闇のカードに転生したので主人公を闇堕ちさせたかった(過去形)   作:ウボァー

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闇のカードが闇堕ちって言っているのでこれは闇落ちになるでしょう(未来形)

 ラスボスを倒したことでラスボスが持っていた世界をループさせるパワーをパクる事に成功した闇のドラゴンな自分です。やったー! 今日からしっかりラスボスを名乗っても許される立場になったぞ。

 

 今自分がいる場所? ……ラスボスがいた場所がだんだん崩壊し始めたから自分たちの世界に急いで帰るぞ! って皆が走り出した時のどさくさに紛れて主人公のデッキから飛び出して――で、この世界に転生して目を覚ました時にいた漆黒空間に帰ってきました。今日からここをしっこくハウスにするのだ。

 

『…………』

 

 この場所に一人。懐かしいと同時に寂しいを感じ……そんなはずない。自分はラスボスの闇のドラゴン! ヨシ。

 

『静か、だな……』

 

 ぐるりと周囲を見渡す。主人公のストーカー活動に一役買っていたあの穴だが……今は漆黒に馴染んで消えかけており、主人公のいる景色を見ることは不可能になっている。

 自分以外に何もない空間。……目覚めた自分と一緒の場所にいたあのカード。そういえば何のモンスターが描かれていたのか、どんな名前や効果が記されていたのかを見た覚えがない。ただ、カードのデザインだけでここが《超越決戦コールモンスターズ》世界だと自分は判断した。

 

 

 もしかして。あれは……主人公とそのデッキにいたモンスターをラスボスによる書き換えから逃した、前の世界にいた自分の――前の世界の《死統龍 ヘルシャーロイデ》の力の残滓、だったのだろうか。

 

 

 あーはいはい湿っぽい話は止め! ラスボスを倒したことでようやく理想の主人公闇堕ちワールドを見ることができるんだからそんな暗い話は不要!

 

 で、どう使うのこのパワー? どう使えばいいのかすら見当がつかない。

 もしかして。ラスボスがプログラミング系統のネーミングしたカード使ってたし、このパワーでプログラム作れとか?

 

『ぬうっ!?』

 

 うわなんかしっこくハウスの床にキーボードが生えた。アルファベット&記号じゃなくて意味不明な謎言語オンリーのファンタジーキーボード。

 恐る恐る、試しに爪の先っちょで一つキーをぽちりと押してみたらキーにある文字と同じものが我がハウスの壁……というか空中に打ち込まれた。

 おい誰だ勝手に家を改築したのは! おのれラスボスめ!

 

 そしてプログラミングかなーとかなんとか言ったけど……その辺の知識何一つとして知らないんですが!

 仕方がない、こうなったら最後の手段だ。前の世界の自分ができたのなら今の世界の自分もできるはず! ――ラスボス戦で得た強化形態を捧げて自分に世界のプログラミングについての説明とかなんかいい感じの理解をー!

 

 

  

 

 

 フッ、たった数分でインテリドラゴンになってしまった……。我ながら恐ろしい。メガネ(レンズは入っていない)を闇で作ってドラゴンハンドでクイッとしてみる。見た目がもうなんかとても賢くなったことにより賢さボーナスを得てしまった。

 

 さあレッツチャレンジ闇堕ちワールド。まず自分は何をすればいいのか教えてくれインテリドラゴン脳よ。

 

【世界の構成比率を入力してください】

 

 比率って何の比率なのか答えを出せ我がインテリブレーン。ふむふむ、元素の量とかモンスターの数。魂。……あ? 元素は空気という指定ではなく構成する全ての元素に対して入力が必要……?

 えっ、もしかして今から始まるのは苦行?

 

 ぽちぽち。

 ぽちぽちぽちぽち。

 ッターン!

 ぽちぽちぽち。

 にゅうりょくまちがい。

 もどしけしけし。

 

 ……ああああもう! 時間がかかる割に世界が作られていく感覚が無い!

 なんで自分がこんなことをしなきゃいけないんだ! ラスボスは何をモチベーションにしてこの苦行を何回も繰り返していたんだ。

 

 ……はい。コレは設定のセーブ機能有りのシステムだって? じゃあそのセーブデータは自分も使えるはずじゃ……何? 無理? 初期化された? ラスボスから自分に移動した時ファイルが紛失!? あの決戦の爆発で破損し……それ早く教えろこのポンコツー!

 

 メガネ(レンズは入っていない)を投げ捨てる。苛立ちが高まると共にばしんばしんと入力が荒っぽくなり。

 ついに――龍は足を滑らせて、キーボードのど真ん中を踏み抜いた。

 

『あっ』

 

【深刻なエラーが発生しました】

 

 キーボードが崩壊する。これまで入力していた文字も崩れていく。砂時計の砂が落ちるような、見た目に反してささやかな音を立てて消えゆく文字達。

 黒い世界に細かな白が流れて、散って。桜吹雪のような、粉雪のような……それはもうとても美しい風景でした。

 

 どのぐらい眺めていたのだろう。現実を受け入れるまでにかかった時間はよくわからないが、多分結構長い時間ぽかんとしていたと思う。

 

 ……えーと。その。

 

 

 世界をループさせるパワー、この世から無くなっちゃった……。

 

 

 バックアップとかワンチャンあったりしません? 無い? あったらラスボスが復活しているだろって?

 そんな……じゃあどうやってこれから主人公の闇堕ちを見たらいいんですか! こちとら次の世界にワンチャンするしかないぐらい主人公と仲良ししちゃってる闇のドラゴンなの! ここから闇堕ちなんて無理だよー!

 

 こうなりゃもう……屁理屈こねるしかないか! やけくそ闇堕ちチャレンジじゃー!

 

 


 

 

 ――《死統龍 ヘルシャーロイデ》がいなくなった。

 

 それに気が付いたのはあの決戦から帰還してすぐだった。当然だろう、ずっとそばにいたあの龍の気配が消えたのだから。

 存在が消滅した、というわけではない。そうだとするならあいつの力を受けた【闇黒忌士】も俺のデッキから消えているはずだ。

 

「なあ、《死統龍 ヘルシャーロイデ》って今――」

 

『ええ。きっと皆も同じことを考えています、我らの王よ』

 

 最後に必要なことを。――【終焉魔機神(デウス・マキシマム)】《ZERO SYSTEM〈REBOOT〉》が行使していた世界を弄ぶ力。決戦により破損したそれが完全に消滅するまで、俺たちの世界に影響が出ないように別の空間へと持ち去って……闇の中へ姿を消したのだろう。

 

 ……初めて会ったあの時から変わらない、優しい闇の化身の姿が脳裏に浮かぶ。死を統べる龍、命の終わりを見届ける存在に思いを馳せる。

 

「いつ、帰ってくるんだろうな」

 

『わからない、としか言えない。数日後なのか、はたまた何年後になるのか……。ただ、【闇黒忌士】の繋がりで感知できる所にいないのだけは確かだ』

 

「……じゃあ、それまで俺もするべきことをしないとな!」

 

 ――俺がしないといけないこと、それは【闇】に対する世界の召喚者(サモンコーラー)たちの意識改革。

 

 多くの人間を苦しめた【闇】は今も憎まれている。それは仕方がない、けど……罰せられるべきはそんな使い方をした召喚者(サモンコーラー)だ。カードに罪はない。

 幸いな事に、コールモンスターズ日本大会優勝者として俺の名前は世界に知られている。【闇】を使えば注目されるだろう。

 それを利用して、世界に【闇】との正しい付き合い方を広める……とても長い時間がかかるだろう。心無い言葉を投げられるかもしれない。

 だとしてもやり遂げてみせる。なぜなら。

 

「そのぐらいしないと、【黙死龍(エクス・ドラゴン)】《死統龍 ヘルシャーロイデ》に不釣り合いだろ?」

 

 そう言って笑う俺に、【光】と【闇】の騎士は頷いた。

 

 

 ――あれから一年後。

 

 技術の進歩により、特殊な力を持つ召喚者(サモンコーラー)以外でもモンスターを現実世界に召喚し活動させることができるようになっていった。元から召喚可能だった人もこの技術の恩恵を受け、より長くモンスターを現実世界に留めることが可能となった。

 

 この件でとくに《光輝士団長 ヘブンス》に変化はないが、《罪斬(さいき)の闇黒忌士 アイエス》は過去世界のあれこれの都合で美味しいものを食べる機会が少なかったため、美味しいものを食べる事にすっかりハマり。

 結果、肌の血色が良くなった。今まで食べた中で一番なのはカツカレーとのこと。

 

 

 ……技術の進歩は良いことばかりではない。悪意を持つ召喚者(サモンコーラー)もモンスターを現実で使えるようになってしまった、ということだ。

 世界各地で【闇】の力に魅せられた残党が未だ活動を続け、その影響を受けてか犯罪に手を染めてしまう召喚者(サモンコーラー)も現れ始めた。

 

 

 俺――光咲聖也は【闇】を悪用する召喚者(サモンコーラー)を倒すべく各地でバトルを繰り返していた。

 

 

 彼は廃ビルの中へと逃げ込んだ邪悪な召喚者(サモンコーラー)と戦っていた。戦況は光咲聖也が優勢。あとは一回の攻撃を通すだけ、そんな状況。

 

「《光輝士団長 ヘブンス》でトドメだ!」

 

「く、くそ……こんなところで捕まるわけにはいかないんだよ! 《破滅の運び屋 レイブンIX》、やられる前に相手を風で吹き飛ばせ!」

 

『なっ……! 聖也――!』

 

 命令に従い大鴉が何度も羽ばたき風を……突風を発生させる。技術の進歩による恩恵――コールモンスターズのルールに定められた以外の命令もモンスターに出すことが可能になったからこそできる一手だが、勿論公式で対戦相手に直接害をなすような命令は禁じられている。

 

 いかに強く堅牢な騎士であれど、主人を襲う風を防ぐことはできなかった。聖也は必死に踏ん張るが、人間の体ではモンスターの力に耐えることはできず。

 

 身体は宙を舞い、割れた窓を越え、重力により地上へ落下し――その先に忽然と出現した()が、()()てきた彼を受け止めた。

 

 

 そこは、見覚えがある真っ黒の空間。

 

『久しいな。我が闇へ堕ちてきた者よ』

 

 地の底から響くような、忘れることのないその声。

 俺はためらうことなく、声の主へ手を伸ばした。

 

「ああ、またお前と共に戦おう! 《死統龍 ヘルシャーロイデ》!」

 

『――闇を求めよ』

 

 そう言って、龍は笑った。




これにて『闇のカードに転生したので主人公を闇堕ちさせたかった(過去形)』は完結となります!
読者の皆様、応援ありがとうございました!
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