機動戦士ガンダム 水星の魔女 ドローン戦争(大嘘) 作:妄想設定家
目標の研究フロントへの潜入は問題なく成功した。
内通者と諜報部が用意したIDによって真正面から入ったことを潜入と呼んで良いのかは別として、一切問題なく研究施設に入り込めた。
あとは施設内で内通者と接触し、施設の自爆装置を稼働させるための追加IDと研究データを手に入れねばならない。
そのために内通者から指定された部屋まできたが、そこに居たのはミイラ。
いや、ミイラと見紛うほどに骨と皮しかない人間だった。
「君たちが潜入部隊のデリングとラジャンかい?」
「ああ、そうだ。私がデリング、こっちがラジャンだ。お前が内通者のライデンか?」
髪は抜け落ち、声でようやく男だと分かるような有様だ。
「その通りだ。では早速IDを渡そうと言いたいところだが、私の話に付き合ってもらいたい。なに少しばかり長い話になるが、この施設で研究されていることの本質に繋がる話だ。聞いて損はないし、聞かないのであればIDは渡せない」
敵地に潜入している今そんなことをしている暇はない。
そんな暇はないが、追加IDの更新権限を持つのはこの内通者だけだ。
「手短に話せ」
「それではお話しよう。まず前提として私達は画期的なドローンAIを作成したわけではない。そもそも私はドローンやAIについては全くの門外漢だった。ここで研究させられる内に強制的に学ばされたがね。」
話し始めた男の言葉は全く聴き逃がせるものではなかった。
「私達が研究していたのはパーメットを利用し、人の意識をVR(ヴァーチャルリアリティ)と生身の体の双方向に移動できるシステムだ。実現できれば人の体を安全圏においたまま、通信が阻害され、人体では耐えられないような重力場・温度・放射線など宇宙の脅威が渦巻く環境であっても、作業ができるようになる。」
それが実現できれば宇宙での過酷な作業により死亡する人間を大きく減らすことができるようになるだろう。
この世界において普遍的に研究されているテーマの一つだ。
「そして私達は必要な理論と人の意識をVRと体で移動できる装置を作り上げた。犬、猿などを用いた動物実験でもなんの問題もなかった。何度検証しても理論に間違いは見つけられなかった。だから、この研究の第一人者であり研究チームのリーダーで彼女は最初の被験体として実験に志願し、実験は失敗した。」
話す男の声には深い絶望と後悔が刻まれていた。
「人の意識をパーメットを利用しVRに移すことには成功した。だが、完全な状態では移せなかった。移す途中でデータの喪失が発生し、記憶・思考様々な点に異常が発生していた。そして、元の肉体に戻そうとしても脳がパーメットにより変質しており戻すことは不可能だった。」
男が見せた被験体のデータは脳の変質により肉体の自発呼吸が停止しており、生命維持装置によって無理やり生かされている状態であることを示していた。
「私達はなんとしてでも彼女をもとに戻してやりたかった。そのために研究を続けたが、分かることといえば彼女を元に戻す方法などないということだけだった。そして生命維持装置を維持するための費用が尽きかけた時に国の奴らがやってきてこう言った。『研究費用と彼女の生命維持費用を国が負担しよう。その代わり君たちの研究成果を使わせてもらう』と」
国は敗戦の気配漂う戦況を覆すために迅速に戦力を増強する必要があった。
「そして奴らは人の意識をAIと融合させドローンに搭載する技術を生み出した。私達の技術ではどうやっても人の意識のデータ損失をなくせなかったが、AIでデータ損失を補う過程で意識の洗脳することができることを発見した奴らにとってそれはメリットにしかならなかった。そうして改造された彼らは軍の命令に従順で、臨機応変に対応できる理想の軍用ドローンの制御システムとなった。後数ヶ月もすれば、熟練パイロットと同じ臨機応変さを持った存在となるだろう」
ドローンは乗る人間の安全性が求められる有人機より高性能なものが安価で簡単に量産できる。
ドローンに搭載されるAIに欠点があったから人間が対抗できていただけだ。
その欠点を改善したAIができているのならこれからの戦いは有人機側が一方的に不利になっていくだろう。
「だが、この新型AIにも問題があった。それが量産ができないこと、正確に言えば人間由来の意識の部分のコピーができないことだった。これによってこの新型AIを作ろうとすれば、人間を1人殺すことになる」
致命的すぎる欠点だ。
量産が前提のドローンの新型AIが量産できないなんて論外だ。
「国がそれに対して取った選択肢は簡単だ。デリング、君達の国の捕虜や人身売買されるアーシアンを利用することだ」
今までに私の部隊が撃墜した新型ドローンだけでも優に1000機を超える。
軍全体だと何十・何百万機撃墜したかわからないほどだ。
それだけの数をそんな狂った方法で作成している?
「この国はすでに狂っている。国民感情は国家すら狂わせる。君たちの国と戦い劣勢に追い込まれたこの国では、家族を戦争で殺された悲しみと敗戦し滅亡する恐怖に震えていた。その悲しみは憎悪へ恐怖は怒りへと形を変えと絶対に敗戦を許さない圧力となってこの国の指導部を縛っている」
民主主義国家において国民の意志は決定的な力を持つ。
国民が戦争を拒否すれば戦争など行えない。
同様に国民が戦争を止めることを拒否すれば、戦争を止めることなどできない。
「だれも敗戦を認めた売国奴として戦後民衆に処刑されたくはない。だから今もこの研究所では新型AIの研究とドローンの製造が続けられている」
その言葉の後私とラジャンの追加IDと新型AIの研究データが届いた。
「これで私の話は終わりだ。IDも更新した。後は好きなようにすればいい」
これでこの男にもう用はない。
だが、聞いておくきたいことはある。
「今のお前はなにものだ?」
ここに連れてこられた時は強制動員されたただの研究者だったのだろう。
しかし、基地の自爆装置すら作動できる最高ランクのIDの発行権限をただの研究者が持つはずがない。
「今の私は完全な状態で意識をパーメットに転写できただけの存在だよ。ついでに意識の保存場所がこの研究フロントの中枢コンピューターだからこの施設内であればほとんど何でもできる。」
「この後はどうする予定だ?」
「消滅することにするよ。あの世で仲間たちに謝らないといけないからな」
そういって男は部屋から姿を消した。
というよりもとより空間に投影されたホログラムでしかなかったのだろう。
「デリング隊長。この事態は想定を超えすぎています」
ただ敵の新型AI研究所を襲撃しにきたはずなのに随分な真実が待ち受けていた。
「わかっている。だが、やることは変わらない。この研究フロントの自爆装置を起動させ、他の仲間と合流後救出部隊のMSに乗って帰還する」
あの内通者は真実この研究フロントの中枢コンピューターを支配していたのだろう。
それから後の破壊工作はあまりにもあっけなく終わった。
フロント防衛の敵ドローンはむしろ私達の追撃にきた敵軍を攻撃していたため何一つ問題なくフロントを脱出できた。
奪取したこの情報を使えばドローンの対策法の構築や世論戦による敵国内を分裂させ終戦へもっていける。
そう思っていたが、いやそう信じたかったのかもしれない。
現実は違った。
戦争は終結せず。
新型ドローンの有効な対策は打ち出せないまま数ヶ月が過ぎ、我軍の損耗が更に激しくなった頃。
我軍にも妙に人間らしい動きをする新型ドローンが採用された。