生徒にドッキリを仕掛けたい!   作:いぬと申します

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9話 ミカって純粋で可愛いよね

 装飾のない白く無機質な事務用の部屋にカタカタと響くキーボードの音。このキーボードは茶軸とやらでできているらしく、茶軸は打鍵感と音の両立が出来る構造で!と熱く語っていたヴェリタスの子たちの顔が浮かんでくる。

 こういったものには疎いから、それぞれに頼れる生徒がいるの本当にありがたいことだと思う。...まあ、盗聴器が付けられてたから、取り外してもらったけど。

 

 「...最近暇ですよ~せんせ~。」

 「そうだね。最近は大きな事件とかはないし...ちょっとアビドスとか百鬼夜行の方は忙しかったけど。ミレニアムは暇だよね。」

 

 椅子に両足を乗せて、桃色のツインテールを揺らしながら回っているコユキが、声をかけてくる。

 

 「そう!前までやってたじゃないですか!生徒にドッキリを仕掛けるって!あれ、結構準備してたんですけど!」

 「ああ、やってたね。本当はやりたいけど...」

 「けど?何ですか!リオ会長が帰ってきたせいで監視の目も厳しくて...資産の横領もできないんですから...スリルのあることをしたいんですよ!」

 

 そんなコユキの言葉を聞いて、私の胸の中に沸々と衝動が湧き出てくる。

 生徒を導く存在...先に生きる者。教え、師事する者。そうであるべきという鎧がポロポロと剥がれていく。

 

 「またぁ...昔みてえに...!生徒...!泣かしてもいいかなあ!!!」

 「いや、普通にダメだとは思いますけどね。」

 「そうと決まれば早速作戦を立てるぞ!!!」

 「ああ。もう話聞いてないですよこの人...」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 『やっほ~!先生!来ちゃった☆』

 『ああ。いらっしゃい。ミカ。』

 

 また、こうして画面の前で手助けをする立場になっちゃった。

 にはは...今回は苦労しましたよ...

 

 『えへへ☆前の水着褒められちゃったから!着てきちゃおうかな!って思ったけど...』

 『また変な噂が立つからやめて!』

 『も~☆話はちゃんと最後まで聞いてよ~!私もお姫様なままじゃないからさ~!さすがに着てきてないよ!』

 

 じゃん!と見せびらかすようにハンガーを前に突き出すミカさん。

 トリニティの人ってこんな感じの人しかいないのかな...?晄輪大祭の時のピンクの人もこんな感じだったし。

 

 『今日は室内でお手伝いって聞いてたし!汚れてもいいようにこっちも持ってきてるんだ!』

 『...懐かしいね。そのスクール水着も。』

 『でしょ~☆さすがにボロボロだから、先生の前でしか着ないけど...ね?』

 

 そんなイチャイチャを横目に、手元にある資料に目を通す。

 ミカさんは、とある事情から先生に凄く信頼を寄せているんですって。

 依存にならないように、丁重に扱って。そうして今の関係を作ったらしいです。

 

 『せっかく汚れてもいい服を持ってきてくれたけど...今日の仕事は資料整理だからね。使う場面はないと思うな。』

 『そっか~。残念☆それで!何を手伝ったらいい~?』

 『そうだね、まずは...そうだな。この辺りの物を...』

 

 ミカさんはめちゃくちゃ強くて、執念強いみたいです。前みたいに私が直接手伝うと最悪殺されるかもって、先生は言ってました。実際、エデン条約の間は危なかったらしいし...

 

 『このぐらいでいいかな?先生!』

 『うん。わかりやすくまとめられてて、やりやすいよ。ありがとう。ミカ。』

 『えへへ~...そうだ!先生喉乾いてない?結構いい茶葉を持ってきてるんだ!』

 『せっかくだし、貰おうかな。』

 

 だから、事前の「仕込み」が必要だったんですね。例えば、トリニティ生のSNSグループに入って、彼女が好きな茶葉を調べたり。

 

 『私、あんまりティーパーティーじゃ紅茶入れることなくって!ほら。ナギちゃんとか厳しそうでしょ?』

 『海ではハスミと言い合いもしてたし...そういう印象はあるかな』

 『ほら。蒸らしが足りないとか!空気を含めてないとかさ~。結構言われたから、紅茶には自信あるよ!』

 

 トリニティ印のティーポットから、紅茶が注がれていく。

 これははちみつ紅茶。仕事で疲れている先生を労おうと、ミカさんが頭を悩ませて買った、少しお高めな紅茶です。

 

 『ほら~☆甘くていい香りでしょ?これね~はちみつ紅茶!甘くてポカポカして美味しいよ~!...まあ、ナギちゃんからはウケが悪いんだけどね~。』

 

 彼女が手に入れるはずの物を、トリニティの子に忍び込んで貰って入れ替えてもらって。

 そうして用意したのは、悪評轟く茶葉工場の茶葉。

 

『はい!どうぞ~!』

『うん。いただくね!こ...これっ...』

 

 先生は差し出された紅茶を飲み込むと、途端に苦しみ始める。胸を手で押さえ、過呼吸となり。うまく息も吸えていない。声を出そうとしても、ヒューヒューという空気が漏れる音しか聞こえてこない。

 ...いつ見ても、仮死薬は気分のいいものじゃないですね。

 

 『先生!?どうしたの!?』

 『...こきゅうが...くるしい...その...茶葉...』

 『この茶葉が...?嘘...ラベルが...別の物...?』

 『アレ...ルギー...の薬をっ...!そこに...』

 

 先生は、そばアレルギーらしいです。実際はどうか知りませんが。今回に関してはひどいそばアレルギーという設定です。

 血を吐いて、息も絶え絶えな先生を見たミカさんは、焦った様子で裏の倉庫に駆け出していきます。

 

 『どこ...どこ!早くしないと先生が...っ!』

 

 棚という棚をすべてひっくり返し、アレルギー薬を探すミカさん。

 鬼気迫る様子で、見ているだけで胸が引き裂かれそう...だけど。

 

「これも、ドッキリなので。」

 

 けたたましい音を立てて、倉庫のシャッターが閉まる。先生曰く、「ミカならワンパンでぶち抜く」らしいですけど。今回は、ぶち抜かれても問題ないようにしてますよ。

 

『やっと見つけたっていうのに...邪魔しないで!』

 

 ドゴン!とシャッターが吹き飛んでいって。ミカさんは注射型の薬を持って先生に駆け寄っていきます。

 されど、もう先生から音はしていません。

 

『先生...!先生!?見つけてきたよ!刺せばいいよね!?』

 

 返事はなく。足に刺しても先生から反応は帰ってきません。仮死薬の効果がやっと効いてきたのでしょう。心臓も。止まっているはずです。

 そんな、絶望的な状況で。心臓マッサージだけ辛うじて行っているタイミングで。テレビの電気だけ通してあげます。

 

 『先日、食品偽装を行ったとして、〇〇茶葉工場が摘発されました。〇〇茶葉工場では、茶葉を選別する作業工程の中で、複数のアレルギー物質も同じレーンで扱われていたようです。クロノススクールは、事実の追求を求め...』

 

 真っ暗い部屋に差す、文字通り毒々しい光。赤青緑の点滅と音声が彼女の頭を焼いていく。

 

 「...えっ...この茶葉って...」

 

 テレビに映し出された会社名と、テーブルの上に置かれた偽装茶葉の会社名を見比べる。

 同じ茶葉だ。

 先生がきっと何かのアレルギーで、私が確認もせずに食べさせたから。

 私のせいだ。

 

         私は何をやってもいつもそうだ

 

 何か変わった気がしてた。

 

      でも、結局変わってなかった。

 

         私は、魔女だ。

 

 「ちがうよ。ミカはお姫様だからね」

 「せん...せえ?」

 

 心臓マッサージを受けていた肉体が、熱を持って私の体を持ち上げて。私と向き合っている。死んだと思っていた、私が殺した先生が。 

 

 「なんで、私が、殺したはずじゃ...」

 「死なないよ。だって...これは!ドッキリだから!」

 

 ドッキリ大成功という看板を何処から出したのだろう。ポップな赤い文字。デカデカと掲げられたそれを見て、一瞬理解が及ばない。

 

 「ドッキリ...これが...?」

 「そう。私はアレルギーなんか無いし。」

 「じゃあ、あのニュースは。」

 「嘘のニュース。」

 

そっか...じゃあ。

 

 「先生は、生きてるんだね。」

 「うん。今は、生きてる。」

 「色々と言いたいことはあるけど。今は、もうちょっとこうさせてほしいな☆...なんて。」

 「勿論、これくらいなら幾らでも。」 

――――――――――――――――――――――――――

 

 「それで、その後どうなったんですか?」

 「丸一日ショッピングに付き合って。寝る前までモモトークで会話してたね。送ってくれたパジャマ姿が可愛かった。」

 「えぇ...その、メンタルでいれるの、貴方だけですって...」

 

 

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