>店の奥のある真っ暗な部屋に連れ込まれたハイネ。当然、ハイネはこの部屋に見覚えがある。なんせここに2年間も暮らしていたんだから。
>そうしてサーシャはわしづかみにしていたハイネを突飛ばし、壁まで迫ってハイネと向き合う。顔がかなり接近した。部屋が暗いのでこのくらい近づかないと、互いの顔が見えない。電気をつければいいじゃないか、と言われればそれまでなのだが、空気的に明かりをつける雰囲気ではなかった。
>ハイネ
>『…サーシャ?』
>ハイネがサーシャの顔を覗き込む。
>向き合っているとはいえ、サーシャの顔は前髪で半分くらい隠れていた。
>サーシャ
>『なんのつもりよ…。今ご ろ帰ってきて、「ただい ま」なんて…』
>覗き込もうとしたハイネが引っ込み、瞬間に言葉を失う。
>ハイネ
>『っ…』
>背丈はハイネの方が高い。背筋を伸ばしたままのハイネからは、顔を落としたサーシャの表情はうかがえない。
>ハイネ
>『ごめん…』
>とりあえず謝る。それ以外に口にできる言葉はなかった。
>ただ、何に対しての『ごめん』なのか、ハイネ自身もよくわかっていなかった。サーシャ
>『謝れって言ってるんじゃ ない』
>なんとか腹をしぼって出したような小さな声に、ハイネは謝罪以外の何を言えばいいのだろうか。
>ハイネ
>『…ハンターになった、何 も言わずに出ていった、 この1年一通の連絡もし なかった…。謝んなきゃ ならないことは、山ほど ある…』
>ハイネは言葉にならない言葉をつむいで言う。
>ハイネ
>『自分でも何してんだろう って思ってた。でも、い ざ一歩踏み出そうとする と、以前の間違いが頭を よぎって…』
>サーシャ
>『…』
>ハイネも自分で何を言っているのかよくわからなくなっていた。これじゃまるで…
>サーシャ
>『…いいわけ』
>まさに核心をついた一言。ハイネはまた言葉を失う。サーシャがあれだけ嫌っていたハンターを目指し、さらに一言の別れも告げずに村を去り、あげくのはてには1年間も音信不通。すでに弁解の余地はない。
>サーシャ
>『わかってた…』
>ハイネ
>『え?』
>相変わらず小さい声だが、その呟きはしっかりと聞き取れた。
>サーシャ
>『私がどれだけハンターに ならないでって言っても 、ハイネはハンターにな るって』
>ハイネは鳳凰の一族の生き残りとしてハンターを目指す、サーシャも事情はわかっていた。そればかりはどうしようもないことだと。サーシャ
>『でもなんで急にいなくな るのよ』
>声のボリュームが一気に上昇した。てか怒鳴り声。
>気圧されて後退りしかけたハイネだが、後ろは壁だ。もう逃げられないということなのだろうか。
>ハイネ
>『…』
>どう伝えればいいのかわからなかった、というのが事実だ。
>ハンターになりたかったハイネと、ハンターになってほしくなかったサーシャ。そんなハイネが、当時の思いをどうやってサーシャに打ち明ければよいのかわからなかった。その結果が今の状況だ。
>サーシャがお怒りになっているのもそれだ。
>ハイネ
>『サーシャに軽蔑されんの が、怖かったんだよ』
>これもハイネ自身の勝手な都合だ。
>サーシャ
>『軽蔑って…』
>まぁ、ハンターが嫌いなサーシャにその思いを伝えれば、嫌われる。そう思うと伝えられなかった。
>今となっては、サーシャはハイネがハンターになったことを認めてくれているが、当時はハイネも悩んだことだろう。
>サーシャ
>『軽蔑なんて、しないわよ 』
>そう言われると、サーシャも怒れなくなる。そういう性格な子なのだ。
>ハイネ
>『ホント、ごめん』
>サーシャ
>『…』
>さっき、謝るなと言われたのに、また謝った。
>サーシャ
>『ハイネは、これからもテ ィーズのシドのとこでハ ンター続けるのよね?』今までの話から、ハイネはこのクロノスに本当の意味で帰ってきたのではない。ハイネ
>『…うん』
>サーシャの気持ちを察してか、ハイネもビミョーな声だ。
>サーシャは一歩ハイネに近づいて、自分の額をハイネの胸にかるくあてた。
>サーシャ
>『だったら…、私も連れて って…』
>
>
>2時間、シンはエマからハイネとサーシャの過去を聞き、ハイネはサーシャに怒られていた。
>シン
>『お、ハイネ』
>ハイネとサーシャの再会から2時間、ハイネたちは2人そろってサーシャに連れ込まれた店の奥から戻ってきた。
>ハイネは相変わらず作り笑い的な笑顔をうかべていたが、サーシャはうつむいている。
>エマ
>『おや、サーシャ。もうい いのかい?』
>エマがいじわるく問いかける。
>サーシャ
>『言いたいことはいっぱい あるけど、言わなきゃい けないことは言ったから …』
>ハイネはシンにサーシャとのことを報告し、エマに向き直る。
>ハイネ
>『バアちゃんもごめん』
>ハイネがエマに頭をさげる。
>エマ
>『あたしに謝ることはない だろ。あの日、アンタは シドと一緒にあたしのと ころへ来たんだから』
>そう、ハイネはエマにのみ別れを告げていた。
>サーシャ
>『さっきはごめんなさいね 。ハイネ連れ出して』
>サーシャがシンの前まで来て、丁寧にお辞儀した。
>サーシャ
>『私はサーシャ・シファ』シン
>『あ、いえ、こちらこそ。 シン・アスカです』
>椅子に座っていたシンは立ち上がってサーシャに向き直る。
>至近距離で見ると案外小柄な子だ。黒に近い藍色の髪を頭巾の後ろで束ね、瞳は澄んだグリーン。やけにエプロンが似合う。年齢は18歳ということだ。
>シン的には、どうみても自分より年上には見えなかった。
>サーシャ
>『ねぇ、いつまでここにい られんのよ?』
>ハイネ
>『後1時間ぐらい』
>ハイネたちがクロノスに滞在できるのは、ゼノンが遣いの品を買い終えるまで。サーシャやエマは、今日1日ぐらいは泊まっていくのだと思っていた。
>エマ
>『そう…、そんなに早くに 行くのかい』
>少々残念に思うエマ。
>サーシャはそれ以上に残念に思っているだろう。言葉には出していないが。
>エマ
>『サーシャ。今日はもう店 はいいから、3人でぶら ついてきな』
>時刻は夕方過ぎ。
>食堂としてはこの時間帯から忙しくなるはずだが、エマはサーシャに外出を許可した。
>サーシャ
>『いいの?』
>エマ
>『久しぶりにハイネに会っ たんだからね。こうでも しないと、後で泣かれて も困るしね』
>サーシャ
>『…』
>今のエマの発言に対し言いたいことはいっぱいあるが、ここは気をつかってくれたエマに感謝。
>サーシャはエプロンと頭巾を脱いで準備完了。
>さてと、残り1時間弱。
>3人は店を出た。
>シン
>『あの~、オレ明らかに邪 魔だよね?』
>1年ぶりに再会した2人と、その連れ。
>その連れという立場のシンは、立場的に構図的にシチュエーション的にあってはならない存在な気がする。ハイネ
>『大丈夫大丈夫』
>サーシャ
>『うん、問題ない』
>まぁ、2人がそう言ってくれるならいいか。
>ハイネとサーシャは自然と歩き出し、シンはそれに続く。どうやら、2人とも行くところは決まっているらしい。
>シン
>『えっと、どこ行くの?』ハイネ
>『時間もそんなねぇからな 。オレとサーシャの思い 出の場所かな?』
>サーシャ
>『何、その恥ずかしい言い 方?』
>否定はしないんですね。そう思って、シンは心の中で苦笑いする。
>歩いて数分。
>“工業”というイメージがあるこのクロノス村だが、この場所は公園の丘のようになっている。
>丘の上には木が一本。
>シン
>『…』
>ここが思い出の場所?ありきたり過ぎだろ。あくまで口には出さない。
>丘の上に立つと、夕日が砂の海に沈む光景が。なんとも美しいが、やっぱりありきたり。
>ハイネ
>『懐かしいな。当分は見れ ないと思ってたのに』
>サーシャ
>『ま、あの夕日に免じて、 今回の件は許してあげる わ』
>シン
>『…』
>やっぱり邪魔だよな、オレ。
>
>『おやおや、少年少女諸君 。青春真っ只中だね』
>突然、隣の木の上から声がした。
>3人は驚いて木を見上げると、そこには、どこかで見たような赤毛のポニーテールが。
>ハイネ
>『あ、あなた…』
>赤毛の女
>『よっ、半日ぶりだね』
>枝に座っているそのポニーテールは、半日前に砂漠で助けてもらった、あの女のブラックリストハンターであった。
>