担当ウマ娘をこれでもかと甘やかす(イチャイチャする)話   作:瀧音静

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イナリワン

「ダンナ、邪魔するぜ!」

 

 という声と共に、イナリワンがトレーナー室にやってきた。

 今仕事中だと伝えると、

 

「だったら終わるまで待つってもんよ!」

 

 と元気に返事をし。

 トレーナー室に勝手に持ち込んだ畳の上で、くつろぎ始めた。

 なるべく早く終わらせるからと伝えると、

 

「あんまり急いで雑になっても仕方ねぇ。あたしは別に気にしねぇから丁寧にやんな」

 

 と言われてしまった。

 確かに急いだ結果雑になり、後日訂正ともなれば目も当てられない。

 イナリには悪いと思いつつ、俺は目の前の種類に集中するのだった。

 

 

 トゥインクルシリーズを三年間。

 担当ウマ娘のイナリワンと共に走り切り。

 地方、中央共に盛り上げる事に成功したイナリワンは、その功績を称えられ、年度代表ウマ娘に選出。

 結果、様々なメディアから引っ張りだこで、それらの資料と、元々年末に片付けなければならない資料に追われ。

 気が付けば年の瀬になっていて。

 

「しかしあれだな。トレーナーってのは、随分と大変な仕事みてぇだな」

 

 畳の上で足を延ばし、ぼんやりと空を見ていたイナリがそんな事を呟いて。

 確かに大変だけど、その分やりがいはあるよ、と返すと。

 

「やりがいねぇ……。気持ちじゃ腹は膨れねぇってもんよ」

 

 と、少しだけ胸に刺さる言葉を言われてしまう。

 でも、二人三脚――とは言えないかもしれないが、担当ウマ娘がレースで活躍する姿を見るのは本当に嬉しいし、感動するし。

 何より、こうしてイナリが年度代表ウマ娘に選ばれたことは誇りに思うと口にすると。

 

「て、てやんでぃ! 照れるじゃねえか!」

 

 頬を赤くし、ポリポリと指で掻きながら。

 本当に照れた様子でそう呟き、

 

「そ、それより、手が止まってるみてえだが、進捗は進んでるんだろうな!?」

 

 誤魔化すように俺の仕事の方へと話題を振った。

 それに対しては、終わったよと返事をし。

 

「そ、そうかい」

 

 俺の返事を受け、少しだけ俯いたイナリは。

 何かを決意するように、ゆっくりと深呼吸をし、

 

「ダンナ、これから出かけねえか!?」

 

 と、誘ってくるのだった。

 

 

「思った通り、もう準備はバッチリみてえだな!」

 

 イナリに連れられやってきたのは、学園の近くにある神社――の前の道。

 もうすぐ年の瀬という事もあり、既にその場所にはいくつも出店が並んでいて。

 大晦日――とまではいかないまでも、十分に『祭り』の雰囲気が味わえる。

 

「どうせ年末は忙しいんだ。こういう時に、楽しんどかねえとな」

 

 その中でイナリは、出店の一つに走って行くと。

 

「その為にはまずは腹ごしらえだ! おっちゃん、イカ焼き二本くんな!!」

 

 と、威勢よく注文。

 その代金を払おうと財布を取り出すと……。

 

「いいっていいって。ここはイナリ様がどーんと太っ腹に出してやらあっ!」

 

 それをイナリに遮られ。

 流石にそういうわけにはと払おうとすると、

 

「どうせここだけじゃ終わらねえんだ。だったら、ダンナはこの後の店で出してくれよ」

 

 と説得されて。

 そう言うならと渋々引き下がる。

 こうなったらイナリは梃子でも動かない。

 その代わり、これ以降は全て自分が払うという鋼の意思を決め込んで。

 

「ほらよ、ダンナ」

 

 イナリから手渡されたイカ焼きを受け取るのだった。

 

 

「しっかし、どうして屋台で物を買うとなんでも美味く思えちまうんだろうな?」

 

 イカ焼きに舌鼓を打ち、全て平らげたところでイナリが尋ねてくる。

 ……確かに。

 どうしてだろうか?

 その場の雰囲気も味わってるから、とか?

 

「なるほどな! 雰囲気を味わうか! そりゃあ美味く感じちまうわけだ!」

 

 どうやら俺の回答で納得したらしく、豪快に笑うイナリの口元に、先程食べたイカ焼きのタレが付いているのを見つけた。

 イナリに、口元にタレが付いてると伝えると、

 

「おっと。そりゃあすまねえ」

 

 と言って舌でタレを舐め取ろうとするが。

 微妙に届いておらず。

 じっとして、と伝え、ハンカチで拭ってやると……。

 

「て、て、てやんでい!! 照れちまうだろうが!!」

 

 と大きな声を出されてしまう。

 ごめんごめんと謝りつつ、次はどこの出店に行く? と尋ねると。

 

「そ、そうだな……」

 

 何とも歯切れが悪い答えが返ってきて。

 じゃあ、あそこにしよう。と、イナリの手を引き、りんご飴のお店へ。

 そこで、一番大きなりんご飴を購入し、イナリへ手渡して。

 また口元汚しても構わないからね? と意地悪で言ってみると。

 

「ば、バッキャロイ!! 二度とあんな醜態晒すかってんだ!!」

 

 とまた大きな声を出し。

 それから、一口控えめにりんご飴をかじっては、口元を拭く、という、いつものイナリでは考えられないような仕草をしだす。

 それを見て少し笑ってしまうと、

 

「全く、ダンナにはいつも調子を外されてばっかりだ」

 

 と、釣られてイナリも笑いだす。

 そして、大きく口を開けると、りんご飴に、盛大にかぶりつくのだった。




次回予告
宇宙にしようと思ったけど口調の再現が無理なので「ひでお」に決定
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