>赤毛ポニーテールの女は、ハイネたちの前にゆっくりと飛び降りた。結われた髪と、それを束ねるリボンがふわりと舞い、なんとも一挙一動が優雅に思える。
>続いてアイルーも降ってきた。確か、シャルルとか言ったっけ、このアイルー。ハイネ
>『あなた、あの時の…』
>シンがランゴスタに刺されてぶっ倒れて、その上ゲネポスに追い込まれガチのピンチの時、華麗に崖の上から参上されたあのお方だ。赤毛の女
>『また会ったねぇ』
>なぜか笑顔のその女は肩に太刀をのせて、ハイネたちの前に立つ。
>あの時はバタバタしていてあまり意識していなかったが、なかなかべっぴんだ。赤毛の女
>『キミ、ランゴスタに麻痺 らされてた子よね?大丈 夫だった?』
>シンのことだ。
>シンもあの時、麻痺用の解毒薬を飲ませてもらって、いろいろと世話をやいてもらった。
>シン
>『はい、大丈夫です。あの 時はありがとうございま した』
>シンは麻痺毒に犯されていたので、正直この赤毛ポニーテールの女のことをあまり覚えていない。
>ただ、ピントがズレたようなあいまいな記憶ならわずかにある。自分の手をとって薬を飲ませてくれた。
>ハイネ
>『あの時はありがとうござ いました。おかげでまた 、お会いすることもでき ました』
>赤毛の女
>『お礼なんかいらないって 。言ったでしょ?ハンタ ーは助け合いが大切なの よ』
>左手の人差し指を立てて、ウインクする。
>サーシャ
>『ハイネ?』
>サーシャはきょとんとしている。そりゃそうだわな。ハイネは砂漠で、彼女に助けられことを手短に話してあげた。
>サーシャ
>『へぇ~』
>赤毛の女
>『そんな大層なことじゃな いって』
>この女の腕には黒いバックルがつけられている。“黒曜金”だ。
>黒曜金とは、ブラックリストハンターにのみ使用が許されている防具の一種。
>ということは、この女もブラックリストハンター。
>見たところ、年齢もシンやハイネと大した差はないように思える。
>ハイネ
>『あの、名前、教えてもら ってもいいですか?』
>そういえば、まだ互いの名を明かしていなかった。
>あの時はゴタゴタしていたので、聞きそびれた。
>赤毛の女
>『そうね、別にいいけど。 でも、人に、特に女の子 に名前を聞く時は、まず は自分から名乗るっての がジェントルマンよ』
>女は人差し指をハイネの額にあてる。相変わらずの笑顔で。
>ハイネ
>『あ、えっと、ハイネ・ヴ ェステンフルスです』
>シン
>『…え?あ、オレもか。シ ン・アスカです』
>赤毛の女
>「ヴェステンフルス…。じ ゃ、この子、鳳凰の一族 の…」
>彼女も、ヴェステンフルス一族の悲劇を知っていたようだ。
>赤毛の女
>『ハイネくんに、シンくん ね。オッケー。私はカナ リア・アルスター。よろ しく』
>この赤毛ポニーテールは、カナリア・アルスターというらしい。
>身長も高く、足も長い。女性として申し分ない美貌。プロポーションも抜群だ。おそらく10人が10人、彼女をかわいいと言うだろう。常に笑顔がチャームポイントの、大人の女性になりかけの女の子という感じ。
>カナリア
>『こっちの子は?』
>カナリアがサーシャを見る。
>サーシャ
>『え~と、サーシャ・シフ ァです』
>カナリア
>『サーシャちゃんね…。で 、どっちの彼女なのかな ?』
>それはつまり、サーシャはシンかハイネのどちらの彼女なのかという質問なのだろう。
>サーシャ
>『ち、違いますよ。彼女な んて、そんな』
>まぁまぁ、そんな分かりやすい反応示してくれて。
>サーシャは耳たぶを赤くして縮こまる。
>カナリア
>『ハハハ、サーシャちゃん ってからかいがいがある ね。ホント、ヴァニラみ たい』
>カナリアがサーシャの頭をポンポンとたたく。
>ハイネ
>『ヴァニラ?』
>今、知らない人の名前が出た。
>カナリア
>『あ、ごめんごめん。こっ ちのこと』
>なかなかというかかなりハイテンションのムードメーカー、カナリア・アルスター。
>話を聞けば、彼女は齢20にしてHR9のブラックリストハンターだそうだ。HR9といえば、数万数十万いるとされるハンターの中で、たった20人しかいないとされている。
>カナリア
>『じゃ、ハイネくんとシン くんはティーズのハンタ ーなんだ?』
>ハイネ
>『はい。運び屋の方に無理 を言って、クエストの帰 りに俺の故郷のクロノス に寄ってもらったんです 』
>カナリアを含めた一向は、ゼノンとの待ち合わせである飛空場へと向かっていた。
>カナリア
>『それじゃ、サーシャちゃ んは切ないでしょ?ハイ ネくんと離ればなれにな って』
>サーシャ
>『いや、私とハイネは別に そんなんじゃ…』
>ホント、分かりやすく耳たぶを赤くして。
>カナリア
>『でも、シンくん立場ない ね?』
>シン
>『まったくっスよ。目の前 でイチャイチャされて。 ホント気まずくて気まず くて』
>なんの皮肉?
>ハイネ
>『イチャイチャなんてして ねぇよ』
>サーシャ
>『誤解よ。誤解だから』
>なんでそんなに焦るのか?まったく2人とも分かりやすくて。
>と、まぁ、このような雑談で、ハイネとサーシャのロマンチックな時間なるはずだった1時間はあっという間になくなってしまった。なんだかカナリアが現れてから、場の空気をことごとくカナリアが操っているように思える。
>カナリア
>『サーシャちゃん、恋の相 談ならいつだって聞いて あげるわよ。人の恋愛ほ ど面白いものはないから ね』
>いや、その発言はどうなのか。シン、ハイネ、サーシャが同時に思った疑問である。
>そうこう話しているうちに待ち合わせ場所の飛空場についた。
>その門の前に一人の老人と、荷物をどっさり持たされたアイルーが一匹。ゼノンとココだ。
>シン
>『すいません、ゼノンさん 』
>ハイネ
>『お待たせしました』
>サーシャは無言で一礼。
>ゼノンは、ハイネの隣のサーシャを見て、自由行動をさせた自分の選択が間違いなかったことを確認する。ただ確認することはもう一つ。
>ゼノン
>『ん?』
>カナリア
>『アレ?ゼノンさん?』
>まさかというか、やっぱりというかの知り合いパターン。
>ゼノン
>『アルスターの娘?なぜこ こに?』
>カナリア
>『私がここにいちゃ、おか しいですか?』
>カナリアは相変わらずの笑顔でゼノンに聞き返す。どういう関係なのだろうか?カナリア
>『てゆーか、この子たちつ れてきたのって、ゼノン さんだったんですか。珍 しいですね、“あの子た ち”以外とクエストに来 るなんて』
>この子たち、というのはシンとハイネのことだろう。あの子たち、というのは?ゼノン
>『ふん、お前さんには関係 なかろう』
>飛空場ではすでに、ゼノンの気球が発進スタンバイの状態になっていた。運び屋の気球は普通の気球よりも数段デカいので、飛空場の係員に頼めば気球を発進スタンバイの状態にしておいてくれるのだ。
>ゼノン
>『さぁ、乗れ』
>ゼノンが気球の中にシンとハイネとココを誘導する。ココは休む暇もなく、火炎放射で気球のバルーンに熱を送る作業に入る。
>サーシャ
>『ハイネ…』
>気球に乗り込もうとしたハイネに、サーシャが切ない声で呼び止める。
>ハイネ
>『ごめんな、サーシャ。ま た来るよ』
>また2人だけの世界に突入。さすがのゼノンも、自分の存在が不要なことを察する。
>サーシャ
>『…』
>行かないで、サーシャが一番伝えたい想いだろう。しかし、それは言えない。ハイネの気持ちを汲んでやるなら、それは言ってはいけない。
>以前のハイネと似ている。ということは、ハイネは断ったのだ。あの時サーシャが言った
> 『私も連れてって』
>という、初めてのわがままを。
>サーシャ
>『約束よ』
>ハイネ
>『ウソだけはつかねぇよ。 オレは』
>そのハイネの言葉に、サーシャは少し安心したような表情で、『おかえり』と言った。
>ハイネ
>『え?』
>サーシャ
>『まだ、言ってなかったか ら』
>ハイネも少し驚いた顔をしていたが、『遅ぇよ』と笑って返した。
>サーシャ
>『そうよね』
>そんな2人の世界に浸りきっているハイネとサーシャを、カナリアは初めて笑顔以外の表情で見ていた。
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