誰かを曇らせて死にたい少年の話   作:空色

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第4話

「まさか、逃げられるとは思っていませんでした」

 

「すいません。脚が勝手に動きました」

 

「………いいでしょう。普段であれば、不敬罪ですが今は貴方が上官です」

 

俺は皇女から逃げた次の日、書面にてこの飲食店に呼び出しを食らった。正直センスがいいはいいと思う。テーブルに黄色く燃えるキャンドルが置かれていて、淡い光と天井から降り注ぐ暖色光が心を温める。まあ、俺は皇族からの招集で心が寒いがな。

 

「矛を収めていただけて光景ですが、何で俺の補佐官に任命されているのですか?殿下は元帥殿の補佐官のはずでは」

 

元帥の補佐官ということは、戦場にはほとんど現れないということである。この配置を批判する人間は多い。皇族の血を言い訳に逃げているのだと非難する人間が後を絶たない。

 

皇女もそれをわかっているのだろう。後ろめたそうにしていた。

 

「………その通りです。私は皇族でありながら、勇兵でもあります。皇族としての責務もありますが、勇兵としての責務もあります。前者を理由に後者の責務から逃れることを私はよしとしませんでした。しかし、私には戦場に出してもらえない事情があった。詳細は機密事項ですので話せませんが、それが元帥閣下の補佐官だった理由です」

 

「殿下、俺は貴方に謝罪や言い訳を求めたわけではありませんよ。ただ、何故俺の部隊に入ったのか聞いているのです」

 

俺の言葉を受けて、皇女は複雑そうな顔をする。

 

「隣国のネルガ王国でとある会談が秘密裏に執り行なわれます。この会談は帝国にとって非常に重要な意味を持つものです。当然、皇族が参加する予定でした。しかし、これに賛同しない者も少なくありません。特に貴族の中には」

 

「………帝国内の勢力の中に皇族の参加を拒む勢力がいて、その邪魔が入っているということですか」

 

「おっしゃる通りです。一部商会と上級貴族の3家が不穏な動きを見せています。おそらく、国内にて我々を暗殺することも視野に入れています。質の悪いことに、この会談が秘密裏であることを利用して巧妙な立ち回りで反逆罪を掛けられないように動いています」

 

「なるほど、つまり殿下の望みは会談参加までの身の安全」

 

殿下以外の皇族が会談に行く選択肢はないのだ。なぜなら殿下以外の皇族は、勇兵ではない。一般人よりも丈夫で殺されても国益を一番損なうことがない皇族が目の前の少女なのだ。

 

皇族は彼女を持て余して、民は疎み煙たがる。この国で最も孤独なのは目の前の皇女なのだろう。

 

「………ええ、帝都防衛戦の英雄たるレイン・ノワールに私を護衛していただきたいのです」

 

「わからない、何故、俺の部隊なのでしょうか。元帥閣下の直属の部隊があるでしょう?」

 

「元帥閣下のお言葉を借りるのであれば、『ノワール中佐の率いる部隊は帝国屈指の生存率を誇る勇兵部隊だ。我々よりも不足の事態に対応できるだろう。加えて、表向きはノワール中佐の部下として国境付近まで遠征をするだけだ、誰にも邪魔をする権利がない』とのことです」

 

「………事情はわかりました」

 

 

 

 

 

「っというわけで、今日から数週間行動を共にするティナ・ウィルティウスだ」

 

翌日俺は皇女を部下たちに紹介する。この場にいるのは、任務に参加するメンバーだけだ。少数精鋭で動いた方が楽だろうという結論を少佐と相談し出した。メンバーは、俺、メリア、アルヴェルト少佐、ルラーラ、そして殿下の計5人である。

 

少数とはいえかなり居心地が悪いだろう。視線が虚空を向いている。

 

勇兵が皇族嫌いなのは有名な話だ。少なくとも、ここまで数がいれば皇族を嫌っている人間が必ずいると彼女は思っている。

 

「各々色々と思うところはあるだろうが、ひとまず自己紹介を――――」

 

「おおー!よく来た!ティナかんげいするぞー」

 

俺の話を遮って、メリアが弾丸の如き速度でティナ皇女に抱き着いた。

 

「!?」

 

皇女は予想外の行動に目を白黒させている。それはそうだろう。勇兵にとって皇族は、強制的に自分を戦場に送り出す元凶だ。俺たちが戦わなければ、怪物に国を蹂躙され結局俺らも困るわけだがそれは理屈の話だ。犠牲ありきの作戦で仲間を殺された奴も、その選択を迫られた司令官も少なくない。最終的に無茶な命令を出すのは、上官だが根源は、勇兵を兵器とした価値観を構築した皇族だとする考えが根強い。

 

ましてや、殿下は今まで戦場に出た経験が乏しい。自覚があるからこそ、負い目を感じそれなりの感情を向けられるのではないかと思っていたはずだ。

 

「ここにいるメンバーは俺が最も信用しているメンバーです。護衛はこのメンバーだけで行います。秘密裏に動けた方が楽ですし」

 

「え、ええ………!それは構いませんが、あのこちらの方は?」

 

困惑しながら自分に纏わりつく少女を眺める皇女、不敬罪で殺されそうな絵だと思う。

 

「私か?私はアストロメリアだ!いずれ世界を救うさいきょーの勇兵だ!覚えておきたまえー」

 

「あー、オレ………いえ、私はアルヴェルトです。階級は少佐、この部隊では参謀をしています」

 

曇りのない瞳で、打算なき自己紹介を行うメリアに圧倒される皇女に、少佐も自己紹介を行った。

 

最後に眠気に襲われているルラーラが端的に名乗った。

 

「ルラーラ。大尉。趣味は寝ること、甘いもの、後は傷を治すこと。よろしく?」

 

「え、あ、はい。よろしくお願いいたします。ティナ・ウィルティウスと申します。階級は少佐です」

 

「取り合えず、任務の概要を話しましょう。雑談は道中で」

 

苦笑を浮かべる少佐は、話の舵を切って俺に進行を求める。

 

「では、殿下をネルガ王国に届けるための作戦を説明します」

 

 

 

 

 

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