>ゼノン
>『長かったな、どこ行って た?』
>ゼノンの屋敷で、ゼノンとアイルーたちとともに暮らしている人物、それはケネスとヴァニラであった。
>ケネスとヴァニラ、はてはゼノンと、これらの人物の関係にいたっては、今ここで話すには場違いなところがあるので、それはいずれ時がくれば語らせてもらうことにしよう。
>ケネス
>『話はあとあと。あ~、し んど~』
>ヴァニラ
>『だらしないわね』
>ゼノンの屋敷は集会所から南にいった丘の上に建つ。洋風の館で、人3人とアイルーたちで住むなら、申し分ない大きさだ。
>一階部分は気球の整備場、二階部分は住居スペースになっている。
>またこの丘を含む辺り一帯はすべてゼノンの所有する敷地であり、この館の住人たちはこの辺りでは結構有名だ。
>家に入り、2人はすぐさま腕、銅防具をとった。
>ヒメ
>『何か食べます?』
>ケネス
>『そうだな。何かサラッと いけるもの』
>ヴァニラ
>『ケイ。あたし、先にお風 呂入るわよ』
>ケネスはヒメとリビングへ直行し、ヴァニラは自室に戻って風呂のしたくを始めた。
>以前にも言ったが、ヴァニラはケネスのことを『ケイ』と呼ぶ。理由は不明。
>ケネス
>『あ~、マズったな~。先 に風呂とられた…』
>リビングの椅子に座り込み、風呂への後悔をあらわにする。
>ヴァニラ
>『ケイ、覗くなよ』
>ケネス
>『覗かねぇよ』
>ぐったりと椅子にもたれかかるケネスの後ろをヴァニラが横切っていく。
>そこへゼノンがくる。同時に数匹のアイルーも入ってくる。
>ココ
>『アニキ、おかえりニャ』このアイルー、ココ。この前、シンやハイネと砂漠まで動向したアイルーだ。
>アニキとは、もちろんケネスのことである。ケネスはアイルーたちからは『兄』と呼ばれているのだ。
>ココはテーブルにのぼって、ケネスの前にくる。
>ケネス
>『コラコラ、机の上にのぼ ったら、またヴァニラに 怒られんぜ?』
>ココはハッとしてテーブルから飛び降りる。
>アイルーたちにとってケネスが『兄』ならば、当然ヴァニラは『姉』にあたる。また、この家で頂点を座するアイルーヒメも、その他のアイルーからは『姐』と呼ばれている。
>力関係が難しいのだ。
>ロロ
>『アニキはどこに行ってた んニャ?』
>ケネスの隣の椅子にのぼったアイルーがケネスに問いかける。
>ケネス
>『密林』
>一言だけ答える。本当に疲れているのだ。このまま目をつぶれば、夢のワールドへ昇天できそう。
>しかし、ヒメが何か作ってくれてるようなので、それを食べないまま昇天することはできない。
>ゼノン
>『さて、少し話でもいいか ?』
>ゼノンがケネスの向かい側の席に座る。
>ケネス
>『はぁ?止めてくれよ。こ っちは3日寝てないんだ ぜ』
>マジで、ガチで疲れているのだ。3日も寝てないんだから。
>そんな時に、ゼノンの重々しい口調の子守唄なんか聞かされたら、眠気ぶっ飛んで疲れ倍増だ。
>ココ
>『ニャ~アニキ~。オイラ たち、クロノス行ってき たんだニャ~』
>ココがロロの乗っている椅子によじ登って、ケネスに無邪気な眠りの妨害を働く。
>ケネス
>『お前たちも~』
>ケネスは左手をココの頭にのせて押さえ込む。
>ココはかわいくもがく。
>ヒメ
>『お待たせしました』
>ヒメはカップを盆にのせて運んでくる。
>カップの中身は春雨スープだ。
>ケネスは体を起こして『いただきます』と両手を合わせる。
>スープをすするケネスの頭に、また別のアイルーがのしかかる。
>キール
>『あ~、いいな~、アニキ ~』
>ケネス
>『やんねぇぞ』
>ヒメ
>『そう言うと思って、いっ ぱい作りましたよ』
>ケネスとゼノンの周りで群れているアイルーは、ヒメを除いて5匹。そのすべてが、ケネスのカップを強奪しに襲いかかる。
>そんなやんちゃなアイルーたちを、手慣れた手つきでヒメが制する。
>ゼノン
>『“クモ”が出たようだな 』
>ゼノンが切り出す。
>ケネスは無反応のままスープをすする。
>周りでは、ヒメの持ってきたスープを5匹のアイルーたちが奪いあっている。
>ゼノン
>『ギルドから仕入れた情報 だ。どうせ何か探りを入 れていたんだろう?』
>ゼノンは立ち上がる。
>ケネスはゼノンが立ち上がったのを見越して、口を開いた。
>ケネス
>『止まらねぇぜ、オレ。… 時間ねぇんだから』
>ケネスの言葉にゼノンは、先ほどのケネスのように無反応のまま部屋を去っていった。
>ケネスは空になったカップを置いて、ゼノンの背を横目で見送る。
>ヒメ
>『でも、焦っちゃダメです よ?兄様』
>ヒメがケネスの前にコーヒーを差し出す。
>ケネスは『おう』と返事をして、そのコーヒーを口へ運んだ。
>時は夕暮れ、時計はちょうど2つの針が真ん中で直線となり、文字盤を真っ二つに割っていたころ。
>空をおおっていた分厚い雲も次第に過ぎ去り、この時間になってようやく空に青が戻ってきた。台風一過とでも言うのか。空はいつも以上に澄みわたり、天空の彼方には雲の海を飛び交う翼竜種の姿も確認できたほどだ。
>そんな空の下、シンとハイネの姿はあった。
>シン
>『晴れてきたな』
>ハイネ
>『ああ、明日にはまたクエ ストだ』
>生暖かい風が2人を包む。それは後々考えてみれば、2人をここまで導いていたのかもしれない。
>ハイネ
>『なんか来ちまったな、ゼ ノンさん家』
>2人はゼノン邸の近辺に来ていた。
>この区域はすべてゼノン所有の敷地で、ティーズの住人からは『猫のたまり場』と呼ばれている。
>呼び名通りこの辺りにはアイルーたちを引き寄せる何かがあるらしく、まれに野生のアイルーやメラルーが紛れ込んでくる。
>普段この『猫のたまり場』は、公園として解放されている。
>シン
>『なんだか、気になって』シンがボソッと呟く。
>主語と目的語がない言葉だったが、ハイネにはその真意がわかった。
>ハイネ
>『さっきのハンターのこと か?実はオレも』
>2人が抱いた違和感とも違う何か心の底で渦巻くモヤモヤ。その正体はわからないが、原因はわかる。
>先ほど、2人の前に現れたハンター、【つがいの猫】の片割れ、レウスウォール、つまりケネスのことである。
>しかし、2人がケネスの住むゼノンの屋敷に来たのはただの偶然だ。何せ2人はゼノンの屋敷にケネスが住んでいるということをまだ知らないのだから。
>2人がこのゼノンの屋敷近辺に紛れ込んだのは、風の導き、ただそれだけのはずだった。
>
>
>ティーズ、イースト地区、エストハイム教会…
>ティーズ随一を誇るこのエストハイム教会。高い塔の上に設置された鐘が一際目を向けさせる立派な教会だ。大聖堂もきれいで広々とし、毎日多くの礼拝者を迎える。
>そして今、その大聖堂の正面に向かって左側に設置されている巨大なパイプオルガンを弾く少女の姿があった。
>誰もいない大聖堂に、そのパイプオルガンの音が発せられ反響する。
>少女
>『…』
>突然、少女はオルガンから手を離した。そして何かを感じとったかのように辺りを見回した。
>神父
>『どうしました?』
>少女
>『…』
>そんな少女に神父が声をかけたが、少女は顔を落とした。
>少女
>『…出会うはずのない…出 会ってはいけない魂たち が、出会ってしまった… 』
>そう呟くと再びオルガンに向き直る。しかし、鍵盤に触れようとはしなかった。少女の呟きに神父は一拍の間をおいて、その返答をした。
>神父
>『神とは、いたずらが好き なお方だ』
>栗色の髪をなびかせ少女は教会を出た。
>空を見上げれば、そこには一つだけ、しかしはっきり確認できる光が輝いていた。
>
>シン
>『あ、一番星だ。ホラ』
>ハイネ
>『おお、やけに光ってんな 』
>2人はまだ猫のたまり場にいた。
>シンの指差す延長線上に光輝く星が。
>2人は芝生に寝そべり、たった一つの星が支配する空をあおぐ。
>
>ケネス
>『ん、星?こんな時間に珍 しいな。ホラ、あそこ』ヴァニラ
>『ホント、ずいぶん光って るわね』
>ケネスとヴァニラは屋敷の屋根に上って、空を見上げていた。
>風呂上がりなのか、ケネスは頭からバスタオルをかぶっている。
>
>サーシャ
>『…』
>砂の村クロノスでは、サーシャが空を、一番星を見上げていた。
>ここは例の夕日の丘だ。ここから見えるのは夕日だけではないということだ。
>
>
>神父
>『出会うはずのない魂、出 会ってはいけない魂。そ れはキミもなんだよ、ア リシア』
>神父はオルガンを弾いていた少女アリシアが出ていき、無人となった大聖堂で、神に祈りをささげていた。
>