呆れたことに、自分で提案したのに、夏凛さんはピザ屋さんに行く途中で迷子になってしまった。
「違うのよ、風たちの家からだからこんがらがっちゃったの。自分ちからなら目を
「それはそれで気になる事が有ります」
「何よ」
「夏凛さん、そんなにピザ食べてるんですか?」
夏凛さんの食生活が気になって、
「二、三週に一回って所かしら…」
「そんなに?」
「いや、ほら。土日は勇者部の活動で一日中保育園とかで活動したりするじゃない?スーパーに寄る気力が無くって」
「それじゃ、もっとうちに遊びに来てくださいよ。お姉ちゃんだって文句言ってるけど、すごく喜んでるんですよ」
夏凛さんの食生活を気に掛けたお姉ちゃんの発案で、時々この人は私達の家で一緒に夕食を食べに来てくれる。言い出しっぺのお姉ちゃんが一番ぶつぶつ文句を言うのは変なのだけど、それは照れ隠しに過ぎないし、それは夏凛さんも判ってくれていると思ってたんだけど。
「それは、その…嬉しい、んだけど…」
提案すると、また照れたように顔を
「でも、勇者としてのお役目は終わったわけだし…生活費とか、一人増えて大丈夫なわけ?」
「…それは考えたこと有りませんでした」
「あんた、結構自然に姉貴に頼りっきりよね。風が積極的に甘やかすせいもあるけど、いつかは独り立ちすることも考えなさいよ」
「はい…」
痛い所を付かれてしまった。買い物中にも思ったけど、私はまだまだ自分が知らずにお姉ちゃんに任せっきりにしている所を見つけて、直していかなきゃ駄目だと思う。
「その辺りは自分でもよく考えます。ともかく、地図によるとピザ屋さんはこっちだと思います」
そう言うと今度は私が夏凛さんの前を歩いてピザ屋さんに向かう。迷った分、少し冷めちゃわなきゃ良いんだけど。
一回位置を確認すれば、ご近所さんなのでその後はスムーズに向かえた。予定通り、Lサイズ二枚のピザを二人で一枚ずつ箱を抱えて、帰宅途中。そろそろ秋のお日様は傾いてきて、この季節だとあっという間に沈んでしまうだろう。東郷さんたちの来宅と同じくらいに家に着くかもしれない。それだと、ピザが冷めないのでむしろ好都合だ。のっぽの影法師が後を付けてくるのを無視して、二人で並んで歩く。
「それにしても、あんだけ食材用意した上にピザ二枚か。いくら風でもどこまで食べ切れる事やら」
残ったら残ったで明日の朝ごはんやお弁当になるだけだから良いのだけど、夏凛さんの言葉には気になる事が有った。
「何言ってるんですか、夏凛さんがピザ二枚頼むって言い出したんですよ?」
「ん?あ~…あ~、そうだったわね…」
指摘すると、何故か夏凛さんは
「あの…ひょっとして、私が料理するのを止めようとしたんですか?」
「うっ…気付かれたか…」
「お姉ちゃんの様子も変でしたけど、何か駄目でした?」
「以前、風が言ってたんだけど、あんた包丁の持ち方が危なっかしいって。そのくせ変に気合が入って力一杯切ろうとするから、ちゃんと付きっきりで見守れる時に練習させないとちょっとって」
「そうだったんだ…でも、普段も中々練習とかさせてくれないし…」
「それはまぁ、あいつが悪いわね」
でも、そんな事を思われていたんだ。家事…他の危なくない事とかなら大丈夫なのかな?お洗濯とかお掃除とかなら、失敗しても多分大丈夫だと思うし。やっぱり秋らしく、太陽がぐっとビルの近くまで下りてきて、オレンジ色に染まり始めた景色の中を
「あのさ」
「っ。はい?」
「うどんを打つのはさ、包丁とか使わないし大丈夫だと思うんだけど」
「そ、それはそうですね…でもうどん作りはそれ自体が教わらないと出来ないような…」
「だから教わりに行かないかって話。良く公民館とかでそういう教室が開かれてるでしょ?興味は有ったんだけど、中々一人ではって思ってたのよね」
「じゃあ、私と夏凛さんで?」
「そ。どうよ」
「面白そうですね。ありがとうございます、夏凛さん。是非!」
話しているうちに太陽は更に傾いて、東の空は紫色になってきた。ちょっと暗くなった町の中を二人で早足で帰っていると、曲がり角で東郷さんと園子さんに出会った。お二人は中学生離れしたスタイルをそれぞれの雰囲気に似合った気取らないのに華やかな衣装で包み、東郷さんは
「あれ~?にぼっしー、いっつん、どうしたの~?」
「折角のパーティーだからピザも取ろうって話になったんです。今日はたくさん食べて行ってくださいね」
「むむ、洋風
「安心なさい、東郷。メインは冷しゃぶよ」
「流石は風先輩…誰がこんな物を?」
東郷さんの目が怖い。さてどう答えた物かと思ったら、迫力に押されたのか本人があっさり白状した。
「別にいいでしょ、
友奈さんの名前が出た途端、国防軍最高司令官閣下はポツダム宣言を
園子さんの歓迎会は絵に描いたようなどんちゃん騒ぎになった。
この先にはもう心配なんて一つもない。それは皆判っているのだけど、きっと勇者としてバーテックスと戦った記憶は人生観に影響を与えずにはいられないんだと思う。楽しむ時に思いっきり楽しむ。それがどうしても習い性になっているのだろう。別に悲観主義になっている訳ではなし、日常を一生懸命に生きることで困る事なんてないと思うので、気に病む必要なんて無い。でもやっぱり勇者とかバーテックスとか無関係な誰かとして、ただ毎日を生きられたら良いとそう思う。現象としてはただのバカ騒ぎだったけど、園子さんが帰った後で部屋をお姉ちゃんと片付けながらそんな事を考えた。
ご意見ご感想、誤字脱字報告などあればよろしくお願いします。