>シド
>『ところでハイネちゃん。 もう初クエストは終えた んでしょ。どうだった? シンちゃんも』
>シドがシンたちと同じ席に座る。3人掛けのテーブルなのでちょうどいい。ロンはテーブルの上に座っている。
>ハイネ
>『どうって、別に普通だっ たけど。なぁ?』
>シン
>『ん~、まぁ…』
>ハイネがそっけない返事をしてからシンに振り、シンもぎこちなく答える。
>シド
>『何かあるでしょ。こうヤ バかったとか、大変だ ったとか』
>そりゃ、ヤバいとか大変なんて言葉で表すには2人は十分すぎるものに遭遇している。
>ハイネは針蟲セルケト。
>シンは死神クルーゼ。
>ただそれはサクやイクから口止めされているので、ここで言うわけにはいかない。
>ハイネ
>『まぁ、いろいろあったけ どな』
>シン
>『うん』
>シド
>『?』
>時刻は19:30。
>ストレイキャッツにもボチボチの客入りだ。
>現在、当店オーナーはハイネたちと談笑中。
>代わりに厨房で戦っているのは、ベテランアイルーたちだ。
>
>厨房…
>アイルーA
>『ニャアマスターは何し てるニャ』
>アイルーB
>『知らんニャさっきロン が連れてったニャ』
>アイルーC
>『今、手離せないニャ。誰 か見て…呼び戻してくる ニャ』
>アイルーD
>『自分で行ってこいニャ。 手が離せないのはみんな いっしょニャ』
>アイルーE
>『カムバック・マスターニ ャア』
>アイルーF
>『お前らニャアニャア言 っとらんで、仕事しろニ ャ』
>アイルーABCDE
>『ニャんだと』
>アイルーたちは戦っていた。
>明らかに注文の量より多くのものを作っている気がする。
>
>シド
>『アイルー雇う気になった 、ハイネちゃん?』
>厨房の戦争のことを知ってか知らずか、シドはハイネたちとの談笑に花を咲かせていた。
>ハイネ
>『そりゃ雇いたいかっつっ たら、雇いたいけど、オ レまだHR1だしな』
>シドはアイルーの貸し出しも行っている。
>もちろん『雇う』ということなので、雇ったアイルーに給料を払わなくてはならない。そのため、低レベルハンターではアイルーを雇うことは難しい。
>シド
>『もしアイルーが欲しくな ったら、いつでも言って きてね。オマケとかしち ゃうから。シンちゃんも ね』
>シン
>『は、はぁ』
>雇ったアイルーには主に、料理や、ハンターが留守にしている間の家事全般をしてくれる。
>上位ハンターならば、ほぼ100%の割合でアイルーを雇っている。
>ハイネ
>『でさ~、そろそろ本題に 入りたいんだけど~』
>ハイネが切り出した。例の仲間の件だ。
>ハイネ
>『オレたちさ、これからも もちろん2人でやってい くつもりなんだけど…』シド
>『新しい仲間でも欲しいの ?』
>疑問形で返したシドだったが、自身では確証があったようだ。
>ハイネとシンはゆっくりうなづく。
>シド
>『そうね~…』
>頭(おっさんヘアー)をボリボリとかきながら、斜め上を見ながら考える。
>シド
>『私はあんまりギルドと関 わりがないからね。知り 合いのハンターっていえ ば、私の世代の同期か、 この店を利用してくれる お客さんぐらいだから』つまり、紹介できそうな人はいないと。
>ハイネのアテは無念にもくずれさった。
>シド
>『そういうことなら、受付 のサクちゃんやイクちゃ んに相談した方がいいわ よ』
>ハイネ
>『いや、それはちょっと』正直、そんなことサクやイクに相談するのは気がひける。てゆーか、恥ずかしい。
>なのでシドを頼ったのだ。シド
>『私の持論を言わせてもら うと、友達って自然にで きてくるものだと思うの 。だから焦らなくても、 きっといい子、見つかる わよ』
>ハイネ、シン
>『…』
>シドの言葉に顔を見合わすシンとハイネは、『そんなもんかな~』と呟いていたりしていた。
>ロンはさっきから難しい話についていけず、悶々している。
>シド
>『とりあえず、今日は2人 が無事にクエストを終え て、我がストレイキャッ ツに来てくれたお祝いと して、何でもタダにしち ゃうわ。どんどん注文し て~』
>軽薄な言葉は災いを招くということを、おっさんはこの後思い知る。
>ハイネ
>『じゃ、オレは翠水竜のム ニエルと、角竜のしゃぶ しゃぶ盛り合わせと、フ ルカツと、蟹と水竜の刺 し身と、氷山草と厳選キ ノコのサラダと…』
>シン
>『え~と、オレは…』
>シド
>『…』
>ロン
>『いっぱい食べるニャア』
>
>ハイネ
>『ふぅ~、食った食った』この日の入りが遅いティーズもようやく暗くなりかけていたころ、シンとハイネは小高い丘に寝そべっていた。
>シン
>『シドさん泣いてたな。必 死で涙こらえてたな』
>涙をこらえる男。正直、初めてシドのことをカッコいいと思えた。
>ハイネ
>『気にすんな。おっさんの くせにカッコつけるから 悪いんだ』
>おっさんのくせにって、おっさんは関係ないだろ。と、同情まで覚え始めるシンだった。
>ハイネ
>『まぁ、シドの持論もわか らなくはないよな』
>さっきの『焦る必要はない』というやつだ。
>シン
>『うん』
>まだ始まったばかりだ。
>急ぐ必要も、焦る必要もないのだ。
>ハイネ
>『シド自身、その持論で成 功してるから、説得力も あるし』
>シン
>『なぁ、シドさんって、レ ベル的にはどの程度なん だ?』
>シドは美食ハンターだが、HRなどハンターの根本は同じなのだ。
>ハイネ
>『聞いて驚くなよ。あのお っさん、ああ見えてHR 7なんだぜ』
>シンが目を見開いて、寝そべっていた体を起こした。そうとう驚いたようだ。
>シン
>『マジで…?』
>HR7、一流を通りこして天才と称されるレベルである。
>このレベルに至るには、一生をかけても不可能なハンターがほとんどだ。
>さっきまで目の前で、背筋が凍りつきそうな発言をしていたおっさんが、そんなレベルだなんて。
>信じがたいものだったし、信じたくないものだった。ハイネ
>『美食ハンター・イエーガ ー。同職の連中なら、知 らんやつはいないだろう な。なんたって、美食ハ ンターで、ブラックリス トハンターに近づいた男 なんだから』
>ブラックリストハンター、HR8以上のハンターがそう称される。
>文字通り、ブラックリストに登録され、その実力からほぼ危険人物扱いとなる。すべてのハンターの夢の的である。
>シン
>『ブラックリストハンター か。オレらの夢だよな』ブラックリストハンターになれるのは、ほんの一握りのハンターのみ。
>例えシドのようにHR7までいっても、そこからHR8にあがるのはそうとう難しいのだ。
>HR7を《天才》と呼ぶのなら、HR8以上のブラックリストハンターは《異常》と呼ぶべきか。
>ハイネ
>『じゃあ、とりあえず、仲 間の件は先延ばしってこ とで』
>シン
>『うん、今はそれしか言え ないだろ』
>芝生に寝そべって、天空にまたたく星を見ながら、2人は夜が明けるのを待った。