!」

 

「士郎!みんなの治療を!ごめんなさいね瑞希…ガンド」

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

遠坂さんや、セイバーさん、ライダーさんがなにかひとつのものを物を求め闘っている、そんな突拍子もないファンタジーのような。

これは夢だ、夢ってわかる夢って時々あるよね…

 

 

「…ハッ!」

 

やばい!まだ全然食べきれてない!

このままじゃまた犠牲者が!

 

 

「おはよう、吉井くん。お腹一杯で寝てしまったみたいですね。」

 

「ん?」

 

飛び起きると目の前にはにっこりと微笑む遠坂さん。

いつの間にかあたりは真っ暗になっている。

 

「えっ…あの遠坂さん?パエリアは??」

 

「??何を言っているんですか?皆で美味しく頂いたじゃないですか?」

 

「??」

 

あれっ?確かに姫路さんの料理はいつも通りでまず雄二は犠牲になって僕らもそれに続いて…あれ?どうなったんだっけ?

何故だろう記憶がない。もしかしてまともだったような気がしないような…

 

「思い出しましたか?皆寝てしまってますし今日は泊まっていった方が良いと思いますよ。布団はもう敷いてありますので。それじゃあおやすみなさい。」

 

 

あくびをひとつしてすたすたと歩いていく。

隣には同じようにぐっすりと秀吉とムッツリーニが眠っている。

今日のことはなにか全部間違いだったのかもしれないな…

安心した僕はそのまま死んだように眠りについた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

「で?なにか言い訳あるかしら、士郎?」

 

「面目ない…」

 

「全く…8人の記憶改竄なんてめったなことじゃないわよほんと…まあまさか瑞希があんなものを作るなんて予想出来なかったのは仕方ないけど」

 

「はい…」

 

「罰としてこれから暫く付きっきりで料理を教えてあげること。良いわね?」

 

「責任もって面倒見させてもらいます。」

 

「よろしい。料理の方程式に正解はないっていうけど愛情だけじゃどうにもならない基本的な式はあるんだから…セオリーっていう解くらいはきちんと教えてあげないとね。」

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません。
おとしどころがみつからず…姫路さんの料理はそれそのものを題材にしたらだめですね…なにかやるに付属してこそですね…これからは気を付けよう。

更新遅くなって申し訳ない。次回からはまた本編に戻ります!短編は2,3話に一度盛り込むくらいのペースになるかと。

それではまた!
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