sideby 士郎
「旅行だ?」
「そっ、こっち引っ越してきて結構たつでしょ?そろそろそういうことしてみたいかなー、なんて。」
なーんてお茶を啜りながら唐突な提案をしてくる虎。
なるほど……今日帰ってきたら郵便受けに旅行ガイドが入っていて何かと疑ったがそういうことだったか。
いつもと変わらぬ夕食の時間。食卓にはいつもの面々が勢揃いしていたが皆それぞれ目を輝かせたり困惑したり、ワイワイし始めたり……そんな中俺はひとりでポンと手を叩いた。
「んで?どこに行きたいんだよ藤ねえは。言っておくが例の旅行ガイドの表紙みたいなとこは却下だぞ?海外なんて行けるわけないからな。」
デザートのあんみつに手を着けている遠坂が宝石を出資、まだ美味しそうにメインのハンバーグをダイエット中の桜からも合意の元もらい受け食べているセイバーの食事を一日一食にする、なんて命がいくらあっても足りない策を実行してもなお厳しそうな案は考えるにも値しない。
「士郎、何か今変なことを考えませんでしたか?」
「違うよー!私だってこの家にそんな余裕がないことくらいわかってるわよ。キャンプよ、キャンプ。」
抗議の声を上げながらバンバンとどこからか取り出したガイドの1ページを叩く。
どれどれとのぞき込んでみればここからせいぜい電車で1~2時間程度のキャンプ場。どうやら本当のようである。
……セイバーのぞっとするような冷たい声が聞こえた気がしたが無視だ、セイバーがあんな恐ろしい声を出すわけがない、気のせいだ。
「何々……ふーん、自然の中でキャンプねえ……これならそこまで問題無さそうだけど皆はどう思う?」
藤ねえにしては割とまともな提案だがそれだからと言って即決は出来ない。何時の間にか居候がどんどんとーーそれも女性のみで肩身がせまい。ーー増えていったこともあり家主のはずの俺も物事の決定には過半数の承認を得なければできないのだ。
……強権を発動出来ないこともないがその後が恐ろしいのでまずやらない。
なので、例によって皆の意見を聞くべきだろう。
「んー、私は構わないわよ。こういう息抜きもいいんじゃない?」
平然を装いながらウキウキした様子の遠坂。
「キャンプですか?私、一度いって見たかったんです!先輩!」
そんな装いすらしようとしない桜
「士郎?キャンプとはいったい……?」
「集団で自然の中での外泊を楽しむという催しのようです。私も体験したことは無いですが興味は……」
「なるほど。」
初めて耳にするキャンプという単語に興味津々なセイバー、そして同じようなもののライダー。
ふむ……これは決まったか……
「分かった。それじゃあ日取りを決めて必要なものを買いにいこう。なるべく早い方が良いだろう?」
頭の中で手早く計算式を立てる。
テントとかは蔵の中を探せば見つかるかもしれないが食材なんかはどうしたって買うしかあるまい。恐らく遠坂がアーチャーも連れてくるだろうから安めのものでもそれなりに仕上がるだろうが……諭吉3枚、場合によってはライダーの援助が必要になるかもしれない。
「あっ、大丈夫よ士郎。そーいうのはぜーんぶお祖父様とうちの若いのが用意してくれるっていうから。」
「雷河さんが……?」
藤ねえにしてはやけに手回しがいい。
えっへんと胸を張る虎を見ながら感心するのと同じくらいなにか気持ち悪さを覚えた。どうせ適当な思いつきだろうと思っていたが何か狙いでもあるのか……?
「なーに怪訝そうな顔してるのよ。いいじゃない、貰えるものは貰っておけば。」
「いや、まあそうなんだけどさ……」
「その通りです士郎。せっかくの大河、ひいては雷河の好意を無にするのは良くない。」
「セイバーはちょくちょくご飯食べに行ってるもんな……ちゃんとお礼言ってるか?」
「はい!」
うん……セイバーが幸せそうで俺も嬉しい。ちょっと嫉妬するが。
完全に餌付けされてる騎士王は置いといても遠坂の言うことは一理ある。
実際問題金がかからないのはかなり大きい……
「分かった。それじゃあ雷河さんにお願いできるか?俺も後からお礼言いに行くから。」
ここは甘えても良いところだろう。
藤村組の皆さんには申し訳ないがあそこは頭の雷河さんはじめ若い衆の皆さんも藤ねえのことが大好きな人達だからそれほど負担にはならないはずだ。
「うんっ。それじゃあそれで話つけとくね。」
シュタッと野生を思わせる俊敏さで立ち上がると藤ねえはトトトっと居間を横切る。恐らく電話だろう。
「あっ、そーだった。」
何を思ったかキキキッというブレーキ音が聞こえそうな止まり方をして藤ねえが振り向いた。
「吉井君達も一緒に行くから連絡よろしく!お姉さんと話はつけてあるから!それじゃっ!」
そう言うと今度こそ廊下へと消えていく。
さて、今言ったことを整理するとどうやら手回しの良さはクラスメイトの吉井の姉の尽力もあったということで旅行も一緒に行く、ということになるか。
そうかそうか……吉井達も一緒に行くのか……なんで吉井?
ーーーーー
「と言うわけで姉さんはスーパーで新たな友情に芽生えると共にアキくんの新しい御友人と交流を得る機会を得たのです。」
「却下だ!!そんなもの僕は聞いてないし認めてもいない!!」
旅行へ行く。夏休みを彩るに素晴らしい提案だ。
だがそこに至るまでは幾つかのステップを踏む必要がある。
まずは場所、これは問題なし。姉さんの差し出したパンフレットに書かれていたキャンプ場はここいら付近ではそれなりに評判のいいところで特に不満はない。充分だと言える。
次に資金面、まあ良いのか悪いのか……買い物先で意気投合した藤村先生の御実家が出してくれるとのことで僕らに負担はないらしい。申し訳ないという感情を抜きにすればベストだろう。これも問題なし。
そしてメンバー……いつものみんな、雄二に姫路さんに美波に秀吉にムッソリーニに……素晴らしい。これだけなら拒む理由なんでどこにもない。だけど
「吉井君や遠坂さんにこの姉の実情を知られるのは絶対に避けたい……!」
雄二達にさえ姉さんの事がバレたときにはシスコン、変態、バカ、と様々な不名誉な蔑称をつけられたのだ。
吉井君達は基本空気を読める人達だけどどんな心の傷を負うことになるか分かったものではない。
何とかして対応策を……
「アキくん?あまり余計なことを口走ると思わず唇が滑りそうになってしまいます。」
「やめて!それならせめて拳に訴えて!というか、唇が滑るってなに!?」
「分かりました。それでは歯を食いしばって……」
「言葉のあやだから本気にしないで!!」
くそう…!!まともに思考する時間すら与えないつもりかこの悪魔は!!
ニッコリと柔らかな笑みを浮かべながら肘から拳にかけて血管を浮き上がらせる実の姉というアンバランスな光景から必死に後ずさる。ここはすでに僕の家じゃない、戦場……いや、悪魔の拷問場といったほうが良いか。
「そ、そうだ姉さん。確かにそれはいい提案だけど皆にも予定があるからさ、そうそう皆揃って暇な日なんてのは……」
よし!これはいい理由だ!即興で考えたにしては筋の通った理由に心の中でガッツポーズする。
雄二、ムッツリーニのどうせ暇人コンビはおいておいても姫路さんは学習塾での夏期講習があるかもしれないし秀吉だって演劇部が忙しいはずだ。美波も美波でドイツに遊びに行くかもとか言ってたし皆揃うのはかなり難しいと言わざるを得ない。
何だかんだ義理堅く仲間ハズレを嫌う姉さんのことだ。誰か一人でも欠けるようなら強行する事は有り得ない……この戦い、僕の勝利だ!
「ああ……アキ君はやっぱり優しいのですね。お姉さんはそんなアキ君にまた女として惚れ直してしまいました。」
「あはは……一部余計だけどほめ言葉として受け取っておくよ、姉さん。」
悩ましげに溜め息をつく姉さんを見て何か別の脅威の可能性を引き寄せたんじゃないかという寒気を背中に感じたがこれは仕方ない。まずは何とかしてこの場を切り抜けないと…!
「ですが心配はありません。」
「ん?」
不吉な事を言ったかと思うと姉さんがガサゴソとポケットから何かを取り出す。あれは……携帯?
「既に坂本君や他の皆さんには連絡をとって日程は調整済みです。姫路さんは忙しいようでしたが空いた時間に私が勉強を教えるという条件で親御さんから許可がおりました。あまり学歴なんてものに興味はなかったのですがたまには役にたつものですね。」
し……しまった。姉さんはやたら頭だけはいいのを完全に忘れていた……!この姉にかかればたかだか数人の日程調整なんて空気を吸うがごとく簡単なことだよ……!
そもそもなんで姉さんが皆の連絡先を知っているのか、どれだけ皆の返信が早いのかなど突っ込みたいところは色々とあるがそれについては放っておこう。心当たりも無いわけではない。
「姉さん。ちょっとだけ待ってもらってもいい?」
「……?構いませんが?」
「ありがとう。それじゃ……」
僕も携帯を取り出すと電話帳から目的の人物を探す。えーと……
prrr
「……吉井?何のよう?」
短いコール音の後に目当ての相手が電話に出る。
うん、僕から電話をかけるなんて珍しいからね。けどこの話は君にとっても悪くない話のはずだ。
「今度皆でキャンプに行くから一緒に行かない?もちろん雄二も来るよ。」
「……どんな予定があっても潰していく。……詳細はまたメールで。」
「了解。それじゃあまた……霧島さん。」
電話をきると再び他の番号をコールする。根回しは完璧だ。地獄をみるのはお前も一緒だ……!
おっと、非通知非通知っと。
prrr
「はい……一体どちら様で……」
「チゴクヘオチロ!!!」
「はっ!?おいっ!あんた一体!?(ガチャン)」
僕達は親友だ……一人だけいい思いをしようなんて絶対に許さない……!
いくら姉さんが有能だからといってここまでとんとん拍子に進んでいるのはおかしい。恐らくあのバカが上手く立ち回ってここまで話の進み具合を円滑にしたのだろう。確たる証拠はないけどこれは間違ってない。経験からくる無駄に精度の高い直感だ。
「アキくん……?」
姉さんが不安そうに僕の顔をのぞき込んでくる。
しまった。つい姉さんのこと忘れてた……
「ああ、ごめんね姉さん。うん。せっかくの旅行だし楽しみにしてるね。」
「……!はい。私もとても楽しみにしていますよ、アキ君。」
姉さんの微妙に不安げな表情が僕の返事を聞くとパァーっと明るくなる。
うん……純粋に嬉しいんだろうなぁ……ベクトルが間違ってるだけで僕のことを大切に思ってくれてるのは間違いなしいな……こうなったらもうやけだ。楽しい思い出を作ってやる!!
ーーーーー
「早朝って言ってもやっぱり暑いわねー。これだから夏は苦手。」
「島田はドイツ育ちじゃからのう……湿気のある日本の夏は慣れるまで大変じゃろう。姫路、お主は大丈夫かの?」
「はい。最近は調子がいいんです。それにせっかくのキャンプですから楽しまないと。」
うん。やっぱり女子勢は華やかでいいなあ……それに私服っていうのが何とも。姫路さんが調子が良さそうなのも凄く嬉しい。こういうときは皆で楽しめないと楽しさ半減だしね。
……この光景は何とか鮮明な記憶に……
「……っ!(パシャパシャ)」
……どうやらここで全力を尽くして網膜に焼き付ける必要はなさそうだ。
こちらも相変わらずいつも通りで何よりだ。貴重な戦力としての期待値はどんどん上がっている。
当日の朝5時過ぎ、家のマンションの下に皆が勢揃いしていた。
相変わらず秀吉筆頭に女子は可愛いし姫路さんの一部からはなんだか爽やかなマイナスイオンが出てるような気さえする。
だというのに、僕の隣から浴びせられる怨念の籠もった熱気は一体なんなのか……
「……新婚旅行の予行演習……」
「明久……テメエ……!!」
「おはよう、霧島さん。今日も雄二とラブラブだね。」
「……(ポッ)おしどり夫婦だから。」
「明久ぁぁ!!」
因果応報というやつだ。霧島さんが幸せだということ以外はどうでもいい。
そんな感じで悪霊からの視線を受け流していると大きな荷物を持った姉さんがひょっこりと顔を出した。
「藤村先生から連絡が来ました。もう到着するみたいです。」
その言葉と同時に曲がり角から大きなマイクロバスというやつだろうか?一般車とは一線を画す車とその窓から見慣れた顔が姿を現した。
「おはようみんな!!さあ思いっきり楽しむわよー!!」
こうして僕達の夏の思い出作りは始まりを告げたのだ。
どうもです!
【作者、再び短編へと逃げる。】
少しだけ言い訳を……本編を進めたくない訳じゃないんです。ただ読者の皆様がどう思っているかは知らないですが作者としては短編の方が全体としてキレがある気がするのです。そして執筆スピードも異常に早い……
もう開き直って書くことを楽しもう。
ということで今回は藤ねえと玲さん、両作の誇る名物お姉さんにスポット当てます!!(どうせごちゃ混ぜになるのでどこまで当てられるかは作者にもわからない。)
Fateアニメ王道にが熱い中ですが、あんなバカテスいいな、こんなFateいいな、のほのぼの妄想全開でいきます!
宜しければお付き合いください!
それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんまってます!(最近更新しても大概どれも停滞しているので少し寂しい。特に些細なことでも感想ほしいです、こんなストーリー見たいとかでもなんでも。)