「暑い…」
「言うな。言ったところでどうにもならん。」
「それにしてもいくらFクラスって言ってもこの気温で扇風機すらないってのはどうなのよ。あーあ、これならAクラス入っとけば良かったかなあ。」
「凛、少しだらけすぎではありませんか?普段の貴女らしくもない。」
「暑いのは苦手なのよ。寒いのはそうでもないから貴女は私のこういう部分を見たことないからそう思うだけよ…」
「いや、二年間そんな場面見たことないぞ?」
「それは女の、優等生の意地ってやつよ。士郎。」
今は6月、梅雨真っ只中だが時折照りつける日差しはもう夏のそれだ。
そんな中設備最低のFクラスではあの遠坂さんですらぐったりとする湿気と熱気の中今日も授業が行われていた。
因みに今は昼休み、皆水を求め這い回るカタツムリのごとくである。
「はあ…暑いです…」
「大丈夫かの姫路?あまりにもきついようなら保健室に行った方がよいぞ、あそこならマシな設備も整っておるし…」
「大丈夫です…」
「…」
姫路さんもあの様子である。
元々体の弱い姫路さんにこの環境はどう考えても好ましいとは言えない。
むしろ最低だ。
こんなだから新学期開始早々転校騒ぎなんてのが出てしまうのだろう。
「…おい、行くぞ明久。」
「どこにさ?」
寝っ転がっていた雄二がいきなり立ち上がる。
なーんかやる気だけど正直動きたくないし午後に向けて出来る限りカロリーを温存しておきたいんだけど…
「決まってるだろう。あのババアの所だ。設備改善の要求に行く。」
「そんなの無理に決まってるじゃないか。あの学校に巣くう妖怪に僕等人間の言葉が通じる訳がないじゃないか。」
「どうして貴方達の学園長への評価はそこまで低いのよ…」
「「それは遠坂(さん)がおかしい」」
やはり学園長への評価は人外というのが適当だろう。僕と雄二の見解が一致するという世にも珍しい事態からもそれは明らかだ。
それにしてもだ。
あのババアが僕らの要求なんて聞くわけがない。なにせこの格差社会を作った張本人だ、僕達が何を言おうと、「なら良い点を取れば良いことだ」とか何とか言って追い出されるのがオチだろう。
そんなことすら分からないなんて遂に雄二もボケたか?
「そうかも知れんが何もしないわけには行かないだろう…今ですらこんな状態だ。今後死人がでてもおかしくないぞこれは。流石に生徒の健康状態を危機に陥れるような環境なら主張する権利くらいあるはずだ。」
「それはそうかも知れないけどさ…」
あんまりやる気がしないんだよな…
「それに、だ。」
雄二がこっちに顔を近づける。
やばい、暑苦しい。
「このままだと姫路の身体に限界が来るのも近いぞ?…よし、ついでにカロリーの問題なら心配するな、ついてきたらカロリーバー奢ってやる。」
「のった。」
ここはやはりクラスの為に僕が立ち上がるべきだ。
いくら雄二と言ってもあの妖怪相手には分が悪い。助けが必要なはずだ。
「助かる…それじゃあさっさと学園長の所へ…ん?」
廊下からバタバタと走る足音が聞こえる。
おかしいな、旧校舎にはFクラスしかないし皆ぐったりしている。
それにこっちにはまともな冷房設備がないから訪ねてくる人なんて殆どいないんだけど…
そんな事を思っているとほぼ開かずの間と化していた教室の扉が勢い良く開かれた。
「衛宮!」
「先輩!」
「ちょっとこれから付き合って(下さい)!」
「行くぞFFF団よ!この部屋以上の灼熱で反逆者を焼き尽くせ!!」
「「「裏切り者には死を!!!」」」
「な、なんでさ~!!!」
ーーーーー
「…いてて…酷い目にあった。」
「いや、今日は運がいい方だぞ衛宮、暑さのせいかFFF団の動きが鈍かった。」
「うん。やっぱりこの気温であの黒装束は厳しいよね。」
「吉井君、真っ先に参戦した貴方がいえることじゃないと思うのだけれど。」
美人2人にお呼ばれなんてイベント、暑さなんて忘れて襲いかかるに決まってるじゃないか。
「あの…先輩、大丈夫ですか?」
「なあに衛宮ならこれくらい問題ないだろ。なんてったって衛宮だからな。」
「でも…」
「美綴、少しは心配してくれても良いんじゃないか?」
僕らは今学園長室へ向かうために新校舎の廊下を歩いている。
本当にこっちの設備は格が違う。あまりの涼しさにシャツの腕まくりを止めたくらいだ。
今回は6人というそこそこ大所帯だ。
僕、雄二、衛宮君、遠坂さんに加えてさっきFクラスを訪ねてきた桜さんと美綴さんもいるからなんだけど…
「2人はなんで学園長のところに?設備に不満があるって訳じゃないと思うけど…」
問桐さんはまだ一年生だから教室設備に差は無いだろうし、美綴さんに至ってはAクラスだ。
まさか僕らと同じ理由なんてことはないだろう。
「そうだぞ2人とも…いきなり連れ出しといてなんの説明もないんじゃ俺だってどうしようもないぞ?」
「あの…それは…」
問桐さんは何か言いづらそうに言いよどんでいるが美綴さんが、余計なことはいわな~い、と隠すように前に立つ。
「まあ良いじゃないか。ここまで乗り掛かった船だ。今更降りるなんて言わないだろ?」
「…そうだけどな…」
衛宮君の人の良さを知り尽くした戦術だ。
衛宮君は不服そうな顔こそ見せるもそのまま何も言わずに引き下がった。
「ふぅ~ん、なんだか面白そうじゃない。」
隣では遠坂さんがニシシッといった感じにイタズラっぽく笑っている。
とても可愛いんだけどそれ以上になんだか邪気を感じるのは僕の気のせい何だろうか?
「まあ何でも良いけどな。ほら、行くぞ。妖怪退治だ。」
気が付くと目の前には他の部屋とは一線を画す立派な扉がそびえていた。
ここが学園長の部屋。僕ら文月学園の生徒なら当たり前のように何度も足を運んでいるはずの場所だ。
「ここがそうなのか…でかいな…」
「私のクラスの人は誰も場所を知らなかったから助かりました。」
「そういやここは知名度低いよな、こんなに立派なのに」
「私も来たのは一回だけね。来る用事なんてめったにないしね。」
色々と聞こえてくるがこれはみんなが転校して間もないから、だからこの部屋に馴染みがないんだと僕は信じている。
「それじゃあどっちが先に行く?俺達はどっちでも構わないが。」
「私らもどっちでも良いよ。」
「なら一緒に行けば良いじゃない。交渉ごとは人数でワーワーまくし立ててごり押しするのも意外と有効よ。」
「じゃあ一緒に行くか。覚悟しろよ?ここから先は人外魔境だ。」
雄二の言葉に遠坂さん以外が頷く。というか問桐さんに至ってはちょっと震えてない?あんまり人の事を恐がらせるのは良くないと思うんだけど。
無駄に神妙になった空気の中、僕等は学園長室へと踏み込んだ。
ーーーーー
「む…なんだ衛宮ではないか。何か用か?」
「一成!?なんでここに…」
電気がついているにも関わらず何故か少し薄暗い部屋の中にいたのは衰えきったババアではなく、強化合宿でも世話になった柳洞君だった。
そう言えば見慣れない机もあるけど…まさか!
「だめだよ柳洞君!今ならまだ戻れる!早く人間の世界へ…」
「む?何をいっている?」
「一体どういう処理をしたらそんな発想に至るのか俺には未だにわからん…」
雄二は諦めたようにそっぽを向いている。
この人でなしめ!
「まあ良いか…うむ、実はまともに機能していなかった生徒会の建て直しを任されてな。今後生徒会室も新調するのだがそれまでの間は学園長の好意でここを間借りしているのだ。」
転入直後の二年生に実権を握られる生徒会も生徒会だし、学園長の好意なんて前代未聞だ。
今日は珍しい事のデパートみたいだ。
「へえ、またあんたはそうやって教師、学校の狗になるんだ、甲斐甲斐しいわね。」
「黙れこの女狐、俺は学校を変えたいという気持ちで動いている。そこに立ちはだかると言うのなら今度こそお前の尻尾を掴んでみせるぞ。」
「あら怖い。無駄な努力だと思うけど頑張ってね。」
2人の間にバチバチと火花が散っている。
なんというか宿命のライバル、みたいな空気だ。
それにしても柳洞君はやたら遠坂さんに風当たりが強いが何か理由でもあるのかな?
遠坂さんが外なのに猫被りしてないことが関係ありそうだけど。
「それで、お前達こそ一体何のようだ?全く…遠坂のみならず衛宮まで連れてくるとは余程本気の用事があるようだが。」
「いやな柳洞、本当ならこれは生徒会でどうにかなる権限の話じゃなくてさ。」
美綴さんの言葉に柳洞君の眉がピクッと動く。
「生徒会の権限でどうにかなることではないだと…?となると学園長に直談判したいということか。それなら尚更聞こう、もしも有用なことならば俺の方からも学園長に進言しよう。」
椅子に座り、着いた両手を組みその上に顔を乗せる。
なんだかやけにさまになっている。
会社で部下を問い詰める部長はあんな感じたと思う。
「じゃあとりあえず聞いてもらおうか。あのな柳洞…」
「私達、この学校でも弓道をやりたいんです!」
「ほうっ…そう言えばこの学校には弓道部はなかったな、言いたいことはまあ分かる。だがな…」
なにやらガサゴソと机の中を漁る。
そうして出てきたのは書類が満載され辞書みたいに分厚いファイル。
「残念だが体育館含め現状の施設では弓道は不可能だ。あまりにも部活が密集しすぎている。更に金銭面も問題だ。道具を揃えるだけでもかなりの負担になる。」
「あうう…」
ダメな理由を列挙され問洞さんがしゅん、としてしまう。
いや、確かに何も間違った事は言ってないけどそこまで言わなくても。
「…だからどうしたっていうのよ。この学校の経営状態はすこぶる良好な筈よ。試験召喚獣システムで普通の学校じゃありえないはずの規模のスポンサーがついてるんだから。それにあの学園長のことだし学校の宣伝になるならやるんじゃないかと思うけど。顧問は藤村先生に任せるとして綾子や桜、それに衛宮君の腕はあなたもよく知っていると思うけど?」
助け船を出すように遠坂さんが語る。
あのババアの思考回路は理解できないけど見栄っ張りなのはわかる。
これは一理あると思う。
「ちょっと待て!俺は弓を持つなんて一言も…!」
「「衛宮(先輩)は黙ってて(ください)!」」
…女の子って怖い。
「…女狐の意見に同意するのは癪だが確かにその通りだ。それに衛宮の弓を見てみたいという気持ちは俺とてある。」
「それじゃあ!」
「だが俺一人では決められん。そろそろ学園長もお戻りになるだろうし直接交渉するしかないだろう。」
「そうですか…」
これは手詰まりだ。柳洞君も別に反対しているわけではないが本当にどうしようもないのだろう。
こうなったら仕方がないと待つこと数分…
「今戻ったよ。柳洞、任せた書類の整理は終わってるかい?」
「はい。先生、…それとは別にお話がある生徒がいるのですが…」
「流石だね。無能だった元生徒会を切ってあんたを呼んだのは大正解みたいで何よりさ…話だって?」
直視するのも難しい醜悪な妖怪が姿を現した。
「美綴に問桐に遠坂に衛宮、それにバカ2人かい。なんともめんどくさそうな…」
溜め息をつきたいのはこっちだ。
「まあいいさね、聞くだけ聞いてやろうじゃないか。」
偉そうに椅子にふんぞり返る学園長。出来ることならばそのまま後ろにすっころんで頭を打ってほしい気もするがそううまくはいかないようだ。
「Fクラスの施設改善を」
「弓道部の設立を」
「却下だね。」
やっぱりぶち殺してやろうかこのクソババアが!!
「落ちつけ明久。妖怪と言えど脳味噌はあり思考は存在する。例えアメーバのごとく身のないものだとしても聞くだけ聞いてやるべきだ。」
「そうだね雄二。」
「あんたらは本当に目上を敬うってことを知らないね…」
話を聞いてやるぶん有り難いと思ってほしい。
「じゃあ説明してやるよ。まずはバカ二人、それは自分らの責任さね。それ以外はいらないだろ?そして問桐、弓道ってのは私もかじる程度の知識しかないけどどれだけのコストがかかるかくらいは分かってるよ。そもそもこの学園は今の部活で十分需要を満たしてる。わざわざ作る気はないね。割に合わない。」
「くっ…」
悔しいけど正論だ。
妖怪のくせに人並み以上に頭が良いとはなんて奴だ!
「割に合わないのが理由ならまだ検討の余地があると思いますよ。」
「どういうことだい?」
そんな重苦しい空気を打ち破ったのはまたも遠坂さんだった。
その言葉に学園長ですら耳を傾ける。
「十分にコストの分は回収出来る可能性がある、ということです。弓道など日本で古くから親しまれている武道は今昨今もう一度その価値が見直されています。最先端を行くこの学校がそういうものにも力を入れているとなればイメージは良いでしょうし、スポンサーもよい顔をするのではないでしょうか?」
「確かにそうかもしれないね…だがそれは実績があってこそだよ。そんなあるだけじゃあイメージアップには繋がらない。」
それでも学園長は首を縦には振らない。
相変わらず強情だ。
「それなら条件をつけたらどうでしょうか。」
「条件だって?」
「ええ、今運動部は新人戦シーズンです。その新人戦に衛宮君達が出場してその結果次第で認めるかどうか決める、というのはどうですか?幸い皆二年生です。あと一年はいますから学校に十分貢献出来るかと」
「…あんたらは自信あるのかい。」
「もちろん。」
「は、はい!」
「いや俺は(ギュッ!)あります!すごいある!」
3人とも?自信の表情を見せる。
すごいなあ自分に自信があるって。
「よし分かった。それじゃああんたらにチャンスをやろう。弓道の新人戦は再来週あるからね。うちのスポンサーもつれていくからそこで良い成績を残せば認めてやろうじゃないか。」
「本当ですか!?」
「ただし条件がある。」
そう言うと今度は僕達の方を見る学園長。
僕らは今回なにも関係ないはず…
「それはね…この二人も入れて団体戦を闘うことだ。確か団体戦へ5人だろう?それくらいやってくれないとねえ。もしそれが出来たならFクラスの要求も聞いてやる。それで良いかい?」
なにやらとんでもないことを言い始めた。
「いや、いくらなんでも!」
「そうだ!俺達は素人だぞ!?こんなのアンフェアにもほどがある!」
「やります!」
「「!?」」
後ろを振り向くとそこには気合い充分な問桐さんがいた。
「私達がなんとかします!坂本先輩、吉井先輩、がんばりましょう!」
僕ら二人の手を取る問桐さん。
いや、その…
「「こんなキラキラした目の後輩の頼みを断れる訳ないじゃないか」」
ひょんなことから僕らの新たな挑戦が始まった。
どうもです!
久し振りにFate全開のストーリーですよ~
なんの因果か弓道部設立の手助けをすることになった雄二と明久、二人とそして弓道部(仮)の運命やいかに!?
乞うご期待!
評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃん待ってます!
それではまた!