樹と夏凛、うどん作りに挑戦!   作:嶺月

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うどん作りシーンです。
やったこと有りませんが、そば打ちとかうどん打ちとか挑戦してみたいですね。


四話

 園子さんの歓迎会の準備の時、夏凛さんと話した手打ちうどん講座への参加の日がやってきた。お姉ちゃんにとってネックだったのはやはり包丁の事だったみたいで、夏凛さんとうどん作りを習いに行くと言ったら「頑張って来なさい」と応援してくれた。おまけに前から用意していたらしいチェックの柄のエプロン。エプロンそのものは買った物みたいだけど、膝の辺りに木霊(こだま)のアップリケがしてあって、お姉ちゃんもいつかはちゃんと私に料理を教えてくれるつもりだったんだなぁ、と心が温かくなる。

 当日、讃州中学の校門で夏凛さんと合流した私は、赤い煉瓦(れんが)のお洒落(しゃれ)な生涯学習センターへ向かった。会場は二階の水回り完備の料理教室向けの一室。手打ちうどん講座はボランティアの講師も受講希望者の募集も抽選になるほど人気だけど、運良く直ぐに参加することができた。運良く…だよね、まさかこんな事で大赦(たいしゃ)が手を回すなんて事ないよね。

 私達に教えてくれるのは定年退職後の趣味でうどんを打ち始めたというお爺さんで、白髪交じりの丁寧に()で付けられた髪と口元の(しわ)がいかにも人の良さそうな雰囲気を(かも)し出している。お父さんが生きていたとしてももう少し若々しいはずだけど、少し、ほんの少し、父親に趣味の手ほどきを受ける、みたいな気分になった。家族とあまり上手くいっていない夏凛さんには言えない感想だけど。

「それでは皆さん、本日はよろしくお願いします。本講座の講師、上村です」

 講師の上村さんの良く通る声が教室を巡ると、集まった生徒が大きな声で挨拶(あいさつ)を返す。

「さて、私はうどんを打ち始めてそろそろ十年になりますが、うどんは本当に奥が深い。小麦粉の種類、塩の選び方、その日の天候、出汁や具材…毎日発見の連続です。しかしそれは取っ付きにくいという事ではありません。本日はほんの基本の基本だけお伝えしますが、皆さんがご家庭での楽しみにして続けてくれたらとても嬉しいです」

 上村さんは中々情熱的な先生みたいだ。でも決して難しい訳では無いと知って、少しほっとしている。夏凛さんも多分気持ちは同じ。さて、お料理ビギナーコンビのうどん打ち初挑戦、戦果はいかに。

 

 最初の工程では小麦粉と塩水を混ぜる。上村先生によれば一番の工夫のしどころだそうだが、とにかく初心者の内は一定のペースで水を流し込んで、手早くかき混ぜるのが大事だそうだ。私ももちろん夏凛さんも結構手首の力は強い。だまになってしまう事無く、綺麗(きれい)に混ぜる事が出来て先生から花丸の評価を貰えた。

 次は混ぜた小麦粉をこねる所。なんとビニールに入れた生地を足で踏むときいてびっくり。ここでの注意事項は、意外とやってるうちに楽しくなって踏み過ぎてしまうこと、だそうだ。あまり回数を踏むと、コシが強いを通り越して固くなってしまうらしい。

「なるほど、これは、中々、楽しい、わね!」

「そう、ですね。夢中に、なる、のも、わかる、気が、します」

 そして夏凛さんは黒字に赤のラインの入ったスニーカーと真っ白のソックスを、私はピンクのフェイクレザーのローファーと同じくピンクに白の花柄をあしらったハイソックスを脱いで、うどんの生地を踏み込んだ。先生が注意事項としてやり過ぎるなと言うのが判るほど、これはなんだか楽しい。引っ込み思案な私が夏凛さんだけでなく、反対側に居る小さな男の子を連れたお母さんにも笑いかけてしまうほど、気分が高まる。

 先生に指示された回数をこなして、ソックスとシューズを履き直すと秋の爽やかな風にもかかわらず汗がにじみ出た。結構な運動にもなるらしい。と思ったら夏凛さんも同じ事を思ったようだ。

「これはなかなかいい運動ね」

「うふふっ」

「何よ、樹」

「ごめんなさい、おんなじ事を思ったんだなぁって」

「ふん!汗かいてるわよ、ちゃんと()きなさいよね」

「夏凛さんは平気そうですね」

「当たり前でしょ。意外とってだけで、いつもの鍛錬に比べればたかが知れてるわ」

 それはそうなんだろうなぁ、と夏凛さんの木刀を持っただけでよろめいてしまった事を思い出す。あれを二本持って、一時間以上ぶっ続けで型稽古をする夏凛さんの体力は凄いと思う。この間ライバルが居たって言っていたけど、その人も同じことができるんだろうか。大学生くらいになったら国体とかの選手になって有名人になったりして。

 捏ねた生地は一時間くらい寝かせるそうなので、夏凛さんとおしゃべりに興じる。

「夏凛さん、高校生とかになったら本格的に部活とかやるんですか?」

「急ね。でもそうね、剣道とかいいかもね。二刀流も有るって聞いたし」

「え、そうなんですか?」

「そうよ。竹刀とか意外と重いから、使い手も指導者も滅多(めった)に居ないって話だけど、その辺はこの完成型勇者にはどうって事無いしね」

「相変わらず凄い自信ですねぇ」

 この夏凛さんがライバルと認めた人ってどんな女性だったんだろう。先日聞いた時は少し悔しい記憶みたいに言っていたけど、今の夏凛さんは乗り越えているだろうから聞いてみてもいいのだろうか。

「ん?何か気になる事でもあるの?」

「え、あ…」

 迷っていたら見透(みす)かされてしまった。

「何よ、気になるじゃない」

「あ、あの…前話してたライバルってどんな人だったのかなって…ごめんなさい」

「ああ~、そういう事か。別にもう気にしてないから良いわよ。とにかくストイックな奴だったわね。そんでぶっきらぼうで人嫌いだった。誰とも打ち解けずに自分が強くなることしか考えてないって風だったわよ」

「へえ~。夏凛さんはその頃から周りの面倒見るタイプだったんですか?」

「なんか私が今もそんなタイプみたいな言い方ね」

「違うんですか?」

「…あんたたちはボケばっかりだから突っ込まずにいられないのよ」

「私はそんなでも無いつもりなんですけど…」

「あんたはほら、年下じゃない」

 ちょっと話のつながりが判らない。年下だからと言って突っ込まれる理由はないと思うんだけど。

「年齢とボケツッコミって関係あります?」

「いや、あんたがボケって事じゃなくて。ほら…前そいつの話をした時に、突っ張ってなきゃって思ったって言ったでしょ。でもあんたは年下だから面倒見てもいいと思ったって言うか…」

「んっと…つまり、気を許して付き合っても大丈夫、みたいな…?」

「まぁ、そういう事ね」

「ちょっと複雑です」

「へ?」

 また甘やかされるのに慣れている、という話になった気がして感想を述べると、夏凛さんは意外な言葉を聞いた、という顔をした。

「あんた、勇者部全員の妹みたいな感じだったわよ?」

「う…やっぱり私って甘え慣れてます?」

「まぁ一人だけ一年生だしね。来年もし新入部員が入ってきたらまた変わるかもね」

 それから少しずつ勇者部の未来の話になっていった。部長は誰がやるのかとか、お姉ちゃんが居なくなったら誰が地域との折衝(せっしょう)ごとをするのかとか、新入部員は入りそうなのかとか、そもそも今年新入部員の勧誘はしていたのかだとか、話しているうちに勇者って言葉が気になったのか、隣の男の子が話に割り込んできて、申し訳なさそうにするお母さんに目で応えて、今年の戦隊ヒーローの話を男の子からすることになった。

 




ネットで手打ちうどんの手順見ながら書きましたが、これで大丈夫でしょうか。詳しい人、おかしな点が有ったらご指摘ください。
ご意見ご感想、誤字脱字報告などあればよろしくお願いします。
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