樹と夏凛、うどん作りに挑戦!   作:嶺月

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園子加入直後の勇者部で、樹が今の自分のままでいいのか悩む所に、夏凛を絡ませました。


一話

「ただいま戻りました、風先輩」

「猫ちゃん無事ゲットだぜー」

「お疲れさん、乃木が来てから猫探しのスピード上がったわねぇ」

「猫さんの気持ちになるんですよー、にゃーお」

「そのっちは昼寝の達人だものね」

 勇者部が部室にしている家庭科準備室に、東郷さんと園子さんが帰ってきた。猫探しに限らず、園子さんは勇者部の雑務から依頼まで、八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍だ。東郷さんに勝るとも劣らない知性、かつて勇者として鍛え上げた肉体、独特の発想力、いつでもマイペースな精神力、それに東郷さんほどではないけど抜群のスタイル…何についても自信の持てない私にはとても(うらや)ましい存在だ。

 その私はと言えば、また保育園での紙芝居のための書割(かきわり)を友奈さんと作っていた。私は占い以外の依頼だと、絵を描くことが多い。特に上手というわけでは無いけど、明らかに下手っぴなお姉ちゃんや、未知のセンスで予定外の物を描いてしまう、東郷さんと園子さんには頼れない数少ない仕事なのだ。

 友奈さんはスポーツ万能だけど、それ以外にも意外と仕事が回ってくる。お悩み相談では友奈さんの花開くような笑顔に勇気づけられる人がいっぱいだし、小物のセンスも可愛らしくて、東郷さんに(にら)まれるのが怖いけど、憧れている人は男子にも女子にも居るみたい。

 そして勇者部にはもう一人。

「帰ったわよ!」

「「お帰りにぼっしー」」

 (うわさ)をすれば何とやらで、扉をバシンと開けてちょっと小柄な身体にエネルギーを充満させ、トレードマークのツインテールを(ひるがえ)した夏凛さんが、剣道部の練習相手を終えて帰ってきた。早速お姉ちゃんと園子さんが独特の渾名(あだな)で挨拶する。園子さんは多分天然だけど、お姉ちゃんは明らかに揶揄(からか)うつもりで呼んでいる。

 それが判っていても反応せずにいられないのが、夏凛さんと言う人だ。

「うっさい、その変な渾名で呼ぶな!」

「え~?でも~」

「何よ!?」

「煮干し、お好きなんでしょう?」

「食べるのが好きなのよ!煮干しになりたいなんて思ったことは一度も無い!ったく…そう言えば土曜日半日で徹底的に稽古(けいこ)するから、今度は友奈も連れてきてくれないかって。土曜日他に依頼無かったわよね?」

「依頼は無いけど予定は有る。というかその為に空けてあったのよ。はい、樹も友奈も一旦手を止めて」

 そう言ったお姉ちゃんがパンパンと手を叩くので、私も友奈さんも手を止めて、お姉ちゃんがホワイトボードに大きな文字を書くのを見つめる。

『園子さま歓迎会‼』

「私の~?」

「そう、なんかサラッと入部してすぐ馴染(なじ)んだから、やって無かったのよね」

「そう言えばそうでしたね。じゃあ今週の土曜日に?」

 お姉ちゃんの言葉に東郷さんが相槌(あいづち)を打つ。勇者部には特に副部長は居ないけど、猪突猛進するお姉ちゃんを何くれとなくサポートするのはたいてい東郷さんだ。

「そのつもりだけど。誰か都合悪い?」

 お姉ちゃんが今更のようにみんなの予定を確認するけど、幸いなことに週末に予定を入れている人はいなかった。と言うより勇者部はみんな仲良しで、遊ぶとなるとこのメンバーでと言う事の方が多い。

 晴れて皆の予定を確認できたところで、具体的な予定を立てることになる。

「場所はあたしの家にしようと思ってるのよ。乃木に私の女子力を見せつけたいからね」

「女子力…大食い大会でもやるの?」

 多分手料理を振る舞うと言う事だと思うのだけど、夏凛さんからツッコミが入る。

「女子力を何だと思ってるのよ、あんたは⁉」

「胃袋?」

 辛辣(しんらつ)だけど、『お姉ちゃんの女子力』の解釈としてはそう間違ってない気もする。

「おのれ…当日、本物の女子力を見せつけて、ぎゃふんと言わせてやるわ」

「わ~、部長のお家初めて~」

「そのっちは私が案内しましょうか?お料理の手伝いができませんけど…」

「そうね、料理の方は任せて乃木の事をお願い。それとご近所さんの目があるから、変な事させないように注意してね」

「了解であります」

 ビシッと敬礼する東郷さん。腕の勢いで制服の上からでもはっきりわかる大きな胸がブルンッと揺れる。本当に(うらや)ましい。キャベツとか豆乳とかいろいろ試してるのに…

「私はどうしましょうか、風先輩」

「友奈と樹と夏凛は会場の設営よ。パーティーらしく盛大に飾り付けてちょうだい」

「わかりました」

「は~い」

「任せておきなさい!」

 お姉ちゃんの指示に三者三様の答えを返す。

「じゃあ友奈さん、夏凛さん、飾り付け用の模造紙とか色紙とか今度買いに行きませんか?」

「む…友奈はいつが良い?」

「木曜が暇かな」

「ち、ちょうどいいわね。その日は休養日のつもりだったのよ」

 夏凛さんはきっと友奈さんが何曜日を指定しても休養日だったと思うけど、言ったらまた真っ赤になって怒るんだろうなぁ。照れている時の夏凛さんはとっても可愛いと思うけど、お姉ちゃんと違って私にはからかう度胸は付きそうにない。でもそれは羨ましくはない。人生において特に必要のない能力というのも有ると思う。

「よし、それじゃ土曜日は勇者部皆でパーッとやりましょう!」

「「おお~っ!」」

 

 そして土曜日当日、東郷さんと園子さん以外はお昼下がりに一旦我が家に集まって、ショッピングモールで食材とお菓子を大量に購入して皆で両手いっぱいの荷物を運ぶ。お姉ちゃんは普段は近所の商店街の常連だけど、こんな日はいろんな種類の商品をまとめ買いできる大型モールが便利だ。

「や~、今日は豚バラが安くて助かったわ。メインは冷しゃぶね」

「ふむ、豚肉ならビタミンB、鉄ぶ…」

「てい!」

「痛っ、何すんのよ!」

「野暮な話は無しよ!ジャンジャン作るからお腹がはち切れるまで食べなさい!」

「努力はするけど…」

「へへ~、わたしはお昼抜いたんだ!」

「友奈さん、そこまでしなくても…」

 お姉ちゃん基準のパーティーの準備は相変わらず物凄い量で、たった四人で全部持っているのが不思議なくらい。お姉ちゃんの事だから、今日食べ切れなかった時に保存することも考えてるんだろうなぁ。相変わらず家事は(ほとん)どお姉ちゃんに任せきり。(たま)に手伝おうとはしてるんだけどその度に、「良いから、それより勉強しなさい」とか「そろそろ本格的に歌手活動の準備しなさいよ」とかではぐらかされてしまう。

 私はただ歌手になりたいんじゃないってこと、お姉ちゃんは知ってるはずなのに。私が私なりの全力で走っても走っても、私が追い付いて隣に並びたいと思っているたった一人の家族は私を置いてどんどん先に進んでしまう。たった二年の、でも永遠に埋まらない距離。

「あら?樹、どうしたの?」

 そんな事を考えていたら、いつの間にか三人から少し足取りが遅くなってしまった。慌ててトテトテと駆け寄る。

「ひょっとして重かった?もう少し荷物持とうか?」

「大丈夫だよお姉ちゃん、もともと私だけ少なくして貰ってるのに。ちょっと考え事してただけだよ」

「そ~よ犬部長、あんた時々樹を甘やかしすぎるわよ」

「しょうがないじゃない!だって樹はこんなに可愛いんだから!」

「可愛がるのと甘やかすのは違うって話でしょーが。友奈も黙ってないで何か言いなさいよ」

「え?何?」

 友奈さんは話を聞いてなかったみたい。改めて見ると私より辛そうだ。

「友奈さん、お腹が空き過ぎて限界なんじゃ…お姉ちゃん、何か直ぐ()まめるものあったかな?」

 お姉ちゃんの提案でしばらく歩いたところにあるベンチで一休み。友奈さんにはジャガイモのスティックを食べてもらう事になった。皆で分け合うはずの物を一人で食べることになった友奈さんは少し申し訳なさそうに、でも空腹には勝てないようでスティックを端からポリポリと(かじ)っていく。その様子に何だか既視感を覚えた私は、ちょっと考えるとすぐに気が付いて、思わず笑ってしまった。

「何よ樹ったら思い出し笑いなんかして、いやらしいわね」

「ごめんなさい、友奈さんの食べ方見てたら牛鬼の事思い出しちゃって」

「あ~、少しずつポリポリするの、そんな感じね。でも精霊かぁ、(なつ)かしいわねぇ」

 皆、私の言葉で自分の精霊の事を思い出したのだろう。私達を終わりのない戦いに縛り付けるためのシステムだと知ってしまった今でも、懐いてくれていた精霊の事は良い思い出だ。

 それからしばらく、あの苦しかった闘いや、その中にあった温かい日常の話で盛り上がってしまった。




導入部です。みなとそふと版Sの記憶は殆ど薄れていて、ゆゆゆいでの雰囲気に寄せてますが、いかがでしょう。
ご意見ご感想、誤字脱字報告などあればよろしくお願いします。
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