誰かを曇らせて死にたい少年の話   作:空色

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第3話

さて、俺はアストロメリアを傷つけることを目標に生きているわけだが、それにはいくつかの問題点がある。

 

それは、彼女の過去を知らないことと、好感度がどれほどなのか把握できていないことだ。この2年間、俺はメリアの好感度を稼ぐために色々と立ち回った。仲良くはなったと思う。

 

だけど、どうすれば彼女が傷つくのかがわからない。気質は天真爛漫で、幼児のような一面と思慮深い女性の一面を併せ持つ16歳。まさか、自分より年下だとは思わなかった。

 

どんな時も強気で真っ直ぐな少女が、本当の意味で傷つくのか。その自信をへし折れば、傷つくか。

 

これは否だろう。

 

少女は自信家だが、その全てを守れるとは思っていない。人の死には悲しむが、傲慢にもその責任が自分にあるとは思わない。自分が守ると誓った人間を守っているだけ。自分の命の範囲で、精一杯に生きているだけ。守れないと彼女の中で、選別されてしまった人間は死んでも彼女の傷にならない。

 

故に、俺は心理的距離を詰めることにした。

 

あの子は、周囲と距離を詰めようとしなかった。表面的には仲良くなるが、一定ラインで身を引く。決して、深い部分まで関わろうとはしない。この例外は俺を含め、3人しかいない。

 

距離を詰めるのに、苦労したものだ。

 

俺がアストロメリアと距離を詰めようとした2年間で、知り合った人間が2名ほどいる。

 

俺の目の前に座っているピンク髪の不思議ちゃんがその一人だ。

 

勇兵には地域ごとに管轄があり、基本的にはその地域の調査や防衛を任務としているが、俺が所属している部隊は少し特殊だ。基本は帝都周辺にいるのだが、過去の廃都市の調査や別地域の防衛を手伝うという任務が与えられている都合上、遠征をすることが多い。

 

目の前の少女は遠征先で任務に当たっていた救護兵なのだが、何故か俺の部隊に移動になった。

 

地域や国によって、勇兵が受ける扱いは変わるが帝国はかなりマシな方だ。戦場では当たり前のように、駒として使われるが戦場以外での待遇はいい。勇兵の訓練に使われる建物に入っているこの食堂にも、それが見て取れる。人数以上の広さと驚愕を隠せないほどの豪奢な料理。帝国貴族もニッコリな施設だ。

 

まあ、戦場で死ぬ可能性が高い我々の現状を憂いたというか同情した貴族が建てたからだという側面もある。

 

「おはようございます?」

 

「何で疑問形?」

 

ルラーラは、紅茶を入れたカップをテーブルにおいてから、俺に向かってコテンっと首を傾げて挨拶をしてきた。

 

「今日はメリアちゃんと一緒じゃないんだ」

 

「いつも一緒にいるわけじゃないからな…」

 

「今日の私の髪ってポニーテイル?」

 

「だから、何で疑問形なんだよ?」

 

「蜂蜜パイ」

 

「へ?」

 

「蜂蜜パイ、おいしそうだね」

 

「………………………」

 

あまりの脈絡のない会話に思考が飛びかける。あー、マジでやりづらい。この子。蜂蜜パイが欲しいのか?っていうか、何で話しかけてきたっていうか、今は昼だけどな。

 

「蜂蜜パイが好きなのか?」

 

「うん、甘くて優しい」

 

「………ハァー、やるよ」

 

「………いいの?」

 

「気分じゃない」

 

微笑を浮かべるピンク天然女を見て、顔だけはいいなと思う。

 

「おじさんも混ぜてくれよ、隊長」

 

軍服を着崩しタバコを咥え新聞を片手に、一人の男が席に座った。

 

「おじさんって歳でもないと思いますが?アルヴェルト少佐」

 

「いやいや、オレももう26だからな。隊長のおまけで少佐にしてもらったが、これ以上の昇進はわかんないし。仲間内の平均年齢は超えたからな。おじさんだよ」

 

勇兵の平均年齢は25歳とかなり若めだ。これは戦場に出ていない10歳から12歳までを含んだ年齢になるがそれでもかなり若いと言えるだろう。一番の原因は、老兵がとある作戦にてバカみたいに殺されたからである。

 

「ヴァネリア中将が少佐を引き抜きたがっていましたよ。若い優秀なのが欲しいってね」

 

「断っといてくれ、隊長といた方が昇進できそうだからな」

 

「断りましたよ。貴方を動かすとメリアがうるさいので」

 

「お?なんだ、嫉妬か?オレがあの子に気に入られているからって嫉妬?父親みたいな感じだから安心しろって」

 

「ちょっと、今から人事異動の申請してくる」

 

「待て待て待て!冗談だから!これからもフォローしてやるから!」

 

メリアの所属していた部隊にいた彼を2ヶ月ほど前に招いた。曰く、早く昇進したいということだったので、俺と一緒に死地に来てもらった。一番面倒な任務を共にこなして、随分仲良くなったと思う。

 

「あれ?ルラーラはどうしたんだ?」

 

「ああ、それなら隊長とオレがじゃれてる間に帰ったぜ?用があったのか?」

 

「………いや、別に」

 

机には用事があれば医務室で待っていると紙切れが置かれていた。

 

「本当にマイペースだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都は近隣諸国に比べても栄えた都市だ。しかし、数年前の帝都防衛戦で破壊つくされた場所は放置区画として、廃棄された区画となっている。怪物が暴れたおかげで周囲は瓦礫の山だが、一部建物が残っておりこの廃劇場などは特に状態がいい。

 

時折、ここに来たくなる。メリアと出会った戦場に。あの光景を一望できるここに。

 

眼下に広がる街並みを眺めながら錆びれた螺旋階段を踏みしめる。屋上にまで登ってきた瞬間、視界の端に奇妙なものが映った。それは一人の女の子だった。誰もいないだろうと思っていた。ほとんど確信をしていた。建物の屋上の隅、手すりのない縁に腰をかけている。足をぶらぶらさせながら空っぽの目つきで彼方を眺めている。その姿からはまるで生気が感じられない。間違いなく生きているはずなのにまるで生を感じさせない。異様に精巧な人形を目の前にしたような不安と違和感がある。その横顔からはうまく感情が読み取れない。

 

「こんなところで何をしている?」

 

興味が湧いたので話しかけることにした。

 

少女はこちらを見て少し驚いたようにこちらを見てきた。彼女の赤い視線と俺の琥珀色の視線が重なった。

 

その表情には生気が戻っていた。先ほどの人形のような違和感はなくなっていた。黒色の髪が風に靡く。赤い瞳が陽の光を反射して僅かに揺れている。

 

黒髪に赤い瞳。少し面倒な想像が浮かんだが、知らないふりをした。

 

「街を眺めているのです。消えてしまった街を。散っていった命を」

 

少女は落ち着いた口調で、質問を返した。

 

「貴方はレイン・ノワール中佐ですね」

 

「………あんたは?」

 

「失礼いたしました。(わたくし)はティナ・ウィルティウス。ウィルティウス帝国第二皇女であり、貴方と同じ勇兵であり、そして本日付で貴方の補佐官になりました。どうぞ、宜しくお願い致します」

 

俺はその瞬間、回れ右をして屋上から逃げ出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




レイン 主人公
アストロメリア 曇らせ対象
ルラーラ 不思議系ピンク髪
アルヴェルト 自称おじさん
ティナ 皇女様
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