Crowned Clown   作:飛翔するシカバネ

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10ヶ月と10日前<夜>

 

 

夜中。

 

深夜になる前のこの時間に自分は自宅のテレビに手をかける。

一人暮らしの家にしては大きい薄型テレビだ。

 

 

手をかけた方とは逆の手で画面に触るように近づける。

 

すると手は画面に触るどころか、まるで水に手を突っ込んだようにテレビの中に入っていく。

手首がすっぽり入った様相は異様だ。

画面には灰色でノイズ混じりに水面が揺れ、波紋が広がっている。

 

これはこの何も感じることのできない世界で色をくれた人への恩返しだ。

一人は自分でも気持ち悪いほどに……それこそナポレオンのような気持ちを抱いている。

彼女のためならば俺は何でもできる。それが彼女が望まないことでも。

 

だけど今日のことはそれとは一切関係ない。

 

知っていたこととはいえ、本当にそうかは分からなかったし、どうなるかも半信半疑だった。

しかし、運命は残酷だ。

もう一人の恩人でかけがえの無い兄弟のために行動する。

 

それがおせっかいで本人が望んでいなくとも。

 

 

テレビの枠を掴み、中へと体も入っていく。

 

 

事前に把握していたルートを通る。

カミサマから移った力のせいか俺はシャドウに襲われない。

 

元からの性質なら教われないとは思うが、今回やろうとしている行いはシャドウにとって嬉しい行いではない。

それなのに襲われないのは力の上位関係があるからだと勝手に思っている。

単純なレベルなんかじゃなく、権限の問題。

 

そうしてシャドウの警備を潜り抜け、辿り着く。

そこはテレビ局のような場所。

見た目はテレビの外の稲葉市にあるテレビ局の外見によく似ている。

しかし、どこか歪で黒い。

まるで芸能界の闇を感じさせるようだ。

 

なんて考えながらも走り続ける。

 

一番最奥まで駆け抜けるとそこではレディースーツに身を包んだ女性が白い大きなシャドウに襲われていた。

いたぶるかのように宙へと吹き飛ばされる。

そんな女性を地面に叩き落とされる寸前でキャッチする。

当たりどころが悪ければこの衝撃で死んでいたかもしれない。

女性を見ればレディースーツはおろかテレビの中でも綺麗に映っていたその肌もズタボロだ。

 

少しくらい痛い目見て欲しいのも願いだから少し余裕を持って入ったが、結構不味い状態で冷や汗が垂れた。

 

何にしても間に合ったのなら結果オーライだ。

 

 

『貴方ダレ?私は悪くない!邪魔しないで!!!』

 

女性を助けたことに腹が立ったのか、シャドウはこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 

そんなシャドウに対して、振り払うかの如く腕を振るう。

いくら鍛えていると言ったって自分の身の丈をゆうに超える巨体であるシャドウにそんなもの効くわけも無い。

 

しかし、俺の狙いはそれじゃない。

シャドウがこちらに攻撃が届く前に行い、まるで壁に対して拳を叩きつける……イメージとしてはワンピースの白ひげによる空間を破るような仕草と言えばいいか。

それと同じ仕草を取れば同じように空間が割れる。

 

そしてその割れ目からシャドウが出てくる。

 

その場所にはいなかった俺の場所のシャドウが。

 

『何これ!?邪魔しないでよ!!!』

 

それを見て、攻撃を止め、シャドウを散らすべく攻撃を振るう。

その間に女性を寝かしつけ、立ち上がる。

 

そしてまた腕を振るうべく、溜める動きを取る。

すると天からどこからともなく、一枚のカードがクルクルと回転しながら落ちてくる。

それを先ほどと同じように拳で叩き割った。

 

「………ペルソナっ」

 

カードの破壊と共に背後から幽霊のように浮かび上がる。

それは白無垢の花嫁のように、そして結婚は墓場とでも言うのかその姿は赤黒い骸骨の姿をしている。

 

「マガツイザナミ……」

 

この世界で真のラスボスである伊弉冉大神より小さく、どこか純真で、そしてこの世のどの生物……どのシャドウよりも歪な正義でも悪でも無い。

どっちつかずの見た目をしたペルソナが現れた。

 

それを目にしたシャドウたちは動きをとめ、割れ目から出てきたシャドウは首を垂れるように地面に伏せている。

そしてそれは巨体のシャドウもまた同じだ。

 

『その力はあの方の……!?なぜただの人間如きが!!!』

 

「あいにくイレギュラーなもんでな。俺も知らねえ」

 

マガツイザナミを動かす。

 

口を開き、言葉が紡がれる。

 

それは激しく拒絶され、シャドウとしての真の姿へと成ったそれも姿を倒れる女性と同じ姿になる。

 

「何!?これ……?」

 

「シャドウは消える。そりゃあ、人から出た感情のカスだ。死ねば消えるし、宿主が死んでも消える。別に抑圧した感情は自分を殺したいわけじゃない。我は影、真なる影。そして我は汝。汝は我だ」

 

「いやっ来ないで!誰か……」

 

「兄貴と同じなんてやっぱり兄弟だよな」

 

人間の姿に戻ったシャドウは隅へと追いやられ、そして体を押されると落下し、その先にある黒いひび割れた空間の中に落ちる。

 

「これでいい。どうせ向こうの人間は不審死にだけ目がいって、それが本人かどうかなんて気づかない」

 

空間に手をやり、握りしめる。

手の動きに合わせて、ひび割れた空間は閉じていく。

 

「これで死体はできる。山野真由美は死んだことになる。墓に入ってから能力を消せば維持していた肉体は消え失せる……というか大衆が興味を無くせば勝手に消える」

 

 

未だ気絶している女性………山野真由美を抱え上げる。

そして目の前には空間がひび割れる。

そこは別の場所へ繋がるトンネル。

最初からこれで来れれば楽なんだが、形成されている心は入りづらい。

主であるシャドウがこの世界が消え、本人も気絶した。

そのせいでこの場所は崩れ去り始めている。

 

 

トンネルをくぐっていく。

背後ではテレビ局が崩れ去り、瓦礫が落ちていく。

向こうで朝にでもなれば完全に更地になっているだろう。

 

 

黒い道の先には

 

 

どこかの部屋。

そこは高級スイートホテルのようになっている。

まるで向こう側のような様相だ。

 

何よりもここには霧がない。

テレビの中ではどんな建物の中でも霧が立ち込めていた。

しかし、ここでは霧が無い。

 

それは霧を発生させ続けているアメノサギリの力の上位であり、この空間全ての支配者である伊弉冉大神の力の一端を持っているからこそできる芸当だ。

この空間だけ霧を拒絶すれば一切霧は現れない。

そしてこの中ならどれだけこっち側にいても関係無い。

 

なるべく、快適な空間にした。

彼女らにはこれから8ヶ月ほどここにいてもらうことになる。

山野真由美とあと数日でこちら側に来る予定の小西早紀。

家具はベッドも含めて、二人分。

食事はポケットマネーで度々揃えにいく。

この空間はどのテレビにも繋がっていない。

空間を割って新たな空間を作れる力で作ったマヨナカテレビの中にあって、マヨナカテレビで無い場所。

 

ここでなら生田目太郎以上の安全な場所だ。

 

 

ベッドに寝かせて、空間を出ていく。

この世界に本来あった土も水もある。

希望ヶ峯学園レベルのシェルターだ。

 

 

 

 

「殺人は重罪だ。それも二人も……」

 

黒のトンネルを歩いていくと黒の闇の中にテレビがぽつんと置かれている。

 

「誰がやったかの証言があったら立件は早まるだろうけど……それでも殺人よりはマシだろ」

 

テレビのを潜ると自分のテレビから顔を出す。

 

「最悪記憶処理すれば罪は妄言ってことで消えてなくなるかもしれない……」

 

服を脱ぎ、明日の学校に向けて準備する。

 

「まあ、兄貴がどうしたいかはその時になったら分かるしな。それまでは保留でいいだろ」

 

 

着替え終わると背後でノイズを発生し続けているテレビ。

机の上に乗っているリモコンを手に取り、電源を落とした。

 

 

 

 

 

 

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