4月14日(木)
あの後小西早紀は気絶した。
深夜ということもあり、山野真由美は部屋で服を着替え、寝ていた。
その隣のベッドに小西早紀を寝かしつける。
説明は……明日でいいだろう。
俺も疲れた。
とりあえず数ヶ月は二人の世話くらいでやれることはない。
その間は変に疑いを向けられないためにも、普通の生活を送らないといけないしな。
部屋へと戻ってくる。
前と同じように、いつも通りに支度を済ませる。
カバンを持ち上げるとカバンから学生証が落ちる。
学生証を拾い上げるとそこにはこの世界での自分の名前が目に入る。
【高木 明】
自分は学生証を雑にカバンへと突っ込んだ。
学校に行けば、午前のうちに全校集会が起きる。
全校集会では小西早紀が死亡したということを話される。
家にでも帰ればニュースになり、狭い街でもある八十稲葉は直ぐに噂として町中に広まるだろう。
クソみたいなほどに予定通りに。
放課後、真っ直ぐに家に帰ることにする。
自分にもう勉強は必要ない。
しかし、他の学生たちも受験シーズンだ。
いくら余裕だとしても、そんな態度をしていれば目をつけられる。
だから、あくまで優等生を貫き続ける。
「諸岡先生。失礼します」
「おう!さっさと帰れ!高木は成績も内申点も一切問題無いが、それで油断するなよ!」
「はい、諸岡先生ありがとうございます。自分では少し心配ですので、真っ直ぐ家に帰り、復習します」
「高木〜お前はもう少し、自信を持てぇ。お前以上にこの学校で代表的な生徒はいないのだからな!」
そう諸岡先生が声をかけると職員室へと向かっていく。
それを頭を下げ見送ると階段を降りていく。
「高木会長お疲れ様です!」
「おいおい、俺はもう生徒会長じゃないぞ」
「あ、すいません!」
「あんまり遅くなるなよ。早く下校しろよな」
「はい!高木会長!!!」
後輩に慕われ、下校する。
道行く生徒も軽く頭を下げてくれる。
それに対して軽く挨拶していく。
家に帰ると、テレビをくぐる。
学生服のままの方が説明も分かりやすいだろう。
テレビから直通で部屋へと向かう。
ノックをし、扉を開けると二人の女性が各々好みの格好をしている。
「高木会長……」
「後輩にも言われたんだが、会長はやめてくれよ。俺はもう既に生徒会長辞めている。それと同い年なんだから呼び捨てでいい」
「貴方が私たちを助けてくれたの?」
最初は何の説明もなく、監禁しておこうと思ったが、それだと精神状態もよろしくない。
結果的に正体がバレてよかったと思うことにした。
「そうだ。この世界に入れられたアンタらを助けさせてもらった」
ここからは質問詰になるだろうが、兄貴の尻拭いだ。
勝手にやったことだしな。
「ここはどこ?」
「マヨナカテレビの中だ。噂程度なら聞いたことがあるだろう?」
アナウンサーの山野真由美はテレビ局という性質上話を聞くだろう。
小西早紀も同級生や後輩の女子の話をよく聞く人望のある小西早紀なら、一度は聞いたことがあるだろう。
「雨の日の深夜0時、一人で消えたテレビを見つめると『自分の運命の人』が見える……ってやつ?」
「噂だとな。真実は違うけどな」
「真実?」
「この世界はアンタらを襲った影が住まう世界だ。現状はあれしかいないし、生きれない」
影というと襲われた時のことを思い出し、顔を青ざめている。
「テレビっていうより鏡というのがあっているか。テレビの前にいる者の抑圧された心と見たいものを見せる世界だ」
「心の抑圧……」
「襲いかかってきた小さいやつは稲葉市に住んでいるやつの心の汚い部分ってやつってわけだ。みんなが望んだものを作る心理的理想郷だな」
「理想郷?あんな危険なところが!?」
「専門的にいうと集合的無意識ってやつだ。アナウンサーなら聞いたことくらいはあるか?」
山野真由美へと視線を向ける。
まだ知り合いということがあって、質問をしてくる小西早紀と違い、黙ってこちらを観察してきている。
納得される必要は無いが、話しのすり合わせされると非常に楽だ。
だから、今のうちに会話に混ざっていただけると助かる。
「人間の無意識の深層に存在する、個人の経験を越えた先天的な構造領域。個人が持つ意識の更に奥に存在する集団が持つ潜在的な意識……」
「さすがは名アナウンサー。よく知ってますな。まあ、簡単にいうと個人で思ってること以上に無意識に集団で思ってることがあるって感じ」
「高木……あなたってそんな感じだったっけ?」
「一応こっちが素。生徒会長の姿は内申点上がるし、人気出るだろ?」
「そんなのずっと続けるなんて……」
「そういうのは得意なんだよ。生まれた時から、な」
少し話が逸れた。
説明に戻ろう。
「んで、マヨナカテレビの話だが、集合的無意識によって作られた世界。その意識は足掻いて生きるより、嘘に目隠しされて、見たいものだけ見て楽しく生きたい。そんな普遍的な平穏が欲しい……それがあの場所だ」
テレビだってそうだ。
見たくなければ消せばいい。
見たいものを見るためにチャンネルを変える。
見たものから勝手に個人で考える。
映す方も好きに編集して、捻じ曲げて伝える。
それがテレビであり、マヨナカテレビという世界だ。
「アンタらを襲ったのも、そのシャドウだ。つまりは自分だな」
「違う!私はあんなんじゃない!!!」
小西早紀が強く否定する。
シャドウは自分ではない。あんなものが自分の中にあると思いたくない。
しかし、現実は非常だ。
「起こっていることが事だから信じなくてもいいが、一応真実だけを語っているからな」
俺は説明を加える。
シャドウは抑圧された欲望と人に見られたくない心の暗部。
そして見たい人が見るテレビの性質上、テレビを見ている大衆の心が反映された偏執的で屈折した姿になっている。
多少はオーバーリアクションだが、あれは紛れもなく小西早紀だと。
「何かと勘違いされるキャラしているから、そういう風に見られているところもあるって事だな。安心しろ。多分アナウンサーの方がより大衆にさらされて、不倫事件のせいで更に変なイメージついているのが横にいるから」
正直に思っていることをそのまま話す。
本当にそのまま言ったため山野真由美が驚いている。
「んじゃ、はい。ここの説明は終わり。後は?」
「元の世界に帰りたいのだけれど」
思いっきり本音で語ったせいか若干口調が強めになった山野真由美に質問される。
「あ、それは無理」
「な、なんで!?」
小西早紀が驚いている。どうやらこのまま帰れると思っていたようだ。
「理由を聞いても?」
「理由は二つ。一つは安全のため」
指を立てて説明する。
「このまま戻っても事件が解決するわけでも無い。アンタらが犯人を証言したとて、一旦は事件は解決するだろう。だけどマヨナカテレビは無くならない。マヨナカテレビがある限り事件は再発する。そしてそれが続けばマヨナカテレビがより強大になる。完全に解決するためにはこの事件を調査する希望が必要だ。その理由づけがアンタらってこと」
「そんな理由で帰れないっての!?」
「そんな理由でな。というか理由のためなら俺はアンタらを助ける理由が無い。命を危険に晒してこの世界に来るリスクを取らない」
「リスクって……同級生でしょ」
「ただの同級生だ。子供の時に引っ越したやつの顔覚えているか?そいつが危険だって言って命を賭けるか?やらねえだろ。それで助けるのは余程の偽善者かヒーローになりたい愚者だろ」
「っ‼︎」
「何よりテレビを使って入れられるならテレビで移動できるだろ。テレビからずっと逃げようとして逃げられんのか?犯人がテレビに逃げ込んで、この先ずっとテレビに怯え続けて生きるのか?今じゃない。事件は解決される。解決したときに外に出る。それが一番安全だ」
「期間はどれくらい?」
「8ヶ月程だな。事件を解決するやつの実力にも寄る。俺もほどほどに手伝うがガッツリ手伝えない」
「何で手伝えないのっ?」
「俺は黒幕に目をつけられているからな。あんまり派手に動くと殺される。後俺が死ぬとこの空間が崩壊する。怪物に殺されるのも嫌だろうが、生き埋めも嫌だろ?」
生き埋めと言われ、それを想像したのかただでさえ顔色の悪い顔がより絶望に染まる。
「その間の食事は?」
「俺が買ってくる。必要とあればキッチンもあるから生物も持ってくる。あとついでに服は見たとは思うがクローゼットに入ってる」
「あれあなたの趣味?随分センスが良い物や際どいものがあったけど」
「いやあれは勝手に出てきたものだ。作ることもできるが、自分にそのセンスはない。女性服を買いすぎるのは不自然すぎるしな。テレビを見ている人が二人に着て欲しい……これを着ていた気がする。そういう思いが勝手に作ってる。だからどうにかすれば自分で好きな服にできる」
小西早紀は目を瞑り、こめかみに力を入れている。すると頭に髪飾りができる。
話しただけで創造できるのはすごい。
やはり才能溢れるのだろう。
カリスマもあり、周りの悪意に晒されても気丈に生きていた。
だからこそ自分の暗部に耐えきれず、理を無視した悪意に弱かったのだろう。
「一応の生活が保障されるのよね?」
「そうだな。他にも要望があるなら空間を拡張する。運動施設やプールとかも作れるぞ。監禁しておいて何だが、長めの休暇だとでも思ってくれ。どうせ身を隠す必要はあったんだろうしな」
「私受験なんだけど……」
小西早紀が小さく答える。
聞く限り、少しでも反論したいのだろう。
「勉強したいならそれこそ現役アナウンサーがそこにいるし、俺も教えられる。既に大学合格は余裕で圏内を超えてる」
「そういえば会長学年一位だっけ」
「元な。去年の暮れにやったセンター試験の問題も750超えだ」
ついでにTOEICも900超えてる。
「そんな頭良いのにどうにかできないわけ」
「勉強なんて継続できれば分かるからな。こんな常識外のこと頭の良さだけでどうにかなるわけないだろ」
何とか話せるようになったのか、口調はようやく砕けた。
「他に質問は?」
「家族に連絡は取っちゃいけないの?」
「心配はかけているだろうが、無理だ。それに下手に話して巻き込ませるわけにもいかんだろ」
「………分かった」
納得はしてないが理解したということだろう。
「これで以上かな?」
「最後に一つ。話を遮ってしまったせいで聞けなかったけど、理由のもう一つは?」
「話すつもりはあったけど、話したら信用なくなりそうなんだよな……」
「今更よ。既にあなたは監禁犯。特異な力を持っていて、事件の黒幕の事情にも詳しい。あなたは十分に怪しい」
それもそうか。
いくら疑われたところで、痛くも痒くもないから忘れがちだ。
順調に人間を辞めている感覚もあることだしな。
どうせやることは変わらなかったんだ。
この二人が体験した以上の異常なことを話しても理解されないだろうし、そこまでは話せなくても一切問題無い。
なら、調べたら分かることくらい話してしまうか。
「もう一つの理由は……できることなら犯人、足立透にもスッキリする形で終わってほしいから」
「犯人に対しても?」
「エリートで能力も高いのに中央の足の引っ張り合いに巻き込まれて田舎送り、仲良くなる人全て自分から離れていき、虚無に心を染められている。そんな姿見たら救いたくなってしまうさ」
「同情のつもり?」
「そんなんじゃない。さっきも言ったが俺は救いたがりの偽善者じゃないし、ヒーロー思考でも無い。見ず知らずの人間を助けるほど暇じゃない」
「なら、彼は知り合い?」
「それ以上だ」
一度言葉を区切る。
そして今日の用事は済んだと言わんばかりに扉に向かって行く。
「アナウンサーやってるだけあって質問上手いね。それはリポーターか?話しすぎて疲れたから帰る。食材も弁当も菓子パンも缶詰もしまってある。自由に使っていい。また頃合いを見てやってくるよ」
扉を開けると黒いトンネルが現れている。
「最後に彼との関係は?」
最後まで情報を取ろうというのか山野真由美は質問する。
「兄弟だよ。足立透は実の兄だ」
そう言って扉を閉めた。