Let's愚民life   作:ごすろじ

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レンガで舗装された通路、等間隔で設置された豪華な街灯。

ゴミ一つ落ちていない清涼感に溢れた金持ちの町。

インフラ整備、治安維持に膨大な金額が投じられているのが嫌でも分かる綺麗過ぎる町。

 

そんな裕福層の街、グラトリージェに私はきている。

理由は勿論職探し、前世での国名や地名が全く出てこないパラレルな世界でも食い扶持を持たざる者は飢えて死ぬだけです。

何故か明らかに日本なジャパンという国は存在するし、ことわざも何故か通じる摩訶不思議な世界であるけど、その実態は前世の現在社会とほぼ変わりない。

転生お決まりのファンタジー要素なぞ皆無です、通話はスマホ、移動は電車に乗り込み悠々自適。

それに、全力拒否されてますけど姉として弟に仕送りもしてあげないといけませんし…。

となれば、給金が破格なこの街で働くのが最良の選択。

 

まぁ、全部建前ですけど。

お金を稼ぐだけなら、この身体に生まれ変わった時点で苦労してません。

何せ、どんだけ雑にこなしても一定の結果が得られるですから、一生を掛けて手に入れる技能が短時間で習得出来るなんて反則も良いところ。

勉強は教本を雑に読むだけ、料理も初手でダークマターを作り上げてしまったものの二三繰り返せば勝手に脳味噌が最善の工程を学習して完璧な料理を作り上げてしまいました。

 

そんな天才ボディーを手に入れたものだから弟を適当なマンションに一人暮らしさせ、児童養護施設を出た後はレストランから始まりホテル、果ては民間軍事会社やら転々と転がり周りひたすら技能習得に励みました。

年齢的な心配はありましたが孤児院出身で経歴も同情を誘ったらしく、下働きから許して貰えました。

本場本職を間近で見学できたのならこちらのもの、たいへん良い経験になりました。

 

代わりに貴重な青春時代を棒に振り、最終学歴16歳という学歴マウント厨メシウマな履歴書が出来たんですけどね。

 

それもこれも全ては、あの糞デカお屋敷で働く為。

私は公園のベンチに座り込みながら遠方に鎮座する豪邸を見つめる。

他とは一線を駕す豪華絢爛な屋敷、成金臭がしない古風な外観をしており、まるで恋愛ファンタジーに出来てそうな貴族の屋敷だ。

 

 

第4地区の閑静な住宅街にデカデカと広がる公園、地区を跨いでいるというのに外観が普通に見えるのは流石としか言いようがない、威圧感が凄い。

 

「嗚呼…ロザーナお嬢様」

 

ちくしょう…ッ!

メイドとして働けなくても警備や庭師として雇って貰えるようにスキルを身に着けてきたのに。

 

まさか求人が出ていないだなんて…ッ!

事前調査でメイドの入れ替わりが激しく退職者の耐えない職場って評判だったから求職場でサクっっと面接まで漕ぎ着けると思っていたのに。

 

「なんですか紹介状って…そんなモノありませんよ」

 

いえ、アソコって普通に考えたら上流階級の職場ですし、身分も信頼も普通に必要ですね。

真に必要だったのはスキルよりもこの街での人脈だっとは。

 

「はぁ~…なんてことでしょう、生ロザーナ様が遠のいていく」

 

ベンチに項垂れたガクっと肩を落ちる。

視界には爛々と輝く太陽が噴水の水飛沫に反射しキラキラとした輝きを見せる。

 

私の内心とは真逆の美しい光景に思わず溜息が漏れる。

そんな湿地帯に生えたキノコみたいな憂鬱したオーラを纏う私の元に不意に人影が指す。

 

「どうされました…もしやお加減が悪いのですか?」

 

陰鬱とした気分にいきなり声をかけられ少し驚くも、声の方向に首を回し見上げればこれぞ英国紳士と言わんばかりのイケメン高身長の執事が立っていました。

 

はえ~…良い男。

今のセリフからして人格者っぽい所もとても高ポイント。

まっ、この世界一番のイケメンはロザーナ様なのはゆるぎませんがね!

 

「お気遣い感謝します…とても個人的な理由で落ち込んでいたのです」

 

「成る程、私で良ければお話をお聞きしますよ。ベンチの隣、失礼してもよろしいですか?」

 

「え…あ、はい」

 

なんでしょうイケメン、メンタルまでイケメンとは恐ろしい。

というか一々動作がスマート過ぎませんか、流れるようにベンチに座ってきましたね。

 

「お悩みといううのは、あのお屋敷に関わることですか?」

 

――ギクッ!

 

「何故…そう思うのですか?」

 

「失礼ながら貴女があのお屋敷に何やらとても感情の籠もった視線を向けているのを偶然目撃してしまったもので」

 

これは不味い…表に出してしませんが不信感MAXですね、完全に不審者をやんわり尋問するアレじゃないですか。

まさか関係者…ゲーム内には執事なんていなかった気がしますが、気は抜けません。

 

「ふふ…お恥ずかしい所を見られてしまったようですね。

実はアルレイド家のお屋敷でお世話になるつもりで今日この街に来たんです。」

 

「珍しい方ですね…失礼ながらアルレイド家の評判がご存知ですか?」

 

執事服の男は以外だと言わんばかりに両目を大きく空けて私に確認をしてくる。

流石にいくら悪評が噂される職場と言えど希望者だと言っただけでこのリアクションは大袈裟過ぎないでしょう。

しかし油断禁物、嘘と建前を交えて慎重に答えていこう。

 

「はい勿論存じております、しかしお給金も良く…なによりそれが狙い目と考えました」

 

ほのかに俗っぽさを匂わせ小市民感を演出し、私が犯罪者予備軍みたいな間違った認識を解きます。

私はですねぇ!愚民と見下されながらロザーナの足元で働き蟻の如く這いずり回りたいだけなんですよ!よって不純な意図なんて一つも無い。

 

「確かに合理的な判断だと思います。

あそこは人材の回転率が以上に早く給金も破格ですし、なにより地元民であればアソコで働こうなどとは考えません。」

 

よし!誤解はとけましたね!

 

「それで…本当の目的はなんですか?ロザーナお嬢様になんの御用でしょう。あの方はここ数年の間はめったに外出していません、あの方に近づこうとする理由をお答え下さい」

 

「一体なにを…」

 

うわぁ、信じられませんねこの腹黒執事…偶然目撃と言っておきながらしっかりと私の漏らした呟きまで聞いてましたね。

 

「貴女に悪意が無いのはなんとなく理解出来ます。

紹介状が必要なのでしょう…本音で答えて下さるのであれば書いて差し上げますよ、勿論正当な理由があればの話ですが」

 

「むむ…」

 

おや…もしやこの執事案外の話が分かるのでしょうか?

と言いますか紹介状が書けるとなると、この腹黒はアルレイド家の執事なのでしょうか。

 

「本当に紹介状を下さるのですね?」

 

「えぇ、ですが決断は早めにお願いします。

なにせ執事と言っても今日限りです、紹介状を書いたとしても明日からは使えません」

 

「?…退職なさるんですか?」

 

「いえ、事実上のクビです。

私、食べ物を粗末にする人間には我慢ならない質でして。

今まで我慢していましたが限界をとうとう迎えましてね…ついお説教してしまったら、あっさり解雇されてしまいました」

 

あッ!!!コイツ!まさかエンディングの過去回想に出てきたお説教執事!?

言ってることは正論なんですけど、それがロザーナ様が食人鬼になる切っ掛けの一つになってしまうんだから複雑ですね。

 

「馬鹿な事をしましたね…愚民の言葉を真に受ける訳ないじゃないですか」

 

「随分あの方を理解しているようですね」

 

「それは…――」

 

つい口から漏れてしまった。

だけど、今日退職する人間になら猫を被る必要も無いかもしれない。

経緯よりも心持ちを聞きたがっている様子ですしね。

よろしい…では、私のロザーナ様愛をたっぷり語って差し上げます、覚悟なさい。

 

 

 

 

――数十分後

 

「う~~~ん、変態の異常者、精神疾患あるいは未知の精神病、はたまた極まったマゾヒスト。……分かりました、色々と頭が痛くなる時間でしたが貴女の熱意は伝わりましたよ」

 

「なによりあの光を映さない鋭い眼が美しい、美少女イケメン、丹精込めて作った料理を皿ごと地面に打ち捨てられた日には幸福絶頂の舞で――あぁ、はい」

 

私が気分良くマシンガントークに花を咲かせるも少し話しただけで、目の前の執事は頭が痛そうに眉間を揉み始める。

まだ喋り足りない私は再び口を開こうとするも執事がすかさず手で制してくる。

 

「えぇ、はい…下手な空想や妄想ではなくあの方の素の性格が好ましいという気持ちは痛いほど伝わりました。もう結構です」

 

「私が言うのもなんですが怪しくありません?」

 

「怪しいどころか一線を超えた不審者そのものです。ですがあの方をどこで知ったか、その感情に至るまでの過程などは重要ではありません。これでも人を見る眼はあります、貴女が問題を起こせば紹介した私に責任がくるだけです」

 

「ということは書いて下さるんですか紹介状!」

 

ドストレートにキメぇ…とドン引いた表情を浮かべる腹黒執事ですが、どうやら言い回し的に紹介状を書いてくれるようです。

 

「不本意ではありますがあの方の毒には貴女という猛毒で中和するのが最善なのかもしれません。最期に一つ聞かせて下さい…私にとってあの方の偏食を正せなかったのが唯一の心残りなのです。貴女にそれを解決する術を持っていますか」

 

しれっと人を毒物扱いしてくるとか良い性格してますね。

 

「勿論です、ロザーナ様の偏食は言わば極まった我儘です。少しでも好みの味でなければ床にぶち撒け、その日の気分で食事量が変わり用意だれた大半食事が廃棄物に早変わりします」

 

「気持ち悪い程良くご存知で、それで…その予測不能な状況を打開する対策をこの場で示せますか」

 

気の所為でしょうか、最初の頃に比べて対応が雑になってきてませんか?

しかし、ロザ―ナ様による廃棄物大量生産は食人鬼になる要因の一つ、当然対策は練ってきています。

 

私はカバンから面接で使用するつもりだった履歴書を取り出し執事に渡す。

 

「ふむ、拝見します。

 

――ッ!?」

 

え、なんすか…マジかコイツみたいな視線で見ないで貰えます?

 

「あの…失礼ですが一年の間で民間の飲食店から始まり、レストラン、段階ごとに星を上げて最終的には三ツ星レストランに努め、合間に多種多様な職種に従事とありますが」

 

「はいコネと腕と涙ぐましい努力の成果です」

 

なんと言っても食べて貰うには料理の腕が欠かせませんよね。

やはり最高の料理には最高の料理人、いくら優れた脳味噌とはいえ一流の技を映像で習得するには限界があります。

視覚、嗅覚、味覚をフル稼働させ技を盗ませて頂きました。

 

あっ、証明書類も持参してきましたのでどうぞ。

 

「そ、そうですか…嘘ではなさそうなので、まぁ良いでしょう。

その翌年には催眠術師、ネゴシエーター助手、メンタリスト…いや何ですかこれ?」

 

「必要性に応じてスキル習得に励みました」

 

先程も言ったように日や気分によって微妙に味わいたい物が変わるのであれば観察スキルは必須です。

疲れるのでロザーナ様以外に使用する気はありませんが、人間の無意識の反応、耳や眼球、鼻の膨らみや癖、指紋と同じように個人特有の動作を観察、することによって蓄積されたデータを元に高精度の心理予測を立てることが可能なのです。

その上私にはこの優れた脳味噌がありますのでほぼほぼ的中させることが可能、それはこれまで職場で実証済です。

 

「想像より遥かに有能ですが…あの…ところで、まさかだと思いますが今日の日の為だけにこれだけの経験を積んできたのですか」

 

「当然です」

 

「ふぅ…質問に直接関係ありませんが一応聞いておきます、この民間軍事会社に従事した経歴はなんですか?なにと戦うつもりですか?」

 

「あのお屋敷には警備員がおりませんし、私が守護らねばなりません」

 

…残飯の怨霊とかゾンビとか出るんですよねこの世界。

 

「コワッ…すみません単純に恐怖です。客観的に貴女今凄く怖いですよ、私が聞いたのは我儘な子供の偏食の解決です、なんですかその異次元の解決案は」

 

ハハハ…言いよるわ。

何故高貴なロザーナ様が我々下々の愚民に合わせねばならないのですか?

合わせるのは愚民である私達の約目でしょう。

 

「いえ、今の時代愚民呼ばわりは雇用主の娘と言えどコンプライアンスに引っかかるので注意して上げて下さい、間違っても自称なんてしないで下さい」

 

「お断りします」

 

「はぁ…良いでしょう。紹介状を書いて差し上げます。心残りが解消される可能性が高いのであればクビになる私がこれ以上考えても仕方のないことです、少しお待ち下さい」

 

やりました、勝利です。

執事は鞄から便箋とペンを取り出すとクリップボードの上で文字を書き始める。

どうやら約束通りお屋敷で働く為の手助けをしてくれるようですね。

 

「どうぞ受け取り下さい。言った通り有効期限は今日までです、取り敢えず屋敷にいるメイドに手渡し連絡を待って下さい。」

 

便箋を折りたたみ封に差し込んだそれを手渡される。

おぉ…これぞまさしく天国への片道切符。

 

「感謝します…こんなにも誰かに感謝を示す日はそうそうありません。

再度心からの感謝を申し上げます」

 

「私の判断が間違っていないことを願うばかりです。それでは失礼します…私は最後の挨拶回りを終えた後この街を出ていきます…もう合うこともないでしょう」

 

そう言いながら執事は公園の出口に向けて歩いていきました。

私も急がなければ…念願叶う瞬間が眼の前に来ているのだから。

 

 

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