まちがった日常系青春物語集、始めました。   作:ぶーちゃん☆

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どうもお久しぶりです。
3話目にして前回の投稿から9ヶ月程。にも関わらず「今回はあまり間を開けずに投稿出来たなぁ」とか感慨にふけっている私は、もうダメかもしれない。


というわけで、いろはすハッピーバースデー☆ (なおハピバとか言いつつ今回のお話は誕生日とは一切関係がありません)




ヒキガエル化現象

 

 

「……ふぅ〜」

 

 なんとも言えない緊張で胸がきゅーっとする。

 これは別に、どきどきとかわくわくみたいな可愛らしい感情が入り混じった心地いい緊張感とかそんなのでは全然なくて、ただただダルいってだけの、嫌な嫌な緊張である。いやマジで。

 誰のせいでこうなったんだよと胸の中でぶつくさ文句を垂れつつ、わたしは今、二年F組の前に悠然とそびえ立つ重い引き戸の前で、胸に溜まった深い息を吐き出すのだった。

 

 

 そもそもなぜわたしがこんな目に遭っているのかといえば、さっきの退屈な数学の授業中に頭に浮かんでしまったフラッシュアイデア(玉縄感)を先輩に相談しようという目的に向かい、すぐさま動き出してしまった我が行動力に起因する。ひゃくパー自分のせいだった。

 ぶっちゃけ、現状で先輩に頼るのは忍びない。なにせ先輩に頼ったのがバレたら雪乃先輩に視線だけで殺されそうでめんどいし。忍びないじゃなくて忍びたいかんじだった。

 それでもやっぱり今回のは特に先輩に頼っとかないと、絶対いずれ後悔する。プロムの進行具合の問題じゃなくて、厄介極まりない人間関係あれやこれ、色んな後悔しちゃいそうだなー、めんどくさいなー、やっぱ先輩うまく使っちゃおっかなー、なんて、数学教諭が唱えるラリホーの呪文にうつらうつら微睡みながら、そう思ってしまったのだ。

 

「……にしても」

 

 いくら上級生だからって、たかが別クラスの男子を訪ねるってくらいで、こんなに緊張ってするものだったっけ?

 今までだって別クラスの男子を訪ねたことくらい何度だってあるし、そもそもわたしは葉山先輩を部活に連れ帰るため、別クラスどころかギャラリーたっぷり柔道場に乗り込むことだって臆することなく出来る強心臓の持ち主なのだ。

 にも関わらず、なんでたかが先輩を訪ねる程度のことでこんなにも緊張しちゃってんだわたし。これじゃまるで、不特定多数の人に好きな人がバレちゃうのを恥ずかしがってる可愛らしい乙女みたい。

 

 うん、ないな。ないない。わたしが先輩ごときにこんな乙女を晒すなんてありえない。ないったらないのである。

 だからわたしは勇ましくがらりと引き戸を開けたのだ! なんかよくわかんない謎の緊張を振り払うよう、それはもう威風堂々と!

 

 

 

 

 ………………。

 

 結論から言うと、この場所を訪ねたことを、わたしはいま非っ常に後悔している。なぜなら……

 

「ねーねー相模さーん! どっかでヒキタニくん見なかったー?」

 

「……は? チッ……うちがそんなの知るわけないんだけど。……チッ」

 

 

 ……と、戸部ぇ。

 

 

 × × ×

 

 

 威勢良く開け放たれた扉。その激しい音に反応し、音の発生源たるわたしに注がれた目、目、目。

 興味本位に向けられたその数多の瞳たちは、次第に奇異の色へと変化してゆく。

 

 あれ? 生徒会長ちゃんじゃね?

 あれ? なんで一年生が俺らのクラスに?

 あれ? ついに隼人くん目当てで教室まで押し掛けてきちゃった?

 

 そんな声が、今にも聞こえてきそうなほどに。

 

 ──やばいどしよなにこれダルい。

 

 人の視線を集めるのは好きだし慣れてるけど、今回は目的が目的なだけに、なんかどーしようもなく恥ずかしくなってきた。

 室内をぐるりと見渡してみても、寝癖のままかと思えるあのボサボサ頭とみっともない猫背の持ち主は見当たらないし、かといって近くに立ってる知らない上級生に先輩居ますか? って尋ねるのもなんか気恥ずかしいしで、今のわたしは、ただただ引きつった笑顔に好奇の視線を集めるのみ。まって、マジしんどい。

 そんな、自分でも分かるくらい顔も耳も赤々と火照り始めた時だった。

 

「あんれ〜? いろはすじゃね? どしたん、うちクラになんか用なん?」

 

「あ」

 

 捨てる神あれば拾う神あり、なのかな? すっかり忘れてたけど、そういえば先輩と戸部先輩ってクラスメイトだったっけ?

 

 普段であればうざくてダルくてめんどくて五月蝿い戸部先輩も、こと今に限ってはとても有り難い存在になるわけで。

 誰も知らない上級生達の群れの中、クラス内で認知があるかどうかも知れない先輩を可愛くて有名な一年生生徒会長がひとり訪ねるという、なんか変な誤解とかされかねない状況と、いくらうざくても一応知り合いという枠に入る便利な緩衝材に隙間に入ってもらえるこの状況とでは、恥ずかしさに雲泥の差があるのだ。

 まぁそれでもやっぱりうざくて五月蝿いけど、せっかく向こうから便利な緩衝ざ……頼りになる先輩がやってきてくれたのだ。ここはそんな戸部先輩を上手く利用……頼ってみよう。

 

「戸部先輩こんにちはです。えーと、先輩捜してるんですけど」

 

 未だほんのり赤いであろう頬は無視して、なんでもないような態度で捜索をかけてみた。

 恥ずかしがってるのは察しなくてもいいから、秘密裏に呼び出したい心情は全力で察してください。

 すると戸部先輩、見当違いな人物の名を上げるのだった。

 

「先輩って? 隼人くん?」

 

 あー、わたしがこのクラスを訪ねたらそうなるよね。

 でも残念ながら今の探し人はその素敵な先輩の方ではなく、別の残念な先輩(アレ)の方なのである。なのでわたしはそっちの先輩の名を告げるのだ。平静、かつ冷静に。

 

「いやいやちがくて、……ひ、比企谷先輩、の方、です」

 

 ……いやなんかこれ、微妙に照れ臭いんですけど。

 名前を言うだけで恥ずかしくなる先輩とか笑える。なるほどこれは普段、比企谷とか付けないからだな、うん。

 

「あー、ヒキタニくんね! ちょい待ちー」

 

 すると、この件では目立ちたくない胸の内を表情から察してくれたのか、戸部先輩は爽やかに微笑んで親指を立てた。

 あれ? 戸部先輩ってこんなに敬えちゃうキャラだったっけ? やばいどしよ。人好きのするニカッとしたこの笑顔とサムズアップ、今だけはめちゃ頼りに見える。思わず好きになっちゃいそうまである。

 

「ヒキタニくーん! いろはす呼んでっけどー! おーいヒキタニくーん! あんれー? 居なくね? ねーねー誰かヒキタニくん知んね? 俺の後輩が呼んでんだけど〜!」

 

 はい冷めたー。急速冷凍機も真っ青な程の冷め具合。誰だよ好きになっちゃいそうとか言ったやつ。

 え? 意味わかんない。なにこの人。なんでわざわざ大声出して自分の存在を主張してんのこいつ。先輩の席とかに行って直接呼べば済む話くないですかー?

 

「ちょちょちょ戸部先輩……! そんな大声で騒がなくても……!」

 

「なして? みんなに聞いた方が早いっしょ!」

 

「いや、ちょっ、ま」

 

「うぇーい、ヒキタニくん見んかった? ……っかー、マジかー、おう、あんがと! あ、ヒキタニくんどこ居るか知んね? ……だよなー、いやいやしゃーんねぇって! ガチでサンクス!」

 

 ……と、戸部ぇ! やめてって言ってるのに、なんで今度はクラス中まわりはじめた?

 これあれでしょ、クラスの好きな女子にでも後輩のために頑張ってる俺アピールしてるんでしょまじうざいんですけど。

 

「ねーねー相模さーん! どっかでヒキタニくん見んかったー?」

 

「……は? チッ……うちがそんなの知るわけないんだけど。……チッ」

 

「お、おう、それな……」

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 戸部先輩のご活躍により、今やわたしに降り注ぐ視線は最大級である。わたしはあまりの恥ずかしさに真っ赤になりながらも、死んだ魚のような虚ろな目を何処か遠くに向けるのだった。ここではないどこかを見るように。現実から目を逸らすように。

 てか、今まさに盛大な舌打ちを連発してる文化祭とかで見たことがある気がする赤みがかったショートカット女子、なんかめっちゃ嫌そうな顔してこっち見てるのなんで??

 

 

 

 ──次第に遠ざかっていくにつれて、反比例するように大きくなってゆく戸部の声を耳朶に受けながら、わたし一色いろはは思うのだった。

 

 なるほどこれが蛙化現象とかいうやつか。いや全然違うけど。

 

 

 × × ×

 

 

 蛙化現象。それは、去年辺りに高校生女子のあいだで流行っていた流行語。すでに廃れに片足突っ込んでるかもしれないけれど、マジ卍みたいに、一年後には恥ずかしすぎて口にするどころか頭に思い浮かべるのも憚られるようになるかもしれないくらいの、流行語にありがちな超一過性の、実に低俗でくだらない価値観。

 クラスメイト達がヘラヘラ笑いながら「これ蛙化現象だよー!」「わかるー」とか言ってるのを聞いて、薄ら寒くなってたのを覚えてる。

 

 蛙化現象を起こした人は、恋してた異性のほんの些細なかっこ悪い瞬間を垣間見た途端、急に冷めてしまうらしい。

 いやいや、そんなのもう初めから好きでもなんでもないでしょ。好きなのは相手じゃなくて自分だよね。むしろほんの些細なことで冷めちゃう程度のペラい感情に『恋』なんて言葉使わないほうがいいんじゃない? イタいから。

 なんて、鼻で笑って小馬鹿にしてたっけ。

 

 ──本物を探してバカやって痛々しくて、どうしようもなく情けない先輩をいつも見ているわたしには。

 

 ──本物を求めてる先輩を毎日見つめ、めんどくてごちゃごちゃしてうんざりしても、それでもなお先輩に寄り添ってる雪乃先輩と結衣先輩をいつも見てるわたしには。

 

 ──そんな三人をいつも目で追って、心の底から本物を欲しはじめたわたしには。

 

 蛙化現象とかいう低俗でくだらない価値観が、どうしようもなく空虚に思えて仕方なかったのだ。

 ……とか格好良いこと語っちゃってるけど、実は当時葉山先輩が気怠そうに欠伸でもしながらおじさんみたいにお腹とかお尻とかをぼりぼり掻いてるとことか目撃しちゃったら、一瞬で気持ちが冷めちゃうだろうなーって自信はありましたけども。

 

 そんな蛙化(なにがし)ではありますが、今まさにその冷めまくり現象を実感中のわたし。

 好きでもなければ恋してるとかちゃんちゃら可笑しい戸部先輩へのこの気持ちは、厳密に言うと蛙化とは違う現象なんだろうけれど、つい今しがた、不覚にも敬いかけてしまった気持ちが急速冷凍されてしまったこの感覚は、擬似蛙化と言ってしまっても差し支えないとも言えなくもなくもない、かもしれない。

 てか、よしんばこれが蛙化とは違う感情のだとしても、である。今現在の戸部先輩のこの姿を見れば、この教室内にもしかしたら奇跡的に居るかもしれない戸部ラブなエキセントリック女子だって、さすがに蛙と化すであろう。

 

「……あんさぁ、うっさいんだけど」

 

「……っべー……」

 

 張り切り過ぎなくらい張り切って『俺こう見えて結構いいやつっしょ!?』アピールをクラス中に振りまいていたドヤ顔が、三浦先輩による低音で高温な一喝により、しゅっ、と秒で萎んでしまったこの姿を見れば、血迷った百年の恋も秒で冷めるよね。なんなら覚めるに変換しちゃってもいいレベル。

 そんな戸部先輩の小さくなってゆく背中をざまぁとか思いながら死んだ目で眺めていると──

 

「やぁ、いろは。比企谷捜してるのか?」

 

「……!」

 

 不意に声を掛けられてびくっとしてしまった。

 そこには、今日も相変わらず爽やかで格好いい素敵な先輩の姿が。

 ……あー、確かにこの爽やかな笑顔で鼻毛とか出てたら蛙っちゃいそうだなー、とか益体もない思考が頭の片隅にちらちらしながらも、いかんいかんと思い直す。いつまでも遠くに行ってる場合じゃなかった。戸部先輩も成敗されたことだし、そろそろ戻ってこよう。

 

「こんにちはです、葉山先輩。そうなんですよー、ちょっと所用があって先輩捜してるんですけど、戸部先輩に絡まれちゃいましてー」

 

「あはは、ごめんごめん、戸部が迷惑かけたみたいだね」

 

「あはは」

 

 いやいや、迷惑とかそんな可愛らしいもんじゃなかったですよー♡ とか危うく口が滑りかけてしまった。てか、ごめんごめんじゃなくて、始めっから葉山先輩が来てくれてればこんな恥かかなくて済んだんですけど。ちょっと助け舟出してくんの遅くないですかね。

 と、さらに愚痴りそうになってしまったわたしではありますが、葉山先輩のこの困ったような苦笑を見るに、戸部先輩のあまりの張り切りぶりに、この人も助けるタイミングが見つからず困ってたっぽい、と思い直す。だから三浦先輩がキレてくれてのがちょうどいいタイミングだったのだろう。

 そこまで考えて気付いたんだけど、三浦先輩が戸部先輩の折檻を始めたのも、もしかしたら戸部暴走に困ってあたふたしてたわたしを見て、助け舟出してくれたのかもしれない。

 

 

 

 さすが陰でコソコソとおかんなんて呼ばれて慕われてる三浦先輩。

 なんだかんだ言っていい人なんだよなぁ。恐いけど。あと恐い。

 

 

 × × ×

 

 

 あの騒乱の場から離れ、今わたしはとある場所へと向かっている。

 特別棟の一階、保健室の横、購買の斜め後ろに位置するという、ぼっちをこよなく愛するあの変な先輩が好んで過ごすというその場所へ。

 

『悪いね、比企谷いつも昼休みになると居なくなるから、どこに居るかわからないんだよ。でもたぶん結衣なら知ってるんじゃないかな。部室にいると思うから聞いてみたら?』

 

 葉山先輩からそうアドバイスを受けたわたしは、未だ好奇の視線を向けてくる二年F組一同と、未だ三浦先輩にガン詰めされてやべーわーつれーわーと鳴いている戸部先輩の背中を残して、そそくさとその場をあとにしたのだ。

 これあれだ。わたしはもう二度とあのクラスには顔出さないから恥のかき捨てで済んだけど、先輩は昼休み終わって教室帰ったら『なんであいつ生徒会長と仲良いの?』みたいな数多の目を向けられて痛い目みるやつだざまぁ。

 

 ご愁傷さまー♪ と、恥をかかせるきっかけ作った先輩の今後に心の中でほくそ笑みつつ、さっそく馴染みの店ならぬ馴染みの部室へとスキップ気味に歩を向けたわたし。しかし、そこではたと考えた。あれ? 奉仕部に直接聞きにいっちゃったら、ひとりでやってみたい、とプロムの手伝いを申し出てくれた雪乃先輩の顔に泥を塗ることになるわけで、てことは先輩に相談する前に殺さ……締めら……叱られちゃうじゃん、と。

 だからせめて先輩を頼ったのがバレるのは、先輩が直接生徒会室に来てくれた時までは伏せていたい。だって来ちゃえばもうゴネられる心配ないし。

 というわけで結衣先輩へとLINEしたわたし。雪乃先輩にはくれぐれもご内密に、と付け加えるのも忘れずに。

 

☆★ゆい★☆ ヒッキー?

       ヒッキーならテニスコート脇のとこだと思うよ?

 

いろは テニスコート脇、とは?

 

☆★ゆい★☆ ほら、保健室横で購買の斜め後ろのとこ

 

いろは ??

 

いろは はぁ

    どもです

 

 こんなやり取りを交わし、頭に多量の疑問符を浮かべながら、今まさにその場所へとてとて歩いてゆくわたし。

 なぜ疑問符なのかといえば、その場所とやらにいまいちピンときていないからだ。学校の代表者たるこのわたしが。

 なので、むむむと考える。

 

 そんなとこにそんな場所あったっけ? 生徒会長でさえよく知らないような陰スペースがお気に入りとか引く。

 とか、

 

 ほんとにそんなとこでひとりでお昼過ごしてんの? 引く。

 とか、

 

 まぁそんなとこだからこそ先輩が堂々とこそこそお昼を過ごせるのかー、引く。

 とかとか。

 

 考えることは多々あれど、概ね引いてるだけだった。

 あたし達と一緒に食べればいいじゃん、とか絶対誘われてるだろうに、ほんと難儀な人だなぁ。

 

 

 

 そうこうしてるうち、ようやくその場所とやらが視界に広がり始める。そしてその場所と共に視界に入った一人の人物の後ろ姿。

 

「うっわ、ほんとに居た」

 

 思わず独りごちるレベルの引かせっぷりである。

 斜め後ろからなので表情までは確認出来ないが、あの全力でダルそうな背中、うん、あれ完全に先輩だ。

 

「……ぷっ」

 

 相変わらずのみっともない猫背。清潔感の欠片もないノーセットな頭髪。人気の無い場所でひっそりとぼっち飯に勤しむその姿。あ、しかも今めっちゃ気怠そうに欠伸してお尻ぼりぼり掻いてた。

 その立ち居振る舞いの全てが、女子からしたら引く。引きまくる。ドン引き全開である。

 

「……でも、なぁ」

 

 そんな全女子が全引き待ったなしなダサくて格好悪いとこをこうして見せ付けられても、なんでだろう、不思議と先輩に対しては冷めるとか、蛙なんちゃらみたいな感情は湧いてこないんだよなぁ。いや、引くは引いてますけども。

 でも、あの格好悪い姿を見て、冷めるどころかつい口元が弧を描いてしまうくらいには愛おし……けぷけぷ、情が湧いてくる程度には、わたしは先輩に対して中々ペラくない感情を持っているんだろうと思う。そしてそんなそれなりに厚い感情で誰かを見つめているからこそ、ちょっとしたことで「蛙化〜」とか言っちゃえる子たちを蔑視しちゃってたんだと思う。

 

 たぶん先輩を大切に思ってる人たちは、みんなそうなんだろう。どんなに格好悪くてどんな情けない姿を目にしても、引くことはあっても冷めることはない。あんなペラッペラな好きモドキな感情じゃなくて、厚くて温かい本物の好きを持っているのだろう。

 まぁ、それは致し方のないことだ。だって先輩と一緒に居たら、エブリタイムで格好悪くて情けないとこしか見れないのだから。その上で、ごくごく稀にたま〜に奇跡的に見せつけてくるちょっとだけ格好良いところに、ついつい気持ちが揺らいでしまうのだから。

 

 

 始めっからクライマックスではなく、始めっからB級映画の予告編みたいな先輩。最初っから低い低〜い部分を惜しみなく曝け出してくるあの人には、期待しようもないのだから幻滅などしようはずもない。でも気付いたら……いや、気付かないうちにいつの間にか底なし沼に沈められているという悪夢。それはあの悪名高き蛙化現象などとは対極の現象であり、ある意味とてもずるい、別ベクトルで悪名高き現象だ。

 

 この二つの真逆の現象。方や流行語にもなった程の名のある現象に対し、その蛙化よりも悪名を轟かせ兼ねないこのずるい現象が無名のままではちょっと不公平すぎるのではないだろうか。だからわたしは、引くだけ引かせて油断させ、いつの間にやら底なし沼にハマらせるこの厄介極まりない謎現象に、こう名前を付けたいと思う。

 

 〜惹き(比企)蛙化現象〜

 

 と。

 

 

 

 

「〜♪」

 

 我ながらの上出来なネーミングセンスに、思わず口から漏れ出す軽やかなハミング音。足取りも軽やかワルツ気味。

 泥沼に片足突っ込んじゃってる自覚あって鼻歌口ずさんじゃうとか、わたしの頭もいよいよ持ってヤバいらしい。

 ま、しょーがないよね。だって楽しいんだから。

 

 するとそんな愉しげなハミングに気が付いたのか、はたまた愉しげなワルツのステップ音に気が付いたのか、件の沼主(ぬまぬし)がこちらに振り向く。

 あの腹立つ顔は、え、なんで居んの? とか、は? 勘弁してくれ……とか、絶対にそんなこと考えてる。

 でもそんなイラッとする顔も気にならない。だってわたしは今から先輩にプロムのお手伝いを強要……要求するのだから。いやだいやだと文句ぶつくさ言いながら、ちょっと可愛くお願いしただけで、なんだかんだ手伝ってくれる惹かせ上手な先輩に。

 

 

 

 

 ──さてさて、それではきりきり働いてもらいましょうか。あの日先輩が教えてくれた、生徒会長になれば一年間つきっきりで相談できて手伝ってもらえて家まで送ってもらえるかもしれないアフターケア付き、って殺し文句、わたし忘れていないので。わたしに生徒会長させるためにそう口説いた先輩には、きちんと責任とってもらいますからね♪

 ……でも、差し当たっては、まずは戸部先輩の文句でも聞いてもらいましょうか。どうしてくれるんですか先輩のせいで大恥かいちゃったじゃないですかー?

 って、ね。

 

 

 

 そしてわたしは、いま初めてあなたの存在に気が付いたみたいな(てい)を装い、呆れたようにバカにするように引きまくりなように、こんな煽りをかましてやるのでした。

 

「あ、ほんとこんなとこいる」

 

 

 

 了






いろはす生誕祭なのに内容が相変わらず地味だったり内容がほぼ とべ×いろ だったりと、最後まで読んで下さった方が何人いらっしゃるかはわかりませんが、最後までありがとうございました!
原作が出たとき(なんともう7年前!)からずっと気になってて書いてみたかった『いろはすが2年F組を尋ねて恥ずかしかった時の裏話妄想』に、これまたここ最近ずっと言いたかった蛙化現象ディスりを絡めて書いてみました。

蛙化現象とかいうクソみたいな価値観がもうちょっと旬の時に書きたかったんですけども、いつの間にやら時は過ぎ、気づけばすでに廃れかけって感じですね〜白目
でも本物を求めてた俺ガイルメンバーからしたら、あの蛙化なんちゃらとかいうのってホント心の底から嫌いそうだなぁ、って思っててどうしてもディスりたかったんで、旬なんて気にせずやっぱり書いちゃいました笑 

さてさて、次の投稿は果たして何年後??それではまたいつかお会いできたら幸いです♪
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