>シド
>『サーシャには会った?』突然のシドの思いがけない質問に、ハイネは驚きをこえて、脳ミソを直接揺すぶられたような感覚に見舞われた。
>その時のシドの口調もマジだったことに、この質問の真意が込められている。
>ハイネ
>『どういう意味だよ?』
>漠然としたようなシドの質問に、ハイネも一瞬戸惑いを見せる。
>シド
>『言葉の通りよ。あの子に 会ったの?』
>ため息と同時にいつもの口調に戻った。
>ハイネ
>『じゃあまさか、オレを砂 漠のクエストに行かせた のは、オレとサーシャを 会わせるためか?』
>シド
>『それは考え過ぎよ。まぁ 、そうなったらいいなと は思ってたけど。それよ りどうなのよ?』
>なかなかシドの言葉に核心が見えない。
>シンに関しては、『またオレ、邪魔なんじゃね?』という状況である。
>ハイネ
>『会ったよ。ゼノンさんが 急用でクロノスに立ち寄 ったからな。クロノス行 ったら、帰らないわけに いかないし』
>ハイネは、クロノスのあの食堂“猫まんま”に行くことを『帰る』と言った。
>やはり、ハイネにとって猫まんまは帰るべき場所なんだろう、とシンは感じた。シド
>『そう。で、何言われたの ?』
>ハイネ
>『そこまで聞くか?』
>シド
>『もちろん。私とアネキは アンタたちの保護者だか らね』
>アネキというのは、シドの姉にあたるエマのことである。現在はサーシャの義理母であり、クロノスで“猫まんま”という食堂を切り盛りしている。もちろんエマは、ハイネにとっても義理母である。
>ハイネ
>『…』
>ハイネがクロノスの猫まんまでサーシャと交わした会話は、シンすらも知らない。
>シドなんかに話すべきか。ハイネは考えあぐねる。
>ハイネ
>『…連れていけって、言わ れた』
>思いきって打ち明けた。
>サーシャとはいろいろ話したけど、まとめた肝要な趣旨はこれであろう。
>シド
>『ふ~ん、で、アンタはな んて言ったの?』
>思いの外薄い反応だ。
>安心したような、少しイラッとするような。
>ハイネは言葉を続ける。
>ハイネ
>『断ったさ。シドだって知 ってんだろ、サーシャが ハンター嫌ってんの。そ れに例えこのティーズに 連れてきたとしても、オ レはシンとクエストに出 っきりだ。ずっとサーシ ャを待たすことにる。ど うせ待つなら、クロノス の猫まんまでエマといっ しょに店をやってる方が ずっとマシだ』
>長々とハイネが言い訳に似た理由を語る。
>ハイネも、一応はサーシャのことを考えた上での結論だ。現在の過程がどうであれ、今はこれがベストな考えと思っている。
>シド
>『あっそ』
>シドがエプロンのポケットをごそごそして、2つの封筒を取り出す。
>シド
>『私もアンタたちの保護者 って名乗ってる身だけど 、アンタたちの関係にま で首を突っ込むつもりは ないわ。でも、もう少し サーシャのこと考えてあ げてもいいんじゃない』ハイネ
>『…どういう意味だよ』
>シドが取り出した封筒、それは今回のクエストの報酬金2000zだった。
>シンは、クエストの制限期間が過ぎていたので報酬金はもらえないものだと思っていたので、少し驚いている様子だが、ハイネは仏の表情でうつむいている。シドの言葉の真意を必死で理解しようとしているのであろう。
>その後、報酬金を受け取った2人はストレイキャッツを後にし、これまた久しぶりとなる自室に戻った。
>シン
>『あのまま帰ってきたけど 、よかったのかよ』
>ハイネ
>『問題ねぇよ。シドの説教 なんざ聞く義理もないし な』
>場所はハイネの部屋に変わり、2人で駄弁っていた。考えてみれば、2人が互いの部屋を訪れるのは初めてである。
>シン
>『でも、サーシャさんのこ とだろ?もっと真剣に考 えてあげた方がいいんじ ゃないのか?』
>ハイネ
>『シドみたいなこと言わな いでくれよ』
>意外にすっきり片付いているハイネの部屋に、シンは感心する。
>机の端には写真たてが一つ。飾られている写真は、クロノスの食堂“猫まんま”の前で撮られたものだ。写っているのはエマ、シド、サーシャ、ハイネと、数名の知らない人たち。
>ハイネ
>『いつかクロノスに帰る』写真に目がいっていたシンを見て、ハイネが言った。やはりハイネは、クロノスに『帰る』と言った。
>シン
>『いつかって、いつになる んだよ』
>ハイネ
>『目的を達してからだな』目的、ふらふらしているように見えるハイネにも、ちゃんとそれがあったのだ。シン
>『ふ~ん、目的か。何なん だよ、目的って?』
>目的と言われて、その内容が気になるのは当然である。
>それを質問したシンに、ハイネは待ってましたと言わんばかりに胸を張って答えた。
>ハイネ
>『“刀衆”になることだ』シン
>『刀衆って、またスゲー目 標だな。ヘタすりゃ犯罪 者だぞ』
>刀衆とは、正式名称“砂の狩人刀七人衆”のことである。
>砂の狩人刀七人衆とは、砂の村クロノスを創立した七人の賢者が持っていた七本の大剣を受け継ぐハンターのことである。
>受け継がれし賢者の大剣は、クロノスの出身のハンターに委ねられ、その誇りと品格を守る。
>もちろん、大剣そのものは最高レベルの武器であり、現在の砂の狩人刀七人衆も全員がブラックリストハンターである。
>※砂の狩人刀七人衆という名ではあるが、その七人が組織的な関係を持つことはない。
>例えをあげるならば、現在のギルドクロノス支部ギルドマスターである、アーノルド・イルミシェフがその一人である。
>シン
>『刀衆になるのはいいけど 、誰から刀を奪うつもり だよ?』
>賢者の大剣を受け継ぐ砂の狩人刀七人衆のシステム。一見、『受け継ぐ』と言えば穏やかに聞こえるかもしれないが、実際は違う。
>賢者の大剣の継承の方法、それは、『殺し合い』である。砂の狩人刀七人衆に入るには、現在の砂の狩人刀七人衆のメンバーをタイマンで殺し刀を奪う。これが砂の狩人刀七人衆になれる唯一の方法だ。
>理由は簡単だ。より強いハンターの手にそれを渡らせるためだ。
>ゆえに、先ほどシンが『犯罪者になるかもしれない』と言ったのだ。
>ハイネ
>『そうだな。正直言うと、 もう誰から刀を奪うか決 めてんだ』
>現在の砂の狩人刀七人衆のメンバーは、先ほどのアーノルド・イルミシェフを含め5人まで判明している。その5人のうち、ハイネが狙う人物はすでに決まっていると言う。
>シン
>『誰だよ?』
>ハイネ
>『またいずれ教えるよ』
>砂の狩人刀七人衆の数名は、あの盗賊団“クモ”と関わりがあると噂されていたりもする。
>ハンターは階級が上がるにつれ、裏社会との関わりも増えていくのだ。
>ゆえに、ブラックリストハンターと呼ばれるのだ。
>ハイネ
>『オレたちヴェステンフル ス一族も、その目標は刀 衆だったからな。オレが 刀衆を目指すのは必然な んだよ』
>シン
>『でもな、ハンター嫌いの サーシャさんがそれ聞い たら怒ると思うぞ』
>ハイネは言葉をつまらした。今、シンが言ったことがもっともだと思ったのだ。しかし、ハイネの決意も中途半端なものではない。何せ、一年前、ハンターをとるかサーシャをとるかの選択で、ハンターを選んだのだから。
>シン
>『刀衆になるほどの力を手 に入れたら、復讐の誘惑 にかられると思う。ハイ ネは一族を失っているか ら』
>ハイネのヴェステンフルス一族は盗賊団“クモ”によって滅ぼされた。
>砂の狩人刀七人衆になれば必然的にブラックリストハンター以上の実力が必要になる。
>そうなれば、“クモ”とも対等の実力を持てるのだ。そうなった場合、人の心理とはどう働くものなのか。ハイネ
>『確かにそうかもな。でき るだけ復讐の念は抱かな いようにしてるけど』
>とはいっても、ハンターである以上、実力向上をはかるのは当然なわけで。難しい話だ。
>ハイネ
>『ああぁ、もう、重い話終 了。集会所行こうぜ、集 会所』
>黒ずんでいた空気を取っ払って、ハイネが立ち上がる。
>