誰かを曇らせて死にたい少年の話   作:空色

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第2話

レインは、半年前の戦いにおいて禁術と呼ばれる絶技を乱発、長時間の戦闘に耐えられる体とは言えなくなってしまった。それゆえ、彼は現場の指揮官を任されることが多いが、指揮官というのは非常に負担が大きいものだ。

 

所属している部隊の隊長という表現が近い。

 

役割としては持ちうる戦力全てで任務を遂行すること。

 

レインが指揮官になって最も多く出した命令は死んでくれである。

 

怪物との戦いは熾烈を極める。犠牲ありきの作戦も少ないわけではない。

 

レインはこの指示を出すのが嫌いである。任務のために死ぬくらいなら逃げたいはずだ。だから結局レインも前線に行く。結果、体の弱いレインは帰ってくるたびに寝込むのだ。上層部は重要な戦力が重要ではない作戦で消耗することを嫌う。仲間たちは、自分たちの不甲斐なさを呪ってしまう。そんな日常はある日、レインが少女と再会したことで切り替わった。

 

 

 

 

 

レインと少女が再開し、レインの部下という形で行った初任務にて、彼らは危機的状況に置かれていた。新種の怪物の生け捕りを命じられていたからだ。この新種の怪物の生き血が必要だと研究者が騒いだようだ。

 

「遠距離部隊、一斉掃射」

 

合図とともに閃光が駆け抜けた。炎や雷などカラフルな攻撃が降り注ぎ、怪物を焼き尽くす。

 

「警戒を怠るな、どの程度で怯むかわかっていない。弾幕で縫い付けろ」

 

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」

 

炎熱と閃光の中から何かが飛び出した。怪物が周囲の瓦礫を蹴り散らしたのだ。

 

後方で待機していた少女の体が弾け飛んだ。ちぎれた手足が地面に刺さり、彼女と隣あった位置にいた少年の体がさっと朱色に染まる。

 

誰一人、悲鳴をあげない、泣き叫ぶことはない。ただただ、攻撃を続ける。

 

勇兵にとってこんなものは日常茶飯事だ。腕の欠損は質のいいポーションで治る。

 

「ooaoaoaoaaoaoaaaaaaaaaaaa!」

 

怪物が声を上げた瞬間近くにいた男が、周囲を斬りつけた。レインの目の前に、仲間の下半身が転がった。

 

「は?」

 

動揺の声を漏らした瞬間、その左右の脇腹を鋭い衝撃が走る。同時に二筋の切り傷が鮮血を散らせる。

 

「裏切り………いや、操作されてんのか」

 

レインの脇を斬りつけたのは、近くにいた女軍人だった。明らかに正気を失っており、白目をむいている。レインは瞬時に、女軍人の腕を切り裂き掌底を頭に当てた。

 

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 

怪物の咆哮が鼓膜を襲う。爆音で大気が振動していく。

 

「被害状況はどうなっている!?」

 

叫ぶようにレインの指示が轟く。行動を起こす前にまずは状況を確認する。とても重要であり、定石通りの動きだが、しかし、現状に限っては実際にその情報が出揃うまで待つわけにはいかないだろう。

 

同士討ちと怪物の攻撃で、仲間たちは動揺し人数も半数近くになっていた。見た限り、操られているのは30人。部隊の三分の一だ。

 

「正気のものはこの場から離れろ!遠距離部隊は次の攻撃の準備。怪物の生け捕りは諦め、操られた兵士を含め、皆殺しにする!異論は認めない」

 

怪物の相手をしながら、操られた仲間を正気に戻して救出するのは無理がある。記憶がよみがえる。悲鳴と怒号。自分が見捨ててきた、かつて友人たちと呼んだ骸の記憶。

 

どうして殺したのか、どうして見捨てたのか、君のせいじゃない、どこかズレた言葉が、少年を苦しめた。

 

ただの悪夢として切り捨て前に進まなければならない。割り切れ。これまでもずっとそうしてきたように。これからもずっとそうするのだ。

 

指揮官に後悔はあってはならない。ただ、背負って進み続ける。それだけだ。

 

「操作されている兵士は多い。正気に戻る確証がない以上、戦力は裂けない。俺は間違っていないだろ?」

 

1泊を挟んで。

 

「皆殺しにして来れるか」

 

あの日、救ってくれた少女に命令を出す。少女は少し時間を空け「わかった」っとあっけなく頷いた。レインは拳を固め、泣き伏したくなる気持ちを抑え込む。自分は今殺戮の命令を下した。仲間を見捨てる命令を出した。任務のために人の命を数値で観測する。せめて、自分の行いを受け入れ向き合おう。そう思う。

 

「兵士たちは脚か腕を斬り落とす。そうすれば、攻撃はできないし動けもしない。その後に、怪物を一発で倒す。うむ、これで万事解決。あたまいいな私」

 

「………俺は皆殺しにしろと言ったんだぞ?」

 

あり得ない選択肢だ。全員を殺さない、怪物を倒す。操られている仲間を無力化して、怪物を討伐する。不可能だとは思わない。怪物の攻撃を裁きつつ制圧だが。不可能ではない。しかし、リスクが高すぎる。

 

「無茶だ。お前が無事である保証がない。ここで主戦力を失うのは痛い」

 

「そうだな、でも―――――レインが嫌そうだ」

 

にっと彼女は太陽のように笑った。首から上にへばり付いていた熱が、引いていく。

 

「………」

 

ああ、この感情に何と名前を付ければいいのだろうか。静かな熱が少年を支配した。

 

 

 




導入は終わり。
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